とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
昨日今日と、2日連続更新なので、前話を読み飛ばさないようにご注意ください。
私は高層ビルの壁への張り付きと、と中層ビルの屋上から屋上へとの移動を繰り返し、モンゴルフィエのCFOが乗るSUVを追いかける。
道中の防犯カメラなどは、私の姿が映らないようしっかり誤魔化し、痕跡は一切残っていないはず。
だけど、もしかしたら目撃者がいるかもしれない。
でも、高速でビルの隙間を横切る人影を見て、一瞬でそれを人と思える人はまずいないと思うのよね。
常識的に鳥かと思うはずだし、人に見えたとしても「そんなはずはない」と思うはず。
念のため、だぼだぼのパーカーを身につけ、シルエットが人型にならないようにしているのできる限り万全。
人間って思い込んでいる形状と、見え方などで形が変わると認識できないないのよね。
ハサミを探していると、あのハサミらしい形状を無意識に思い浮かべて探してしまうから、真横から見た薄い姿を視界に入れてもハサミだとは思わない。ってことがあるのと同じ。
一瞬、黒のだぼだぼパーカーのフードを被り、シルエットが緩い四角形になっている私が横切ったら人間には見えないけど…………、一番近い形状ってゴミ袋じゃない?
って、今の私はゴミ袋か!
はげしく不本意だけど、風で飛んでいるゴミ袋に擬態しつつ、東京の空からモンゴルフィエ幹部の車を追跡する。
「どこに向かう気かしら? このまま行くと羽田空港だけど……」
国外にいきなり逃亡する気かしら?
よほどのことをしているならわかるけど……あ、してたか。
街角無差別投与実験なんてほとんどテロだし、責任者はただじゃすまないわね。
空港だけならまだしも、飛行機に乗られたら手出しできないなと考えていたら、
『おい、トール! そっちに向かっていくなんかいるぞ!』
「なんか、ってなによ!」
『モンゴルフィエを監視してたやつらを監視してたが、狙いがお前だったようだ。追跡してる姿が目撃されてネットでも話題になってる! まずいぞ。この黒服連中、違う!」
「黒服って、モンゴルフィエへのガサ入れを監視してた連中?」
『狙ってたのは周囲の監視だ。
「Wi-FiSensingって……でも、そんなの屋外で使ったら、精度が低すぎて……。ああ、空飛ぶ存在なんて、おかしすぎて見つかるわね」
どこにいるか正確にわからなくてもいい。
人間大の動体が、ビルの間を横切っている存在がいるかどうかと、移動先がわかればいいわけだ。
でも、私がいるかどうかが分かっても、私かどうか確認する手段はあちらにはないけどネットでも話題になってるって、後先を考えて──
直感。
私は電磁アンカーによる移動を停止し、自由落下!
落ちる私の頭上を、真っ赤な熱源体が通過していく。
落下の機動を再び電磁アンカーで変え、熱源体が飛んできた方向から死角になる位置へと移動する。
思った通り、機動変更前の落下位置付近で、いくつもの炎が立ち上がった。
「
ここが学園都市だと錯覚した私は、この現象を能力発現と判断してしまった。
そんなはずはない。
でも、そう思ったら後手に回る。思い込みを振り払う。
防犯カメラを乗っ取り、炎で攻撃してきたと思われる存在を探す。
「…………いた」
一撃目の発射想定直線上のビルの上。
天王洲アイルの中で一際高いビルの屋上にそいつがいた。
いかにも実験用というヘルメットから、こぼれるように流れる長い髪。その髪と荒めの生地の外套が風で乱れるのも意に介さず、私が隠れるビルを
私よりちょっと上の年齢かな?
「はは……。網をかけたと思ったら、こっちが網に引っかかった……って、わけね」
電磁波の網を使う私が、Wi-Fiの網に引っかかるなんて……。
長い髪の女の子は、周囲に火炎をいくつも出現させて、私が出てくるのを待ち構えている。
「そっちがやる気ってなら…………やってやろうじゃないのよ!」
学園都市の空気を思い出し、私は舌舐めずりをした。
先制攻撃へのお返し!
ビルの影から飛び出し、隣のビルの影に入るまでに電撃の槍と放つ。
飛び出した姿に反応した長い髪の子だが、横切るだけの私にも電撃にも対処が間に合わない。
わずかに炎を揺らめかせ、電撃より遥かに遅い速度でこちらに飛ばすのが限界だ。
だけど、私の攻撃は防がれた!
炎もプラズマ現象。
あいつが発生させた炎も、私が放った電撃も、互いが引き寄せられるて接触!
炎が一際輝きアーク放電を放って、私の電撃は減退していって消滅する。
低い電圧を雑に放っても、炎を導体にされて本体から逸らされるか、今みたいに弾けてその場で放電でしきってしまう。
何度か電撃を物陰から放つけど、前面に展開されたいくつもの炎で防がれる。
ヘルメットは秋葉原の念動力者が耳につけてたインカムを兼ねてるのかと思い、ハッキングしてみるがダメ。
どうも回線があるように見えない。
あれそのものが演算装置のようね。
無線が存在してないから、今の私の力だと物理ケーブルか直接触れるしかハッキングの手がなさそう。
「まっずいわね……」
このヘルメットの
これが学園都市なら、暗部でいつも戦ってるからとか、あいつみたいにいろんな事件に首を突っ込んでるからとわかるけど……。
能力のない世界で、あの女は異常だ!
しかも、どういう仕掛けかなのか、空を浮遊してゆっくりながら私を追いかけてくる。
能力で飛んでるわけでもなさそうだし……。どうなってんのあれ?
でもあんなにゆっくりなら、
相手の機動を読んで、私は一気呵成に距離を詰めてヘルメットの発火能力者へ飛びつく!
「獲ったぁっ!」
と、思った瞬間! 私の体は弾かれた。
衝撃波?
ちがう、爆発的な炎発生による空気の膨張に弾かれた!
って、ちょっと!
パーカーが燃えてるじゃない!
地面に叩きつけられる直前、私は電磁アンカーを使って機動を修正。
お台場と八潮を繋ぐ東京湾トンネル、ちょっとしたビルくらいの大きさがあるその換気塔へ張り付く。
「熱っ! 消えない!」
化繊のパーカーはよく燃える。ちょっと叩いたくらいじゃもう消えそうにない。
でっかいトラックの車止めみたいな形をした換気塔の天辺から、迷わず東京湾にダイブする。
この行動は発火能力者にも読めなかったようで、炎の弾は上空を通過していった。
炎が消えるのに十分な一瞬だけ、東京湾に飛び込み、すぐに浮上した。
「東京湾トンネルが浅くて助かったわ」
東京湾トンネルは短く浅い。深さはわずか25メートル。
感覚的にトンネル上部の天井は水深15メートルくらいの埋没式。浅く平らで広い。その鉄筋コンクリートのおかげで私は海上に浮遊することができた。
とはいえ磁性を発してる場所が遠い。
やっと海上に浮いてる状態の私に、発火能力者が炎の弾を撃ち出してくる。
「まっず!」
東京湾トンネルは直線。しかも両岸に大きな換気塔があるせいで、私が浮上移動できる軌道がバレバレじゃない!
距離を取ろうとしても、完全に移動が読まれてる。
緩急をつけて回避し、電撃で炎を撃ち落としながらお台場側へ引き下がる。
「即乾燥させてくれるのは嬉しいけど、塩水がベタつくのよね!」
アーク放電が収まった空間を通過すると、熱でジリジリと身体が焼かれる。
かえって海に飛び込んで、濡れていてよかったわ。
こうして私はなんとかお台場側へと辿り着く。
ここはここで、公園や広い駐車場、それに建て替え中でなにもない場所と、私が立体機動をするに不適切だった。お台場の高層ビルはまだ離れている。
幸い、上陸直前に発火能力者が海に炎をぶつけ、爆発的な水蒸気が発生したせいで、相手は私を見失ってくれた。
なんとか、ゆ
立ち止まった私に、炎の雨が降りかかる!
ゆ
私が機動を得られるゆるかもめの高軌道高架を狙って移動するのを読まれた?
完全に頭を抑えられた私は、高軌道高架下を移動し、橋脚部分なので身を晒し旋回、時々地上を走りながら南へと向かう。
広いところで相対すべきか、三次元機動を得られる高層ビル群へ向かうべきか?
そんなこと考えた一瞬。
先を読まれて飛ぶ先に、一際大きな火球を撃ち込まれてしまった!
「こんっ、にゃっろおぉぉぉぉっー!」
黒子や常盤台の同級生がいたら、はしたないと言われるような大声で電撃を放ち撃ち落としつつ、緊急回避用の大電力で電磁アンカーを使う。
身体が引っ張られる勢いと、アーク放電した火球の炸裂した衝撃で、想像以上の加速度が私を宙に導く。
ふと加速が収まった時、放物線を描いて落下していくと思われる地上に、課外学習らしき子どもたちの集団が見えた。
え? あそこに落ちる? 巻き込む? ぶつかる? あそこに撃ち込まれる? 火球を?
私だけなら、いえ、私だけでも2、3人を巻き込む。
ましてや着地を狙われて、あの大火球を撃ち込まれたら最悪全員──。
全力機動のため、私は人通りのいないプロムナードの街灯へ向けて電磁アンカーを撃ち、一気に加速。
そのまま大層な勢いで街路樹の枝にぶつかりながら減速して、硬いプロムナードのコンクリート擬似石畳に落下した。
「……い、痛〜。たはー…………。力が落ちてるとはいえ、この私がここまで追い詰められるとはね」
目の前の建物……ここは……お台場の未来科学館ね。
社会学習か課外授業なのか、私と同じくらいの子たちとか小学生低学年の子たちが、いっぱい未来科学館の前に整列していた。
私はその近くに落下……いえ、着地した。
「来ないで! 危ないから離れて! あんた、先生? みんなを連れて私から逃げて」
私が落ちてきたのを見て、好奇心旺盛な子どもが数人、駆け寄ろうとしてきたがそれを押し留める。そして一緒に走ってきた先生らしき大人に、避難をお願いする。
──と、同時に炎が降ってきた。
これをなんとか撃ち落とす。
子供たちの悲鳴が響き渡る! お願い! 早く逃げて!
やつは日本未来科学館の隣の産業技術研究所ビルから、私を見下ろし火球を撃ち込んでくる。
私がそれを逐一落とすせいで、周辺一体が戦地みたいな爆音と爆風で煽られる。
「あいつ、
学園都市ではいないとされる二つ以上の能力を持つ存在を疑う。
もしかしたら、能力の応用で飛んでるのか、それとも発火能力こそが応用なのか?
私のような制限ありとはいえ、高速低速緩急自在の三次元機動とちがい、あの発火能力者の子はゆっくりとした飛行能力を持っている。
いえ、浮遊かしら?
加速する時は後方に向けて火球を爆発的に発生させてるようだけど、たいした加速はせずに機動もふらふらしてる。
ゆっくりと高度を下げ、攻撃の密度が増してくる。
私は追い詰められつつある。
アーク放電は数秒輝き、中心は数千度に達する場合がある。
もし逃げる子どもたちがそれに気が付かず、熱と放電が残る近くへ行ったら……。
あいつの炎を撃ち落とさない限り、後ろにいる生徒たちが危ない。
先生が避難誘導してくれるけど、数人が立ち止まってしまっている。
私が逃げ回れば、流れ弾があちこちで逃げ回る人たちに降りかかる。
発火能力者はつるべ打ち、今はグミ撃ちとかいうんだっけ? 攻撃の手を休めない。
私が逃げ回れないなら…………真正面!
覚悟を決めた時、発火能力者がトドメとばかりに大きな火球を私に向けて放ってきた。
そいつを…………待ってたのよ!
特大火球に、私が今放てる最大の電撃を撃ち込む。
轟音と共に火球が弾け、アーク放電がプロムナードの上空で輝いた。
視界が炎の残滓と、アーク放電の輝きで失われる。
でも私には電磁波レーダーがある。
発火能力者が右に周り、視界を確保しようとしている動きが感じられた。
私は燃え残りの長袖パーカーを脱ぎ、近くの車止めポールを電磁で操り巻きつけて、そちらへと投げつけた。
きっと私が体当たりしてくるように見えただろう。
発火能力者は右の視界に出てきた途端、長袖パーカーが飛んできたので、迷うことなく炎を放った。
長袖パーカーが一瞬にして燃え尽き、周囲で悲鳴が上る。
一部の学生は、私が燃えたと思ってるんでしょうね。
私は長袖パーカーを脱いだ後、すぐに電磁浮遊で飛び上がって科学未来館の
人は横の動きに気を取られやすく、上下に早く動く物体を追うことが苦手だ。
周囲にいた学生も、そして発火能力者も目の造りは同じ。
発火能力者は私を見失い、燃え尽きたパーカーの中から飛び出してきた車止めポールにぶつかって転倒した。
その上に飛び降り、ヘルメットを掴んでプロムナードの石畳に叩きつける。
「直接ならぁっ!」
ハッキングと同時に、能力者を気絶させる程度の電撃を叩き込む。
「が、はっ!」
発火能力者のヘルメットが停止し、電撃で身体が跳ね、そして痺れて気を失い動かなくなった。
「はあ……はあ、きっつ」
痛む左肩に手を当てると、下に着ていたTシャツの袖が燃え落ちていた……。
って、左半身、丸出し!
「ひゃっ!」
Tシャツの下はスポブラだけど、腰近くまで半身露出は恥ずかしいっての!
幸い騒ぎがひどすぎて、近づいてくるような人たちはいないけど、も、ももも、もしかして撮影されたんじゃない、これ!
カメラを妨害する余裕なんてなかったし、どうしよう…………。
うーん。発火能力者のマントを奪ってもいいんだけど、外套の下が全裸なのよね、なぜかこの子。
年頃の子に、ヘルメットとマントだけとかどういう趣味してんのよ。
「くっ……。合流して美都の上着を借りるしか……」
骨は折れてない。ごめんね……あんたの身体、傷つけちゃって
現状確認をしている私の背後、プロムナードを東西に横切る道路に車が止まる気配がした。
振り返る。
そこには黒塗りの車の窓を開け、こちらに視線を向ける壮年の男──
「氷室っ!」
美都の仇敵、氷川誠一郎!
こいつ、私が安堵して気を抜いたこの時を狙って追い討ちを──
暗転
当初はこんな大立ち回りのなる予定ではなかったのですが、圧倒的能力差がない状態で、大規模破壊と殺害という選択肢がない御坂美琴が同格の相手を街中でしたら、手間取って仕方ないと書いているうちにだんだんと……。
掲示板回をすでに書いてあったのですが、これは書き直しするしかないですね。