とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》   作:大体三恵

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秘密基地とサイン色紙と大異変☆

「あははっ! ほんと、バッカじゃないの!」

 

 尾行対策のため電車とバスを乗り継ぎ、途中は電磁浮遊を利用して池袋から浅草へトンボ帰りした私と美都は、セーフハウス代わりにとナビで案内された秘密基地を見て思わず笑ってしまった。

 

 場所は隅田川を挟んで浅草の対岸、下町がまだ色濃く残る墨田区を貫く首都高のすぐ近く。

 河岸に近く、首都高のガード下に作られた公園も見えるところに、財神黒客(ツァイシェンヘイカー)の秘密基地があった。

 

 外から見ると、昭和の町工場って感じ。

 スチールの長い板の壁を並べて敷地を囲い、周辺から道からは中を覗けないようになっている。

 

 ビルの建設現場を囲うような塀で、一角はやはり工事現場のようなアコーディオン型のパネルキャスターゲートが設けられていた。

 それを中で待っていた遊驥(アスキー)が押し開け、中に入ると狭いながらも庭があった。庭といっても重機で乗っても大丈夫なようにコンクリート舗装されてるけど。

 

 工場は雰囲気の異なる建物が2棟あり、それが寄り添うように建てられている。一方はシャッターがあり、天井の高い工場。一方は簡素なガラス戸の入り口と窓があり、プレハブ二階建て事務所。

 

 遊驥が「見たら笑うぞぉ〜」と言いながら、工場側のシャッターをリモコンを操作して開くと、そこはまさしく秘密基地だった。

 

 左側に壁を背にして整然と並ぶレイバーたち。主に篠原重工のレイバー。

 右側はスクラップに見えるけど、さまざまなレイバーの部品が所狭しとフロア、棚、壁に並び、天井付近のコントロールルームから操作する室内大型クレーンまであった。

 

 そして癪だけど遊驥の言う通り、私は思わず笑ってしまった。

 

「すっご……」

 

 美都も驚きを隠せていない。

 その表情は、あまり見たことがない素の彼女の姿ね。

 復讐者としての仮面も、私の妹分という仮面も被っていない。

 

 ふらっと近くのレイバーの足先に手をあて、心から驚いているようすだ。

 

「え、これイングラム……」

「に、見えるけど、残念。中身はエコノミーだぞ。レイバーショーに出展したやつの予備機だ」

 

 美都が興味を示したそれ(レイバー)は、警視庁警備部特殊車両課二課……特車二課で勇名と悪名を馳せた伝説のイングラム……の偽物ね。 

 色形は似せてあるけど、パトランプは形だけでハリボテで光も回りもしない。

 左手の盾は仕上げと塗装で誤魔化してるけど、手作り感満載。警視庁の文字もない。

 盾に収められたスタンバトンは、多分ただの棒。ちょっと電磁波を放ってみたけど、電子機械の感覚が感じられない。

 どことなく丸いというか柔らかいというかカドがないというか……威圧感が減って、違和感のあるAV-98イングラムもどき。

 

「あー、アレね。警察車両好きな人が、パトカーっぽいの乗ってるけどアレ?」

「そうそう。ソレ。力作だろぉ〜」

「よくやるわね……」

 

 美都が目を輝かせてるので、やりすぎだと言う必要もないか。

 私は素直に感心したけど呆れたという態度で肩をすくめた。

 

 

「にしてもどうしたの、これ? レイバーの資産価値もすごいけど、この工場自体もなんなの?」

 

「親父の知り合いのおっちゃんが湾岸工事請負と、並行してレイバーの修理もやっててな。歳でもうできないっていうから、負債の処理を条件に工場ごと引き取った。あ、でも土地はまだおっちゃんのもんだから、うちらのは上物と施設と……レイバーの一部だけだな」

 

「それにしたってすごいわよ、これ。本当に笑っちゃうくらい、揃ってない? おっちゃんってどういう人よ」

 

「一人親方なんで好き勝手にやっていたロマン溢れるじいさんっていえば、わかる?」

「あー、うん。わかる。でもそういう人こそ、手放したくないんじゃない?」

 

「身体が動かなくなったら、この子(レイバー)たちの面倒も見れないからな。知らないやつに渡すより、付き合いのある俺みたいなのに任せて、あとはたまーにこいつら見にくるから、預かってたまに起動してチェックしてくれって」

 

「そっか。処分すれば十分なお金になるけど、コレクション自体は手放したくない。歳で引退したから工場は維持できないから、減額してでも売り渡して趣味のレイバーは残すって契約ね」

 

「だいたいそんな感じだ。このイングラムもどきも、そのおっちゃんの趣味の産物」

 

 遊驥はシニカルに笑いながら、呆れるだろ、すごいだろという少年っぽさも見せてイングラムもどきの足を叩く。 

 

「あ、あっちは賽銭泥棒を捕まえる時に出したアスカね。へー。よく見たら、アスカ96の手、改造されてんのね」

「おう。今のレイバーはアタッチメントで、精密作業くらいできるからな。対抗して、無線制御のサブアームつけて、操縦席に制御用のタブレットを追加して…………」

 

 遊驥が自慢をしてくる。

 

「はぁ……。例えるならこれって。ショベルカーのアームの先に、マニピュレータを縛り付けてスマホで制御してるようなもんね」

 

 魔改造というより、現場改造じみている。現地改修ってやつ?

 

 聞けば、世間のレイバーもこういった社外品や加工品を、ボルトオン、ポン付け、後付けして、拡張しているという。

 そういうのはctOSを使ってるらしいので、私でもアクセスできそうね。いいこと聞いたわ。

 

 古いレイバーを改造して、現行レイバーと同じことができるようにする。

 一言だと簡単だけど、実際にやるとなると大変だし、頭おかしいんじゃないのっていう情熱がいるに違いないわ。

 

「わぁ、これ、中身はクラブマンハイレッグでしょ? こんな改造まですんの?」

 

 みたことない白いレイバーへ勝手に乗り込んだ美都が、楽しそうにあれこれといじっている。

 起動はしてないし、美都もギークの端くれと知っている遊驥は、それを止めようとしない。

 

「で、な。見ての通り、工場と事務所を一部改装した程度で、居住性とかない。一応、事務所の二階に台所と仮眠室よりましな泊まり込み用の畳の部屋とか、そこにシャワールームはあるが……」

 

 遊驥が指さすガレージの一角に、後付けされたシャワールームがあった。

 いわゆるシャワーユニットってやつね。

 

「え、ちょっと! そこにあるのはともかく、せめて脱衣所とないの?」

「ない」

「ないって、なんなのよ!」 

「なんでもいいっていったよな?」

「……むぐぅ」

 

 無理を言ってる立場なので、私も文句を言いにくい。

 でも、美都がなんと思うか。

 

「あ、私はいいですよ、お姉様」

 

「い、いいんだ……。いいみたいね……」

 

 美都がいいならいいけど…………。

 多少不便だけど、こっちにも負い目があるし仕方ないわね。

 はあ……。なんかカーテンとかで目隠しできないかしら?

 

「で、明日、密会するそうだが」

 

 脱衣所をどうしようかと考えていたら、遊驥がレイバー部品を置き真剣な表情で切り込んできた。

 

「成瀬了が余計な宣言しちゃったらしくて、私としてもしょうがなくねぇ……」

「そんなの成瀬が勝手に宣言しただけじゃろが? 役者活動停止とか。そんなの無視すりゃいだろ?」

「そりゃそうだけど……」

 

「ま、面白そうだから、こっちも覗き見ついでに、バックアップするぜ」

「楽しんでんじゃない、あんたも!」

 

 まったく頼もしいというか、たくましいというか、読めないというか、憎めないというか。

 

 

  + + + + + + + + +

 

 

 そんなわけで、翌日。私は池袋のとある中華料理店……の入るビルの屋上へ着地した。

 抱いていた美都を起き、周囲をチェックする。

 目撃者はたぶんいない。カメラやセンサーも全部掌握してる。 

 

 美都も屋上の柵から身を乗り出し、周囲と下の様子を確認している。

 

「気をつけて、美都(ロキ)

「お姉様、下でなにかイベントやってるみたいですね」

「ふ〜ん。なんかいっつもイベントしてるわね」 

 

 私は美都を支えながら、下の様子を覗き見る。

 

 地上階の店舗が新規オープン記念で、新発売の栄養ドリンクを試飲させているようだ。

 有名店舗だからなのか、栄養ドリンクが美味しいからか、タダだからなのか、だいぶ賑わっている。

 

「地上から来なくてよかったわね」

「騒ぎになっちゃいますもんね」

 

 私は常盤台の制服の裾を持ち上げ、電磁浮遊をしてビル屋上から侵入する手段を選んでよかったとため息をつく。

 今日の私は変装もなにもしていない。

 偶然、この姿で成瀬了と出会う必要があるからだ。

 

 さていきましょう、と美都の手を引いて屋上の鍵を開く。もちろんctOSの電子錠なので、簡単にハッキングで解錠させた。

 最上階からエレベーターに乗り、チョーカーに取り付けてあるピンポールカメラを位置を確認する。

 

 今頃、近くの喫茶店で大智(しょうさ)と、学校をサボった遊驥(アスキー)が、私たちの様子を覗き見てるだろう。

 

 身だしなみも整え、ビルの三階で降りて微妙な立地の中華店の戸をあける。

 

 美都には変装してもらってる。メガネに三つ編みで、マスク姿。ちょっと気の強そうな小さな美都が、なんともお澄まし優等生っぽくなっている。

 

「予約した黒木です」

「っ! おまちしておりました。こちらです」

 

 スマホの予約画面を見たあと、私の姿に気がついて、出迎えた店員は驚いた表情を見せた。

 しかし、そこは高級店のウエイター。渦中の雷神ガールと気がついても、すぐに無表情無関心、そしらぬ接客に切り替えてくれる。

 

 私は店員に予約席に案内される途中──。

 

「いやぁあ、偶然じゃないか! 本当に偶然! 偶然じゃぁないかぁっ!」

 

 近くの席で、ブランド物のスーツを着こなした一人のおじさんが立ち上がる。

 成瀬了だ。スカウトマンの池内もいる。

 俳優らしくわざとらしく感情豊かに、成瀬了は注目されるような仕草で私に声をかけてきた。

 

「あら。偶然ね」

 

 私もわざとらしく、偶然を強調した。

 

 これに反応したのは、店員だった。

 

「成瀬様のお知り合いで? お席をご一緒させましょうか?」

「うんうん。奥の部屋をよろしく頼むよ。さあ、池内くん。行こう」

「は、はあ……」

 

 彼はこの店の常連のようで、事情を知らないはずの店員が気を使ってくれている。

 一方でスカウトマンの池内は、店に慣れていないのか成瀬了の堂々さに圧倒されているのか、借りてきた猫のようにおとなしい。

 

 私はざっと店内を見回す。

 

 池内は成瀬了以外を、連れては来なかったようだ。

 隠れてとか無関係を装って、他の客席に関係者がいないかとctOSを使って探ってみたけど、プロフィールに池内の所属する芸能プロダクションの関係者はいなかった。

 社長とかがしゃしゃり出てくると思ったけど、そういう不義理や余計なことをするタイプじゃないみたいね、彼。

 

 東京池袋駅に程近い店ながら、この中華料理店はなかなかに広い。奥に個室が4つもあるほどだ。

 

 個室に入り席に着く。

 店員が退室するなり、成瀬了は座ったばかりの席から離れ、床に両手をついて私に向かって頭を下げた。

 

「先ほどは、なれなれしく話かけて申し訳なかった」

「ちょっ!?」

 

 さすがに額を擦り付けるってほどではないが、綺麗でふわっとしたベルベットの床とはいえ、両手両膝をつくイケおじ俳優の姿は驚くっての!

 私と美都はちょっと引いた。

 

「並びに、先日は僕の不始末を収めていただき、感謝しています。加奈ちゃんを助けてくれて、ありがとう!」

 

 改まった言い方は芝居ぽかったが、松本加奈を助けてくれてありがとう、という言葉は彼なりに彼らしい彼っぽい真剣さが感じられた。

 

「ちょ、誰かに見られたらどうすんのよ。わかった。わかったから、顔をあげて!」

 

 個室とはいえ、間違えて入ってくる客という可能性もないともいえない。

 美都も成瀬了の態度に若干だが慄き、私に縋り付いて影に隠れている。

 

「本当にありがとう。お礼の品を受け取ってくれないか?」

「気を使わなくていいわよ」

「TOKYOシティコップ出演者一同のサインを」

「え、ええ……、うん、あ……ありがとう」

 

 池内の持っていたカバンから、サイン色紙が取り出されて渡された。

 お礼……って。いえ、しょぼいとかそういうのじゃないの。

 やっぱりここで、こういうの出してくるところが、さすがというかなんというか成瀬了。

 感覚がちょっと違ってて、平然とできるそこビビる呆れるゥ!

 

 とはいえ、心が籠ったサインには違いない。

 ただの寄せ書き風サイン色紙ではなく、私に対してのお礼の言葉が添えられていて悪い気はしない。

 

 剥き出しのサイン色紙を受け取ると、気の利く池内が無地の紙袋を出して渡してくれた。

 

「あ、TOKYOシティコップの試写会招待券あるのね。うれしけど、ちょっとそういう場所に私は顔出せないわよ」

「あくまで気持ちとして受け取ってもらいたい。ああ、譲渡不可って書いてぇあるけど、なんなら誰かに譲ってもかまわない──」

「って、そうしたら譲渡された人がこのチケット使ったら、私の知り合いってバレんでしょ」

「確かに」

 

 わかっていたのかいないのか。土下座をやめた成瀬了は、いつものキザでダンディな役者の顔に戻って戯けて肩を竦めて見せた。

 

 いちいち、動きが芝居がかってるのよね、この人。

 

 紙袋にサイン色紙を収め、椅子の背もたれに立てかける。

 考え方を変えると、サインって気軽に受け取れるお礼かもしれない。

 

「では、なんか順番狂ってしまったが。改めて自己紹介を。うぉほん。ご存じかと思うが、ダンディ俳優、成瀬了! アラフィフィだ」

 

「はは……。世間じゃ変な風に言われてるけど、私は御坂美琴。池内さんは知ってるわね」

 

「え、ああ……。そうだ、君の名前は成瀬さんに伝えてなかったよ」

「さすが、最近はコンプライアンスしっかりしてるわね」

 

 感心していると、池内さんは頭を軽くぺこりと下げ──。

 

「でも事故処理の時、警察と社長と専務の三方には……すまない」

 

 伝えてしまった相手を打ち明けてくれた。

 すると隣の成瀬了が、池内の肩に手をかけてフォローを入れる。

 

「彼も勤め人であり、善良な市民だ。許してあげてくれないか、美琴ちゃん」

 

「まあ、それは仕方ないわよね……。って、美琴ちゃん?」

 

「ふぅむ。ダメかな?」

「まあ、いいけど」

 

 50も過ぎたおじさんからしたら、14歳の私なんて子供も同然なんでしょ。

 ちょっと気に入らないとこもあるけど、エンジニアからみたいに御坂様とか言われるより遥かにいいわ。

 

「それで、そちらの美琴ちゃんに負けず、可愛らしいお嬢さんは?」

「付き添いで来てもらった、ロキよ。悪いけど、本名は内緒」

「内緒よ。ロキです。よろしく」

 

 美都は偽名であり、ゾンビクイーンから改めたハンドルネームを伝えて、成瀬了と握手した。

 彼女はそれなりに芸能関係に興味があり、まあまあ成瀬了に会うことを楽しみにしており、まずまず喜んでいるようだった。

 

 あと、このお店。おひとり様の予約ってできないのよね。

 なので一人、付き添いがどうしても必要だったの。

 多分、ひとりだとカウンター席に案内されるから、そこの予約席として確保はできないんでしょう。

 

 池内さんも改めて自己紹介を終えた頃、食事が運ばれてきた。

 昼はコースが決められていて、選べるのは飲み物くらいだ。

 

 私は久々の中華を食べつつ、成瀬了のちょっと大袈裟な談笑を聞く。

 

 やれ、TOKYOシティコップは大いに話題だ。それも美琴ちゃんのおかげだの。

 それ、成瀬了の劇中の活躍はこうだと語り。

 どれ、スタッフの中にもキミのファンがいるだの。

 これ、謝罪用に仕立てたスーツだの。 

 

 私を芸能に誘ったりしないところはいいけど、自慢話に偏るのは成瀬了らしいといえばらしい。

 

 しかし、彼にも一線はあるらしく、私についてあれこれ聞いてくることはしなかった。その点は高評価ね。

 もしかしたら、私の事情や能力についてとか、立ち入らないようにしてるから自分の話になるのかしら?

 彼は子供の頃に友人とトラブルがあって、俳優活動を始めた時にちょっとした事件に巻き込まれたとかいうスキャンダルがあったらしいけど……老成したんでしょうね。

 

 連絡先については──。

 

「ぼくにも仁義ってもんがある。今回は偶然、出会ってお礼が言えた。それだけだ。連絡先を尋ねたり、なにかを詮索はしない。──ん、まあ。君のような素敵な女の子と、連絡の取り合いができないのはとぉっても心苦しいが……。君を困らせるようなことは一切したくない。なんなら、手助けをしたいくらいだよ」

 

「はは……。お気持ちだけいただきます」

 

 これが警察関係者か報道関係ってならまだしも、彼はあくまで俳優。

 芸能関係にコネがあっても、私にはまったく利点も関係もない。

 

 美都を助けてくれた米兵さんは、改めてお礼を言いたいから捨てアドの連絡を先を教えたけど、それだって私に下心はない。

 

 そろそろお開きということになり、お礼だけは伝えたという写真を撮ってSNSに上げたいと言われたが……。

 

「いやぁ……それはお断りしたいかなぁ」

「うーん。残念だが、無理は言えないからなぁ。なんとかするよ」

 

 謝罪したという証拠がなければ、役者休業宣言を納めることはできないだろう。

 でも、SNSにあげられるのはちょっとね。

 

「ま、なんでしたら。SNSにあげないでもらえるなら、いいわよ。ほら、事務所の社長さんへお礼したって説明で見せるとか、芸能記者に追及されたら画面を見せるだけって使いかたなら」

「おおっ! ありがとう! 助かるよ」

 

 成瀬了は自分のスマホを池内に預けて、並んで写真を撮ってもらう。

 場所は特定できないように、なんでもない壁を背にして……って、けっこうなんでもない壁でも壁紙のわずかな汚れや傷で特定してくるのがいるのよね。

 ま、場所はバレてもいいか。

 

 なんて考えいたら、成瀬了のやつがごくごく自然に肩へ手を回してきたので!

 

「なにすんのよ!」

「おおわぁっと!」

「あ……」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 軽く驚かせる程度に、バチッと電撃を前髪あたりに走らせる。

 手を軽く肩に置いていた成瀬了は、2枚目ダンディイケおじ俳優にあるまじき、滑稽なポーズで飛び退いた。

 ちょうどその瞬間を、池内が撮影してしまったらしい。

 

「あはは、なにこれ! いいわね。この写真ならなおさらいいわ」

「そ、そりゃないよぉ〜。美琴ちゃん」

 

 画面の中で驚き飛び退く姿と、困り顔で不満を漏らす成瀬了を交互に見て、私も美都も思わず笑う。

 よくもそんなの撮ったな、と成瀬了に睨まれ、知らないですよと首を振る池内。

 

 ま、あんな写真なら、自慢げに見せびらかすこともないでしょう。

 仕方なく社長さんやマネージャーに見せるのがやっとでしょ。

 

「さて。ご馳走さまでした」

「ご馳走様です」

「ああ、じゃあ下まで送ろう」

 

 食事を終え、支払いは成瀬了が持ってくれた。

 ま、これもお礼のうちね。

 最初は経費で池内が出すと言ったけど、成瀬了が事務所の所属も事情も事務所関係でもないのに、経費は違うだろぉ〜と気前よく払った。

 

 そうして中華料理店の入るビルの一階まで降りる。

 

「さて、なごり惜しいが美琴ちゃんともお別れ………………って、なんだ?」

 

 ビル一階のテンパードアを開け、紳士ぶって私を送り出そうしていた成瀬了が、外の様子を見て怪訝な顔を見せた。

 その顔は真剣そのもので、テンパードアを閉め直し、私たちにまだ出るなという合図を送ってビル内に下がった。

 

「え、なに? 地震?」

「なんだ、このビビり音」

 

 美都が地震かと周囲を見廻し、私に身を寄せる。

 池内も振動とも小さな音とも取れない何かを感じとり、建物の様子を見ている。

 

 私は開放感のあるテンパードア…………一面ガラスになっているビル一階の外で広がる異常な光景に気がついた。

 

 通行人の多くが小さな瓶を片手に、口を茫然と開けて半眼で立ち尽くしている。

 異様な光景に、正常な通行人やイベントで栄養ドリンクを配っていた人たちが騒然としていた。

 

「なに、あれ……」

 

 私がその異変に気がつき、つぶやいた瞬間──。

 

 ビルが、地面が──。

 

 空間そのものが揺れた!

 

 




美都が乗って「クラブマンハイレッグだ」と言った白いレイバーは、小説版のsyntax error「レイバーX」です。
アニメ版「レイバーX」は、後藤に復讐するため祖父江が作った欠陥レイバーですが、小説版の「レイバーX」は、グリフォンやハヌマーンに劣らぬくらいイングラムと互角の戦いをしたレイバーです。
なにしろイングラム相手に、有効打をいくつも与え、ペイント弾やラバーナイフでなければダメージを与えていたこと確実の高性能機です。

……アニメ版はなんであんなことに。

パトレイバーが世に出て幾星霜、成瀬 了の絵を描いて公開したファンとかいるんだろうか?
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