とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
「人は、そこに行ってはいけないのでは?」
昭和初期。
飛騨の高い山々を遠くに近くに右に左に望み、そんな疑問が少年氷川
氷川精一郎は飛騨の山奥に生まれ、高い山に囲まれ深い森と高い木々を見て育った。
飛騨の山は険しく、この地に住むものでも軽々しく登り、行き来できるものではない。
実質、壁が南北に走っているといっていい。
ある日、精一郎は父親の事業で麓の街に降り、汽車に揺られて富山の街へ出た時、精一郎は痛烈に思った。
「ここが人の向かうべき場所だ」
この発言は富山の街そのものを差しているのではない。
文明的な生活を成せる街を作り出す目標として、人が作り出した街の営みが到達点という意味である。
人が行きかい活気があふれ、商品が店に豊富に並び、富山市営軌道の市電が街を走る。
文明が街を豊かにしている。
山奥や険しい山頂は、人が向かうべきところではない。
荒々しい自然に揉まれながら、それをさすが大自然だなと良いしれながら生きるなど趣味が悪いというほかない。
飛騨の山の北端、劒岳では20年ほど前に日本陸軍肝入りで測量隊が送り込まれたというが、必要であれどそれは文明への足掛かりにすぎないと精一郎は考えていた。
人に限らず、生命は環境を変える存在である。
過酷な環境をやせ我慢したり、ましてや環境そのものなどになってしまってはならない。それは一種の停滞である。
氷川
先ほどまで人だった少女は、今や氷川以上に異形の姿となっている。
雷神と世間は騒ぐが、今の彼女はそんなイメージとは異なっていた。
しかし、その存在がとんでもない高みに届いていることは、氷川でも理解できた。
「雷神、聞け……聞いてくれ」
「なに? 遺言? 安心して。殺したりしないから」
どこまでも大人を、
だがそれは大自然の暴威を体現したその姿にぴったりだな、と氷川は笑ってしまった。
「人は……我々は、そこに行ってはいけないのではないか?」
自分などより遙かの高みに達している少女を拝し、氷川はそんな存在からせめてもの答えを聞きたかった。
雷神娘はちょっと驚いた顔を見せたあと、生意気な子供特有の笑みを浮かべてバカらしいとばかりに肩をすくめていった。
「それを決めるは人じゃないし、私でも決められない。ましてやあんたごときが決めることじゃないの。ま、負け犬の感想として覚えておくわ」
聞くだけ聞いてあげたわよ、という態度で、雷神娘は最後の電撃を放つ。
氷川にとって彼女は、どこまでも気に入らない小娘であった。
+ + + + + + + + +
気がつくと、氷川は病室の中にいた。
よくある無味無乾燥な病院の一室だが、そこが警察関係の病院だと理解できた。
能力がうまく発揮できないどころか、身体の自由も利かない。
変貌の無理がたたって、肉体にひどいダメージが残っているようだ。
氷川は自己判断する前に、当然の結果だと受け入れる。
呼吸もままならず、酸素吸入機頼りだ。
静かな夜……ではない。計器の定期的な作動音と、通りに面しているため交通の音が耳障りだ。
「100年の夢も終わりか…………。だがまだ終わりではない」
氷川は懲りてなどいなかった。
新たな目標ができた。
それは雷神である。
雷神になるのでも作るのでもない。
「あれを制御したい!」
人は環境を変える存在である。
あれほどの大自然の暴威を、この手で制御できるならばどれほどの達成感が得られるか?
自分や他人を、新たな存在にするより、大きな力を捻じ伏せるほうがよほど人間らしい。
そう氷川は決意を新たにした。
「そうだ。いままでの成果を取引に使い……実績は示しているのだが……。私ならば、国をスポンサーにつけて…………」
弱った身体とは対照的に、氷川の目が爛々と輝きだした。
その時、水を差すようにその目を、緑の光が照らした。
何事かと氷川が横を見れば、 オシロスコープ型のベッドサイドモニターの波形が乱れていた。
氷川のバイタルを示していた波形が、一瞬もつれた糸のようになり、次には文字となった。
『みているか、ひかわ』
一筆書きのような文字が、オシロスコープの画面に表示されていた。
オシロスコープは波形を表示する機器ではない。
厳密には時間経過と電圧差を関数に落とし込み、それは視覚化するものだ。
入力するデータを変えれば、一筆書きで複雑な図形も描ける。
しかし、ひらがなやカタカナを表示するのが精いっぱいのようである。
短文が続く。
『おぼえているか?』
『ささき あいを』
ささき あい。おそらく名前だろう。
氷川は記憶を辿るが、思い当たらない。
「佐々、木?」
『47 バン だ』
オシロスコープで苦労して書かれた読みにくい数字。
氷川の脳裏に、実験体のリストが浮かぶ。
たしかに四十番代、そのあたりにそんな名前があった。
女性の実験体は少なかったため、失敗であっても覚えていた。
『カノジョ には』
『ゆめ が あった』
氷川はおおよそ察する。
復讐か。
警察病院内部にどうやって侵入したのか?
監視室につながっていない、病室での視覚的確認用のベッドサイドモニターというスタンドアローンのシステムにどうやって介入しているのか?
そこまではわからないが、目的は察した。
オシロスコープはさらに乱れ、氷川へ強いメッセージを叩きつける。
『ひかわ おまえ は』
『カノジョ の うた で』
『シね』
直後、氷川の脳が電撃で弾けた。
警報は鳴らない。
だれも氷川の異変には気がついていない。
モニタリングしている警察も、氷川が身をよじっているようにしか見えない。
周期的、いやリズムを刻むその電気信号は、緩急があった。
脳を揺さぶるような衝撃がなければ、それは心地よいものであったかもしれない。
「こ、これは! ごれは、ごれば! 歌、がぁあああっ!」
氷川の脳裏に故郷の雪を冠した高い山々が浮かぶ。
人が立ち入ってはいけない場所があるように、人が使ってはいけない道具がある。
そして使い方を間違ってはいけない技術もある。
「ごれは! 間違って、間違ったづかいがだぁぁぁだっ!!!」
『どの くち で』
『ツ』
オシロスコープは最後に冷笑して見せ、機能を停止した。
情報の海に溺れて、同時に氷川の脳も機能を停止した。
+ + + + + + + + +
夜の東京、中野区。
中野駅の北側には、中野ブロードウエイと大学のキャンパス。そして警察病院がある。
警察病院のシルエットを眺めながら、すぐ南の大学の四階廊下でスマートフォンを操作している美青年がいた。
いや生物学的に、そして戸籍の上では女だが、見た目は線の細い美青年である。
スマートフォンにはなぜか病室のような映像が写っている。
美青年が操作するとノイズが走り、病院の廊下が画面に映る。
どうやらのカメラは自走するドローンのようで、低い視点で移動している。
美青年は走行型ドローンを操作し、通気口や点検口、排水口などを介して外に誘導する。
走行ドローンはそのまま近くの広場まで行く。
美青年は最後の操作として、ドローン自らゴミ箱に飛び込ませて自壊させた。
直後、スマートフォンの画面は病院外の監視カメラ映像。次に道路の監視カメラ映像。そして最後に大学の裏門の監視カメラ映像に切り替わり、青年の手の中の画面はアプリ初期画面へと戻った。
青年は役目を終えたスマートフォンを懐にしまうと、さきほどまでデジタルで侵入していた警察病院を眺めた。
「仕返しはレールちゃんがしてくれたけど、仇はボクが取らないとね」
オシロスコープで描いた『ツ』に似た笑みを浮かべた後、急に冷めたような真顔となって深いため息をついた。
「麻取がボクの夢だったんだが、カノジョの夢を殺しにつかってはその資格はないな……。いや、黙っていればわからないか」
そう呟いた時、スマートフォンに着信があった。
一度しまったスマートフォンを取り出し、電話に出る。
「もしもし?」
『おう、ヒロヒロ! 今、どこにいる?』
仲間の
「今? 大学のキャンパスにいるよ?」
『大学ぅ? ヒロヒロの薬学部、夜間やってたのか』
「ちょっと用事があってね。アスキーこそボクに用事かい?」
「ああ、そうだ。あのレールちゃんのやつがまたやからしてな! すまんが車を回して欲しくて」
「いいよ。用事も終わったから」
騒がしくなり始めた警察病院をチラリと横目で見ながら、車のスマートキーをポケットから取り出す。
「ボクは
『場所は……ええい、おとなしくしていろこの雷神娘が! すまん、ヒロヒロ。場所は──』
一度、ここでひと段落です。
しばらく後日談や世間の反応、大統領襲来!など短編構成になると思います。
【真優】
ほかのメンバーは紹介や元ネタなどありましたが、このようなキャラであったため、わざと紹介をしませんでした。
下手に二次キャラを使うと問題があると思ったので、オリジナルです。
御坂美琴が警戒してたのは、その性質ではなく秘めた復讐心から漏れ出ている何かでした。御坂美琴本人はそこまで気がついていませんが……。
ウォッチドックスといえば、やっぱり復讐すべきラスボス相手の心臓に銃弾を叩き込む……ではなく出られない部屋に追い込んで生命維持装置の操作で苦しめて◯す!ですね。
真のラスボス相手では、どっちが先に銃を拾えるかで決まるなど渋い渋すぎるゲーム!
続編では追い詰めるだけ追い詰めて、のんびり現れた縁もゆかりもないモブ警官に逮捕させるという尊厳破壊さも地味も地味!たまらん地味さ!
なのにU◯Iはなんであんなことに……
当初、【
いやミサカバックアップも酷いですが。