とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》   作:大体三恵

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降臨、降臨、また降臨

「ぬっしっしっしっ〜。しこたま貰ってきたぞ、しょうさ。宴じゃ、宴じゃぁ」

 

 遊驥(アスキー)は庶民的なエコバッグから、無料試供品の栄養ドリンク剤を一本づつ取り出し喫茶店のテーブルの上に並べる。

 

「さすが複合拠点都市、池袋。疲れたビジネスマンもお得を探す買い物客を狙って、こういうイベントもあるわけか。大量、大量」

「成瀬のくだらん話が始まって、どこに言ったかと思ったらおまえー、どんだけー」

 

 成瀬了による御坂美琴へのお礼をする様子を覗き見を終え、仕込みも録画も確認し終えた大智(しょうさ)は、ノートパソコンをバッグにしまいながら呆れたとため息をつく。

 

「無料だぜ、無料。もらわなきゃ損、損。トントン、スイスイってもんだ」

「信じられねぇ〜。こいつ本当に日本有数企業の御曹司かよ」

 

 小学生時代にお年玉や小遣いから資金を捻出し、電脳アイテムを買い集めていた大智からすれば、遊驥は非常に恵まれた環境の生まれというのは羨んでもきりがない友人である。

 しかし、この庶民的というか小市民的というか、単純に狡いところは、いったいどこの誰からきているのだろうかと大智は首を傾げる。

 

「安心せい! 無料試供品は一人で抱えて無駄にするようなことはせん。ちゃんと宣伝しつつご近所に配って、宣伝しちゃるわ」

「たしかに試供品配ってるほうの意図からすると、それはそれで悪くないんだが……。一応、おひとり様一本までって(のぼり)に、書いてあるんだが遠慮しろよなぁ」

 

 大智はテーブルに置かれたドリンク剤の瓶を一つ取って、顔を顰めながらラベルをじっくりと読み込む。

 ラベルに描かれた気球のマークと、会社名を見つけて大智は大袈裟に頷いた。

 

「ふーん。ジョジャ・ドリンコねぇ。名前とマークはよく見るけどあんまり知らないな、俺」

 

「ジョジャっていうと、フランスのモンゴルフィエ社の日本法人が持ってる飲料ブランドだ」

 

「モンゴル……フィエ? 気球の?」

 

「マークにもなっとるが、気球で初めて空飛んだ双子とは関係ない。モンゴルフィエは日用品と製薬部門を持つ会社なんだが、本国じゃ清涼飲料水部門をわけて子会社化してジョシャ・ドリンコって名前なんだよ。医薬品と医薬部外品なんかは、本国じゃモンゴルフィエが出してるんだけど、日本法人じゃあジョシャが製薬もやってる」

 

「ああ、スポーツドリンクとか出してるところね。知ってた知ってた。あんまり買って飲まないとこだ」

 

 大智は興味を失った様子で、栄養ドリンクをテーブルの上に置いた。

 すぐさま遊驥はその瓶を取って、大智に突き渡す。

 

「なんだよ、お前も一本持っていけ。ほら、遠慮すんな。奢りだぞ」

「無料試供品で奢りとか、驕り高ぶるな」

 

 そう言い返す大智も、せっかくなのでと試供品とラベルに印刷されたドリンク剤をバッグにしまう。

 

「予定通り終わったし、帰るかぁ」

「お前、後半なにもしてねぇだろ? 成瀬のスマホへ()()()とか、全部俺だぞ」

「まあまあ。その代わり大量ゲットしてきたじゃろ? 栄養ドリンク」

「そんなにいらねぇよ」

 

 そうして二人はじゃれあいながら、喫茶店の清算を済ませる。

 同時に、向かいのビルに成瀬了と御坂美琴たちの姿が見えた。

 

「あちらもおかえりだ。じゃあ、アジトで集合……って、なんだ? 地震か?」

 

 喫茶店の扉を開けた大智は、念の為店内に戻って様子を見る。

 いくら日本の建物が耐震性に優れているとはいえ、落下物の危険が十分に考えられるからだ。

 

「お、外のやつらも様子を……見てる感じじゃねぇなぁ、アレ」

 

 遊驥も立ち止まり、地震にワクワクしながら外の様子を見て、虚空を見上げて通行人たちの異変に気がついた。

 そして半眼白目、口を開けてぼーっと虚空を見上げている者たちの共通点に気が付く。

 ほぼ全員が、片手に飲みかけの栄養ドリンク剤を持っていた。

 手元の栄養ドリンク剤を、パッと見て──

 

「まさか……」

 

 疑いを持った瞬間、大智は全身くまなく揺さぶられる衝撃を受け、栄養ドリンク剤の瓶を取り落とした。

 

「ぬわぁっ! こいつはいよいよ東海沖地震か!? 富士山大激怒ぉっ……か!?」

 

 遊驥は頭にトレーを載せ、リュックで背中を守るようにかがみ込んだ。

 

「これ、地震じゃねぇぞ!」

 

 大智はカウンター席の下に潜り込み叫ぶ。

 

「地震と違う? なんじゃ〜っ!?」

「たぶん、共振だ!」

 

 落としたドリンク剤の瓶が、わずかに振動しながら床の上を跳ねるように転がっている。

 地面が揺れているからというより、瓶が自らの振動で跳ねているという様子だ。

 彼は手に瓶を持っていたため、異常な振動をその身で感じていたのだ。

 

 ビルの窓や入り口に使われるテンパードアのガラスは、強化されているためビビリ音を出すだけだが、さすがに薄いガラスの電球や蛍光灯は、空間の振動に耐えられず破裂した。

 

 現代は、大部分がLED管やLED球に置き換えられているとは言え、まだ部分的に蛍光灯や白熱球が使われているところがある。

 店内のインテリアに取り付けられていた小さい白熱球や、凝った照明の旧式電球を模したLED球のガラスが割れて四散する。

 

 なお、遊驥と大智がつけているARメガネは、レンズが樹脂製であるため全く反応しない。

 

 そんななか、もっとも固有振動数がたまたま一致した構築物があった。

 

 御坂美琴たちが食事をした中華料理店の入るビル……ではなく、その隣のビル。

 

 通常の地震ならば耐えられたはずの屋上の看板が、何度も破断音を放って傾く。

 ビルの外で身構えていた人たちも、頭上の破談音と傾く看板を見て一斉に逃げ出す。 

 だが、半眼白目で、ぼーっと虚空を眺めている通行人たちは、その場から動こうとしない。

 

 軋む音を立てて地上へと項垂れていく看板を見上げているようにも思えるその光景に、遊驥も大智も逃げ出した通行人も、悲劇を予感するが動けないでいた。

 

「あーーっ、もう! まったく!」

 

 そんな最中(さなか)に動くことができ、解決できる存在は御坂美琴だけだった。

 

 弾けるようなスパーク音をかき鳴らし、白熱したように輝く御坂美琴が舞い上がる。

 電磁浮遊を使ってビルの側面を駆け上がるように登って屋上へ到達すると、倒れかける看板をまだなんとか支えている柱の上に立った。

 

 そして精一杯の磁力を使って、崩れ落ちそうになる看板を磁力を持って支える。

 

「くっ……。つっら……。出力が……足らな……ぃ」

 

 それほど釣りの経験はないが御坂美琴にとって、長い釣竿で想定外の大物と引き合い格闘をしている気分だった。

 

 御坂美琴は周囲のカメラの改竄もやめ、余力を全て磁力へと回す。

 精緻な制御力でフォローしているが、パワーが圧倒的に足りない。

 看板はジリジリと傾き、ボルトの破断を繰り返す。

 

 苦しそうな御坂美琴を見て、事情をよく知る美都はすぐに行動に移した。

 

「成瀬さん! お姉様が支えているうちに、人の誘導を」

「ん、そうか! わかった! 通行人、諸君っ! 今のうちに、そこの人たちを避難させるんだ!」

 

 美都は近くで、ぼぅっと意識が混濁している女性の手を引いて、近くの屋内へ誘導した。

 成瀬もそれを見て、周囲に声をかけながら看板下付近にいる人たちの手を引く。

 

 役者の声はよく通る。声量もある。なにより成瀬は上背があって、モデル体型でファッションも整い顔もよく、目立つ風貌である。

 そういった有名人の影響力は強い。

 

 地震のような現象と雷神ガールの出現に驚いていた人たちは、すぐに成瀬の声に気がつき、意図を汲んで行動を始めた。 

 二人に遅れたが池内も、意識がはっきりしている通行人たちも、協力して棒立ちしている人たちを誘導する。

 半眼白目で虚空を眺めていた人たちは意識を失っているわけではなく、手を引けばついて歩いてきてくれるので、手分けをして避難はなんとか間に合った。

 

「もう誰も下にいない! 大丈夫だ、いいぞ! 美琴ちゃんっ!」

「誰が美琴……もう! 降ろすわよ!」

 

 地上の成瀬から出された合図を聞き、衆目が集まる中で名前を呼ばれてしまった御坂美琴は今現在の最大出力で看板を下げ始める。

 曲がって最後まで落下へ抵抗していたX字にかけられた鉄筋ブレースと柱の鉄骨を繋いでいたガセットプレートが、一際大きな音を弾け飛んだ。

 

 しかし、なんとか御坂美琴の起こす電磁力によって、自由落下を真逃れた看板はゆっくりと降りていく。

 

 地面まであと1メートルほどで、御坂美琴が息切れを起こし、大看板はズシャリと音を立てて落下した。

 歩道を抉り、低木の街路樹を薙ぎ倒したが、彼女がいなかった場合の被害を考えれば最小であっる。

 

「わああっ! やったぞ!」

「雷神ガールだっ!」

「彼女が助けてくれたぞ!」

 

 歓声があがり、注目が上がる中、御坂美琴は軟着地させた看板の上に降り立った。

 もしも歩道へ降り立っていれば、観衆たちに囲まれたことだろう。

 

 騒動になると考えた御坂美琴はすぐに電磁浮遊で移動して、歩道にいた美都を抱き抱えその場から飛び去った。

 去っていく御坂美琴を見送り、スマートフォンで撮影したり残念がる人々。

 

「ん? ……なんだ? ドリンク剤を飲んだら…………って、なんだこりゃぁ!」 

 

 遅れて、ぼーっとしていた人たちも、順番に意識を取り戻していき、歩道を占拠する大看板と盛り上がってるいる人たちという目の前の光景に驚いた。

 

 一連の騒動を隣のビルから眺めていた遊驥は、ガラス窓に張り付いて飛んで行った御坂美琴の方を見送りぽつりと呟く。

 

「なーんだ。レールちゃん。今日は下にちゃんと履いてるんだ」

「どこを見てんだよ、おーまーえー」

 

 + + + + + + + + +

 

「うぉーいす。いやぁ、本当にまいったわねぇ。あー、ニュースにもなってんのね。そりゃそうか……って、他の場所でこんな事件あったんだ」

 

 空元気を出しながら、美都の手を引いてドアを開き放つ。

 騒動の後、私と美都は着替えと簡単な変装を済ませて財神黒客(ツァイシェンヘイカー)のアジトへ顔を出した。

 アジトの隅に置かれた年代物のテレビからは、東京各所で起こった地震の報道*1が流れている。

 

 アジトには覗き見をしていた遊驥(アスキー)大智(しょうさ)、そして仕事を終えてたマイカさん(ジャマイカからきたジャマイカ)が集まっていた。

 真優(ヒロヒロ)は、知り合いの一周忌で忌引き…………。ハッカーグループに忌引きなんてないわね。とにかく不在。

 

「おう、おかえりー。成瀬のデータは、そこのPCから吸い上げてくれ」

「おつかれさまねン。大変だったわねぇ、二人とも。アイスコーヒーあるわよン」

「おーっす。大活躍だな。池袋と、他は新宿と新橋と秋葉原。幸い、死者はいないが怪我人は50人くらいでてるらしいぜ」

 

 三者三様に出迎えてくれた。

 どっちかというと私は紅茶派なんだけど、マイカさんからアイスコーヒーを受け取り、美都にも手渡し近くの席に座る。

 大智が指差したパソコンにアクセスして、成瀬のスマートフォンのデータを読むこむ。

 

 これは彼が私のことについて、何かの連絡をしたか? 誰かに情報を送ったか? を調べたものだ。

 これまでに誰と連絡したか、これから誰かに漏洩しないか? をリアルタイムで調べることができる。

 

 特に問題がなさそうなので、あとは彼のプライベートにも関わるので成瀬のデータから目を離し、遊驥の説明した事件の場所を美都とともに調べる。

 

「お姉様が活躍した池袋以外だと、信号機が倒れたりビルの窓が割れたりして、被害が結構あるのね」

「怪我人も多いわね。でも看板落ちた池袋が、あのままだったら一番危なかったわ……。ふ〜ん。地震みたいなあの現象。この4箇所以外では、観測されてないんだ〜」

 

 報道やSNSの情報を精査しながら、私たちはアイスコーヒーに口をつける。

 美都はガムシロップとミルクを入れるのね。

 私も疲れていたので、ガムシロップを追加して飲む。

 

「ふぅ〜。大事件ねぇ。それで原因はやっぱりあれ?」

「これ」

 

 大智はトン、と一本のドリンク剤をテーブルの上に置く。

 

「そう、これだ」

 

 遊驥はドン、と20本に及ぶ栄養ドリンクをテーブルに置く。

 

「あんた、どんだけ貰ってきてんのよ!」

「結果的にはよかっただろう。貴重(きちょ〜〜)なサンプルいっぱいだ」

 

 すでにSNSでは話題になっているが、共振性の振動事件が起きた場所では、どこでもこのドリンク剤が配られていた。

 この推測染みた情報は、まだ報道はされていない。でもテレビが悪いわけではない。

 よくネットからはテレビの報道は遅いっていうけど、責任ある報道機関は裏が取れていない、確定していない無責任な噂や推測を軽々に流すわけにはから……って、必ずしもそうでもないわね。アナウンサーの私見という思い込みみたいな憶測発言や無責任で庶民目線を代弁してるようで上から目線の苦言で、締め括って総括してみせるとかあるし……。

 

 それはともかく。

 

 SNSのフェイクもふくめ雑多な情報と、集合知を合わせた無責任な推測も、事情をある程度しってる側の目から見れば馬鹿にはできないのよね。

 半日も経ってないのに、もう原因をモンゴルフィエ社ジョシャ・ドリンコブランドの試供品ドリンク剤と決めつけている。

 

 決めつけて叩くのは悪いことだけど、こっちはハッキングで直接手を出すとかもっと悪いことをするのであまり非難できない。

 

 大智(しょうさ)はハッキングを駆使して、モンゴルフィエ社の日本法人と道路使用許可を調べあげ、ドリンク配布の許可された場所について裏をとっていた。

 

「状況証拠は揃って、モンゴルフィエ社に不利なことが並んでる。あとはドリンク剤の検査結果次第だな」

 

 同じ会社のドリンク剤が無料配布されていた場所。

 一定数、飲まれた後。

 ほぼ全員の数十人が半覚醒状態となったまったく同じ時間に、配布された付近で地震のような現象が発生。 

 

 私も2つまでは偶然は許すことにしてんのよね。

 でも3つも重なったらこれは偶然とは思えない、なんらかの必然があると考えた方がいい。

 

 ……ただ、これって日本で大正時代にも流行ったアリストテレスの三段論法みたくなるときがあるから、気をつけないといけない。

 まああれは半分冗談混じりや、こんなに簡単に答えを出すのは危険だぞっていう考えがはやりの裏にあるけど。それに三段論法は、2条件だから3つも重なってないし。

 

「もうネットじゃ、転売が始まって値段が跳ね上がって…………あ。今、取り引き禁止になった」

「こいつらアホか、転売ヤー。いくら国内製の医薬部外品の転売はセーフでも、もしも本当に危険な薬品が混じってたら、両手が後ろに回るぞ!」

 

 薬機法を多少は知っているのだろう。遊驥が呆れたと、転売している人たちにツッコミをいれる。

 

「……アスキー。あんたも、ずいぶん持ってきてるけど」

 

 転売ヤーに呆れる遊驥だが、私も私でこいつに呆れている。

 どんだけ試供品を貰ってきてるのよ。

 

「転売するつもりも、誰かにくれてやるつもりもないからセーフじゃ」

「まあ、サンプルがいっぱいあるのは、結果的に良かったけど……」

 

「そうじゃろう、そうじゃろう。ちなみに知り合いへ、もう成分分析に出してある」

「すごいわね、あんた。化学系の知り合いいるんだ」

「企業や医療系じゃないけど、大学関係ならいくらでも知り合いはおるぞ」

 

 さすが篠原重工の御曹司。

 コネが広い。

 

「で、これがその栄養ドリンク剤ね」 

 

 私は一つを手にとり、ラベルを読み込む。成分はありきたりなんだけど…………モンゴルフィエかあ。

 どこかで聞いたことあるのよね。 

 なんだっけ?

 

 考え込むと、遊驥がニヤリとしながら尋ねてくる。

 

「レールちゃん、なにか心当たりはあるのか?」

 

 考えていたのはモンゴルフィエについてなんだけど……まあ、確かに事件の心当たりはあるわね。

 私はまだ学園都市にいたころ……、夏休みに起きた事件を思い起こす。

 

「あるといえばあるけど、同じ現象と断定するのは早計ね」

 

「うーん。でも、念の為に教えて欲しいわン。知ってるか知らないかで、情報の精査も差がでるわン」

 

「マイカさんがそこまでいうなら。ま、近い現象ってこともあるかもしれないし」

 

 今一度、アイスコーヒーで喉を湿らし、心当たりを説明する。

 

「学園都市では、RSPK症候群。乱雑開放(ポルターガイスト)とも言われてた。私の知り合いも巻き込まれて、事件解決に協力したことがあるの」

 

 私は木山春生の起こした関連事件や、テレスティーナが行っていた具体的な実験内容については省き、かいつまんで説明した。

 

 ちなみに木山春生の名前については、この世界に来て真っ先に調べた科学者の名前だ。

 でも、彼女の痕跡は見えなかった。

 まだ大学に所属していて表に出ていないか、どっかの研究機関にいたとしても、論文の一つもないのはおかしいので、存在していないか、別の……教職の道にでも行ったのか──。

 結婚して名字が変わってる可能性もあるわね。ありえない……って言ったら悪いけど、あの人に結婚はちょっと考えにくい。

 

「──というわけ。要するに投薬で能力を暴走させ、複数人を共振をさせてさらに大きな事象を起こそうとする実験があって、その実験段階で学園都市でも地震に似たような局地的な振動が観測されたの。あと、体晶を接種した子どもが精神的に不安定になると、周囲でポルターガイストに似た現象が起きてたわ」

 

「ふむ。じゃあ、栄養ドリンクを飲んだ人たちの周囲で、その後にポルターガイストみたいなことがおきたらそれかしらン?」

 

「どうかしら? 脳開発もしてないで、投薬一つで能力が暴走とはいえ発現するとは思えないし、多分違うと思うけど…………。うーん、でも現象が起きてるだから、同一か似たものと考えた方がいいか」

 

 ふとそこで思いつく。

 

「そうだ。体晶って脳にダメージがあるのよね。もし同じものだとしたら、飲んだ人たちは精密検査受けた方がいいけど…………。どう広めたほうがいいかな?」

 

「検査ならもうやってると思うわよン。飲んで意識が飛んだ人は、病院に運ばれたっていうしン」

 

「ただ、持ち帰って飲んだ人とか、騒動のなか帰った人とかいるだろうな」

 

 少数ながら、検査を受けていない人がいるのか。

 病院に行けない事情があるとか、お金を少しでも払いたくない人とか、検査することで異常が見つかるのか怖いから、検査を受けないで「検査しなければ結果は出てない。だから私は大丈夫」と思い込む人とか、いろんな人がいるだろうし、難しいわね。

 

「脳にダメージがあるのに、人為的に暴走させるのか。相変わらず、お前んところの街は治安が終わってんな」

 

「何度も言われてるけど、ほんと、言い返せないわ。……それで実験の初期段階だと、参加した子どもたちが十数人が意識不明になるくらい。数年後、その子たちが意識を取り戻したときに、あの地震みたいな空間振動現象が局地的に起きたの。今回の共振振動は、あの時の現象にそっくりだったわ」

 

 地震のようだけど、地面というより周囲の物体も一緒に掴んで揺らされているような感覚。あれは地震とは違う。

 RSPK症候群が引き起こした現象は数回しか経験していないけど、日本にすんでるから地震の経験はいっぱいある。だからこそ、昼間の現象は異質であると断言できる。

 

 きっと、世間でもあれは地震と違うって感覚的に気がついているんでしょうね。この国は地震が多いから。

 

「原理は解明されてて、私も論文は読んだわ。だから現象は似てるけど、原因となる体晶はこっちにないだろうし、似てる薬品ならアスキーが出してくれた成分分析結果で大体わかるわ」

 

「そうか。じゃあ大学から結果報告がきたら、すぐにレールちゃんに渡す」

「ポルターガイストについては、ちょっと俺の方から調べてみるか……」

 

 約束する遊驥と、ネットから情報を探す大智。

 なんとなくこの二人を見てると、初春さんと佐天さんといた時のことを思い出す。

 いえ、性別はもちろん得意なこととか全然違うんだけど。

 

 ……ダメね。

 ちょっと恋しくなってるのかも。

 気分を変えるため、事件について推論を話す。

 

「第一、能力開発も受けてない状態で、体晶の薬一本飲んで出るような現象じゃないのよね。今回のも暴走みたいだけど、ひとまず完全に別物と考えたほうがいいわ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「これらの能力開発技術って、主流から外れて枝分かれして先細りしたから、なにか別アプローチで発展した可能性もあるかも」

 

 一つの可能性を口にすると、美都が堰を切ったように立ち上がった。

 

「まさかっ! お父さんの薬が使われた可能性とか!」

 

「ちょ、そ、それは平気よ。美都のお父さんが作った薬は、動脈注射で投与させるものよ。ドリンク剤で経口接種しても、誘導体は分解されるし、効用成分は吸収すらされないわ」

「そ、それでも、もしかしたら……」

 

「本当に違うって。あなたのお父さんが狙った効果も、治療薬を脳の特定の部位に誘導して、他の層に影響を与えないためだから。それはもちろん…………、副作用を抑えて能力開発の薬を効果的に発揮させる効果もあるんだけど……それは利用者の意図だし、なにより今回に限っては、副作用が出たからこそと言えるの。だから絶対に使ってないと断言できる」

 

「うう……お姉様……。でも、もしかしたら応用や開発過程で……」

「そ、それは……」

 

 説明をしたが、まだ美都は納得しきれないようだ。

 直接混入されてなくも、産み出す過程で利用された可能性は否定しきれない。

 父親の成果を盗まれ、悪用までされ、もしも今回みた惨劇の原因とまでなったら、彼女が取り乱すのもわかる。

 

「大丈夫よ、美都。私の方でも当てがあるから調べてみるわ」

「当て? モンゴルフィエか?」

「あらン? こんどはモンゴルフィエに潜入するの? でももう警察が介入しているらしいわよン」

「そうなの? ならその当てがより確定になるわね」

 

 マイカさんのチェックしているニュースによると、もう警察が踏み込んでいるという話があるそうだ。

 ガサ入れってやつ? そういうのって普通、裁判所が許可ださないとできないはずだから、前から動いてたってことかしら?

 異常に早い動きを見せる警察に驚きながらも、どこかでやはりという気持ちがある。

 

「当ては、モンゴルフィエそのもの……じゃなくて、そのモンゴルフィエを利用してるやつ」

 

「なーるほど」

 

 遊驥が膝を叩く。

 

「露骨なスケープゴートとしか思えないモンゴルフィエ。ならそれを監視してるや、ガサ入れの成果を確認するやつがいたならば怪しいってことだな」

 

「そう。で、覗き見してるやつを覗き見するって、最高の()()()たちっぽいでしょ?」

 

 

 

 

 

 

*1
当然私の話題を含む




こーりん、こーりん、気軽にこーりん

原作でもスケープゴートになってるモンゴルフィエですが、本当は世界観に合致した別企業を思いついていたのですが……
全部忘れた!

思い出せないので犠牲になってもらいます。

感想、評価、ありがとうございます。
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