とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》   作:大体三恵

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はじめてのミサカ様

 シャワーですっきり、ケア万全、腹ごしらえをオーケー!

 さあ、次のctOSはどこ! 待ってなさい!

 

 と、ネットカフェから一歩でて、今日が平日だと気が付いた。

 今はまだ登校時間だからいいけど、1時間後からどうしよう。

 この湧きあがった気持ちの行き場がない……。

 

 元気そうに登校していく小学生や、重い足取りで出社する人たちの姿を見送りながら、これからについて考える。

 

 学生が平日の午前中にいても、咎められない場所……学校以外にある?

 課外授業中なら班で行動するだろうし、ひとりで行動してて、その言い訳は通用しないよね。

 いっそ、日中はどこかで休息して、夜間にctOSを探そうかしら?

 それはそれで深夜徘徊で警察の目につくだろうし、それなら日中で補導の対象になるほうがマシじゃない?

 

 私は中学生の女子としては、そこそこ身長もあると思う。なんとか服装で16,7歳に見えるようにすれば、高校に行かないでいる子くらいには見えるかな?

 いっそ大人のフリを……する?

 サングラスをして、スーツ着れば、科学者(木原幻生)のボディーガードの中に紛れこめた実績もあるし、悪くない……か?

 

 でもまず先立つもの……活動資金の問題もあるのよね。服を揃えるのは、先送りしましょう。

 

 午前中は目立たないように行動して、午後からの活動を中心にすればいいかな。

 

 とりあえず芝浦と田町付近のctOSは掌握していて、この区画内に、9982号がいるようなctOS祠は存在していないことがわかる。

 となると、隣の区画へ行って探すわけだけど、どうしようか?

 このまま南、品川方面にいくべきか?

 

 品川の地図をラップトップで確認。

 脳内に浮かぶ掌握下の新橋や芝浦付近の地図を精査し、共通パターンや怪しい場所の洗い出しも、同時進行でやってみる。

 

 防犯カメラも利用して、街のあらゆる場所を調べる。歩道からは死角になってたり、入れない場所の確認を行う。

 死角や屋内の防犯カメラも、その防犯カメラを別の防犯カメラで視界に入れることで、触れたりせずに侵入できる。

 

 マンションの廊下なんて見てもしょうがないけど、そこを経由することで、隣のビルの屋上のカメラを視界内に入れて侵入、掌握。って、ことが出来るわけね。

 さすがに今の私は出力が低くて、リレーを繰り返して遠くの防犯カメラに侵入はできない。いいとこ、2ブロック。150メートルちょっとと、いったところかしら。

 

 防犯カメラを使った侵入リレーの練習をしていたら、とあるマンションの5階のベランダに子供を見つけた。

 空のおもちゃボックスを持ち出して、ベランダの柵に横づけしている。

 

 やば……くない?

 まさか、ベランダの柵を登る気なの?

 って、完全に踏み台にして登ってる! ヤバいヤバい!

 

 慌ててカメラをズーム!

 

 ベランダの柵に手をかけた子供。その奥、室内では朝食の片付けをしている母親の姿があった。

 幼児用の配膳テーブルなので、ダイニングテーブルと比べて低い。母親は前かがみになって、視界が下に向いていて、子供の様子に気がついていないみたい!

 

 なにやってんのよ!

 私はなんとか母親に危険を報せる方法を考える。

 直接、子供をどうにかするのは無理。一瞬で判断。

 

 幸いカメラから見て、子供と母親は一直線上。

 だから子供と母親の間で、何かを起こして母親の視線を上げさせさえすれば……。

 

 あった!

 

 ctOSと繋がっている子供のおもちゃ!

 ただ立ち上がったり、数歩歩いたり座ったりする程度のクマのおもちゃだけど、内蔵スピーカーがあるから充分!

 

 接続、侵入、掌握…確保!

 

『あぶない! ベランダを見て!』

 

 横に倒れていクマのおもちゃを無理矢理立ち上がらせ、スピーカーから私の声を出す。

 

 お願い! 気がついて!

 

 ハッと顔をあげる母親。

 まずクマを見るが、同時に視界内に子供を見つける。

 そこからは速かった。

 

 幼児用テーブルを蹴倒し、クマのおもちゃを飛び越えて、子供のだぶだぶな服を掴んで引っ張り戻し──母親は派手に後ろへ転んだけど、問題はなさそう。

 

 ふう、良かった。

 私は額の汗をぬぐって、近くの花壇のブロックに腰を下ろした。

 びっくりして子供は泣き出してるけど、もう一安心ね。

 

「良かった……。気をつけてね」

 

 接続を切ると、クマのおもちゃはコテンと倒れる。

 通常より高い電圧で無理矢理に動かしたから、サーボモーターが過熱したけど、ダメージはないでしょ。

 

 おもちゃで自己診断まではできないから、絶対じゃないけど、安物でもないようだし一時的な過熱で壊れるようなものじゃないと思う。

 長い目で見れば、寿命は減ったかもしれないけど……まあいいでしょ。

 

 私は胸を撫で下ろし、母子の見えるカメラから接続を切った。

 そしてあの子供がベランダの柵へよじ登って、目を丸くして見ていた対象を眺める。

 

「東京タワーか……」

 

 わかりやすいほどのランドマーク。初めてベランダを乗り越えて、見えたそれは子供の心を惹きつけたようね。

 よし、これもなにかの縁。

 東京タワー辺りで、あの子の祠を探してみましょう!

 私は品川方面に背を向けて、北北西へ進路を取った。

 

 

 徒歩で。

 

 しかたないじゃない! お金ないんだから!

 

 ……………きっつ

 

 

 + + + + + +

 

 

 その日、彼女は疲れていた。

 

 夫を送りだし、遅めに起きた娘へ食事を与えたあと、保育園の手続きで役所に持って行く書類について考えながら、後片付けをしていた。

 

 あれもこれもと考え、どこかおろそかになっていた。彼女は決して、子供から目を離すような母親ではない。

 人には間というものと、その時の体調や精神の波と、めぐり合わせた刹那がある。今日の彼女は間が悪く、疲弊していて、一瞬の隙があった。

 

 子供を視界に入れず、たまたま買ったばかりのおもちゃボックスが空っぽで、少し疲れがたまっていて、考え事があって、忙しく後片付けをしていた。

 

 すべてが運悪く重なっていたが、それを覆す何かが起きた。

 

『あぶない! ベランダを見て!』

 

 不意に女の子の声が聞こえた。

 一瞬、娘かと思ったが滑舌が幼児のそれではない。生の音声ではなく、低出力のスピーカーから発せられた響きの声だ。

 食器を置いて、視線を上げるとクマ?

 おもちゃのクマが立ち上がって、ベランダを指し示していて────

 

無意識

 

 次にあった光景は、泣いて抱きついている我が子と、見慣れた我が家の天井だった。

 子供を引っ張り、庇ったため、したたかに尻もちをついたが大事はなかった。子供の食べかけが載った食器が散らばり、その上に倒れているので状況は良くない。

 だけど、そんな状況を引き換えにしても、あまりある大切な存在が手の内に残っている。

 

 もしも気が付くのがもう少し遅かったならば、その手の中には何もなかった。

 その事実に、いまさらながら身の毛がよだった。

 

「ああ、なんて……。ごめんね! ああ、良かった……」

 

『良かった……。気をつけてね』

 

 母親の安堵の声と同期したように、少女の安心した声が、クマのおもちゃから聞こえてきた。

 

 子供を抱えあげて振り向くと、クマのおもちゃを覆うように、中学生くらいの女の子が、映像として重なっていた。

 どこかの制服らしき服装で、セミショートの可愛らしい、だが強さを感じさせる勝気な少女。小さな火花……電撃を纏いながら、やさしく微笑んでくれている。

 

 ARグラスなんて、かけていたらしら。と、顔を撫でるが何もつけてない。肉眼である。

 よくできたおもちゃではあるが、あくまで簡単な受け答えが出来るだけで、能動的な発言はできないし、もちろん映像を投影する機能なんてない。

 

「あ、あなたは……」

 

 母親は子供をあやしながら少女に問いかけるが、反応はない。

 視線を窓……の向こうの東京タワーに向けている。

 

「そこへ居る……いえ、行くつもりなの?」

 

 続けて訊ねるが、やはり反応はない。もう母親を見ていないようだ。

 

 フッ……と、少女の映像が揺らぎ、クマのおもちゃのよろめいた。

 

 小さなクマのおもちゃが、床に倒れるまでの短い時間に、少女の映像は掻き消えた。

 

 すべてが心霊現象を思わせる光景だったが、不思議と恐怖はない。

 母親には電を纏った少女が、娘を助けてくれたとわかっている。

 だから自然と、無意識に母親はクマのおもちゃの向こうにいる「なにものか」に手を合わせた。

 感謝の仕方というものは、いろいろとある。

 

 彼女のそれは、上なる物、神という存在への感謝だった。

 




わかりやすくサーボアンプをサーボモーターに変更。
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