とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》   作:大体三恵

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プログラマブルロジックコントローラ

 この世界に来た二日目、私は不思議な神社を見つけた。

 

 周囲の電磁波は減退されていて、東京の中心で妙な静けさがあり、真夏でも涼しく空気は澄んでいて神聖さを感じられた場所だった。

 科学の徒が神聖さとか、ちょっとありえないかなと思うけど聖別を意識することは誰でもあるはずだ。

 

 その神社で身体を再構成して、私は自分の正体に気が付いた。

 

 網短冊状なって腕から分離した手は、羽ばたけば飛べそう。

 神社内にあった鏡を覗き込むと、白目が黒くなり瞳孔が金色に輝いてる。

 捻れた角は長く額の上に伸び、そこから上に伸びてさらに天を突くように伸びている。

 抱き合わさった角の間には、第三の目みたいなものがあるけど、これ本当に知覚能力がある。

 普段の電磁波レーダーと電磁波視認能力に加えて、周囲の物質のデジタル数値化までしてくれていた。

 ちょっと処理能力が追いつかないけど、集中すれば物質の解析もできそう。

 

 だから、この姿になって全てではないが、ほとんどを理解できた。

 

「はあ…………そっか。私、バックアップだったんだ」

 

 リストアテストされなかったバックアップ(破損したままのデータ)

 大覇星祭で操られた時、膨大なデータを流し込まれた際に侵入側が勝手に()をバックアップしてくれやがったわけね。

 

 どこにバックアップされて、どうやってこの世界にアップロードされたのかまでは、経路が辿れない。

 だけど確実に、私は御坂美琴ではない。

 今頃きっと、本物の御坂美琴はあの学園都市で、元気に暴れ回ってくれていることだろう。

 

 うーん、どうもなにかよくわからない力が関わったログ(形跡)があるのよねぇ。

 御坂妹(シスターズ)たちは今いる子たちが全員そうしているように、もう死んでしまった一万人分の記憶も並列化して持っている。

 そこに誰か違法? 不正なアクセスをしてきた気配があるんだけど、これはわけわかなすぎて辿れない理由で、それがこちらの()をこの世界へ産み出した原因っぽいのよね。

 

「お姉様……。お気づきになったんですね? と、傷の痛みに耐えながら私はお姉様を気遣いながら言います」

 

「ああ、うん。わかっちゃった。なんか、悪いわね。気を使わせちゃって」

 

 うろたえている氷川の向こうで、あの子(9982号)が哀れみにも似た表情で語りかけてきた。

 きっと、オリジナルの私は、あんな顔であの子たちを見ていたんでしょうね。

 自分がこの立場になると、なんかもう呆れるわ。

 

「はは……。これから、あんたたちにどんな顔して会えばいいか……。似たようなもの……。ううん、クローンという遺伝子コピーした生命体じゃなくて、個の情報コピーとエミュレータの結果だから、生体プログラマブルロジックコントローラってところね」

 

 一卵性双生児がそうであるように、クローンは遺伝子が同じ別人となる。だけど意識情報のコピーは、その性質上別個体だが別人とは言いにくい。

 別人どころか人……いえ、これはもう生命といえるかも怪しい。

 

 私が今まであの子(9982号)のクローン体を制御してたように、今、この人ならざる姿を制御しているように、ただ動かせるものを動かしているだけの【没入指揮(イマーストコンダクタ)】ってわけか。

 

「で、この鏡、封印だったのね」

 

 御宮の中から這い出した私は、収められていた御神体としての鏡をそっと雲型台座へ戻した。

 

 神社の狭い御宮の中で、今の私の肉体が作られ、なんとか生成途中から順番に身体を出せたけど……。

 これってそのまま中にいたら、いまごろぎゅうぎゅうになってたと思うと笑えない。

 

 たしかこれってヴェスパニアで見つかった鉱石で本来なら地下深く、地殻とマントルの境界線あたりじゃないとないはずの鉱石だとか?

 古くに日本へと流れ着いて、鏡として加工されたのかしら。

 不思議なこともあるものね。

 

 それにこの私の形成する物質も、コアとなってる赤いサッカーボールみたいなのって……鵜渡根島で見つかったアレよね?

 警視庁の特車二課にいるハンターウルフって子のやつと同じ?

 

 鵜渡根島の神社に、このコアみたいのあったっていうけど、本土にもあったのね。

 これ、私以上の話題になるんじゃないかな?

 ヒラムのおじさん、余計に歓喜しちゃうわね。

 

「き、きさま! なにものだ! どうなっている! どうしてそこにいる! どうなっているんだ! これはいったいなにが起きているんだ! り、理論のりの字もわからんぞ!」

 

 氷川がトカゲみたいになった巨体を揺らしている。

 ただでさえ、ヴェスパニア鉱石混じりの鏡のせいで、演算能力が低下しているのに、私の妨害が入ってるから息苦しいみたい。

 

「はあ……さすがにこうなると、科学者としてのあんたにも同情するわ。わけわかんないでしょうね。私もわかんないところあるけどね」

 

 私と同じ姿をした存在が二人いて、片方は人間の姿をしていない。ああ、氷川も人間の姿をしていないわね。

 ところで、私の服は今どうなってるのかしら?

 まさか裸ってことないわよね……あ、これ霧ヶ丘女学院の制服か。

 あの人(氷華さん)と同じだ。

 うーん、やっぱりあの人、普通じゃなかったのかな。

 

「説明するとなると、膝を突き詰めてじっくり2時間くらいかかるから悪いけど教えてあげないわ」

 

 氷川も科学者の端くれだし、いちから説明してあげたら質問攻めで終わらないと思う。

 

 そして氷川も息も絶え絶え。立っているのも限界みたい。

 近くで膝をついているあの子(9932号)を気にしていな……って、おいこら。あんた、体育座りで観戦モードに入んな!

 

「悪いけど、今の私はインチキよ」

 

 氷川がアルゴンガスの塊を放ち、私は腕から離れてしまった手を振るう。

 不可視の攻撃と、可視が不可能な攻撃がぶつかって消える。

 

「それ、駄目よ。ここって電波が吸収されてctOSが弱まってるから……って、ほら」

 

 みるみるうちに萎んでいく氷川。

 筋肉は減っていくのに、皮膚を覆っている鱗はまったく変わる様子がない。

 小さくなっても鱗は同じ大きさだから、防御性は上がってるだろうけど互いに重なりあって動きにくいでしょうね。

 

「あんた、気がついてないでしょうけど、その頭に埋め込んだctOSの受信機とフーリエ解析増幅器。一種の生命維持装置になってて、機能が停止したら死ぬわよ」

 

 負荷をかけて機能制限をかけている理由も、私がハッキングしてしまうと生命停止の恐れがあるからやめただけ。

 手加減というより、私が人殺しになりなくないからctOSへの負荷を選んだだけにすぎない。

 

 氷川は頭痛もひどいのだろう。

 このままでは死んでしまうと、神社の敷地から逃れようとする。

 

「そして、外に出たら……」

 

 氷川が道に出て一息ついたとき……。

 私の編み短冊状の手が、氷川の巨体を薙ぎ払った。

 

 この攻撃、あの第七位すら見切れない音速の遥か越えの速度なので、直接ぶつけたりしない。

 近くまで伸ばして引き戻すだけで、衝撃波が勝手に相手を叩いてくれる。

 

 氷川はアルゴンガスで自分を包んでいただろうけど、ただでさえ薄くてすぐ霧散してしまうそれは、音速越えの衝撃によって砕けてなんの意味もない。

 

 再び膨らみ始めていた氷川だけど、その巨体がアスファルトの上を転がって街路樹を薙ぎ倒していく。

 倒れた街路樹の上で呻き倒れる氷川に、私は雷の速さで移動する。

 

 トカゲ顔の氷川が怯え、直後に激突の痛みで悶えだす。

 

 その姿を見下ろし、一つ提案をしてみる。

 

「どう? 大人しく警察のお縄になるってなら、脳内の脳波解析増幅器。スタンドアローンに書き換えてあげるけど? 能力は使えなくなるかわりに、死にはしないわ」

 

 身体の鱗とか変化は、外科手術でもしないと治らないだろうけど。ま、それは断言できないし私が言うことでもない。

 氷川はいよいよ観念したのか。

 

 野望と欲に満ちて爛々としていた目はそこになく、どこかここじゃないところ……私の後ろの東京タワーでも見てるんじゃないかという遠い目をしていた。

 そんな氷川のひび割れた唇から、弱々しい声が絞り出される。

 

「雷神、聞け……聞いてくれ……」

 




 伏線回収回です。

【ヴェスパニア鉱石】
 ルパン三世VS名探偵コナンで出てきたあらゆる電磁波や電波を吸収するという鉱物。
 加工方法とかわかりませんが、現代社会では相当ヤバイ物。
 普通に御坂美琴やゾイドより危険物。

 神社に納められた御神体【ゾイドコア】(後述)を鎮めるため、ヴェスパニア鉱石を含む銅鏡が一緒に奉納されたものです。
 アイデアだけで書くかどうかわかりませんが、御坂美琴が江戸時代あたりで受肉?する予定もありました。
 その当時のものが、この神社に封印されているわけですね。ほっとくとゾイドになるかもしれないので。
 
 このヴェスパニア鉱石ですが、のちのルパンVSコナン映画でさらに盛られて、ちょっとした加工でEMP兵器になるとか、近くの電子機器を不調にしたり壊したり、危険性マシマシのブツに。
 あれ? 
 これもしかしてミノフスキーりゅ……

【ゾイドコア】
 ゾイドの作品によって設定が違いますが、個体差があったりクローニングすると生命力が下がるなどの設定は踏襲しています。
 御坂美琴がシカゴで肉体?を得た時、握られただけで砕けたのは生命力が非常に低い個体のコアだったため。
 カルフォルニアは普段の御坂美琴が再現されるくらいのコア。
 飛騨山中のコアは雷神モード(フェイズ5.1)が再現できるくらいのコア。
 東京の社のコアは、フェイズ5.2を再現できるくらいのコアです。

 なお、現地御坂美琴内部にコアがあったわけではなく、付近のどこかにあるコアから投影されて遠隔操作となっています。
 なので離れると崩れて、不在金属(シャドウメタル)が残る設定となってます。

複製御坂(ミサカバックアップ)
 大覇星祭でフェイズ5.3まで引き上げられたとき、ミサカネットワークと【外装代脳(エクステリア)】と虚数学区に御坂美琴の情報がRAIDバックアップされた。という独自設定。
 作品当初からバックアップであり魂は存在していない設定で、繰歯涼子のドッペルゲンガーに近い存在としています。

・ドッペルゲンガー→学習したプログラムが繰歯涼子のように振舞う。
・ミサカバックアップ→膨大なデータが外部装置(御坂妹(シスターズ)やゾイドコア)を得て御坂美琴のように振舞う。

 御坂美琴VS食蜂操祈のSSで、御坂美琴が雷神モード(フェイズ5.1)になったので、一回だけリストアテストされて若干大覇星祭の後の記憶も保持しています。ドッペルゲンガーを知っているのはこのためです。

 またRAIDのように分散してバックアップされていたため、一部欠損したり自動修復で本来の御坂美琴と違いが生まれてます。
 短パン履いてないのに恥ずかしがらずガンガン動くところとか、やや攻撃性が低いところなどはそんな理由です。
 さらに上条の右手のせいで、彼についての記憶もいくつか欠落しています。が、好意や張り合いの感情は受け継いでいるので、情緒はオリジナルより激しくなります。

 当作中で開示される可能性はないので、バラすとミサカバックアップがこちらの世界で意識を持った原因はエステル=ローゼンタールと菱形幹比古(ひしがたみきひこ)
 渾沌が1万人の御坂妹(シスターズ)の死の記憶を抽出する際に、フィルタリングされたデータがバックアップのため再度転送が行われたという設定。
 御坂美琴(とミサカバックアップ)は死霊術の知識がまったくないため、フェイズ5.2の目をもってしても解析できないため気が付いていません。
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