とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
今回当初は美琴一人称で書いたのですが、途中でおかしなことになったので三人称で書き直しました。
ネットは白熱していた。
劣勢になった雷神ガールを見て、爆発的な反応とリプライが繰り返された結果だ。
その状況を御坂美琴は知らない。それどころじゃない……体調不良は演算力の低下に直結する。
咳き込む御坂美琴を見て、すっかりトカゲか恐竜人間と成り果てた氷川は躊躇なく間合いを詰めてくる!
「くっ!」
なけなしの演算力を使い、電磁浮遊を利用して後ろへ飛び攻撃を受け流す。
なんとかクリーンヒットは避けたが、浅く当たった拳が服の裾にひっかかり、御坂美琴の身体は警察レイバーより高く舞い上がってしまった。
エントランスを破壊して蹴り跳び、氷川の巨体も御坂美琴を追いかける。
警察のイングラムplusがこれを捉えようとするが、レイバーの腕を氷川の足場に提供してしまった形となった。
いくらバージョンアップされて動きが最適化されていても、二メートル強の人間がレイバーの頭上をジャンプで跳んでいく軌道を捉えるなど難しい。
常識では想定されてない動きと対処を求められ、イングラムplusの反応が遅れたのだ。
「なーんてこったっ!」
銭形警部はこの光景を見て、街路樹でヒモに解くため暴れながら慙愧のような声をあげることしかできなかった。
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浄水場施設へのテロが世間を騒がせ、氷川インダストリーが警察の強制捜査を受けてテレビがネットが騒いでいたころ。
それでも人々の多くは、日々の営みに追われている。
東京港区の都営アパートに住むその家族も、その多くの人と同じ生活をしていた。
小さい子供がいる主婦ならば、より顕著だ。
夫の出社を見送り、娘の世話が精一杯で、テレビが大騒ぎになっているなど露ほども知らない。
ネットの盛り上がりなど、なおさら届きもしない。
娘の食事を終え、余裕を持って片付けを済ませる。
主婦はクマのぬいぐるみで遊ぶ娘を抱いて、窓から見える東京タワーを指差した。
「はい、一緒にお祈りしましょうね〜」
娘が助けられたその日、東京タワーにまでいったが彼女の姿はなかった。
なにをしているんだろうと思った主婦だったが、こうして感謝するくらいはいいだろうと思っていた。
ボリュームを絞ったテレビでニュースが大騒ぎしているが、小さい子供がいる主婦の方こそ毎日が大騒ぎだ。
娘が朝食を食べ終え、片付けが終わるまで気を抜く暇はない。
事実、一回だけ気を抜いた時が、あの事故寸前だった。
主婦は掃き出し窓は開けず、東京タワーに向かって手を合わせた。
娘も見よう見まねで、クマを抱いたまま手を合わせる……と、なにかが東京タワーの前を横切った。
「あーっ!」
娘は母親に何かを訴えようと指さす。しかし、母親は目を閉じていたため、横切った存在も娘の行動にも気が付くことはなかった。
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氷川の肥大化した腕に殴られ、盾にした車のドアが突き抜かれた反発力で、御坂美琴は大きく跳ね飛ばされた。
自分を浮遊させつつ車のドアを周囲に磁力をまとい浮遊させているのだから、そこに大きな運動エネルギーがぶつかれば軽い方の御坂美琴が跳ね飛ぶの当然である。
さらに高く吹き飛ばされた御坂美琴は、急な反発による
空中で弧を描き、対抗策を考えるがどれもまとまらない。
そもそも風邪で脳がぼんやりしている。
能力の制御もままならない。
真っ逆さまに落ちていく。
危険だとはわかっているが、まずなにをしたらいいのか御坂美琴はわからない。
追撃を警戒? 落下を防ぐ? どこかに隠れる? 逆転の一手は?
問題は浮かぶが、解決どころか思考すら風邪の影響で難しい。
せめて落下だけは回避しないと。
──御坂美琴はとあるビルの部屋に、祈る姿の女性を見た。
見覚えのある幼児が、こちらを指差している。
(背中側には東京タワー…………ここはっ!)
風邪で弱りきった御坂美琴の頭脳に電撃が走る!
一瞬だけ脳が活性化し、能力の制御がかろうじて行えた。
御坂美琴は閃いたアイデアを実行するため、落ちる場所を選んだ。
東京のど真ん中で、わずかに木々が茂る場所に御坂美琴は落ちていく。
氷川もビルを蹴りながら、その御坂美琴を追いかけて降りた。
御坂美琴の落下地点は、東京にわずかな敷地を持つ社。
境内は木々がひしめき、縮こまったような社が一つあるだけの東京に残されたところ。
氷川は大きな音を立てて石畳を叩き壊しながらも、危なげのない着地だ。
一方の御坂美琴は、木々にひっかりながらなんとか植え込みの上に落下し、かろうじて大怪我はしていないという無様な様子だった。
「いいザマだな、雷神! きさま程度が雷神ならば、この私は全知全能の神だな! そう、このスピリッツをもって、あらたな世界をつくる創造神と言えよう!」
大口を叩く氷川は、少しだけ御坂美琴からの反論を求めていた。
御坂美琴はなかなか生意気な口を聞く小娘だと氷川は考えているようで、それを口撃でもねじ伏せてやろうと思ったのだろう。
穴だらけな大言壮語をすれば、きっとそこをついて言い返してくる。
そう思っての創造神や全知全能の神などといったのだが、御坂美琴からの反応はない。
「どうした? 雷神? ふっ……。まさか……まさかこれで終わりか?」
薙ぎ倒した植え込みの上で、ぐったりとしている御坂美琴を見下ろし、鼻で笑う氷川。
終わりならばそれでいい。
トドメを差し、あとは警察を始末して……と腕を振り上げたとき、御坂美琴が弱々しく口を開いた。
「私は雷神ではありません……」
それはとても今まで対峙していた女の言葉とは思えない。
氷川は勝ったと思って笑った。
「だろうな」
「と、ミサカは急に身体を返されて傷の痛みに驚きながら答えます」
妙な語尾に氷川が眉を顰めた直後、神社の本堂から雷光が放たれた。
「な、なんだ!」
振り向いた氷川は、あまりの閃光に手をかざして光を避ける。
わずかに覗き見た先では、小さな社の中から不釣り合いなことに、およそ収まっていたとは思えない大きさの人の手が伸びて出てくる。
いや、それは手? ……なのだろうか?
少女らしい細い腕の先にあるはずの手のひらが、平たく潰された楔のような物体となっている。
それはバラバラと引きだされるように、短冊の網飾りのような形となって伸びて広がっていく。
氷川も科学者である。
そんな腕をした存在いるはずがないと否定する。
だが、あれは腕だ。
高エネルギーが圧縮されて、なんとかこの世界で形を作っている存在だ。
続いて身体が出てくる。
社の扉は小さいため、いくら華奢な少女といえどそこから這い出るのは不可能だ。
しかし白い肌をした身体が姿を現し、次いで捻れた額の角が頭頂部で交わり長く天を突く。
荒々しく広がる短髪と、短冊の網は翼のようで、膝からしたは踵のないエネルギー体。
「まさ、か……そこで、そこで体を形成しているのか! どこから物質を、それだけのエネルギーを得ている! 鵜渡根島のアレとて、コアが必要…………そこにコアがあるのか!」
科学者の端くれである氷川は、これら現象を観察し、観測し、推測してしまった。
致命的な時間の浪費である。
この貴重な時間を与えてくれた氷川を、白く光る御坂美琴の形から変貌し形成された何かが睨みつけて叫んだ。
「やってくれたわね、氷川誠一郎!」
神秘的な姿をしながら、御坂美琴は御坂美琴らしいセリフを吐いた。
妹「お姉様に傷モノにされてしまいました。とミサカは常盤台の
美琴「ちょ、あんた言い方! それになんなのよ、その動き! やめなさい! それからこれは氷川が悪いのよ!氷川が!」
妹「体調管理もできないお姉様が原因だと、ミサカは確信を持ってここに断言します」