とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
日もすっかり落ちて、月が冴える頃。
私はやっとアメリカ大使館から、こっそりと出ることができた。
もちろん勝手に出て行ったわけではない。
万が一、目撃されないように、帰宅するロドニーさんの車に乗せてもらって、それとなく大使館から出してもらった。
「ばいばーい、ミコ〜!」
「ばいばい、またね。エミリ」
「また明日〜」
「明日かい!」
ロドニーさんとエミリちゃんの乗る車を、路地で手を降って見送る。
渋谷の人混みに紛れ、監視がついていないこと確認してから連絡を取り、このあたりを周回していた
「お姉様、よかった無事で!」
黒子より変態分の突進力がないので、軽々と受け止めとめられるから楽。
「心配させてごめんなさいね。あー、この感じ。なんかひっさしぶりー」
「なんだよ。異世界にでも行ってたような感想だな」
「まあ、似たようなもんね」
この時間では、わずか5時間ぶりとなる再会を噛み締めていたら、
「連絡が来た時は驚いたわよン。合衆国の大使館にご厄介になってるなんて」
「ほら。秋葉原で美都を助けてくれた米兵さんいるでしょ? 私の意識が飛んでる間、保護してくれたわけでね…………」
いくつか経緯と何があったかを説明すると、大使館に収容されたのは仕方ないという空気と共に、大統領とお友達はないだろという驚きがバン内に広がった。
「大統領とお友達かぁ。なあ、レールガン。それ罠なんじゃねぇか?」
「罠だったとしても、ヒラムが作ったUFO合成動画はみたいものね」
「現職大統領の
「そうね。まったく……。こっちにきてから、変わってるお友達が増えたわ」
「おい、それどういう意味……」
「それより、ちょっと悪いんだけど、先に夕食にしたいのよね」
失言を誤魔化すわけじゃないけど、本当にお腹が空いている。
お腹が空いたのもあるけど、なにしろ
「それならうちに集まるのはどうかしらン。パエリアなら炊飯中だし、すぐにお出しできるわよン。みんなでどうかしら?」
「いいわね。お邪魔していいの、マイカさん?」
「もちろんよン」
「じゃあ、このまま向かわせてもらうよ」
+ + + + + + + + +
「ごちそうさまでした。はぁ〜、お腹いっぱい〜」
マイカさんのマンションは三田にあり、近かったことと、元から私を誘う気で夕食の準備をしていてくれたこともあって、すぐに
20畳くらいのリビングで、お腹を満たした私は大の字になって寝転んだ。
すかさず美都が体を入れ替えて、膝枕してくれる。
「マイカさん、お料理得意なんてレベルじゃないわね。パエリアは準備してあったからともかく、急にこの人数が押しかけて、これだけの料理とかすごいわ。特にアヒージョなんて絶品よ」
「ふふ。お粗末さまでした。でもアヒージョはロキちゃんがお手伝いしてくれたのよ」
「そうなんだ」
「そうなんですよ!」
ふふん、と胸を誇らしげに張る美都。その頭を撫でてやりたいけど、美都の膝枕から起き上がれない私は下から手を伸ばして頬に触れる。
「
「はわ、わわ……」
褒めると美都は、初春さんみたいに固まってしまった。
「さて腹が満たされたところで……。レールガン。面白い情報が入ったぜ」
大智が得意げにタブレットを翳す。
「情報? 面白い? なに? どんな情報?」
「遊驥が企業関係の伝手を使って、氷川精一郎……ややこしいな。えっと、
「うん。氷川インダストリーの前身になる製薬会社の創立者よね?」
「そうそう。その筋から氷川誠一郎を調べてみたんだが、経歴が怪しいというほかない」
「怪しい? 学歴詐称とか?」
「それを含めて、それ以上なんだな、これが。現社長の誠一郎は、福井県出身ってことになってて、学校やらそっちってなんてるんだが、ほら。デンパって友達がいるって言ったろ? 北陸は俺の地元でさ」
「ああ、裏を取ってくれたっていうの、しょうさの友達たちなんだ」
「そうそう。地元にあと二人くらい残ってるから、そいつらに報酬は雷神ガールの画像ってことで、頼んだわけ」
「なんでよ!」
おい、まてコラ!
私の画像が報酬ってなに?
「え? あ、いや。
「同じ……じゃない?」
「仲間を売ったわけじゃなくて、関係者ってバレないように、しょうさが東京で撮影したネットで出回ってないような画像って意味でしょうン?」
「あ、ああ……わかるけど。ま、まあ。要求されて逆に渡せないって断ったら、関係がありそうで怪しいだろうけどさ」
マイカさんが大智を擁護し、私も仕方なく納得する。
渡したという画像を見せてもらったけど、ネットで出回ってる画像よりちょっと高解像度っていう特に変じゃない画像だった。
うん、わかるけどさぁ。
なんだろう。納得できるけど、感情的にモヤモヤする。
「で、本題。結論から言うと、創業者で故人の氷川精一郎は存在してても、現社長の氷川誠一郎の存在は確認できない」
「……学歴、経歴がないとか?」
「逆に学歴と経歴はあるんだ。大学とか、高校とか、そういうのには。だから学歴詐称で攻めても、これを崩せないと思う。でも、その経歴通りの同学年とか同級生とか、その辺りから話をきくと、一気に誠一郎という人物が確認できないんだ」
「そうなんだ。でも、その辺は……もっと精査しないといけないだろうけど」
「そうだな。追加報酬も考えて、デンパとガチャギリたちに調査を続けさせる」
大智の友達の能力を信用できないわけではないが、徹底的に追った結果ではないだろう。
それはともかく。
「あのさ。追加報酬ってのが気になるけど」
「安心してくれ。追加分はお金だ。マネーマネー。友達とはいえ、調査には経費も時間もかかるだろうし、お金は大事だよー」
大智はお金のマークを作ってニンマリと笑う。
追加の画像や動画報酬はないと知って安心し、私は落ち着いて考える。
氷川誠一郎の大学への所属や学歴など、そういったデータはある。
しかし、リアルな人物としては存在が怪しい。
ただの影が薄い人物で、誰にも覚えられてない可能性とかあるけど、これは調査次第。
極論、氷川誠一郎は、氷川精一郎の孫としては存在していない可能性がある。
その可能性があるならば──。
「……事実なら、これは突破口になるわね。一応、私の世界と違ったら困るから確認なんだけど、ねえ、遊驥」
「ん? 俺か? なんだ?」
食後のコーヒーゼリーを掻き回し、細かく砕いていた遊驥が顔をあげる。
「存在しない人間が、実験結果を出した場合ってその成果はどうなるの?」
「最悪抹消。最低でも審査から差し戻しだな。薬学も工学もそこら辺は変わら……ああ、なるほど」
さすが遊驥。
これだけで私の考えていることがわかるなんて、やっぱりただの悪ガキとは違うわね。
細かく砕いたコーヒーゼリーを細いストローで啜ってるのは、なんか本当にガキだけど。
私は心地良い膝枕から起き上がって、美都と向かい合う。
「やったわよ、美都。氷川誠一郎という氷川精一郎の孫を自称する存在不確かな人の実験成果なんて、消えてなくなるわ」
「じゃ、じゃあ! お父さんの研究は?」
「氷川誠一郎が自分の研究と実験の成果と言い張っても、学術レベルだけではなく社会的レベルで抹消されて信用されず、認められることも今後ないわ」
論文などは査読の対象や引用などの利用で残るかもしれないけど、これこそほとんど美都のお父さんの成果と論文が強い。だから問題ない。
「その後、美都のお父さんの意志を継ぐ誰かが、美都のお父さんの研究をもとに実験結果を出したとなれば、十分にお父さんの名誉と成果を取り戻せるわ」
「そ、そんな! それじゃあ……」
「合法的な復讐が達成した上に、美都のお父さんの名誉回復ができるわ」
「あ、あう……く……お姉様!」
感極まって、泣いていいか笑っていいか、美都は戸惑っている様子だ。
この子、感情が出るけどそれを飲み込む癖があるみたいなのよね。
「もちろん、私が一発、美都の分含めてちゃんと痛い目にも合わせてやるわ。物理的にね」
「あ、それはするのねン」
痛い目に合わせる宣言に、マイカさんがドン引きしている。
そうする。それはそれとしてする。
こっちだって、一回吹っ飛ばされてるんだから、電撃の2、3回喰らわせてもいいはずよ!
「それでいいぞ、レールちゃん。ついでにロキちゃん、研究を掠め取ったなーって、氷川インダストリーを訴えることもできるぞ。億とっちゃれ! 億円!」
遊驥が合法な方面でのやり返しを提案してきた。
氷川誠一郎が存在があやふやでも、企業はちゃんと存在している。その責任所在は経営陣にあるから起訴は無理筋じゃない。
株主は可哀想だけど、まあ起訴関係は仕方ないわね。
「さて、じゃあ罠かどうかももとより、始めないとな」
「なにを」
「ロードマップ引いたレールガンがそんなんかよ。氷川誠一郎が本当に精一郎で、存在しない孫を作り出したかを、確実に徹底的に調べつくしまくりしないと」
「あ、そうだったわね」
いくら大智の友人が調べてくれたといっても、公式な証拠はない。
誠一郎の存在を否定しない限り、私の思い描いた復讐計画は絵に描いた餅になる。
もしも普通に孫だったり養子の子だったりすると、美都をぬか喜びさせることになっちゃうわね。
別人が入れ替わってる場合でも、研究成果を崩せるからその点をちゃんと明確にしないね。
「で、氷川精一郎の生まれってどこなの?」
「岐阜、飛騨の山奥だな」
「もしかして……神岡?」
私の問いに大智は考え込み、脳内の地元の地図と照らし合わせているようだ。
そして答える。
「そうだな。鉱山のあるところの近くの山奥」
これを聞いて、思わずにやりと笑ってしまった。
「いいわね。そこなら私も
なんてカッコつけていたら、食事を早めに終えてニュースを見ていた真優から声がかかった。
「おーい。ニュースになってるけど、なんかアメリカ大統領が急遽、来日決めたってよ」
「なにやってのよ、ヒラムのおっさん!」