とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》   作:大体三恵

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禍事、之勿来

「氷川の監視をしていたら、綺麗なお姉さんがスタイリッシュスパイ大作戦からのハレンチ大脱走を行った件について!」

 

 狛江市から浅草のアジトに美都と一緒に戻ってきた私は、開口一番、すごいインパクトがあったことをちょっと興奮気味に報告する。

 

「ハ、ハレン……? 何言ってんの? レールガン?」

「特攻野郎は知らんのに、スパイ大作戦は知ってんのな、おまえ」

 

 アジトで遠隔監視していた大智(しょうさ)遊驥(アスキー)に眉を(ひそ)められた。

 美都(ロキ)もちょっと苦笑いしてるけど、現場ではこの子も「まるで映画みたい……」と衝撃を受けていた。

 

「ねえ、アスキー。ちょっと録画しておいた? もう映画のワンシーンじゃない? あれ?」

「おまえの存在と活動の方が特撮映画だろうが」

 

「何言ってんのよ。スタイリッシュ差じゃ負けるわ。わざとゆっくり右手を足に伸ばして視線誘導。銃を取り出す前に逆の手で髪を解いて、どこでも販売されていないような小型閃光弾。きっと手作りだわ。そしてワイヤーでの逃走とか、完全に映画じゃない! フィクションの世界よ!」

 

「レールガンの存在がフィクションみたいなんだよなぁ」

 

 私の興奮に釣り合わない遊驥と大智。

 わかってはいるわよ。私がこっちの世界じゃフィクションのような存在って。

 でも、そういうのとは違う良さが……わからないかなぁ?

 

「なによ、みんな。こっちが空回りしてるみたいじゃない」

 

「まあ、そういうのデッドセックとかシカゴのビジランテがやってるようなもんで……。たしかにリアルタイムで目撃できたってのは……それはそれで幸運かな?」

 

 言われてみれば、と私の言い分を飲み込んでくれる大智。

 私が能力戦に慣れているように、彼らはこういった逸話や映像を見慣れていたのね。

 

 うんうん。でも私の興奮を理解してくれたようだ。

 納得して美都と共に、作業を開始する。

 

 氷川インダストリーは成長途中の大きな会社で、施設が各所にそして広範囲にある。

 新しく建設したり取得した施設に加え、買収していった施設があるため、それら全部を調べるのは物理的、距離的、人員的に困難。単純に大変なのよね。

 

 でも、氷川が銭形のおじさんと会話したあと、なぜか行動を変えたあいつが訪れた施設は重要も重要な施設だった。

 多摩川を越えて神奈川県に入ったところにあるその施設は、問題の薬の研究と生産を行っていた。

 

 別にそのまま破壊しちゃってもよかったんだけど、それだと証拠とかなくなっちゃうから、警察に正式な手続きのもとで踏み込んでもらわないといけない。

 

 なので証拠集めと、情報漏洩をさせる際に私たちのようなハッカーによって漏洩したと思われないような仕掛けをしておかないといけない。

 違法な方法で入手した証拠は裁判で証拠とならないから、それらしい漏洩という物語(ナラティブ)がいる。

 

 よく刑事ドラマとかで、誘導尋問してたり「お手洗いはどこですか?」とかいいながら離席して勝手に部屋を探ったりして情報集めるシーンあるけど、アレって現実だったら裁判で証拠として採用されなかったり不起訴になったりするわよね。

 

 そうならないように、合法的に偶然、もしくは正式に警察が証拠を手に入れさせる。

 違法なこと私たちはしてるから、表向き合法的な状況にしないと美都のお父さんの研究成果とか、取り戻せないもんね。

 

 私は氷川とその秘書が揉めている隙に侵入し、その研究生産施設にいくつかのバックドアを仕掛けておいた。

 

 これらバックドアを利用し、一時的に大量のデーター集めをする。

 データーを精査し、証拠を絞り出し、集めた証拠から、それらし~く漏洩させる証拠を選別する。

 その作業中、キーボードを叩きながら大智が尋ねてくる。

 

「なあ、レールガン。そういえばさぁ、氷川を追跡してた警察の車両はあったか?」

「あったわよ。3台くらい」

「ああ、じゃあ、場所は伝えなくていいな」

 

 重要研究生産施設の漏洩は必要なし。

 

「レールちゃん。氷川が関わってた関係者ってのは?」

「岩城財団の岩木って人なら、もう銭形のおじさんが嗅ぎ付けて会いに言ってたわ。あとなんか怪しい会社でカラーチャートとかいうのに、個人の回線も……あの様子だと他もこまごましてたのは、全部目をつけてるでしょうね」

 

「ふ~ん、じゃあこれも漏洩させなくても……いや、不自然だから警察が知ってるようなことも漏洩させるか。なんならバレてるようなことも紐つけて、っと」

 

 遊驥が警察が掴んでる証拠や関係者も、漏洩リストに盛り込んでいく。

 こういった機転が利く遊驥は頼もしいわね。

 

「お姉様。そのカラーチャートという会社については調べますか?」

「忙しいと思うけど……できる?」

「時間と手が足りないので、開いてるゾンビPCで自動的に集められる範囲でしたら」

「お願いね」

 

 美都はゾンビクイーンとして、繰り返しと自動化させた処理では私を越える。

 もちろんゾンビPCはあまり高度なことはできないし、たまーに経路が潰されて情報が電子の海に消えることがあるけど、それでも一定以上の効果を出すはず。

 

 現在、アジトには私と遊驥に大智、そして美都と四人。

 マイカさんは、本業のお仕事中。真優は、大学で講義を受けている。

 静かに作業が進んでいく。 

 

「やあ、ヒロヒロがきたよ。レールちゃん、今日はブラックで差し色にイエローのパーカーか。イメージにピッタリだよ」

 

「はいはい」

 

 うるさくなった。

 勉学から帰ってきた真優(ヒロヒロ)がやってきた。

 さっそく私にちょっかいかけてこようとしたので、意味もなくビリビリして追い払う。

 あれ?

 真優さんが、このアジトに近づいてくるのセンサーで感知できなかったけど……美都と話しをしてて、見逃したのかな?

 

「みんな。忙しそうだね。ボクになにか手伝うことは?」

「おう! 濃ぉ~いコーヒーを入れてくれ! あとチョコレートの在庫が切れたから上で買ってきてくれ」

「オーケー」

 

 私の肩に手を回そうとしてたのか、痺れる手を振りながら真優さんは手伝いを申し出る。

 でも、彼はデジタル関係だと素人なので、遊驥から雑用を振られた。

 コーヒーの準備をしてチョコレートを買いに行き、真優が戻ってくる時にはちゃんと感知された。

 やっぱり気のせいか……と、戻ってきた真優が入れたコーヒーを受け取り納得していたら、美都が机を蹴ってキャスター付き椅子で滑ってきた。

 

「お姉様。氷川インダストリーの個人PCとスマホには、バレないよう必要最低限のボットネットを監視用に貼り付けました」

 

 美都は私が教えた技術を応用して、新たなボットネットを作り上げた。

 もともと美都によって構築されたボットネットは、ctOSのセキュリティホールの合間でゾンビPCにとって住みやすい一種の(コロニー)を作り上げていた。

 

 しかし新ボットネットはctOSのシステムに潜みながらも、ctOSを介さないローカルネットワークでこそ真価を発揮する。

 これで氷川の活動は丸裸だ。

 

「さすがね。こういった恒常的に作動するボットは、美都が扱うゾンビPCが最適ね」

 

 もっとも重要な作業を終えた美都の頭を撫でる。

 美都はもっととねだるが、決して黒子のように過剰な反応はしない。

 

「もちろんです」

 

 当然よ、と鼻息荒く自慢げに胸を張る

 

 大人しく謙虚な初春さんもいいけど、爆発的反応を示す黒子と違って、このくらいが一番可愛げがあるわね。

 と、思ったけど。

 遊驥と大智相手に、「どうよ!」って表情でドヤってるのよね、この子。

 なんだろう……。

 こういうところが常盤台にはいないタイプなのよね、美都って。

 

「で、どうするんだ?」

 

 ひと段落した遊驥が、私に問いかけてくるけど、なんのことかわからないので聞き返す。

 

「そうするって、なにが?」

 

「銭形っておっさんに、手ェ出すな……って、釘を刺されてるんだろう?」

「そうね」

「そうね、ってお前なぁ」

「大人しくすると思う? 私が?」

「思わん」

「でしょう?」

「なにより俺もエンジョイしたい」

「だと思ったわ」

 

 遊驥は私と違うスタンスで、私を理解している。

 これはなんというか、たぶん、アレね。

 悪だくみ仲間、悪友ね。

 ……ふと、もしも、あの女王と呼ばれるいけ好かない女と、仮に、イヤだけど、なにかの間違いで仲良くなれたなら、こんな感じだったかも。

 

「かぁ~マジか、お前ら。相手はICPOだぞ、インターポールだぞ!」

 

 一方、大智は私たちの悪だくみを聞き、困り果てて頭を掻いている。

 彼はハッカーを気取っているが、能力の高低問題以前に性格が常識的すぎるのよね。

 かかわった相手が世界的な警察機構と分かって、危険性を理解している。

 理解してしまって、ハッカーの信念より人としての常識が働いてしまっているようだ。

 

「しょうがない。つきあってやるか!」

 

 そして付き合いがいい。

 きっと友達のために、どんな過酷な場所にも考え無しで飛び込んでしまうタイプ。

 

「美都ももちろん、やるでしょ?」

 

「もちろんですね。私なんてビンタの一発くらいやっても許されると思うし!」

 

「うんうん、そうそう。そうよねぇ」

 

 ああ、分かった。

 私と美都、どっか似てるのよねぇ。

 会話も普段は私以外を相手にすると、口調とか私に似てる感じするもんね。

 

 よしよし、してあげると、美都はちょうどいい距離でニコニコとしてくれる。

 黒子だとこうはいかないのよねぇ……と、ピクンと美都の身体が小さく跳ねた。

 

「あ……私のゾンビから通知が来ました」

「私のゾンビってなかなか聞かない言葉よねぇ」

 

 美都は胸元からスマートフォンを取り出し、ゾンビPCのボットネットから送られた情報をAIで使ってまとめられた報告を読む。

 

「え? は? あえ? あ、あああ、朝霞ぁ~、ひが、ひ、東村山ぁ~」

 

 ゾンビPCからの報告を見て、美都の様子がおかしくなった。

 東村山と聞いて、なんか盆踊りみたいのし出す遊驥は無視。

 

「ど、どうしたの?」

 

「じょ、浄水場に、ああ、あの薬を混入させるって」

 

 美都が見せてくれた画面に、氷川の指示書をまとめた画像が写っている。

 そこには東京多摩地方の東村山市浄水場と、埼玉県にある朝霞浄水場へ、新開発した薬を運び込む指示のまとめがあった。

 

「な? こ! そっ! ……バッ!」

 

 あまりのことに、言葉が出てこない。

 間違いであってほしいから、美都が作ったゾンビPCボットネットの情報収集の間違いか、スワイプして情報を確認する。

 ざっと見たところ、AIのまとめ要項は間違ってない。

 

 いろいろ情報が駆け巡る。

 確かに上水への薬混入は危険だ。

 だけど、実際にはそんなに被害は広がらないと思う。

 まず水道水を直接飲む人は、昔ほど多くない。調査方法にもよるが今は5割を切っている可能性がある。

 仮に料理で水道水を使うとしても、ほとんどは熱処理してしまって薬品は分解されてしまう。

 次に家庭でも浄水器を利用していることが多い。

 ましてや今の飲食店なんて、貸店舗として作られた状態で浄水器が店内経路に設置されていてる。

  

 氷川が作ったスピリッツとかいう薬品は、薬としては変質しにくく安定しているがそれはあくまで常温でのこと。

 ビタミンよりはるかに大きい構造をした薬効成分は、活性炭フィルターなどで用意に除去できる。水溶性が高い成分は、イオン交換樹脂や中空糸フィルターは通過してしまうだろうけど、それは一部だ。

 

 そしてなにより、美都のお父さんが作った薬は、口腔摂取だとまったく意味がない。あれって静脈注射用だから。

 美都のお父さんの作った薬は、氷川の作った能力開発の薬の誘導体薬効を高める意味がある。

 つまり効果は限定的となる。もしくは副作用が大きくなる。

 

 そう、意味がない。

 氷川がやろうとしていることは、意味がない。結果が弱い。

 

 だけど浄水場を狙うという行動だけで、たった一つの結論が出る。

 

 氷川誠一郎。

 分類不能のバカよっ!

 

 




いや、ほんと旧OVAの氷川は、やったんすよ。東京の水道に「スピリッツ」混入を。
原作だと非常に効果的なスピリッツですが、まだ未完成なのに。

現代以上に、水道水を使う割合が高いあの時代で、上水に薬品を混ぜるなんてことを。
いや悪役だからすごい悪いことする方が悪役らしいけど、同じ悪役()側のテロ嫌いなゴメスがドン引きするの当然です。

漫画版ではかなりまともで優秀になりましたね、氷川。
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