とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》   作:大体三恵

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自分に掲示板回を書く才能がないと改めて実感。

このままでは連載が滞るので、掲示板回は先送りします。


センギョウ覚書

 ──飛騨山中。

 

 その日の未明、村の裏手の山に一際大きい雷が落ちた。

 この年(昭和五年)の先月に浅間山が噴火し東京にも降灰したこともあり、村人たちはどこかの山で噴火があったかと騒ぎになった。

 

 早朝、山の持ち主である住職と村長付きの若い衆が、状況の確認のため、頂上を目指した。

 第3回国勢調査の直後であり住職も村長も何かと忙しかったが、万が一があっては何であると確認を急いだ。

 頂上には古い祠があり、小さいながらも社の構えを成しているため、その確認もあった。

 

 幸い、頂上の祠は無傷であり、麓をぐるりと見渡したところ雷による火災の後もない。

 ついでに祠に収められていた鏡を確認し、何事もなかったため安心して下山。

 

 その途中、住職たちはかたや崖、かたや崖肌という狭い山道で、一頭のクマと出くわした。

 

 やり過ごすつもりだったが、昨晩の落雷のせいかクマは気がたっており、間をおかずに飛びかかってきた。

 逃げ場はない。

 もう終わりかと思われた。

 

 と、そこに雷が落ちた。

 襲い掛かろうと立ち上がっていたクマは、雷に打たれ昏倒。

 雷によって、住職たちは命拾いをした。

 

 これは仏のご加護かと思っていると、崖の上から奇妙な格好をした少女が降りてきた。

 

 話を聞いてみると彼女はどうやら迷ったようで、クマはさておきと村に案内する。

 

 少女は物珍しそうに村を見渡し、簡易郵便局の中を除いてみると、何かに気がついたのか頭を抱えて叫んだ。

 住職はこの時少女の言っている言葉の意味がわからず、これを書き留められてはいない。

 

 ひとまず東京から来たということは理解できた。ふもとの街に案内するにしても、すでに昼下がり。

 今からでは夜の山道を下ることになるので、村に留め置くことにした。

 

 少女は見目麗しく、西洋人か貴人か華族かと思える衣類を纏い、飛騨の山奥ににつかわしくない存在だった。

 やや粗雑に見えるが、時折見せる立ち振る舞いには気品があり、なによりここら一帯では知り得ないような知識や情報を持っていた。

 村で留め置くにしても、位高き人の子女である可能性を考え、失礼があってはならないと村長は判断した。

 

 幸い、来客をもてなす設備があった。

 醍醐天皇千年式年祭挙行の祭事のため、ふもとの神主を招いた一室が神社の社務所である。

 

 この村の神主は長年おらず、神社は住職が管理していた。山頂の祠の管理もしていたのは、このためである。

 一晩、少女をそこに泊めると、まずは世話をしていた女衆が騒ぎ出した。

 

「触ったどころか、見たことも聞いたこともない衣だ」

 

 少女の身につけていた服は、木綿とも絹ともつかない。羊毛のような光沢はあるが薄く軽く、なにより丈夫でほつれもない。

 

 住職は昨年に設立された福井県の繊維加工用科学剤を作る合資会社に付き合いで出資しており、そのさいナイロンという新素材がアメリカで誕生したと聞いていた。

 最初はナイロンかと思ったが、どうもそうではない。

 

 後日、合資会社の技術者として働きに行っていた村の者が、墓参りに来たので少女の服について尋ねてみると、サンプルとして欲しいと騒いだ。

 さすがに人の、それも少女の衣服を渡すわけにもいかず、なんとか宥めて帰した。

 

 翌日、ふもとに案内する予定であったが、橋が壊れており、迂回するにも山慣れしていない少女では険しい山道は無理であろうと数日留め置くことにした。

 

 次に気がついたのは、やはりまた女衆であった。

 

「あのお方! 食事も取らず、かわやにも参りません」

 

 何かの間違いだろうと住職は考えたが、本当に水分以外を取らないようだ。

 固形物を吐いてしまうので、絶食時の拒否反応かと住職は思って重湯などを薦めたが、どうも本当に食事を取らないという。

 

 血色の良さなどから、栄養不良や絶食があったと思えないので、この推測が外れていたことには驚かない。

 しかし、もう4日も食事を取らず、「世話ばかりされると身体がなまっちゃうのよね〜」と元気に運動などしている。

 健康以前に目立つしうるさいから少しは大人しくしていろと思う住職であったが、体調を心配して訪れたため、それ以上言うことはできなかった。

 

 その次に気がついたのは、またもやはり女衆であった。

 

「あの御方(みかた)様、とてもこの世の方とは思えません。貴人かそれに連なる……いえ、天女そのものであられるかと」

 

 女衆は態度が一変しており、彼女の衣類について語り始めた。

 

 出会った当初、彼女は身綺麗だった。

 来ている服も、洋風の履き物も、晒していた足の肌も、まるで汚れていなかった。

 山奥だというのに、つい先ほど貴人の娘が家を出たかのようない見なりであった。

 

 それだけでも不思議だが、身の回りの世話をする女衆によると、彼女の身体と服は、まったく汚れないのだという。

 雨水が跳ねれば泥がつくというが、ほのかに光って消えてしまうという。

 

 当初、風呂の世話をした女衆は、赤子のように綺麗な肌に見惚れたというが、それも一切垢や煤で汚れないという。

 髪も櫛で梳くことあれど、手入れが不必要なほどだったと聞いた。

 

 いよいよ女衆がおかしくなってしまったのか、と住職が真剣に悩み始めたころ。

 

 もうやっぱりまたかとそれ以外ないのか、少女の異変に気がついたのは今度も女衆であった。

 

(みこと)様にあられましては、天の使い、天女と存じます」

 

「なんじゃ、おぬし」

 

 住職は女衆の変わりように驚いた。

 女衆が完全に信者となってしまったのはさておき……おいておけないが、さておき。

 

 昨日(さくじつ)、女衆の一人が腰を痛めたという。

 元々、重い月のモノがあった者で、それもあって痛みが悪化。

 

 動けずに苦しんでいると、少女が腰を撫でるとなにやら芯から暖かくなり、内臓まで動くような振動が体に伝わったという。

 半刻ほどそうして撫でてもらうと、すっかり腰の痛みはなくなり、ついでに月のモノの辛さもうそのように治ったという。

 

 住職は「なにをしたのか」と尋ねてみたが、少女の説明は半分も理解できなかった。

 理屈を説明してくれるが、むしろ神通力と言われた方が納得できると住職が首を横に振ると、業を煮やした少女は、「つまりこういうこと」と言い出して、四角い手鏡のようなものを取り出した。

 

 すわ天上を伺い見たか! と住職は驚いた。

 

 小さな手鏡の中には、天上の世界と思われる都の様子があり、それが次々と映し出されたという。

 住職は女衆ほど信者にはならなかったが、少女がここではないところの住人であると判断した。

 なるほど、説明が分からぬも通り。

 

 以来、住職は合間に少女と交流を深めた。

 

 話を聞いてみると、少女はかなりの教養があるにも関わらず、世俗にやや疎いところがあった。

 

 電信を何かと取り違えていたが、説明すればすぐに理解をし、特に科学関係には造詣があった。

 

 ある時、「そういえば滋賀県って磁鉄鉱あるのよね。たしか日本で初めて磁鉄鉱が見つかったのここでしょ」と、近くの山にそれがあると言い出した。

 磁鉄鉱の発見、確かに住職はそのような話を聞いた。

 しかし、採掘で採算が合わず、今の産業(近代産業)にはまったく合わないものだ。

 あくまで亜鉛、銀などの採掘で出る副産物に過ぎない。

 

 世話になっているお礼だから、少女は磁鉄鉱が埋まる山を目指した。

 なにかあってはと、女官気取りの女衆がついていき、帰ってくるとみな興奮した様子だった。

 

(みこと)様は、雷神にあらせまする!」

 

 いよいよ女衆、どうにかなってしまったかと住職が心配してしまった。

 少女が念じると雷が落ち、山が動き、裂けて、地下より磁鉄鉱を含んだ花崗岩が天へ向かって伸びたのだという。

 

 まさか、いやまさか、まさかまさかいやいやまさかと山に登ってみると、そこには山を割いて、迫り上がった花崗岩の壁があった。

 

「いやぁ〜。飛騨帯って花崗岩だったのね。重くて大変だったわ。失敗、失敗」

 

 などと言いながら、山頂にいた少女の額には、なんと角が生えていた。

 天衣(てんえ)まで纏い、なるほどこれは雷神だと、女衆がおかしくなっていなかったと安堵した。

 いや、その点は安堵したが、雷神には腰を抜かした。

 住職、まったく安堵していない。

 

 その後、雷神の説明は理解できなかったが、簡易郵便局の電信で使われていた器具の予備部品でラジオを作り上げた。

 

「それでも聞けるけど、山に露出した花崗岩でも聞けるようにしたわよ」

 

 街にいかなければ楽しむことができなかったラジオに、村民たちが群がっていた時に、雷神はそのように伝えた。

 

 やはり言っている意味はわからなかったが、磁鉄鉱を含む花崗岩の構造を組み替えたという。

 人間が十人ほど手をつなぎ輪になって、岩の穴にリード線を持って手を入れる。

 すると確かにラジオの音声が岩の穴から鳴り響いた。

 

 音声こそ悪いが、村の電信を改造して作ってくれたラジオより、はるかに大きな音がなり、集まった村の衆全員が楽しめるほどであった。

 

 人間が十人必要ではあるが、それも「こういうの作って、電源さえあればいつでも聞けるわよ」と図面を用意してくれた。

 ただし、それを作るとなると街で相当の鋼材を買い付けなければならいので、現状では無理だと伝えた。

 

 こうしてしばらく滞在していた間、なにかと村に恩恵と知恵を授けてくれた少女だったが、ある日のこと──。

 

「そろそろ戻らないとダメって、妹たちに言われちゃった」

 

 少女は、この村を去ると言い出した。

 妹とは誰か、いつ連絡に来たのか尋ねても、説明のしようがないと雷神は困ったように呟いた。

 

「このままだと、私……『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』とかになっちゃうらしいのよ」

 

 一抹の寂しさを目元に浮かべ、仕方ないと告げる少女。

 ああ、そうか。ここで住職はやっと得心した。

 

 かつて理解できなかった彼女の説明や、手鏡に映った街の様子。

 あれらは全て、少年少女たちが神に至るための修行の場なのだ。

 

 迎えは翌日の夜、訪れた。

 

 雷神にそっくりの姿をした少女が、どこからともなく数人と現れた。

 村の衆は恐ることなく彼女たちを迎え入れ、雷神と祀る少女に引き合わせた。

 そこでなんと、雷神の少女は泣いて、彼女たちに謝った。

 

 しかし、そんな謝る姉を見下ろし、代表として前に出た妹は──、

 

「ここで神様扱いされていたのですか、お姉様。それともタイムスリップで俺TUEEEですか? どこのJINですか? と、ミサカはお姉様の情けないお姿に落胆しながら言います」

 

 と、なんだかよくわからない言い分を姉に投げかけ、謝っていたはずの雷神の少女が立ち上がって、ひどく怒った。

 そしてまず妹達たちに迎えにきてくれたことにお礼いい、次に村の衆一人一人に礼を伝えて、彼女たちは村の外で、雷となって天へと帰っていたという。

 

 彼女たちが立ち去ったその場所には、ハイパーテクノロジーの礎となる金属が残され、この山奥の村と住職が出資していた合資企業を大きく富ませたと伝わる。

 

 + + + + + + + + +

 

「まるでおとぎ話か、昔話だな」

 

 官房長官は読み終えた「センギョウ覚書(おぼえがき)要約書」と、書かれた書類を再度テーブルに置いた。

 

 モンゴルフィエへ対して警察と公安が、一心不乱の家宅捜索を行なっている最中。

 官房長官は、現場からの連絡待ちと休憩を兼ね、超能力者マニュアルにまとめられていた資料の一つを読み終えた。

 休憩なのに仕事関係の書類を読むのはおかしいような気がするが、政治の世界ではそれほどおかしい話ではない。

 待機時間は休憩時間であり、休憩時間は資料の確認のため有意義に使用される。

 

 ワークライフバランス、グッバイである。

 

「これが、このマニュアルをまとめる原因となったのか」

 

「はい。そちらの要約書は、原本を昭和五十年代の職員で要約したものになります」

「そうか」

 

 原本はセンギョウという筆まめな住職が、30冊ほど書いた日記とも備忘録とも覚書ともつかない書物だという。

 現在、原本は残っておらず、要約された文章といくつかの書き写しがあるだけだ。

 

 戦前ということもあり、なかば伝説のうちになっている。

 

 ラジオ岩と呼ばれる剥き出しの磁鉄鉱は、当時の落雷で山肌に出てきたものとされ、雷神と祀られた少女が立ち去ったあと、残された金属は現在のバッテリー技術の基礎に生かされている。

 ハイパーテクノロジーの礎と言っても過言ではない。

 あれがなければ電動駆動タイプのレイバーなど、夢のまた夢だったとも言われている。

 

 当時の人たちにとって、自然の不可思議さが雷神の伝説となったのだろう。

 

 と、雷神ショックまで考えられていた。

 

 雷神が実在した以上、センギョウ覚書もマニュアルも無視できなくなった。

 原本からの書き写しにも、目を通しておくかと手を伸ばしたその時。

 

「大変です! 官房長!」

 

 お台場、青海での大事件を告げる官邸職員が、飛び込んできた。




おそらく次の掲示板回は、変則的な書き方になると思います。

あと次回説明用に、地図を書いていたら気が付いたのですが、御坂美琴とジャック・オ・ランタンが戦闘したエリアはお台場ではなく厳密には青海でした。

ここで深くお詫びをして訂正しません。あそこはお台場ですとパワー!で圧します。
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