とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》   作:大体三恵

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飛騨山中御坂命

 お台場の一戦から翌日の朝。

 

 私の意識は暗闇の中にいた。

 暗転、光明、意識が浮かび上がる。

 

 重力を感じ、足を伸ばして踏み締める。

 

「到着……っと。さすがに100年も経つと変わって……あまり変わってないわね」

 

 かつて私自身が掘り出した花崗岩と磁鉄鉱が混じり合った丘の上に立ち、まわりを見渡してそんなことを呟いてしまった。

 戦中戦後高度成長バブルバブル崩壊令和を得ても、木々の植生も変わってないような気がする。

 よく言えば、古き良き日本が残る。

 悪く言えば、時代に取り残された。

 そういう村ね。

 

 ここは飛騨の山奥。

 神岡の街を東に望む山の頂上で、東はかつて私がお世話になった集落がある。

 かつて……といっても主観では、昨日までのことなんだけど。

 

 そういえば近く……っていっても険しい山をいくも挟んでだけど、スーパーカミオカンデがあるのよね。

 カミオカンデ……神岡にあるからカミオカンデなのね。

 

「それより、今の私どうなってるのかしら? 空間とか時間? 超えてる? それにこの……あの子たちとも自分の体とも違う……構成物質がよくわかんない体」

 

 美都の能力を使い、あの子の身体から意識を切り離し、飛騨の地に……なんといったらいいのか。私は何かの姿となって、この飛騨神岡の地に降り立っている。

 美都の能力は多分だけど、あの子の意識を強く増大させるか、私の意識を別の場所に送るか。

 もしくはあの子の意識を増大させた結果、私の意識がどこかに飛ぶのか、その逆か。

 

「まあ、転移だか多元宇宙だかわからないけど、学園都市がない世界に私がいるってことに比べたら、この構成体くらいまだ理解できるわ」

 

 思いつく現象は……幻想猛獣(AIMバースト)

 アレを私は目撃して対峙して打倒してるからそう感じるんだろうけど、感覚的に()()じゃないかなぁって思う。

 

 ……考えても仕方ないか。

 

 他にも考えられるけど、あの子たちに出迎えられた時、この状態に収まる方法や元に戻る方法を教えてもらって会得したので、気軽に行えるし問題ないでしょ。

 

 飛べる場所は今のところ飛騨とシカゴとサンフランシスコの三ヶ所だけど、十分すごい能力の副産物ね。

 

 今頃、あの子(9982号)財神黒客(ツァイシェンヘイカー)のメンバーたちと過ごしているだろう。なんか余計な事を言わなければいいけど……。

 

「あ、そうだ」

 

 いつもの確認。

 スカートをたくし上げ、下着を確認する。

 やっぱり青のストライプ。

 

「うーん。私の身体じゃなくて、あの子たちの誰かで再現されるのね」

 

 すっかりたくし上げに慣れてしまったようね、私。

 ていうか、誰もいないとはいえ、どこでもパンツ見る女の子ってどうなのかなぁ……。

 自問自答。

 あ、短パン履いてないかどうかくらいは、さわればわかるじゃない、私。

 解決。

 

「ふうん。観光地になってるんだ。我ながらやらかしたわねぇ」

 

 私が掘り出して改造した岩は、ラジオ石として観光地となっている。説明案内看板が立ち、小さな社や祈願の絵馬やら札やらが溢れている。

 ラジオ石から降りて、村を見渡せる岩の上に乗り、しばらくふもとを眺めていたら……。

 

「おい、娘さん! そんなところに登ってると危ないぞ!」

 

 地元の人なのかな?

 いつの間にか登ってきたトレンチコート姿の男性に、注意されてしまった。

 

「あー、ごめんなさい。あれ? センギョウ和尚……?」

「早く降りんかい!」

 

 私に声をかけてきた男性は、この土地で昔、いろいろ面倒を見てくれた住職さんにそっくりだ。

 でもよく見たら身長が高すぎる。

 センギョウ和尚も身長が高かったけど、昭和初期にしてはってくらいで、この男性は180センチメートルを超えてる。

 たぶん子孫の人かな?

 

 センギョウ和尚は筆まめで、日記ともメモともなんともつかない手記を書いていた。

 筆でさらさらと、一日に千行も書くとか噂されてたからセンギョウ和尚って呼ばれてたのかしら?

 

 私はそんなことを考えながら、スカートを抑えて岩の上から飛び降りた。

 

「うわっと、危ないぞ! 娘さん、観光客か? 随分と軽装だが?」

「うん、そんな感じ。それと人探しね」

「なに? 人探し? 遭難した人がいるのか?」

 

 和尚似のトレンチコートのおじさんは、ガニ股になって真剣に周囲を見回し始めた。

 遭難者がいるにしても、そんな近くにはいないでしょ。せわしい人ね。

 

「違う違う。そこの村ので昔、住んでた人の経歴とか痕跡を調べにきたの?」

 

「遭難者がおらんならいいが。……なんでまたそんなことを?」

 

 トレンチコートのセンギョウ和尚そっくりさんは、私を疑う……いえ、探るような目線を向けてきた。

 どういうわけか、人を疑う癖があるのかしら?

 

「私って、この世界にどうやって生まれたのかわからないの。だからそれを調べていて、その過程で出てきた人物の親族とか先祖とか調べてるの」

 

 嘘はついていない。

 事実の構成を変えて説明しただけ。

 私は実際に、どう生まれたのか? この世界にとってどういう存在なのかすらわかってないのは事実。

 それで足掻いている最中、関係した人物を調べているのも事実。

 

 関係性を誤魔化しているけどね。

 

 トレンチコートのおじさんは、納得しかねている顔をした。

 聡い人なら今の言葉で、「親や親族を調べている」と読み取るが、もっと聡く疑り深い人は、その過程で出てきた人物を親族だと言っていないことに気が付く。

 この人は、もっと聡くて疑り深い人なのか。

 

「むう……ほほう。そういうことか。いいだろう。ワシはぁその村の寺で住職をやっておったもんの親類だ。協力できるぞ」

 

 どうやら、もっと聡く人のいい人物だったみたいね。

 ちょっと疑ったけど、それをつつくような真似はしない。そんな人かな?

 それからやっぱりセンギョウ和尚の血縁者だったようね。

 

「それは助かるわ。さっそく頼らせてもらっていい?」

「かまわんぞ。とはいえ今は個人情報保護法があるからな。出せん情報は出せんぞ」

「そうなのよねぇ……。でも平気よ。探偵とか弁護士とかに頼む前の下調べだから」

 

 これも嘘ではない。別の人に頼むのは本当だし、美都が合法的な復讐を完遂するにあたっては、それらの人に頼むことがあるはずよ。

 嘘は言ってない。

 

「おー、なるほど。確かに絞っておけば、余計な日数もかからんし、安くすむな。がはははっ。で、その探している人の名前はわかるのか?」

 

「氷川精一郎って、戦前生まれの人なんだけど」

 

「氷川? 氷川かぁ。墓にいくつか氷川姓はあるが、もう長いこと無縁仏だな」

「片付けてないんですか?」

「まあ田舎な分、空き墓地に困っとらんからな。そのまま放置されとる」

 

 今は法律が変わって、管理者がいなくなった墓は宣言と告知をして10年放置されていることが証明されれば、寺側が墓を接収できる。

 だけど、過疎でむしろ空き墓地があるので、古い墓を整理しなくてもすむようね。

 

 村についた私は、トレンチコートの男性に案内されて、氷川姓の墓の前は行ってみた。

 

「精一郎の名はないわね」

「うむ。寺の過去帳を調べてやってもいいが、学術調査や完全に一族を認められんと開示できんぞ」

「困ったわねぇ……」

 

 お寺の過去帳は長年の家系図でもあり、戒名と本名と生没年が書かれた資料的価値とともに、出自が判明するため、差別につながるからという意見もあって個人情報保護法の対象になる……。

 

「開示や閲覧はお嬢さんへは認められんが、まあ、責任者が過去帳を読んで、保護法として問題ない点を口頭と伝えたり、書き写して見せる分は無理ではないぞ」

 

「そうなんですか?」

 

「うむ。正当な理由があれば問題ないと、そういう判例が出ておる。逆をいうと、過去帳は無闇に見せてはいかんという判例も出ておる」

 

「詳しいですね」

 

「これでも警官だからな。おっと、身構えんでいいぞ。いまは帰郷中の非番のおっさんだ」

 

 私が警戒した一瞬を、おじさんは瞬時に悟った。

 このトレンチコートのおじさん。侮れないな。

 

 寺に戻りトレンチコートのおじさんは、現住職へ挨拶をして、氷川家の過去帳を確認してもらった。

 現住職から聞き取り、トレンチコートのおじさんが法的に問題ない点を書き出してくれた。

 

「結果をいうと精一郎という人物は過去帳にのっておらん。だが、父親の葬儀を出した喪主としての記録は残っておる」

「精一郎という人物は実在したと?」

「少なくてもそういう名で、喪主を務めた者がいる。寺の記録としてはここまでだな」

 

「精一郎の子か、孫で誠一郎という人物はわかりますか?」

 

 なんとか食い下がってみるが、トレンチコートのおじさんは困ったように首をかしげる。

 

「ないなぁ……。喪主を務めた精一郎のその後か、その時を知る人物がおればよいが」

「70年前だもんね……」

 

 寺での情報収集は終わりかなと思ったその時。

 

「葬儀当時にいた村のモンは、まだおるぞ」

 

 老齢の住職が、助け舟を出してくれた。

 

「儂の叔母がまだ健在でな。精一郎本人のその後は知らんだろうが、小さい村じゃ。少なくても葬儀には参加しておるじゃろう。古い風習がある村だからな。村総出で葬儀を行なっておるはずだ」

 

 なんでも棺を担いで鐘を鳴らしつつ村中を歩き、小銭やお餅などを撒く風習があったという。

 子供なら貰いにいくし、参列者なら撒いていたはずだと住職は語った。

 

 精一郎の顔なり人柄なり知っているかもしれない。もしかしたら、その時、精一郎に子供がいて参列していたかを見たかもしれない。

 住職の紹介され、私は村のとある家を訪れた。表札を見ると……江馬さんかぁ。

 ……ところでトレンチコートのおじさん。どこまでついてくるんかしら?

 

「くわー。これはすごいお屋敷ね」

「邪魔するぞ」

「あ、おじゃましまーす」

「ごめんする」

 

 トレンチコートのおじさん、古臭い言い方ね。

 

 門を潜ると、戸が開けっぱなしの屋敷の土間にいた高齢の女性が、こちらに気がついた。

 

「あら? 住職さん。大勢でどうしたの?」

 

「ふむ。つかさのばあによう客人がおってな」

 

「おばぁ。住職さんがお客さんつれてきたよ」

 

 土間のある部屋に高齢のおばあさんがきてくれた。

 おばあさんが「おばぁ」と呼ぶくらいだから、相当なご高齢かと思ったら、意外と若かった。土間に居たおばあさんと同じくらいに見える。

 ゆっくりだけど自分の足で歩いて、その足もしっかりしてて、まだ農作業すらしてそうな人で…………?

 

「お、おおお……おお、おおお……」

 

 私を見るなり、そのおばあちゃんは、ふらふらとし始めた。

 そして畳の部屋から、土間へ転がるように降りてきて、慌ててトレンチコートの男性がその身体を支える。

 ちょっと無理をしてたのかな、と思ったら、おばあちゃんはそのまま土間に跪いて…… 

 

「お待ちしておりました、御坂様……」

 

「あれ? もしかして、(つかさ)さん!」

 

 体裁を取るのも忘れて、思わず私はおばさんの名を呼んでしまった。

 

「知り合いか?」

 

 疑り深いトレンチコートのおじさんは、私の反応を見て勘ぐるような鋭い目線を向けてくる。

 

「御坂様とな?」

  

 一方、住職は地元ということもあり、何かに気が付いた様子で私の顔を見つめてくる。

 

 観念して正体を晒すわけにはいかないし、かといって誤魔化し方が思いつかない。

 司さんの名前を口に出してし合ったのは、大失敗。

 

「あー、司さんの話は祖母から聞いててー……あはははー」

 

 睨んでくるトレンチコートのおじさん。

 崇めてくる司さん。

 まさか……と勘づき始めてる住職さん。

 

 言葉に窮する私……。

 こんな状況の下、高校生くらいの女の子がお屋敷に帰宅してきた。

 

「ただいま……あら? お客様ですか?」

 

「朝倉先輩!」

 

 私はその女子高生に見覚えがあった。水鏡派閥に所属していて、去年卒業した先輩にそっくりだった。あまり親しくはなかったけど、一回は一触即発の状況にもなったし、顔と名前くらいは憶えている。

 叫んでから口を塞ぐが、もう遅い。

 

「萌亜さん。こちらのお嬢さんは、後輩かね?」

「……いえ。それよりなぜ私を朝倉と?」

「そうじゃ。なぜ朝倉姓を知っておるのだ?」

 

 住職さんが朝倉先輩そっくりな人に私のことを尋ねる。朝倉先輩似の人は、私を訝しげに冷たい視線を向けてきた。

 どうも雰囲気からして、朝倉という呼び方はなにかマズかったようだ。

 

「どういうことだ?」

 

 トレンチコートのおじさんが、私を制圧できるような距離に迫っている。完璧に疑ってるわね。

 

 洗いざらい、全部話すべきかしら……。

 そんな覚悟を決めたら、なじみ深いけど、まったく覚えのない電撃が、土間の中に走った。

 発生源を辿ると──。

 

「がきんちょどもが! 御坂様になんたる不敬! 畏まらんか!」

 

 うそっ!?

 司さんが、バリバリと電撃を放ち、トレンチコートのおじさんたちを威嚇し始めた。

 なんで? 司さん、そんな能力があったの!?

 

「え、江馬のばあさん! それは!」

「おばぁ、おちついて!」

 

 トレンチコートのおじさんが構えを取るなか、朝倉先輩に似た女の子が司さんに駆け寄る。

 ……あ、もしかして司さん! 発電能力が暴走してる?

 

 肌を焼くに充分な電撃を放つ司さんに、朝倉先輩似の人が手を伸ばす。

 あぶない!

 

 と、思ったその時、朝倉先輩に似た人の両手が分厚い「なにか」で覆われる。

 一回り大きくなった手で、倒れそうになった司さんを支える。

 

 あれは朝倉先輩と同じ能力だ。

 体表面の角質を変化増大させ、身体を鎧で覆い、鋭いかぎ爪を形成する。湾曲した一対の角も生えている。

 

 角質は乾燥状態では、ほぼ絶縁体として機能する。

 かぎ爪のついた手で、傷付けないように司さんの身体を支えて、暴走する電撃を抑え込む。

 

「おばぁ。その歳で力を使ったら……」

 

 気を失った司さんを心配そうに見つめ……それでも、私を警戒している朝倉先輩……。

 事情がまったくわからないようだけど、警戒心を最大限に発しているトレンチコートのおじさん。

 土間に最初にいたおばあさんは、あわてながら司さんの介抱に当たっている。

 

 私もどう対応していいか、分からない中……唯一冷静な住職が間に立って問いかけてくる。

 

「もしや……お嬢さん。95年前、この村に居ったかね?」




もう1人、とある科学の超電磁砲より登場。

司さんは特にモデルはおりません。

11/12 追記

センギョウ和尚が千行書くというのは、あくまで親しみをこめた揶揄と誇張であって、本当に千行も日記を書くわけでもなく、筆で大きく崩し字で書く達筆なあれなので一行も多くて10文字くらいです。

でも千行書くからセンギョウ和尚ではなりません。
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