とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
「あー、まさかこの時期に水泳をやるハメになるとは思わなかったわ」
私は朝霞浄水場から2キロメートルほど離れた大学のソフトボール場まで移動し、近くのコンビニで待機していた
美都からタオルを受け取り、頭を拭く。
「こんなこともあろうかと!」
タオルで髪を拭いていたら、マイカさんが着替えを出してくれた。
ちょっと早い気がするロングコートだ。
「でも、下着はないのよねン」
「裸にコートを着ろと! それくらい必要でしょう!」
「いえ、下着にコートもないかと……」
私のツッコミに、美都がツッコミをかぶせた。
その通りね、うん。
「おちつけ、レールガン。そこのコンビニで買えばいい」
「そういえばそうね」
大智からの冷静な解答。安心する。
「おし! 俺様が買ってきちゃる!」
「ちょ、こら! やめんか!」
遊驥からのふざけた解答。心配だ!
調子にのってそんなこと言い出した遊驥を引き止める。
「そうよ。お姉様にパンツをご用意するのは、私の役目よっ!」
「どういう役目よ!」
身体を拭きながらツッコミいれるけど、もう美都は
偽装バンの中でなんとかしてコンビニの下着とTシャツに着替え、コートを羽織って落ち着くことができた。
コンビニで遊驥が買ってきたホットコーヒーに口をつけ、人心地がつく。
できればホットミルク飲みたい…………。
+ + + + + + + + +
翌日、状況は一変していた。
報道では、浄水場への毒物か薬品混入テロ行為として、どこも大騒ぎになっている。
『深夜の凶行! 狙われた浄水場!』
『国際テログループ犯か?』
そんなテロップが書かれ、報道バラエティーが不安をあおるようなBGMと共に東松山と朝霞の浄水場を映し出している。
私は遊驥が用意しくれたセーフハウスで、軽い朝食を美都ととりながらこれらテレビのニュースを眺めていた。
元々営業所だったというけど、それらしき設備は一切取り払われている。
残っているのは応接セットと書類棚くらいで、がらんとしている。
私が飛び込んだ朝霞浄水場は、一時停止となっている。
これは私が電撃を放ったからではなく、安全確認のため水質検査が行われるためだ。
決して、電撃で施設が壊れたとか、私のせいではない。
報道バラエティーで、そのような説明がされている中──。
『いやぁ、なんでしたらそのまま送水して、雷神水を飲ませて欲しいですね』
「ごふっ!」
テレビでコメンテーターと並んでいた芸人が、変なことを言い出したのでミネラルウォーターを噴き出してしまった。
「ごは、ごは! なに言ってんのよ、この芸人! ほら、出演者全員、ドン引きしてるじゃない!」
「ヒエ……」
美都は黒子と違って常識的だ。
この発言を聞いて、やはり青ざめている。
しかも、ネットではこの発言のせいで
:>いますぐ送水! いますぐ送水!
:<東京名物雷神水ゴクゴク
:>雷神ちゃんの出し汁は美容によい
:<いずれガンに効く
:>500mlに5万までなら出す!
にわかに雷神水で騒ぎ始めた。
ま、まずい。このままではトレンドに雷神水とか出てきちゃうかも。
「こ、この変態どもが……」
ネットの反応を見て、全部懲らしめてやろうかと思った……。けど、ネットで目立つ書き込みにたいして全部に、あれこれしてしまうと私がそういうことができるってことがバレてしまう。
このアドバンテージは、なるべく維持したい。
「でも、これってたぶん悪ノリしてるだけで、本当に飲みたいなんて人はいないわよね」
「…………」
「なんか言ってよ、美都!」
私の発言を聞いて同意も否定もせず、深刻な表情で目を逸らした美都はパソコンの画面に視線を戻す。
怖い!
否定して!
不安に
偽装バンに乗って、私と美都は浅草の
到着すると真優は、偽装バンを借りている駐車場まで移動させた。
先に私たちはアジトへと向かう。
「おっはー」
遊驥が出迎える。
「あんた、学校どうしてんのよ!」
「こんな時にのんびり日常とかやってられっかってんの」
私の疑問に、毅然と言い返してくる遊驥。
ブレないわね、こいつ。
すると大智が遊驥をからかい始めた。
「遊驥、あんまり休んでると俺みたいになっちゃうよ〜」
「それはいかん! 明日からちゃんと通う」
「どういう意味だそりゃ!」
「おのれが振ったんじゃろが!」
じゃれあい始める遊驥と大智。
「いいわねん、男の子同士のじゃれあいってン」
マイカさんが微笑ましいと見守っている。
「あれ? マイカさん、お仕事は?」
「重役出勤よン」
システムエンジニアからコーディネーターとなったマイカさんは、出社せずクライアントの元へ向かうこともある。その途中でアジトに立ち寄り、それを重役出勤と冗談めかす……。
冗談よね?
実は本当に役員クラスとか?
ctOSでこの辺をのぞこうと思って、仲間のそれを見るのは気が引ける。
まあ十中八九、偽装してると思うけど。
「そうそう、レールちゃん。どうする? 氷川はこれでチェックメイトだぞ」
「そうよね。浄水場を狙うなんてテロだもん。公安が出てきて、今日にでも身柄が拘束へ動くでしょうね。能力を使えるあの氷川が、おとなしくしているわけがないわ」
現状、逃げることは不可能だ。
ctOSによる監視社会は伊達ではない。
車でどこかに逃げるだけでも困難なのに、国外逃亡などほぼ不可能だ。
目をつけられた時点で終了。
「だから暴発する」
大智が呆れたように肩をすくめて、これだから企業の大規模犯罪者はと呟いた。
「警察だって無能じゃないわ。あの銭形のおじさんとか見ればわかる。でも違うのよね、あの氷川ってやつは」
氷川の不可視の攻撃。
あれを警察でどうにかできるとは思えない。
対抗できそうな大型の犬を模したレイバーだって、街のなかで縦横無尽というわけにはいかないでしょうね。
「氷川が能力を使えるって、掴んでるのよね? こっちが流した情報で」
「だろうね。だけど、対策ができるわけでもないし、どれほどの能力を持ってるかなんてわかってないと思うぞ」
大智の意見にうなずく。
私もあいつが不可視の能力を放って、それを受けた身だけど限界を知っているわけじゃない。
警察のレイバーを破壊するどころか、ビル一棟を破壊するほどかもしれない。
「しょうがないわね。ここは私の出番でしょ」
「いくのか?」
遊驥がいつものふざけた態度ではなく、思い詰めたような低い声で尋ねてきた。
「警察に犠牲者が出たら目覚めが悪いし、なにより美都の分も電撃浴びせてやらないとね」
「お姉様、そんな無理をなさらずに。私なら大丈夫ですから」
美都が心配して私に縋り付くけど、そんなに深刻でもないのよね。
「大丈夫よ。あいつの底はしれないけど、思ったほどじゃないはず。あの不可視の攻撃も当たりがついてるし」
「テレキネシスじゃないのか?」
「ちがうわね。空気を固めてぶつけるタイプじゃないわ。風をつかって空気を私にぶつけたり、テレキネシスで掴んで撃ち込んだのでもないわ」
一回、あれを喰らったからこそわかる。
あれは
「ジャック・オ・ランタンと戦ってた時、あの辺一帯は火の海だったわ。そこに突風を使ったり、空気の塊を撃ち込んだら、絶対に炎が反応してたはず。それなのに、そういった様子はなかったの。これはテレビやネットの映像でも確認したわ」
アジトのパソコンを使い、私が火の手と煙の中で吹き飛ばされた映像を繰り返し流す。
「じゃあ、なんなんだ」
「見て」
ジャック・オ・ランタンを下し、立ち上がりかけた私を吹き飛ばしたシーンをアップにして遊驥たちへ見せた。
私が纏っていたわずかな電撃。
不可視の攻撃が当たる直前、煙を巻き込み、わずかに周囲が発光する様子がある。
まるで私の目の前で、煙の塊がデコピンでもするかのような光り方だ。
「移動時や周囲で触れた炎に反応しない不活性な何かだが、レールちゃんの周囲にある電界には反応した……そうか! アルゴンガスか!」
遊驥はこれだけで理解してしまう。
ちょっと意地悪で情報を小出しにして、アルゴンガスって答えを大上段から明かしてやろうとおもったけど……やるわね。
「アルゴンガス?」
美都が首をひねる。
「ああ、最近は蛍光灯なんてないから、
「いや、若いとか関係なくさぁ、蛍光灯知ってても、不活性ガスなアルゴンガスの励起放電発光現象とか、わかるの工学系とか化学系くらいだよ」
「いや、あんたたち全員若いでしょうン」
遊驥と大智の達観ぶりに、マイカさんが冷静な一言を付け加えた。
17歳と12歳は、マイカさんからしたら子供だ。
その意見もその通りで、遊驥の有能さがちょっとおかしい。
「とにかく氷川の能力はアルゴンガスの制御よ。それを見えない巨人の手のように扱う
阿里先輩と一戦交えたことはないけど、
「でも、あの先輩のことは……あいつの派閥だからそれは気に入らないけど、同じ名前をつけたら阿里先輩に悪いわね。だから名前は変えよっか」
「そここだわるの?」
「悪い?」
「いや悪くないけどさ」
遊驥が疑問を投げるけど、こだわるというか阿里先輩への敬意だ。あの駄肉の元でよくやってると思うし。
「そうね……。
自ら自分を消し、その孫となり、人の功績と成果を奪って、砂上の楼閣にいる氷川にはぴったりだと思う。
「うん。我ながらいい命名だわ」
「厨二だな……」
「ん? 私、中学二年だけど?」
遊驥がなにを言ってるのか、よくわかんないわね。
「あ、そうだ。遊驥。ちょっと用意して欲しいものがあるんだけど……」
東京名物雷神水 500円 20026年新発売!
・
食蜂派閥の参謀? 阿里希茶の能力。
煙や蒸気をアルゴンガスでまとめ上げて、巨人の手のように扱う能力。
・
御坂美琴より命名された能力名。
氷川誠一郎の能力を独自解釈して捏造。
旧OAVではサイコキネシスっぽいのですが、やや範囲攻撃や範囲で掴むような描写がされてます。
特にバーディーを中心にして捕まえる時などは、丸く光る演出があったり、時々光る光線みたいのが軌道上にでてました。
昔のセルアニメということもあり、「うおおおおっ!」という掛け声とともに超常的なかっこいい攻撃はよく透過光が使われてて、そのための演出なのでしょう。
バーディー相手に光るということは、バーディーの生体防壁(を制御する生体電気)に反応してると解釈して捏造しました。
・電気分解
旧OAVでは帯電したバーディーが、スピリッツ混入した水中でハイパーリザリブというなにかを利用したクラッシュを拡大した攻撃?を行いました。
たんなる電撃ではないようですが、どうもスピリッツは電気分解できる成分のようなので、美琴に飛び込んでもらって雷神水を作ってもらいました。
高圧送電の2.2kVくらいなら、今の美琴でも発生させることができると思います。
美琴が普段落とす雷の、せいぜい4500分の1なので。
遊驥「アルゴンと怠惰はわかるが、ドミトリー?」
美琴「え? ロシアのイヴァン帝の四男ドミトリーの偽物が僭称したというのがあってね」
大智「わ、わかんねぇ~…」