とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》   作:大体三恵

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御坂美琴の一人称ですが、ある理由で、途中途中にネットの反応などが挟まれます。


行き止まりの進化

 浄水場を狙ったテロから翌々日の朝。

 私たちが思っていた以上に警察の動きは速かった。

 

 ちょっと流し見してみたけど、ネットもその動きの速さに驚いてて、浄水場事件と結び付ける人が多いわね。

 やたらやる気のある銭形のおじさんがいるからかしら?

 警察は社員が出社を終える前に、氷川インダストリー本社ビルの周囲を封鎖した。

 

「氷川は泊まり込んでるのかしら? 会社に?」

 

『泊まり込んでいるというより、ありゃぁ籠城だな』

 

 疑問をつぶやくと、チャットアプリを利用して遊驥(アスキー)が反応して()()()()()文字が表示された。

 その文字を読んで答える。

 

「籠城……。籠城ねぇ。一昨日の失敗が堪えたなら可愛げがあるけど、なにか仕込んでなければいいわね」

 

 自分が築き上げた本社ビルを枕にして、暴れるつもりなのかしら?

 私は氷川インダストリー本社ビルを望める近くのビルの屋上で、双眼鏡と監視カメラの映像を使って周囲を伺う。

 

『うおーい、レールガン。周辺探ったけど、なんもなさそうだぞ』

 

 大智(しょうさ)から氷川インダストリー本社ビル周辺を捜索し終えた連絡がはいった。

 今、彼らは偽装バンで移動しつつ、私のバックアップを務めている。

 

『これは氷川が用意できなかったってより、警察の展開が速すぎたって感じだな』

 

 追加のデータを送ってくれた大智が、それらしい推測で補足する。

 

『しっかし、銭形って警察の人? あんなに数を揃えるって力技だなぁ』

 

『いつでも神様は数の味方よン』

 

 流れる文字を見ながら、私はうなずく。

 銭形のおじさんが集めに集めた警官隊は壮観ね。

 でもそれを遊驥はあまり評価していない。

 一方、マイカさんはこれを常道と認めている。

 

 私は待機の間、眼前に映るネットの様子を眺める。

 

:> いよいよ氷川インダストリーも年貢の納め時か

:< 台場のテロだけでも会社ぶっとぶのに、昨日のあれもだろ?

:> 浄水場のテロな。あれも氷川なの?

:< あーあ、これでまた日本の会社が中国に買われて技術流失だよ

:> さすがに超能力作ってるところの技術は渡せないから日本がなんかするよ

:< 警察のレイバーが、氷川インダストリーのサターンを誘導してる

:> 氷川警備は投降か。社長捨てられてやがんのw

 

 私から肉眼では見えないけど、駐車場入り口側では、氷川インダストリーの警備レイバーが回収されいるようだ。

 カメラを繋いでみる。

 サターン・Uが地下駐車場からでてくると、そこで操縦者が機体から降りて投降する様子が見えた。

 どうやら社長の命令に従わず、警察の指示に素直にしたがっているようだ。

 

『で、レールガンはその点、どう思いますか?』

 

「あぶないわね」

 

 大智の問いに、忌憚のない意見を言う。

 

「私たちの世界には警備員(アンチスキル)って治安組織とか、情報漏洩対策チームみたいのもあったけど、あれは能力者を相手にする前提で訓練を受けてたし装備もあったし、なにより能力への情報と理解があったわ」

 

『情報。それがないこっちじゃまずいよな。組織力や数を揃えても、結局ネックはそこだ』

 

「銭形のおじさんが、そこらへんわかってないとは思わないんだけど」

 

 私は念の為、氷川の能力を銭形のおじさんに伝えておいた。

 銭形のおじさんは「あとはまかせろ」と自信まんまんに言ってた。

 私もおじさんと警察のメンツの手前、ぎりぎりまで手を出すつもりはない。

 

 なにしろおじさんは能力者がいる村の出身で、私を知っているんだから油断をするはずがない。

 なにか手があるのかな?

 

 様子を見ながらあれこれと考えているうちに、私がいるビルの屋上へと誰かがやってきた。

 防犯カメラの映像が()()()()表示され、そこには屋上のドアを開けようとする狙撃班の姿があった。

 

「ああ、狙撃、狙撃ね」

 

 確かにほとんどの能力者は、狙撃とか不意打ちには滅法弱い。

 きっと激しく抵抗する場合は、狙撃も辞さないというわけね。

 最後の最後の手段だろう。

 

「でも、狙撃の命令下るまで、被害が出るだろうなぁ……」

 

 私は狙撃班とかち合わないように、隣のビルへと飛び移る。

 こっちのビルは氷川インダストリーの玄関ロビーを直接見ることができない。

 だけど、今の私はいろいろハックしたカメラ映像が、()()()()()()表示されているからさほど困らない。

 

 先ほどまで私がいたビルの屋上に、狙撃班が配置につく。

 防弾チョッキにヘルメット姿の二人。最小限の構成だから、他のビルにも配置されてるのかな?

 ざっと見回すと、他のビルの屋上や、テラスに2組ほど発見した。

 

 私と財神黒客(ツァイシェンヘイカー)は、しばらく待機してことの成り行きを見守る。

 

 こうまで露骨に包囲されて、氷川が気が付かないはずない。

 狙撃班はともかく、レイバーが豪勢に4機も配置されてるんだし、絶対に気がついてるはずだ。

 

『やだン。本当に籠城でもするつもりなのかしらン?』

 

 マイカさんが長期戦の可能性を口にした時、事態が動いた。

 

 静まりかえっていた氷川インダストリー本社ビルのエントランスロビーの電灯がつき、大きな男性らしき人が正面玄関の自動ドアまで歩いてくる。

 まるでプロレスラーか、相撲取りみたいなシルエットだから、氷川の護衛かなにかしら?

 

 そう考えているうちに、正面玄関の自動ドアが開き、私たちは言葉を失った。

 包囲している警官隊にも、動揺が走ってる。

 

 エントランスから姿を現したそいつは、高級スーツをはち切れんばかりに膨らませている。

 筋肉が発達したというより、まるで冗談でスーツの下に詰め物をしてるかのよう。

 でもなにより異常なのは、露出した顔と手。

 首元と目の周りが、鮮やかな緑色の鱗に覆われている。

 

 一言で言うなら、筋肉ダルマの恐竜人間。

 

 手はもう人のそれとは別物。

 びっしりと細かい鱗に覆われて、余計な肉がない筋肉が張り出した大きな手。人間にわずかに残る水かきはなく、完全な陸上に適応したトカゲのそれじゃない、アレ!

 

 しかも人間のような扁爪(ひらづめ)ではなく、黒いペンでも刺したような長い爪。

 

 氷川誠一郎は、トカゲの怪物に成り果てていた。

 

「……そ、そんなヤバいモノだったの? あいつの作った能力開発薬って」

 

 予想外の副作用に、私は動揺した。

 確かに学園都市は酷いとこよ。醜いところだってある。

 でも、あーいう醜さは絶対にない。

 

 ネットの反応も、嫌悪感による書き込みが勝っている。

 

:> なんだよあれ

:< 超能力者じゃなくて怪物になる薬かよ

:> 私、あのドリンク飲んでたけど吐きそう

:< 警察、ビビってるじゃん

:> 雷神とかスーパーマンとかの出番だよこれ

:< あれは敵だ!絶対に間違いなく!ああなるああするああなってしまうのはダメだ!

 

 最後の書き込みには、私も同意する。冒涜的といっていい。

 

 同様のモノが、学園都市ですら忌み嫌われてたのが理解できた。

 きっと実験で死者が出たからとか、そういう理由じゃない。

 学園都市の科学者が、これはない! とアレを見て落胆して実験中止を判断したはずだ。

 アレは能力者を生み出す薬じゃない。

 怪物を作り出す薬よ!

 

『うそ、え、なにあれ? あれ、まさか氷川?』

 

 美都が悲鳴みたいな声をあげる。

 父の仇である氷川が、まさかの化け物になって驚くしかないようだ。

 

『泊まり込んでいたんじゃない! あいつ……もう終わりなんだよ!』

 

 大智が氷川の末路について叫ぶ。

 その通りだ。

 警察が来たから引きこもっていたんじゃない。

 

「アイツ……追い詰められていたというより、どんずまり(デッドエンド)だったわけね」

 

 私はビルの端に立ち、早々に介入も考慮にいれる。

 決意した時、トカゲ人間になりかけた氷川が叫んだ。

 

「やってくれた……。この私の計画を……よくも、よくも邪魔してくれたな!」

 

 身勝手な怨嗟の声を聞き、陣頭にいた銭形のおじさんは(はや)る後ろの警官隊を手で抑えた。

 せっかく氷川がマスコミやインフルエンサー、youtuberが見守る中で、自白をしてくれるんだから気持ちよく喋らせてやろうって腹づもりかしら?

 

「100年の悲願! 100億円のプロジェクト! この日本に最強の兵士を生み出す計画を、理解できんようだな。スピリッツ(あの薬)を、この街のやつらに飲ませれば、私の意のままに戦う戦士たちが生まれたというのに…………。よくも邪魔をしてくれた!」

 

 氷川は本当に語り始めてしまった。

 ほとんど愚痴に近い独白なので、聞いてて痛々しい。

 

 でも、意のままに動く兵隊さんか。

 かつての日本帝国陸軍で、能力者の兵士を作ろうとしたんだろうけど、この時代でもその想いが捨てられなかったようね。

 今の日本で、人権なんて無視した兵隊かぁ……時代錯誤すぎて……懐古兵士(レトロソルジャー)って、ところね。

 

 能力が低能力(レベル1)異能力(レベル2)であっても、氷川の思いのまま動く存在となったら危険なんてもんじゃないわ。

 あの薬が東京都内の水道水を汚染していたらと思うと、ゾッとする。

 浄水場に飛び込んだかいがあったわ。

 

『兵士の制御はctOSでやるつもりだったみたいですね』

 

 やけっぱちになった氷川は、もう会社のセキュリティーなど気にしていないみたい。

 美都(ロキ)のゾンビPCたちのアタックで、安安とすべての情報を吐き出してくれた。

 

 大智と遊驥がノリノリでそれらの計画情報を、財神黒客(ツァイシェンヘイカー)印の包装紙でパッケージングして*1ネットの世界に放流している。

 

 この件に関しては、もう違法に所得した証拠はどうのなんて関係ないから、誇示のため財神黒客(ツァイシェンヘイカー)名前(パスワード)入りをばら撒いてる。

 

「もはや何もいらん! きさまらに! 雷神の小娘へ、この力で報いをっ!」

 

 氷川が怒声をあげ、一歩踏み出した。

 

「そうはさせんぞ! 神妙に(ばく)につけ!」

 

 銭形のおじさんは氷川の変貌に物怖じせず、先頭に立って叫んでいるけどどう見ても分が悪い。

 能力を相手にするだけならともかく、あの膨れ上がった筋肉と長い爪は伊達じゃないはず!

 

 実際、氷川は銭形のおじさんに猛然と駆け出した。

 銭形のおじさんは、これを十手を持って立ち向かい……十手!?

 今時、十手ぇっ!?

 と、私が驚いているうちに、氷川が転んだ。

 

 あ、十手に気を取られたのは、氷川もなのね。

 いつの間か、銭形のおじさんは逆手で紐付きの手錠を投げつけていた。

 これが足に絡まって、氷川はエントランス階段を転がり落ちた。

 

「確保ぉっ!」

 

 自慢の肉体もバランスを崩したらただの肉塊ね。

 機動隊の人たちが、一斉に倒れた氷川に飛び掛かる。

 隊員たちは透明の盾じゃなくて、ジェラルミンの盾を使ってる。

 あれって拳銃弾くらいは防げるから、状況に合わせて使うため残ってるらしいのよね。

 

 銭形のおじさんと、機動隊たちに叩き伏せられたけど……大丈夫かしら?

 あ、銭形のおじさんが乱戦なのに器用に紐で、トカゲ氷川を縛り上げていく。

 ええっと、江戸時代なんかにあった捕縛術ってやつ?

 あのおじさんもなかなかにレトロね……あ。

 

「ふんじばって、疲れさせちまえば能力など…………ぬわーーーーっ!」

 

 大丈夫じゃなかった。

 トカゲ氷川は雁字搦めの縄を引きちぎり、その筋肉に相応しいパワーで警官隊を吹き飛ばした。

 銭形のおじさんなんて、10メートルくらい吹き飛ばされて街路樹に引っかかってる。

 

 圧倒的多数と緊縛で演算の邪魔をするまではいいけど、あの単純なパワーで破られるまでは想定してなかったみたい。

 私もあんなトカゲ人間になってるとは思わなかったから、仕方ないでしょうけど。

 

 氷川は手近なパトカーに、めいいっぱい前蹴りを叩き込む。

 吹き飛んで近くのガードレールにぶつかり、煙とラジエーターの蒸気を噴き出した。

 その煙や蒸気を、氷川は能力を発動して()()

 

「計画の邪魔をした報いだ! 喰らえっ!」

 

 氷川は身勝手なことを叫んで、能力を発動させた。

 

 怠惰偽皇(アルゴンドミトリー)を使いパトカーを頭上に持ちあげ、警官隊へ向かって投げつけようとする。

 私はその氷川に向かって、猛然と落下する。

 

 パトカーに磁気を発生させ、私の落下エネルギーを叩きつける。

 落下エネルギーからの反発は、投げつけられたパトカーを地面へと逸らすには充分だ。

 一部でも地面に接触すれば、一気に速度が落ちてしまう。

 

 転がっていくパトカーを、イングラムmarkⅢが盾で受け止めて被害は抑えられた。

 

「そこまでよ!」

 

 私は警官隊の前に立ち、氷川と対峙する。

 

「き、貴様は……」

 

「この間、吹っ飛ばしてくれたのとか、センギョウ和尚と明子さんと操さんたち村の人の仇! 他にも気に入らないことをいろいろもろもろ倍増しして、叩きつけてあげるから覚悟なさい!

 

:> キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

:< 雷神ガール登場!

:> なにあのゴーグル!変身してきたの?

:> 雷神ガールはヒーローだったのか!

:< やれ!やっちまえ!

:> がんばえーらいじんちゃーん 

 

 ネットが騒ぎ出しているのが分かる。

 世界規模で通信量が跳ね上がってる。

 

 この通信量の多さが私の味方をする。

 

 ctOSを介して、能力を増大化させているなら、回線の混雑がヤツへの足枷となる。

 氷川の能力が明らかに減じて、アルゴンで包んだはずの煙や蒸気が流失してる。

 もともとアルゴンを含め煙も蒸気も霧散しやすく、維持が難しい能力なのでちょっとでも能力が落ちると効果が激減する。

 

「ぬ、ぬううぅぅ……。これは……なぜ!」

 

「ctOSで能力補助をしてるアンタには、この回線の混雑具合。効くでしょう?」

 

「きさまがぁぁぁっ!」

 

 煙が晴れていく向こうで、事態が理解できず狼狽えている氷川。

 哀れに思ったので、理由を説明してあげたら、顔を真っ赤にしている。

 

「おのれええぇぇっ!」

 

 氷川は怨嗟の声を私にぶつけ、霧散しきるまえに怠惰偽皇(アルゴンドミトリー)で殴りつけようとしてきた。

 そこへ私は大電力の電撃を叩き込む。

 

 爆発的な閃光!

 

「っうおぉっ!」

 

 目の前の閃光をまともに喰らった氷川は、目を抑えてその場に転倒。視界を奪われ、のたうち回る。

 離れていた警官たちも、目が眩んで踏み込むのに二の足を踏んでいる。

 

「アルゴンに強力な電気をぶつけることによる発光。あの子を相手にした時は、私がしてやられらけど……、やっば、これって初見では恐ろしく有効ね」

 

 あの時を思い起こしながら、近くのビルの窓に映った私の姿を見て、ちょっと悲しくなった。

 

「まったく。用意してくれとはいったけど、まさかこんな形だなんて」

 

 遊驥が用意してくれたゴーグルは二つ。

 一つ目は、市販のARグラス、ゴーグル型。

 二つ目は、溶接で使われる自動遮光ゴーグル。アークの閃光が光ると、コンマ5桁秒で反応して遮光してくれるアレ。

 これでアルゴンの発光現象を防いだってわけ。

 アイツはもう不用意に能力を使えない。

 

 これを重ねてつけてるんだけど、外側につけてる二つめの遮光ゴーグルはどういうわけか妹達(シスターズ)が付けていたものに似ていた。 

 ハーフコートにホットパンツで、制服姿ではないものの、奇しくも、今の私は妹達(シスターズ)の姿に酷似している。

 

 私には電磁派レーダーがあったけど、氷川にはない。

 状況は圧倒的に私が有利。

 

「さあ、氷川誠一郎! おしおきのビンタと蹴りと電撃、一発や二発じゃすまないからね!」

 

:> 雷神ちゃんのおしおきビビビンタ!

:< 雷神ちゃん俺も俺も!

:> うらやまし……くなんかないからね!

:< 僕は蹴りがいいです

:> 僕は踏んで欲しいです

:< しまパンを見上げ踏まれて死ねるなら本望です

:< 俺がしまパン履いて踏んでやんよ

:> それは本望ではなくホモです

:< 雷神ちゃーん、なんでスカートじゃないのー!

:> しまぱん しまぱん

:< キック!キック!ビンタ!パンツ!

 

 こ、こいつら〜…………。

 

 ctOSに負荷をかけるためとはいえ、ネットの向こうのギャラリーどもが騒がしすぎない!?

*1
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