とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》   作:大体三恵

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涙は友を呼ぶ

 暗転から、視界に柔らかい光。

 暖かく柔らかいベッドに、心地いい目覚め。

 

 あれ? たしか私は氷川誠一郎から、不可視の攻撃を受けて……。

 状況から見て私を懐柔するつもりじゃなければ、捕まったわけじゃなさそうね。

 

 目を覚ますと、金髪の可愛らしい女の子が、私の顔を間近で覗き込んでいた。

 私は……この子を知っている。

 

「あれ? フェブリ? あんた、外国の研究所に行ったんじゃないの?」

 

「Daddy! looks like woke up! (ダディ、起きたみたいだよ!)」

 

 フェブリにそっくりの女の子は、私が起きたと大声で部屋の外にいる誰かに……彼女の父親に大声で伝えた。

 

 どうやら気を失った最中に、誰かに助けられたか、あの子(9982号)が勝手に行動して転がり込んだか。

 ……それにしても立派なお家ね。

 いや、ちょっとこれ、誰かの家という感じがしない。

 生活感がない……というか、調度品やらあるわりに意図的な作られた感がすごい。

 客間にしては、空間の扱い方に余裕(・・)がありすぎる。

 

 フェブリに似た子は、身を起こした私に縋りつき、英語で尋ねてくる。

 手から伝わってくる子供らしい高い体温が、興奮でさらに熱くなっているのが感じ取れた。

 

「ねえ、あなたはライジンガール? それとも妹さん」

「妹……」

「そう。妹さん。ミサカって言ってたの。あなたはライジンガール?」

「うん。なんかそんなふうに呼ばれてるわね、私」

「やったー! わたし、あなたの妹さんと友達になったの」

「はは……そうなんだ」

 

 ああ、やっぱり。気を失っているあいだ、あの子と接触したのか。

 フェブリに似た子はフェブリに似てても似つかない性格をしている。もっとも、あの子(フェブリ)もケミカロイドとして生まれず、普通の家庭に生まれていればこんな風になったかもしれない。

 

 助かったという気持ちもあるけど、それとは別方向でちょっと面倒なことになったわね。そんなことを考えながら、フェブリ似の子の頭を撫でていると、この部屋の重そうな扉がノックされた。

 

「ダディよ! 入って!」

 

 私の許可を取らず、フェブリ似の子は入室を許可する。

 まあ別に変な格好してるわけじゃないからいいけど……、あ。燃えた服は、着替えてるみたいね。あの子が着替えたんでしょうけど。

 

 フェブリ似の子が重そうに懸命な動きで扉を開けると、見覚えのある大柄な外国人男性が入室してきた。

 

「やあ。気分はどうだい?」

 

「ああ、えっと……ええっと、あなたはロキを助けてくれたぁ、あの」

 

 美都を助けてくれた時の米兵さんだ。名前は確か……。

 

「ロドニー・ヒューズだ。こちらは娘のエミリ」

 

「ああ、そうそう。米兵のヒューズさん。それにエミリちゃんね。ねえ。もしかして、助けてくれたの?」

 

 彼は日本語を話せるようだけど、娘さんがいるのでここから英語で尋ねた。

 私の話し方を聞いて、ヒューズさんもネイティブで答えてくれる。

 

「流れでそういうことになった。ああ、ロドニーでいいよ」

「エミリもエミリでいいよ」

「そう。ありがとう。二度も助けられちゃったわね、ロドニーさん。それからありがとうね、エミリ」

 

「ねえ、ライジンガール。エミリとお友達になって」

「うん。いいわよ。お友達ね」

「やったー」

 

 フェブリは懐いてくれなかったけど、エミリはぐいぐいくるわね。

 なんていうか、公園の子供達を思い出すわ。

 

「ところで、ロドニーさん。あの、ここは?」

「合衆国大使館だ」

 

 私の脳裏に地図が浮かび、点が瞬き、線が引かれる。

 皇居の南、ヒルズの西。

 私が倒れたお台場からは、レインボーブリッジを渡って港区を南北に横断したところね。

 

「そう。合衆国大使館ね。………………って、アメリカ大使館んんんんん〜!!

 

 今いる場所を理解したあと、間をおいて事態を理解する。

 エミリは私の大声に驚き、「laud!!」と大袈裟に両耳を塞いで見せる。

 

 まずい、まずい!

 よりによって大国の手の中!

 そりゃ、元の世界でアメリカの手中に入るよりはマシだけど、私の存在があの世界よりもっと希少な状況はそれはそれで、それとしてマズい!

 

「はあ……大使館。そういえば、あなたは大使館付きの駐在武官だったわね」

 

「いや。それに就けるまで私の階級は高くないよ。せいぜい、駐在武官である大佐殿のお手伝いする一人って程度だ。あと、ここに連れてきたのは、すまない。大事になっていてね。テレビかネットで確認するかい」

 

「……今、したわ」

 

 サイドテーブルの上にある(9982号)のラップトップ端末を遠隔操作し、画像やSNSの反応をざっと眺める。

 

 お台場での発火能力者(パイロキネシスト)との戦いは、テレビで取り上げられ、ネットでも話題になっている。

 目撃者が多いどころが、近くにあるTTV(トシテレビ)の外部スタジオビルの真ん前で、大立ち回りしたせいで影響が大きい。

 

 プロ用の高画質カメラで、プロの腕で見事に撮影されてしまっている。

 

 ついで私が気を失ったあと、子供たちを拉致しようとした武装集団を、ロドニーさんが機械の身体で薙ぎ払っていく話題も見た。

 【雷神ガールに続き、スーパーマン! 東京に現る!】と、日本だけじゃなくて世界でも注目されちゃってる。

 

 こんな大騒ぎになってロドニーさん、大丈夫かしら?

 リミッター解除したんでしょうけど、身体のメンテナンスより、政治的に危ういんじゃない?

 ネットの反応は好意的だけど、機械の身体で立ち回る姿に危険性を感じている人もいる。

 私の能力と違って、サイボーグはまだ身近だから脅威を実感できるんでしょうね。 

 

 あと私と戦ったあの女の子は、ヘルメット姿と外套(マント)姿のせいで、ジャック・オ・ランタンと呼ばれている。

 確かにあのふわふわした浮遊と、炎を扱う能力でジャック・オ・ランタンとは言い得て妙ね。

 

「これまで以上に……はあ、まいったわねぇ。これからのことを考えると」

 

 動画を見るふりをしながら、バックグランドで密かに美都たちに無事であることの連絡として、メッセージだけ送っておく。

 

「大丈夫よ、ライジンガール! わたしのともだち、すごいの。だから大丈夫よ」

 

 子供の友達に頼れる状況じゃないと思うんだけど、と愛想笑いしながらロドニーさんを見たら、どういうわけか渋い顔をしていた。

 

「あー。その。エミリの……そのなんていうか、あー……エミリのその友達から連絡が入っていてね。ちょっと話だけ、顔合わせだけしてくれないかな?」

 

 部屋の書斎テーブルからタブレットを取り出し、WEB会議アプリを繋いで良いかと尋ねてくる。

 

「ええ、いいわよ。ロドニーさんの紹介だし、なんてたってエミリのお友達なんでしょ」

「そうよ。エミリの友達なんだから。すごいんだから」

 

 なにがすごいんだろう?

 能力者の子だったりして。

 

 私は期待半分、ベッドの上で居住まいを直し、エミリに軽く髪に梳いてもらいアプリの起動と先方との接続を待つ。

 

 ──おじさんじゃん。

 

 エミリの友達として紹介され、タブレットの画面に現れた人物は、いろいろと意外だった。

 仕立てのいいスーツにバシッと決まった短い髪は、金融家か上級将校を思わせる。

 でも歳は低くみても60は越えてる。

 この人がエミリの友達?

 友達のお父さんかおじいちゃんじゃない?

 

 いったい誰かしら………………あ、いや。私、この人知ってる。

 

「初めまして。ライジンガール。いや、御坂美琴さんとお呼びすべきかな?」

 

「どっちでもいいけど。今はライジンガールにしておいて。大統領閣下(プレジデント)

 

 元の世界だと大統領選で負けちゃったけど、こっちの世界じゃ大統領になったんだっけ。

 

 とにかく距離感は大切だ。

 あくまで友達の友達。

 

「申し遅れた、私はハイラム・グラント。プライベートなので、閣下呼びでなくて、かまわないよ。ハイラムでいい。リトルガールエミリとはペンフレンドだ。この通信はctOSどころか、インターネットすら介していないから安心したまえ」

 

「へえ。光回線の直通ラインってところね。プライベートでそんな回線使うのって、なかなか公私混同ね」

「すまないね。私用でも、秘匿が必要な立場なので」

 

 基地局くらいは通してるだろうけど、そこでも物理的に分離してる上に、ポートは外に開かれていないだろう。

 ホットラインとはそういうものだ。

 

 そしてそのラインを気軽に使える存在。

 アメリカ合衆国大統領ハイラム・グラント。

 

 青銅の巨人と呼ばれる元アメリカ陸軍の将校で、政界入りした人物だ。

 

 彼のご先祖さまも大統領なんだけど、その、なんていうか、正直あんまり評価は高くない。

 北軍の将軍としては随一の名将で、いろいろ個人的なエピソードはなにかと好ましいのよね……。でもこれ、大統領としては評価されない項目ですから。

 

 そんなご先祖さまを持つハイラム・グランド合衆国大統領は、エミリを介して私に接触してきた。

 どんな意図があるのかと緊張していたら──。

 

「ヒムはね。ライジンガールとお友達になりたいんだって」

 

ヒム……ハイラムの愛称ね。him()と被るからややこしい。

 

「はは。どう切り出したらいいかと悩んでいたが……。エミリのおかげで助かったよ」

「そうよ。エミリはヒムの友達だから!」

 

 駆け引きもなにもないエミリに、私もハイラムもロドニーも、苦笑いをするしかない。

 

「本当にそうならいいけど……」

 

 エミリには悪いけど、少しだけ渋って見せる。

 ハイラムは微笑みながらも、真剣な眼差しで答える。

 

「なにもキミを取り込もうとか考えていない。ましてや捉えるとか利用するなんて考えていない。純粋に友達になりたいんだ。……だから、後ろ盾になるつもりもない」

 

「……へえ」

 

 この大統領。ちょっと違う。

 直感がそう囁く。

 

「だが、ライジンガール。君が私を利用するつもりなら、それでいい」

「…………なる、ほど」

 

 仕方あるまいな、という表情でそんなことを言う。

 ああ、遊驥の助言が欲しい!

 政治家の考えなんてわからない。

 

「どうして私が君のような存在と友達になりたいか。少し恥ずかしい話なのだが、聞いてくれるかね」

 

 言葉に詰まった私に対し、ハイラムは優しく話しかけた。

 

「え? ええ、まあ」

 

「実際のところ、私は宇宙人と友達になりたかったんだ」

 

 困惑しながら同意したら、混乱するようなことを言い出したわね、この大統領閣下!

 

「ふーん。な、なんかかなり複雑そうね」

 

 適当に複雑ねと神妙に相槌を打つ。なんか浅そうだけど。

 

「私が学生のころ。合衆国は……いや、世界はオカルトや宇宙人に夢中だった。私もその一人で、学生時代はサークルに参加して、空ばかり見上げていたよ」

 

 画面内のハイラムは、ホワイトハウスの執務室の天井を見上げた。

 昔を思い出しているようにも、見えない夜空を見上げているようも見えた。

 

「怪しいサークルにも出入りしたし、宇宙人スポットもいくつも訪れた。宇宙人への手紙を書いて裏庭に埋めたり、庭の木に縛りつけたりした。偽UFOを作ってフェイク動画だって……わざと出来の悪い合成で動画を作ったことがあるよ」

 

「へえ。プレジデントの青春スキャンダルね」

 

 くだらない話なのに、なんだろう。

 さすが大統領なのか、引き込まれるなにかがある。

 

「バレたらタブロイド紙が()くなるな。で……なぜ、出来の悪い合成動画を作ったと思うかね?」

 

「怒られたかったんでしょ? 宇宙人に。ワレワレ ハ、ソンナ、不恰好デハ、ナイ。作リ直セ。って」

 

「ぷわーーーっはははっはっはっ!」

 

 気軽に答えると突然、大統領が笑い出し、タブレットを持っていたロドリーが驚きながらも困り顔になる。エミリはまた耳を塞いで、うるさいのポーズだ。

 

「いや、心底、いやもとから心底だったから、底が抜けて魂から君と友達になりたい! そこまで理解してくれるなんて、学生サークルのとき君がいたら、きっとプロポーズしていたよ!」

 

「あら、ありがとう。今頃、ファーストレディだったかもしれないわね」

 

 リップサービスか、本気なのか。アメリカ人相手がこういうことを言ったら、お礼をいうのが礼儀だからありがとうと言っておく。

 これが学園都市の学生なら、バカ言ってんじゃないわよ! 痺れさせるわよ! とか言ってやるが、相手が相手だし、なにより文化が違う。

 

 だが、続く大統領の言葉は理解できなかった。

 

「だから私は大統領を目指した」

「ごめん。わかんない」

 

 この人相手にしてると、困惑しっぱなしになる。

 どう繋がんのよ、UFOから!

 

「宇宙飛行士を目指したってならわかるけど」

「無論、目指したよ。しかし健康診断書がノーと言ってきた。だから大統領になった」

 

 だーかーら、そこが繋がらないのよね。

 私が怪訝な顔をすると、ちらりとこちらを見たハイラムが手を組んで口元を隠し、肩を落として語り出す。

 

「エリア55に宇宙人はいなかったよ」

 

 心から残念そうに言ったハイラムは、そういって一度話を区切った。 

 ああ、そういうこと。

 私はちょっとだけ理解して、言葉を待つ。

 

「………………大統領就任直後、まず宇宙人についての資料を私に開示させたよ。どれもこれもネガティヴ(否定)ネガティヴ(悲観的意見)ネガティヴ(消極的見解)ネガティヴ(いねーよバカ)ネガティヴ(何の成果も得られませんでした!)だった……。宇宙人を隠れ蓑に、時には宇宙人のせいにするため。接触がないどころか、我が国ですら、宇宙人の片鱗を掴んでいなかった事実を知って、私はホワイトハウスの執務室で落胆したよ……」

 

「……あの、ちょっと。それ私聞いていいの? それネガティヴな結論でも機密でしょ」

 

 なにも何もなかったという機密とはいえ、機密は機密。こんな国家機密を聞かされる私の立場も考えて欲しい。

 

「その時の失望を、君にも味わって欲しい……」

「いや、私、宇宙人に思い入れはないから、ちょっとわかんないわね。その失望……」

 

 本気で落ち込んでるよ、この大統領。

 やばい、この人。ちょっとついていけないかも。

 

「ああ、もちろん。君を宇宙人の代わりだとは思ってない。だが、友達になりたい気持ちの根源はわかってもらえたかな?」

 

「ええ。つまり憧れの未知と、対等の関係になりたい。ってことかしら?」

 

「烏滸がましいかもしれんが、私はそれを望んでいる。そして、ワクワクを分けて欲しい」

 

 意気消沈していたハイラムだったが、私に少年のような目を向けてきた。

 威厳を保っているが、その目は威厳という虚飾を目は持っていない。

 バカガキの目で、私に訴えかけている。

 

「はは。驚いたわ、あんた! そんなつもりなら、気兼ねしないからね。いつもの態度でやらせてもらうわ。友達くらいなってあげるわ、ヒラムUFO調査隊隊長さん」

「グッド。なるほど、ヒラム。……ヒラムか。青銅のロケットでも作ろうかね」

 

 なんとなくわかったわ。

 こいつ……大統領をこいつ呼ばわりするのは悪いけど、こいつ呼ばわりさせてもらうわ。

 こいつ、遊驥なんかと同じタイプだわ。

 あとどことなく佐天さんにも似て……ごめんなさい、佐天さん。

 

「でひとつ、お願いがあるわ」

「……お願いかね?」

 

 ヒラムの眉間にしわがより、緊張が走る。

 

 圧倒されっぱなしは癪に触るから、少し仕返しをさせてもらう。

 もちろんこれは、私は一筋縄じゃいかないぞ。っていう牽制でもある。

 

「そう。お願い。あんたが作ったUFO動画。あとで私に見せてくれる?」

 

「く……ふは、はっはっはー。いいよ、ぜひとも、笑いながら見てくれ。だが批評はお手柔らかしてくれよ。今でも撮り直したいと思ってるくらいだかな」

 

「残ってる上に、まだ撮る気があんの?」

 

「無論。UFO襲来の続編主演女優は君にしよう」

 

「うひゃぁっ、やめて!」

 

 やり返してやったと思ったら、切り返されて反射された!

 言い合いのアクセラレータか、こいつ!

 

「ダディ! ライジンガール! ヒムとすっごいなかよし!」

「え、あ、ああ……そ、そうだね……」

 

 ロドニーさんは一人だけ、肩身の狭そうに気配を消しつつ娘の感想に同意するしかなかった。

 




オリ主ならぬオリ大統領。
たぶん佐天さん枠(都市伝説とか好きそうなので)
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