とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》   作:大体三恵

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とあるさいきょーの配信者

「最強系Vtuber」を自称するチャンネル名「県立東京防衛隊」の隊長は、ケンカ無敗のさいきょーである。

 

 彼の言うケンカ無敗は、ある意味で正しく、視点を変えれば間違っている。

 

 彼は体格が大きい。

 日本人としては背が高く、体重がある。これは十分なアドバンテージだ。

 とは言っても、彼は体づくりなどしんどいことは避けるため、筋肉はそこそこあれど、ただ太っているだけである。

 スタミナはなく、体の動かし方も粗雑かつ大振りで直線、攻撃は上半身のみで完結し、下半身を使うこともない。これは蹴りをしないということではなく、上半身と下半身が連動して動いていないという意味だ。

 

 もちろんフットワークなどないから、防御も大袈裟に避けるか、ただ腕で受けるだけでおよそ格闘技の動きは見せることはできない人物だ。

 

 だが、身体が大きいことは事実。これだけでも、彼に敵わないと思う男性は多いだろう。

 

 次に、取り巻きの数。

 

 まずタイマンなど言いながらも、撮影役や囃し立てる仲間を連れ立っている。

 相対した相手は、下手にやりあえば全員と争うことになると考える。

 決して全員で殴るつもりはないと豪語するが、もしかしたら……と思わせるだけで十分である。

 これで大体の()()()()男は争いを回避する。

 

 もしもすべてに該当しない人物がいた場合は、同格の相手として扱い、体長が争いを避ける。

 

「てめぇ、根性座ってんじゃねぇか。地元じゃ名が通ってんだろうな。仕方ねぇ。今回はあんたの顔立ててやらぁ」

 

 などと空々しいことを言って、芋を引いているが、強者同士がわかり合ったふうに持ち込むわけである。

 そして相対している相手も、相応に頭が回れば迷惑系配信者などとは無駄な争いなどを避ける。

 今日はここまでにしといたるわ。である。

 

 もし、この段階でも引かない相手ならば、そんな人物はそれなりにまともな人物ではない。

 

 そんな相手は見た目でわかる場合のも多いので、なんとか相対を避ける。

 もしもやり合うことになれば、被害者を演じる。

 

 長々と説明したが、簡潔に言うならば、強そうな相手にはケンカを売らないというだけの男だ。

 強い相手にケンカを売らないというのも、考え方によってはケンカが強いとも言える。え? 言えない?

 とにかく大して強いわけではないが、狡猾でも頭脳的でもなくただ卑屈で卑劣である。

 

 しかし、その雰囲気作りの才能は、非常に配信者業と相性がいい。

 

 最強らしく振る舞い、そう演出し、編集する。

 わかる視聴者はわかるし、わかるなりに楽しんで()る視聴者もいるし、わかっていて癪に触るからこそアンチもいる。

 

 お台場、テレコムセンター付近での雷神ガールとジャック・オ・ランタンの大立ち回りから、さほど世間の興奮が収まっていない時刻。

 天王洲運河にかかる橋の上で天王洲アイルをバックに、県立東京防衛隊隊長である体格のいい大男が小さな配信用カメラへ気合を入れるポーズを取った。

 

「よっしゃ。来たぜ! チャンネル県立東京防衛軍! 登録よろしく!」

「よろしく! ……でも、隊長さん?」

 

 一緒に並んでいた今時ヒッピースタイルの痩身の男が、大男に問いかける。

 

「なんだよ、ヒッピー」

「なんで天王洲側に? 雷神ガールとか、ジャック・オー・ランタンが暴れた場所って、対岸のお台場でしょ?」

 

「ばっかオメー。犯人は現場に戻るっていうだろ」

「……は? はいまあ」

 

 太鼓持ちであるヒッピー男は、さすが隊長さんというのも忘れるくらい、大男の考え方についていけなかった。

 普段、もっと人員がいるため、もう少しまともなチーム間の対話になるのだが、急遽、集まったこともあって、隊長とヒッピー隊員の二人のみで配信に挑んでいる。

 

「というわけで、俺たちはジャック・オ・ランタンが現れた最初の場所に来たわけだ」

 

 大男が指し示す方向には、天王洲アイルのビルが幾棟も建ち、空とお台場方面の風景を遮っている。

 

「騒ぎに釣られてお台場に集まってるバカどもが多いが、本物は最初の場所を狙う。わかったか」

 

 実際、お台場は規制線も張られ、警察も目を光らせている。火球と雷撃の衝撃で焦げた看板など、取れ高がいいとは言えなくも、十分に配信視聴者の興味を惹きつける程度の映像は配信されていた。

 

 そう言った意味で、県立東京防衛隊が被害が少なく規制線のほとんどない天王洲付近に、狙いを定めるのは的外れではなかった。

 競争相手がいないし、ネタが被っていないし、警察の妨害もない。

 ただし、撮れ高が得られるかは賭けだった。

 

 その賭けに、県立東京防衛隊は勝った。

 

 さもすれば天王洲を練り歩くだけになった配信だったが、時立たずしてヒッピーのカメラは異常な存在を捉えた。

 県立東京防衛隊は、無意味に裏路地に入り込み、何かないかと無駄な動線を描いていたが、その行為が功を奏する。

 

 ダラダラと喋りながら、幾度目かの裏路地に入り込んだとき、空からボロ切れのようなモノが降ってきた。

 撮影慣れした程度のヒッピー隊員のカメラは、しっかりと撮影することはできなかったが、飛び降り自殺した人でもいたのかという情報くらいは動画から見てとれる。

 衝撃的シーンを期待してからか、そこから少し接続数が伸びる。

 

 これに気をよくした最強系隊長は、臆することなく落ちてきた物体に駆け寄った。

 

 果たしてそこには。

 ボロボロになった外套を纏う高校生くらいの少女がいた。

 息も絶え絶えで、身体と外套はススで汚れ、長い髪は乱れて跳ねている。

 炎の如き爛々とした赤い目は、最強系隊長を睨め付ける。

 

 かぼちゃと称された廃棄物のようなヘルメットこそ被っていないが、その風貌はお台場で雷神ガールと戦ったジャック・オ・ランタンにそっくりだった。

 

「マジかよ、いたよ……」

 

 ヒッピー男は隊長の言う通りになったことを、信じられないという表情でジャック・オ・ランタンの顔をズームして配信に載せる。

 さらに接続数が伸びて、視聴者たちはチャット欄で大騒ぎとなった。

 騒ぎが伝播し、接続数が軽く5桁を超えたころ。

 

「おい、見てるか、隊員どもっ! とっ捕まえるぞ!」

 

 隊長は膝をついて息を切らしているジャックオランタンのマントを掴み、引き寄せようとした。

 

 同時に、二人の間で炎が炸裂した。

 

 雷神ガールと戦っていたころと比べれば遥かに小さいが、それでも大の男を吹き飛ばすに十分な衝撃だった。

 しかし、至近距離ということもあり、ジャック・オ・ランタンも吹き飛ばされ、裏路地を転がった。

 

「た、隊長! だいじょぶ!?」

「くっそー……。痛っっって〜っ! いいから、あっち撮れ!」

 

 ヒッピー隊員のところまで転がった隊長は、カメラをジャック・オ・ランタンに向けろと合図をしながら立ち上がる。

 この最強系、(こす)いことに殴り合いに備えて、服の下にバイク用プロテクターやスノーボード用クッションパンツなどを着込んでいた。

 眉毛と前髪、それに上着の胸が焦げたくらいで実質ダメージはない。

 

 ジャック・オ・ランタンの炎と爆発力が弱っていることに気がつかない視聴者の一部は、彼のタフさをチャット欄で褒め称える。

 なおプロテクターについては、アンチや客観的ゲストが騒いでいるだけで、在宅隊員とファンネームを持つ一種の信者や、わかって騒いでいる層はその件についてはスルーしている。

 

 一方、ジャック・オ・ランタンは吹き飛ばされた衝撃で、少なくないダメージを受けているようで、カメラを向けられ咳き込みながらも慌てて反射的に逃げる。

 

「追うぞ!」

「え? 待って、火、撃たれたら」

 

 隊長は相手の弱みをよく見抜ける。強さにつながってはいないが、弱いものいじめをするだけにいかされている。

 今のジャック・オ・ランタンが弱ってたいした火を放てないと踏んで、強気に隊長は追いかける。

 

 実際、ジャック・オ・ランタンの足取りはおぼつかない。

 走ってもふらりとバランスを崩し、壁に寄りかかりつつ逃げている。

 

 追いつかれると判断したジャック・オ・ランタンは、裏路地から出るさいに立ち止まって振り返り、後方から追いかけてくる。

 ジャック・オ・ランタンは窮して無理やり炎を作って、追いかけてくる県立地球防衛隊に向けて放った。

 

「喰らうかよ!」

 

 最強系自称するだけあって、まるっきし無策で追いかけたわけではない。

 隊長は途中で拾ったブロックを、炎へ向けて投げつけた。

 運良く炎に命中したブロックは、爆ぜる炎を突き抜けて、自弾の反動でよろめき大通りに出たジャック・オ・ランタンの顔面目掛け突き進む。

 

 ジャック・オ・ランタンの身体が強張り、目を閉じ、ブロックがその顔を潰す……と、思われた瞬間。

 通りの目撃者と、配信画面を見る者たちは我が目を疑った。

 

 ジャック・オ・ランタンの前へ、咄嗟にひとりの黒髪の少女が立ちはだかり、飛んでくるブロックへ手を翳し、軽くひねるような動作をとる。

 

 すると、曲がりなりにも大男の全力投力と、爆発の衝撃で加速されたブロックが、まるで綿のように勢いを失い、黒髪の少女の膝をつく所作に従い、コトリ……と地面へ落ちたのだ。

 

 炎の爆ぜる音と、路地から出てきた少女に驚いていた周囲の人たちは、異常事態には気がついていない。

 県立地球防衛隊のチャンネルは、余すことなくこの光景を配信していたが、突然のことで事態を理解しているものは少なかった。

 

:>ジャックオランタンの仲間?

:<女の子の顔面にブロックとか最悪だし、ナイスインターセプトなんでは?

:>新しい超能力者?

:<Oh,アイキドー 

 

 ネットの向こうで湧きあがる混乱と興奮と困惑の反応に対し、黒髪の少女は端然とした様子で掌握したブロックを道の隅に寄せた。

 

「ふむ」

 

 おそらく、この場とネットの中で、もっとも事態を理解している人物は、この行動を成した黒髪の少女であろう。

 未吹華散(みぶき かざん)

 彼女は手を開いたり閉じたり、ブロックから滲み出ている何かを掴み、操った感触を確かめつつ立ち上がる。

 

 彼女は物体から放たれる赤外線を視認し、つかむ能力を得ていた。

 たとえ路傍の石であろうと、日中に陽を浴びて蓄熱をしている。まして一瞬とはいえ炎と爆炎に炙られたブロックである。

 多少なりとも熱を持っていた。

 熱を放射する物体であれば、かならず赤外線を放っている。

 まだ未吹は「なんだかわからないが見えるもの」が赤外線と気がついていないが、それが掴めると経験で理解した。

 

 なお物体が放射する赤外線を掴むと、なぜその対象物体まで物理的に動かすエネルギーが伝播するのはわからない。

 超能力*1だからというほかない。

 

 投げられたブロックの破片を、掬いあげるように触れる。

 ──直接は触れない。

 ブロックがわずかにぼやっと放つ、赤外線に触れて撫でるように軌道を逸らした。

 

 県立地球防衛隊隊長は、ブロックを投げたフォームのまま、呆然と黒髪の少女の技に見惚れて立ち尽くす。

 いかに、武術の経験のない自称最強無敗の配信者であっても、彼女の技が並大抵でないことは理解できた。

 

 隊長は一瞬、チラリと仲間のヒッピー隊員を見た。

 撮影役は素人なりに、撮影の技術があった。

 

 配信者の行動と、未吹の妙技のそれらを、余すことなくカメラに収めて配信されている。

 撮影しながら配信をスマートフォンで確認していたヒッピー隊員は、ネットの反応を見ることで客観視を得て、冷静さを取り戻そうとしていた。

 

 この間に、ジャック・オ・ランタンは体勢を立て直し、黒髪の少女に身を寄せた。

 

「ありがとう……。タツジン……」

 

 短くそういって、少女ジャック・オ・ランタンはその場を後にした。

 

「達人?」

 

 去っていく少女の背を見送ったあと、黒髪の少女未吹花散は、自分の両手をじっと眺める。

 そしてブロックを投げた県立地球防衛隊の二人に対して、「来るか?」という構えを見せた。

 

 構えを取った彼女から、隊長は視線を何とか逸らし、走り去っていくジャック・オ・ランタンを指差しヒッピー隊員に命令を下す。

 

「ジャック・オ・ランタンが逃げる! 回り込むぞ! ヒッピー! お前はそっちへいけ」

「は? はい」

 

 実はこの自称最強男は、目の前の達人を避ける判断をしただけである。

 正面切って未吹花散を相手にはできないと判断したからだ。彼我の強さを測っただけでなく、もしも負けた場合や軽くいなされた時を天秤にかけた。

 そして「逃げる相手を回り込むという知略で追いかける」ふりをしたのだ。

 

 ジャック・オ・ランタンの姿を配信できただけで、撮れ高は十分。

 無様を晒すリスクより逃げられてしまうリスクをとって、未吹花散と衝突することをさけた。

 

 回り込もうとした頭を見せた分、彼の信者たちはさすが俺たちの隊長!と称賛する。

 アンチは「女から逃げたw」と真実でイジるが、これを最強隊長は「バカ乙w」と言い返して、その後はスルーを決め込む。一度は言い返してるので、実際にはスルーしてない。

 

 立ち去った外套の少女(ジャック・オ・ランタン)を見送り、県立地球防衛隊のメンツからはスルーされた未吹花散は、その場でしばらく構えをとらなかった。

 そろそろ騒動を知らない通行人が現れ始め、路地に向かって構えを取る未吹花散に、なにをしているんだと訝しげな目を向ける。

 

 視線が気になり始めた未吹花散は、構えを解いて思考を始める。

 知的な横顔だ。

 さきほどまで、虚空に向かって構えを取っていた少女とは思えない。

 しばらくそうして考えいた彼女は、外套の少女から投げかけられた言葉を反芻し、ある結論に至る。

 

「ふむ。そうか。どうやら私は達人の極意を得たらしい」

 

 鼻息荒く、むふーとする未吹華散であった。

 周囲のさまざまな人や物体から放たれる()()

 これが気ってやつか。ドラゴンボォルであるあれだ。

 

 気を掴んで自在に投げる合気の極致!

 

 未吹花散。見事な勘違いである。

 

 勘違いする彼女の背後を、カラーチャートと社名が書かれたバンが走っていき、静かに興奮気味の未吹花散に涼しげな影を一瞬だけ落として去って行った。

 

 なお、この日、彼女は検査のため病院へ行くことは忘れた。

 

 さらになお…………。

 

 この後、県立地球防衛隊の撮影係である通称ヒッピーは、その消息を絶ってしまった。

*1
超能力(レベル5)という意味ではない

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