とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
「と、いうわけで、なんの成果も得られませんでした!」
トレンチコートのおじさんからの追及が辛くて、ついつい帰還を選択した私は、
今頃、トレンチコートのおじさんは消え去った私の空間を掴もうとして空振りして、朝倉先輩とそのお婆さんは驚いていることだろう。
あー……、司さんに一声かけてから帰りたかったなぁ。
「あのなぁ……」
私の報告を聞き、カップそばの汁を一気に飲み終えた遊驥は、ゴミを片付けつつ呆れモードに入っている。
「仕方ないじゃない! 初手、警察官とエンカウントとか、どういう確率よ!」
「それはしょうがないが、なんとか誤魔化すとか、アドリブ
「お持ちだったら困ってないつーのっ! アドリブ
こちとらスキルアウト相手に、気弱なお嬢様を演じて見事に騙しきったり……アイツのせいでぶち壊されたけど。
「お姉様、お姉様」
どうもあの子とカードゲームをしていたらしく、彼女と私の手元にはアニメ調の絵が描かれたカードがある。
「その村の方々、どう対応するんですか?」
「あー、どうしようかしらね」
私を神様みたいに崇めているのは、ちょっと困りもの。システムエンジニアたちが、冗談まじりに讃えて信仰している
エンジニアの神社は、あの子たちの断片こそあれ、なんだかんだ言って形だけだ。
でもあの村の人たちは、ちゃんと宗教団体として結束しているみたい。
「司さんがいるから情はあるけど……。だからって村に関わるのはなんなのよねぇ」
朝倉先輩は割り切ってるようなので、私を崇め奉るという様子は見られない。
でも、当時を知る司さんとか、その熱を浴びて育った現住職さんは、私を特別視している。
もともと村にあった神社に、私が雷神として合祀されてるのよね。
独自のお祭りも行ってて、まちがってそのころに行ったら輿に乗せられて村のあちこち行くことになってたかも。
「とりあえず、日を改めて行ってみるわ。あのおじさんだって、仕事があるから東京に戻るだろうし」
「到着したら警官隊が待ち受けてるかもしれんぞ」
あのおじさんが盾を構えた警官隊を引き連れ、御用だーと叫んでいるシーンが脳裏に浮かぶ。
「な、なくもないわね。でも大丈夫よ。明日ならそんなにすぐに警官隊が並んでることなんてないでしょ」
おじさんが報告するまでの時間と、許可申請と警官の配備だけで数日かかると思う。
まさか昨日の今日で、あのおじさんの後ろに機動隊の盾を持った人たちがずらりと並んでいるなんてことはない……はず。
「なんでフラグを立てちゃうかなぁ、レールちゃん」
「だ、大丈夫だって」
私の油断をフラグという遊驥。否定するけど、私もなんかフラグを立てちゃった感がする。
「レールちゃんがいいて言うならいいんだけどな。ああ、あとさ。セーフハウスのことなんだけど」
「うん。用意できたの?」
「ああ。両国の元営業事務所だ。生活に困らん程度にキッチンバストイレちゃんとある。不便な点はエレベーターがなくて、三階ってくらいだ。しかし、このセーフハウス用意する過程でな、問題が起きた」
「問題ですって?」
「うむ。親父にお前のことがバレた」
「はあ? なにしてんのよ!」
堂々と言い切った遊驥に、ちょいキレる私。
「仕方あるまい! なんどセーフハウスの用意をして、そこがダメになったと思っとるんじゃ」
「それでなんであなたのお父さんにバレるのよ!」
「少なくない金の動きと、俺様が伝手へ話を持っていった内容があるんだ。静かにやってるが、親父の関係者がゼロってわけじゃない。短い期間で物件を繰り返し探してて、セーフハウスがやっぱりダメってなるタイミングが、毎回、レールちゃんが世間に現れた当日とか、怪しくて当然だろうが」
言われてみれば……。
最初から用意しておいたセーフハウスとて、持ち家でもないかぎり関係者がまったくないというわけじゃない。
電気ガス水道を止めていたなら、再契約するなり長期休止から再開する手続きもある。
雷神ガール騒動とは関係なく、遊驥の行動を不審に思った関係者が父親に連絡するってこともあるかな?
「もちろん、雷神ガールが俺の関係者ってところはバレてないが、セーフハウスと雷神ガール事件が関係してるまでは疑われちょる」
「あちゃー」
私は天井を仰いで顔を覆った。
かなり優秀な遊驥のお父さんだもんね。
そんな日本を代表する企業の社長さんなら、息子の行動から何か気が付くくらいあってもおかしくない。
「まあ、セーフハウスの準備では、親父の手を借りてたこともあるんで、もしレールちゃんが少しでも申し訳ないと思うなら、親父に迷惑かけたのお礼くらい一つでもいってくれ」
「わかったわ。ご挨拶することがあったら、感謝の言葉のふたつみっつ言っておくわ」
話がひと段落したところで、私のスマホが通知音を立てたのでポケットから出して確認する。
「あ、朝倉先輩からメッセージがきた」
「先輩……ですか?」
スマホをポケットから出して内容を読み始めると、美都がスッと隣に寄ってきた。
「うん。まあ、あまり親しくなかったし、顔と名前を憶えてたってくらいだけど」
「そうですか!」
安心したように、胸を撫で下ろす美都。
「よかった。村であったことや、氷川家のことについて調べておいて、明日、教えてくれるって」
「じゃあ、また明日行くんですか?」
寂しそうな美都を見て、私も申し訳なく思う。
学校を休んで身を隠している美都にとって、私がいないというのは寂しいことだろう。
「美都も寂しいだろうけど、私の代わりはあの子もけっこう頼れる……かなぁ? とにかく芯はちゃんとしてるから安心してね」
「お姉様と同じですね」
美都。それ、どこらへんが同じなの?
ちょっと抜けたところとか、そのへんで言ってない?
+ + + + + + + + +
翌日。
私はあの子の身体から抜け出し、飛騨のラジオ岩付近に不可思議な身体で立った。
目の前には……村の衆を背に仁王立ちして待ち構えているトレンチコートのおじさんがいた。
警官隊とかいなかったのは安心したけど、険しい顔のおじさんだけで十分威圧感があった。
その背後では、申し訳なさそうだが呑気に「ごめんなさいね」ポーズをしている朝倉先輩がいる。
「今度は逃げ出さんか?」
「いえ、観念しました」
私は村の人たちにも納得してもらう必要があるため、おじさんにできる限りのことを白状することにした。
ま、捕まってもこの身体なら、すぐに逃げ出すことも可能だし、問題ないでしょ。
そう思っていたころが、私にもありました。
「よーし、では……」
トレンチコートのおじさんが懐に手を伸ばした時、わっ! と村人たちが私の方に駆け寄ってきた。
後ろから突き飛ばされ、倒れて踏まれていくおじさん。
「おわ、な、なんだ! お、お前たち、あいた! あいた! いたた!」
「御坂様、お待ちしておりました!」
「伝え聞いた通りのお姿!」
「ぎゃわいい!」
「東京での騒動を見て、まさかとおもってましたが」
「撮影いいですか?」
「ぜひ次回のお祭りでも、ご降臨を!」
「今回はいつまでおられるのですか?」
「なんまいだなんまいだ」
「これ! 名物御坂まんじゅうです!」
ご年配からお子様にまでもみくちゃにされ、質問されたり崇められたり、誰よ、私をまんじゅうにしたやつ!
「わわ、待って待って! って、誰よ、スカートめくってんの! このガキかっ! 崇めるなら罰当たりなことすんじゃないわよ!」
村人の包囲から逃れるついでに、私のスカートをめくりやがって「シマシマー」と言いながら逃げる7歳くらいの子供を追いかける。
すぐにご両親らしき人に捕まって、ゲンコツを二発もらったので見逃してやるか、このエロガキ!
追いかけっこのどさくさ紛れ、私はラジオ岩の上に飛び乗り、村人たちに包囲されないよう構え問いかける。
「で、なんなのよ、この大騒ぎ。どういうつもりよあんたたち」
ラジオ岩の下に集まる村人たちを代表して、いままで後ろで控えていた朝倉先輩が歩み出て答える。
「ごめんなさい。村の人にお話したら、みなさん抑えがきかなくて」
「全部、お話しますメッセージは、誘き出すワナだったってことですね、朝倉せんぱーい……」
「弁明はいたしませんわ。でもご理解ください。みな、雷神様御坂様とそれはもう大騒ぎで」
100年近く、私はこの地で神格化され、隠れ信仰されてきた。
その信仰対象が現れたとなれば、今まで抑えてきたものが発露されるのもわかる。
だからってこれはないでしょう!
「まあ、あんたたちの気持ちもわからなくもないから。ちょっと落ち着いて。でも、まんじゅうってなによ!」
「ご安心を。名物! 大吟醸 御坂尊もありますぞ!」
なにが安心なのか。心配が増えたっての。
まんじゅうと一緒に、一升瓶をラジオ岩の前に奉納するおじいちゃん。
「もっと隠せ! 能力隠して住んでるんでしょ! 名物とか売り出すなつーの! ……おい、『なんで?』って顔で見合わせるな!」
この雷神様は不思議なことをおっしゃるって顔で、互いの顔を見合わせる村人たち。
信仰を隠してたのは戦時中の話だからわかるけど、能力は今でも隠してたわけなんだからお土産で目立つようなことしなくても……ああ、ラジオ岩とか観光地になってるのね。
昔、私のような信仰対象がいたというのを隠してないようだ。
ラジオ岩の観光案内説明板に、ざっくりと雷神様として説明が入っていた。
あくまで隠してるのは村人の能力者ってことなのね。
「あいたたた……。人を踏んでいきおって……」
村人たちに踏まれたトレンチコートのおじさんが、腰を抑えながら立ち上がる。
なんていうか……なんかすごいタフな人ね。
「さて、御坂さんと呼んでいいかな」
「いいわ。あなたから様つけされても困るし」
朝倉先輩をはじめ、村人たちは私を御坂様と呼ぶ。
正直、気恥ずかしいから、おじさんみたいな人がひとりでもいると落ち着く。
警察官相手にする緊張こそあるけど。
「よし。では村と氷川のこと、そして今後の話もある。まずは村の集会場で話をしよう」
「そうね。ここ、ベンチが一つしかないもんね」
観光名所になっていようと、結局は村の小高い山の上。
村人たちが集まってあれこれ話すような場所じゃないので、村への移動を同意すると。
「では、御坂様。こちらの輿にお乗りください」
「いや、それはちょっと、イヤかなぁ……」
お祭りで使うという輿が、私の前に置かれてドン引き。
見世物にされたうえ、村内引き回しじゃない。
「それ。毎年乗ってるんですよ、わたくし」
「あ、ごくろうさまです。朝倉先輩……」
お祭りであれに乗る朝倉先輩を想像して、地方のお祭りって大変なのね……。と同情する私の手を握る朝倉先輩。
「ささ、どうぞ」
「……え? ガチで乗んの?」
わっしょい美琴