とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》   作:大体三恵

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「思い通りに、事が運んだな」

 

 いかにもという黒塗り高級セダンの後部座席で、氷川誠一郎は眉間を押さえながらウィンドウを閉めた。

 

「……フッ。あの馬場とかいうやつ、案外使えるじゃないか」

 

 頭痛に顔をしかめながらも、作戦を立案した馬場なる人物を再評価して微笑を浮かべた。

 

「社長。モンゴルフィエのCFOも処分が終わったそうです」

 

 スマートフォンで連絡を受けた助手席の男が、後部座席の氷川に報告する。

 

「む……そうか。見とがめられる前に去るぞ」

「はい」

 

 短く返事をして、運転手は車を加速させた。

 深呼吸しておちついた氷川は、懐からスマートフォンを取り出し、待機していた武装部隊に連絡を取る。

 

「私だ。二名の回収は任せたぞ……それから」

 

 氷川はプロムナードの騒ぎで、はぐれて泣いている子供や、危機感乏しくスマートフォンで撮影を続けてクラスメイトと逃げずにいる中学生を横目に見た。

 

 ──そういえば、子供の方がスピリッツを投与したさいの反応が激しかったな。

 

 ある考えが浮かび、氷川は邪悪な笑みを浮かべた。

 

「雷神とやらを回収するついでに、数人、そこらの子供を確保してくれ。なに。こんな騒ぎだ。子供の何人かが行方不明になるのも不思議じゃないだろう」

 

 + + + + + + + + +

 

 その日、アメリカの秘匿された情報部NEWSの工作員であるロドニー・ヒューズは、来日した妻と娘を案内して、お台場を訪れていた。

 感動の再会から数日たち、やや落ち着いた娘エミリは、空白の5年間分を取り戻しためわがままリトルプリンセスになっていた。

 お台場の台場なのか、海にダイブする人なのか、だいぶダブルミーニングなのか、それら全部含めて他も受け入れdiversity(多様性)なのか、それらひっくるめたダジャレなのか、そんなショッピングパークビルの前の白い巨大ロボットを指して、舌足らず気味にエミリが父親ロドニーへ強請(ねだ)る。

 

「ダディ、ダディ! あのロボット欲しい!」

「はは。あれはお父さんの車に乗らないなぁ」

 

「お車、乗んない?」

「乗らないねぇ」

 

「じゃあ、ダディ。明日こそ、ライジンガールを紹介してね」

 

「ああ。連絡を先ほど送った。返信はまだだけど、カメラ通信での紹介くらいしてあげよう」

 

 小さなエミリの手を引き、手袋越しにロドニーは愛娘との触れ合いを楽しんでいた。

 その様子を見守っていたロドニーの妻、メアリーが声をかける。

 

「あなた……。本当に大丈夫なの?」

 

「ああ。ライジンガールも急な約束は無理だろうが、彼女と連絡をつけることは可能だ」

 

 すでに数回、雷神ガールと他愛ない連絡を取り合ってるロドニーは、明日急に娘と会う約束は無理でも、ビデオ通話くらいできると確信している。

 しかし、メアリーはそんなことを気にしていない。

 不安そうに夫の手袋をした手を見つめる。

 

「そうじゃなくて」

 

「ああ……、大丈夫だ」

 

 ロドニーは察し、娘の手前なのでそれとなく答えた。

 カバーストーリーでは、大怪我を負って回復したばかりという設定である。

 手袋も傷を隠すためと説明しているため、妻が心配するのも当然だった。

 

 なんとも間抜けな話だが、ロドニーのようなサイボーグは、空港内に入ることが非常に難しい。

 空港には訓練された犬がいるため、異常な存在であるサイボーグは犬に警戒されてしまう。

 

 麻薬犬などはスルーしてくれるが、火薬や爆発物を検知する犬は、サイボーグであるロドニーを警戒する。実際、発火反応物がないだけで爆弾と同じ機械でできた危険物なので、当然である。

 

 ロドニーは来日した二人を空港で出迎えることができず、妻からは体調不良を疑われていた。

 

(やれやれ。空を飛べず、公共施設を利用できず、そんな私のどこがスーパーマンなのか)

 

 生まれ変わった時、上司からスーパーマンになったと告げられたが、その実態はいかほどか。

 不自由な生活と工作員としての日々と、ボディのメンテナンスに費やされる余暇。家族には会えず、仄暗い仕事を任される。

 思っていたより合衆国付きのスーパーマンは世知辛いものだと、ロドニーは自嘲した。

 

(しかし、それも変わりつつある。スーパーマンから普通の人間に戻れるかもしれない!)  

 

 工作員のしての立場こそまだあれ、実質の休職状態。

 形の上であった大使館付き武官という仕事につき、真っ当な軍人として日の当たる世界へロドニーは立つことができた。

 

(さすがに娘が大統領と友人とかは、勘弁してほしいがね)

 

「ダディ。抱っこ」

「わかった」

 

 雷神ガールの友人を狙う大統領は、そういう腹づもりでエミリとお友達宣言している。

 気が重いな、と考えつつも、抱え上げる娘の重さよりは軽いかと思い直す。

 

 ──と、その時、南へ続く散歩道(プロムナード)に火の手が立ち上がった。

 

「ダディ! 火事!」

「っ! あ、ああ」

 

 軍人であり、工作員として活動してきたロドニーは、それが火事でないことに気が付く。

 火薬や石油のような燃焼物で起きるような炎でない。

 爆音と閃光が断続的に輝き、悲鳴が聞こえてくる。

 

(な、なんだ? あの閃光と火花は化学的反応? あそこは日本未来科学館と産業研究所があるが……そんな事故が起きるような場所じゃない。まさか!)

 

「エミリ、メアリー! どこか近くのビルに避難だ」

 

 娘を抱え直し、走り始める。

 近くにあるビルは外国車のサービスセンターと、テレビ局のスタジオが入る外部撮影施設で、関係者以外は入れない。 

 だが、意外なことに、テレビ局のスタッフは率先してビルの中へ避難しろと誘導している。

 

 エミリより少し大きい小学生たちだけでなく、炎から逃げてくる誰ともわからない通行人もテレビスタジオが入るのロビーの奥へ誘導していた。

 一方でテレビ局のスタッフは、撮影機材を持ってこいと騒ぎ、炎が降る中へ飛び出そうとしていた。

 

 避難する子どもたちの波に巻き込まれるように、ロドニーは娘を抱いて、妻の手を引きテレビ局のスタジオビルに逃げ込んだ。

 

「見て! ダディ! ライジンガールよ!」

 

 大柄な父親に抱えられているエミリは、他の子どもたちより視線が高い。

 英語がわからない子どもたちも、ライジンガールの発音は聞こえ、指さす方向を一斉に見た。むろん、ロドニーも見た。

 

 そこには苦戦するように、電撃で炎を撃ち落としてる雷神ガール御坂美琴がいた。

 服は炎に焼かれたのだろう。左半身が露出しているが、若い肌を構う暇すらなく髪の毛を逆立てて電撃を放つ。

 

「おい、あれだ、あれを映せ、あれ」

 

 ここでテレビクルーが専用撮影カメラを持ち出し、雷神ガールの頭上を指さしてレンズを向けた。

 カメラのレンズの先で、やまない炎を振り落とす存在は異様だった。

 

 工業機械から引っ張り出した部品を、無理やり丸めてヘルメットにしたかのような無骨な頭部に、大きく広がる外套は不釣り合いな普通の少女。

 大きな頭にマントで、炎を纏う姿はまるで──

 

「ダディ、ハロウィンのあれ! かぼちゃのおばけ!」

「ジャック・オ・ランタン……」

 

 ロドニーはアメリカ人であり、名前もそのように付けられている。だがヒューズ家はアイルランド系であり、そのためエミリが炎の少女を評した意味を理解した。

 

 アイルランドに古くから伝わる伝承、嘘つきジャックが悪魔を騙し、地獄にも行けず、かぼちゃ頭にぼろぼろのマント、そして炎のランタンを持つ姿へとなる。

 

 炎の悪霊、ジャック・オ・ランタン。

 

 英語がわらかない周囲の子供も、今がハロウィンシーズンということもあり、ロドニーがつぶやいた言葉を理解した。

 当然、テレビクルーも理解した。

 

 以降、ヘルメットの少女は「ジャック・オ・ランタン」と呼ばれることとなる。

 

 ジャック・オ・ランタンはゆらゆらと浮遊しながら、次々と火球を打ち出している。どうも雷神ガールだけを狙わず、周囲へ被害を増やすように撃ち込んでいる。

 雷神ガールは、逃げる人を守るように電撃を放ち、明らかに疲弊し始めている。

 

 手が回らず、人を狙っていないので優先して落としていない火球のいくつかは、あちこちで火の手をあげている。

 

 おそらく頭を抑えるためだろう。ジャック・オ・ランタンはプロムナードの街路樹に火を放ち、御坂美琴の移動を制限している。

 それが恐ろしい状況を生み出していた。

 

「まるで戦場だ」

 

 テレビクルーは撮影しながらそうつぶやいた。

 降りかかる炎と、燃える街路樹。そして迎撃するたび、放たれる閃光と轟音。

 本当の戦場を知るロドニーもそのように思い、否定しなかった。 

 

「ダディ! 大変! ライジンガールがやられちゃう!」

 

 終始押され気味の雷神ガールを心配して、父親の頭に抱きつくエミリ。

 

「いや、大丈夫だ。彼女は強い! 信じろ!」

 

 ロドニーは冷静だった。

 雷神ガールがどれほどの能力を持っているか知らないが、彼女の目が何かを狙って自信に溢れていると高性能の目で読み取っていた。

 

 果たしてそれは正解だった。

 

 一際大きい巨大な火球が放たれ、迎撃とともに爆音が響き、避難していた人たちが悲鳴を上げる。

 雷神ガール御坂美琴はこの隙に、黒のパーカーを脱ぎ去り、中に車止めポールを入れて投げつけた。

 そして引っ張られるように飛び上がり、パーカーを囮として上空へ姿を消した。

 

 撃ち落とされ、燃え上がるパーカー。

 

「きゃあっ!」

「ダディ! ライジンガール! 燃えちゃった!」

 

 ロドニーの目は全てを追えていたが、周囲の人たちはそうでもない。燃えたパーカーを雷神ガールと誤認した。

 

「いや。大丈夫だ」

 

 答えたのはカメラマンだった。

 カメラマンのレンズも上を向き、雷神ガールを追っていた。  

 

 次の瞬間、テレビカメラマンのレンズが上から下へと向けられる。その軌道に合わせ、ジャック・オ・ランタンを地面に叩きつけるように雷神ガールが降ってきた。

 

 ヘルメットを破壊する電撃を放ち、騒乱は終了した。

 

「やったー!」

「雷神ガールが勝ったぞ!」

 

 避難していた人たちが喜び出す中。

 ジャック・オ・ランタンを倒した雷神ガールは振り向いた。直後に跳ねるように吹き飛んで、煙の中へと消えていった。

 

「ダディ。ライジンガール。逃げちゃった」

 

(? 妙だな)

 

 残念がるエミリと避難した人たち。

 だが、ロドニーが訝しむ。

 軌道がいつもの引っ張られるような動きではなかった。

 弾き飛ばされるたような…………。

 

「ダディ! 大変! 大変!」

 

 抱えられて高くなっており、視界が広いエミリが急に騒ぎ出した。

 訴え指す方向をみると、武装した男たちがどこからともなく現れ、逃げ遅れてうずくまっている子供の腕をひいて引きずっていた。

 

「な、なんだ? あいつら?」

 

 周囲の人たちは雷神ガールとジャック・オ・ランタンに気を惹かれて、子どもを攫う覆面たちに気がついていない。

 雷神ガールの高軌道運動についていったカメラマンも、奥に消えていった彼女を映そうと、煙が消えるまでジャック・オ・ランタンと交互にレンズを動かして、人攫いに気がついてはいない。

 

「ダディ……」

 

 助けてあげて。と、エミリの目が訴えていた。

 しかし、小さいながらも気がついているのだろう。

 外は未だ街路樹が燃え、火の粉があちこちに降り、武装した集団に父親ひとりが立ち向かえるわけがないと。

 

 だが、違うのだ。

 ロドニー・ヒューズは立ち向かい、打ち勝つことができる。

 

「わ、わたしは……合衆国の正義を」

 

 だが、違うのだ。

 彼の力は秘匿されるべきもので、国家との契約がある。

 

 軍の訓練時代を思い出す。国家への忠誠の言葉を口の中で反芻する。

 

 だが、今は違うのだ!

 

「私は私の正義を信じ、私の正義を取り戻す!」

 

 隣で聞いていたロドニーの妻メアリーは、夫の数言でほとんどを理解した。

 

「あなた。立派に取り戻していらして」

「……メアリーっ! ………………わかった」

 

 自分がしてきたことが妻にバレたと察したが、すべてを受け止めてくれるメアリーに感謝した。

 抱いていた娘を妻に預け、ネクタイを緩めてロドニー・ヒューズはビルの外に飛び出した。

 

「うおおおおおおおおおっ!!」

 

 ロドニーは叫んだ。

 このままでは、子供が車に連れ込まれてしまう。

 そうならないよう、注意を引くためにもロドニーは叫んだ。

 

 果たしてその行為は、しっかりと正しく望んだ通りの結果をもたらした。

 

「おい、なんだあいつ?」

「吠えれば強くなると思ってんだろ」

 

 子どもたちを攫おうとする暴漢は、無防備につっこんでくるロドニーを見て、(そしり)りながら笑い銃口を向ける。

 抱えた子供を盾したり、人質にする必要もない。

 バカが正義感で助けに出てきたと考え、男は拳銃の引き金を引いた。

 

 放たれる銃弾ッ!

 弾かれる銃弾ッ!

 放たれる二発目ッ!

 弾かれる二発目ッ!

 

 鼻垂れる暴漢!

 

「……は?」

「馬鹿野郎!」

 

 発砲した男は呆けたが、隣にいた男は異常を察し、抱えていた子どもを突き飛ばし、サブマシンガンを両手で支えて発砲を繰り返した。

 防弾スーツやチョッキを着ていようと、銃撃は衝撃があり痛みがあるはずだ。

 

 だが、腕で顔をカバーしたロドニーは止まらず、暴漢の誹りに答えた。

 

「強いから吠えたのだ!」

 

 風船が弾けるような音がして、ロドニーが着るスーツの肩が裂ける。

 文字通り鋼の肉体がバンプアップし、大柄だったロドニーがさらに一回り大きくなったように見えた。

 

 これを見て、武装集団の反応が止まる。

 致命的な隙だった。

 そこへ致命的な一撃として、ロドニーが体当たりをブチかます。

 

 二人の大の大人が、まるでトラックにでも弾き飛ばされたように、プロムナードの地面を転がっていった。

 残った一人は、果敢にも銃を向けたが遅かった。

 

 振り向きざまの裏拳が銃を弾き飛ばし、暴漢の手首があらぬ方向へと曲がる。

 

 痛みを感じる前に、ロドニーの体当たりが決まり、その男も弾き飛ばされ、そこでやっと激痛で身悶え始めた。

 悲鳴はない。

 声を上げるのも激痛だから、楽な体勢を探すように身じろぐだけだ。

 

 やりすぎだが、人はそう簡単には気を失わない。

 

 だから痛みを与えて転ばせる。

 人は激痛の中、立ち上がることは難しい。どこの骨が折れているのか、どこを痛めているのかわからないうちは、体勢の収め方がわからず人はなかなか立てないものだ。

 これが最大の手加減である。

 

 子どもを引き込もうとした車の中に、まだ武装した男がいた。

 運転席にいた彼は、腰の銃を抜き放ち、ロドニーを撃とうとした。

 

 しかし、弾丸は空に向かって放たれた。

 

 車に取りついたロドニーが、助手席側のサイドシル*1を掴んで肩の上まで持ち上げたからだ。

 

 車は片輪状態となり、車高の高いバンであったため、当然バランスを崩して横転してしまう。

 

「ダディ! スーパーマンだったんだ!」

 

「え、ええ……。そうね。お父さんはスーパーマンよ」

 

 夫の様子を見て、妻メアリーはある程度の異常を察していた。

 薄暗い軍の裏の仕事を、空白期間に行わされたとか、特殊な部隊で非公式な活動をしていたとか、そのくらいの想像であったが、察していた。

 

 しかし、まさか機械の体になり、超人的な力を得たまでは考えていなかった。

 

 無手で真っ直ぐ飛び出したときは、まさかと肝を冷やしたが、まさかの無傷で、まさかのヒーロー的パワーで、まさかの娘によるスーパーマン発言。

 

 避難した子供たちも、テレビカメラマンも、武装集団の発砲時から異変には気がついていた。

 子供が攫われようとしたところまで、気がついた人は少なかったが、それでもロドニーの活躍は十分に目撃した。

 

 銃を撃つ覆面集団を、鋼の鎧をスーツの下に着たアメリカ人が叩き伏せ、車をひっくり返すところまで、しっかりとカメラに収められた。

 

 機密が漏れたさいの合衆高の反応や、夫が元の肉体を失っているかもしれない不安はあるが、メアリーは夫を誇らしくも思った。

 

  + + + + + + + + +

 

 盛り上がっているエミリたちに反し、ロドニーはピンチに陥っていた。

 

「ドントムーブ! ヒーロー!」

 

 短いセンテンスの英語で、ロドニーは動けなくなった。

 声の先に、助けた子供と別の子供の頭に銃を向ける覆面の男と、ロドニーに銃を向ける男がいた。

 

「あー、武装解除って英語でなんていうんだ? デ、デ、デザート? ……まあいい。無意味そうだ」

 

 子供を抱えていないもう一人の男が、面倒だとロドニーの額に銃口を向ける。

 避けるか、腕で庇うか、諦めるか。

 

 判断に迷うロドニーの持つ正義の脆い牙が、まさに砕けようとした瞬間。

 ヒゲの男がどこからともなく飛び降りてきて、人質を抱えていた男の銃の上に乗った。

 

 当然、骨は砕け、腕はひしゃげる。

 ヒゲの男が掴んだ銃は、握り潰されて鉄塊となり、人質を奪われた男はその鉄塊を顔面に叩き込まれて気を失った。

 ロドニーに銃を向けていた男も、咄嗟に逃げようとしたがヒゲの男の鉤爪からは逃げられず、銃と共に右手の皮膚をゴッソリと奪われ、血を振りまきながらのたうち回った。

 

「ヘッケル! どうして!? きさまも処分されるぞ!」

 

 ピンチを救ったヒゲの男は、ロドニーの部下ヘッケルであった。

 彼もまた改造手術を受け、ロドニーと同じ秘匿されるべき立場の兵士だ。

 おそらく今まで、隠れてロドニーを監視していたのだろう。

 任務を放棄して身を晒すなど、情報部付きとしても、兵士としても失格である。

 

「お、俺はアメリカの正義も自分の正義もわからない」

 

 ヘッケルは目を泳がせながら答える。

 

「ならば、なぜ!」

 

 ヘッケルはロドニーの目を真っすぐ見て答える。

 

「だ、だからお前の正義を信じる」

 

「きさま、私よりもバカだな。援護しろ!」

 

 説得も納得も諦め、感得だけしてロドニーは短く指示を出した。

 残っていた武装集団は多かったが、二人のサイボーグにかかれば制圧は用意だった。

 

 もう敵わないと、逃げだしていた武装集団たちも、サイボーグに追いつかれ、車はことごとくひっくり返された。

 

「ぐ、無理が過ぎたか」

 

 ロドニーは膝から力が抜ける感覚に襲われた。

 おそらくサーボモーターが熱でだれて、本来のパワーを発揮できなくなったのだろう。

 

「だ、大丈夫か──」

 

 心配して駆け寄ったヘッケルを、真横から飛んできた炎が吹き飛ばした。

 攻撃者を見ずに、うかつにもロドニーは吹き飛ばされたヘッケルを目で追った。

 しかし、それを責めることは難しい。

 

 ヘッケルが吹き飛ばされた方向が、妻と娘と子供たちが避難するテレビ局スタジオのロビーだったからだ。

 

「ヘッケル! ジャック・オ・ランタンか!?」

 

 ヘッケルはなんとか踏みとどまり、ロビーのガラスを突き破ることはなかったが、ロドニーは致命的な隙を見せてしまった。

 

 振り返った時、意識を取り戻したジャック・オ・ランタンは大型トラックを包み込めるような特大の火球を掲げ、今まさに投げつけようとしている瞬間だった。

 避ければ、背後は妻と子供たち──。

 

「う、うおおおおおおおおっ!!」

 

 吠えれば強くなるのか?

 奇しくも、さきほど吹き飛ばした男が投げかけた(そし)りが、ジャック・オ・ランタンに向かって走るロドニーの脳裏をよぎる。

 

 間に合わない!

 

 目の前が火球でいっぱいになった時、電撃がどこからともなく飛んできた。

 精一杯だったジャック・オ・ランタンの身体を電撃が貫き、火球は弱々しく霧散してしまった。

 

 勢いあまったロドニーは、火球の残火に飛び込み、倒れたジャック・オ・ランタンを跨いで越して、ボロボロになった短髪の少女の前で急停止しようとして転んだ。

 

 ほぼ下着を晒している姿となった雷神ガールは、肌も隠さず立ち尽くし、倒れたロドニーを見下ろしている。

 

「ラ、ライジンガール?」

「いいえ──」

 

 かっこ悪く転んで、ついでに半裸の少女を前にして、気まずいなとロドニーが声をかけると、短髪の少女は短く否定する。

 少女はポケットの中からカエルが描かれた歪んだ缶バッチを取り出し、ボロボロになったTシャツの裾に取りつけた。

 

「雷神ガールと呼ばれるお姉様は、まだ目覚めていません。と、ミサカはお姉様の詰めの甘さと寝坊っぷりに、心底深いため息とともに失望しながら答えます」

*1
車の強度を支える側面骨格部材。ドア下、敷居にあたる部分




吠えれば強くなるのかよ、の人はジャングルのパラダイスなキングではありません。
劇場版のあのシーンから、インスパイアを受けて書きました。
クレしん、いいよね……

注)クレヨンしんちゃんはクロスしません。
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