とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
達人チャンネル
PCが起動し、
古風な建物を背景に似合う古風な装いの男性が、明るい調子で背景に似合わない態度で姿を現す。
「はーい。未吹古武術チャンネルにようこそ。進行の鰯水です。ではですね。今日は横受け身の講義をね。師匠の実演の元、指導していこうと思います。よかった高評価と、チャンネル登録、お願いします。していこうと思います。では、先生。お願いします」
「どーれ」
ぬらり…………。
と、高齢の道着姿の男性が前に出る。
:> でた。未吹先生のどーれ。
:< どーれ
:> どーれ
:< 達人の貫禄
:> 毎回、このじいさん、用心棒の先生だな
コメントの反応はよい。
視聴者は多いわけではないが、それなりに常連がいるようだ。
「皆さんもね。学校で柔道の授業があって、受け身の練習をしたことがあると思いますが、あれは後ろ受け身と前受け身でして、横受け身はあまり馴染みがないと思います」
鰯水はそう言って、柔道で行う横受け身をしてみせた。
完全に仰向けには倒れず、わずかに指先をみるかのような姿勢で身体を傾け足を上げつつ勢いを殺し右背中と畳を叩く右手で衝撃を吸収した。
「この横受け身。古武術ではまったく別のものがあります。では実演。お願いします。先生」
「どーれ」
未吹翁はぬるりと前にでて、おもむろに後ろへと倒れる。
横受け身と言いながら、未吹流では後方へ倒れた時の受け身なのだ。
柔道の後ろ受け身と同じように、両手で畳を叩く。
だが後ろ受け身と違い、腰を右に捻り肩も片側の肩甲骨が畳につく。首も捻って右を見ており、左足に至っては、曲げて横へ向け膝を突き出している。
その突き出した左膝を支点にし、すばやく左足先を振ることで受け身の衝撃と反動を使い、未吹翁はすぐさま横に翻って立ち上がる。
「と、このようにね。未吹流の横受け身は、倒れた時の衝撃を利用してすぐ横移動しながら立ち上がれます。横受け身は、肩から下を横にねじる形でね、受け身をとります。素人さんは逆に、後ろから倒れて背後が見えない後ろ受け身より、この形の方が怖くないかもしれません。が、かえって難易度が高く安全度が下がります。下手やると腰、打って痛いんですよねこれ」
:> すぱっと立ち上がった!
:< すげぇ(地味だな…
:> 初めて見た
:< なんで柔道だと残んなかったん?
:> 安全性の問題かな?
地味な講義が、常連はわかっているようで不満を言うものはいない。
このような地味な配信が続くかと思われたその時……。
「お爺様!」
ラフな服装だが、育ちの良さそうな黒髪の少女が乱入してきた。
未吹翁の孫娘、未吹 華散である。
「お、お嬢! 今、配信中なんですよ。だ、だめですよ!」
鰯水は乱入してきた従兄弟の娘に驚き、慌てて押し留めるようなジェスチャーをする。
決して邪魔だからという意味ではない。
彼女は見目麗しいお嬢様であるため、世界中へ配信されるチャンネルに顔を出すのは問題があるからという判断だ。
:> 美少女乱入
:< お嬢呼び!? ヤ○ザかなんか?
:> いい家だと思ったが……
:< チャンネル登録すました
コメントも華散の乱入に、やや雰囲気が変わりかけていた。
華散は視聴者や鰯水の気持ちを知ってか知らずか、堂々とカメラの前に……本人は祖父の前へ出るつもりで立った。
「お爺様! 私は達人へと到達したようです!」
「なんじゃと?」
孫娘の乱入にも動じなかった未吹翁だったが、達人という言葉には反応して険しい視線を向ける。
「はい。気が見えるようになりました」
「うむ。そうか」
:> 気って……
:< 不思議ちゃんキャラだな
:> 合気道とか古武術とかってだけで、今は眉唾だってのに、気ww
地味……いや、渋い老人による渋いチャンネルが売りだったのに、華のある少女による不思議発言でコメントはお気楽で、やや荒れ気味となった。
知ってか知らずか、華散は自信満々に胸を張って宣言する。
「お爺様に、ご披露いたします!」
そう言って華散はつかつかと篝火へ歩み寄ると、無造作に炎へ手を伸ばした。
誰もが危ないと思ったその時、炎が彼女の手の動きに合わせるように渦を巻く。
捻れば炎は曲がり、引けば伸び、ちぎれば炎が小さな灯火となって消えていく。
「……はぁっ!」
気合い一線、見えない綱を一気に引く動作をすると、炎の全てが華散の動きに沿って真っ直ぐの線となって暗闇の中へと消えていく。
篝火の炎は全て彼女によって引き抜かれ、立ち消えのように燻りの煙が上がる。
焚き木はまだ芯に熱を持っていたため、再び赤くなり始めた。ぐずるように内部では赫々とした種火が見える。
その煙へ再び手を伸ばすと、これもまた彼女の手に導かれるように引き抜かれる。
最後に焚き木が爆ぜ、完全に燻りも消え去った。
芯に残っていた熱まで、彼女の手によって引き抜かれて霧散した。
:> は?
:< はぁ?
:> 手品……?
:< これ超能力じゃね?
残り火すら見えなくなった篝火に、再度華散は手を伸ばす。
今度はわずかに離れた距離から、篝火から立ち上がる煙を
:> ファ!
:< 煙が掴まれて、移動したぞ!
:> 煙を紐みたいに振り回してる!
次の篝火に手を伸ばすと今度は火を抜き出し、それを自在に操って見せて先ほど消した篝火へと移した。
:> ジャック・オ・ランタンかよ
:< いやジャックは炎を出すほうだ。これは火を、熱を操ってる!
敏い者たちは超能力と結びつける。だがそれはごく一部だ。
達人の技か、手品かという反応が多い。
「ご覧になりましたか? お祖父様!」
「
なにそれ、知らん、怖
鷹揚にうなずく未吹翁だが、内心では孫娘の技に心底驚いていた。
そんな祖父の内心と心臓へのショックに気が付かず、華散は興奮気味に語る。
「気の漢字の成り立ちは、かつて炊かれた米から立ち蒸気を見た古代の人の不思議に眺めた様子からと聞きましたが、あったのですね。万物に気が」
「
なにそれ、知らん、怖
そんなこと教えてないと未吹翁は思ったが、配信中ということもあって達人を演じていた。
「気を放つとかはできませんが、気を見て、触れ、掴むことができるようになりました。ごらんください」
華散はそう言って、燻る篝火の薪を少々離れたところから掴んで浮かせて見せた。距離にして握りこぶし二つほどだが、それでも脅威の技である。
「人も同じように気を放っております。それを掴めばこのように……」
華散は許可も取らず、近くに居た鰯水の腕を……わずかに離れた場所を掴んで引いた。
鰯水は華散の踊るような動きに合わせて、ひょいと投げ飛ばされた。
かろうじて受け身を取る鰯水だが、不意にこんなことされたら普通は大けがである。
彼がそれなりの修練者であったから良かったが、華散はそこまで考えている様子がない。
:> うっそだろ
:< これインチキでよくみるあれじゃん
:> でもさっき、念動みたいに薪掴んでた
:< それも手品。投げられたのは演技
コメントも半信半疑、いやあきらかに信じていない人がいる。
「お、お嬢……今のは?」
「鰯水さんから放たれている気を見て、掴んで、投げました」
「は、はあ……」
立ち上がりながら鰯水は唖然と華散を見つめ、カメラをちらりと見て、師匠である未吹翁を見た。
「
なにそれ、知らん、怖
祖父の威厳を保つため、未吹翁は鷹揚にうなずく他なかった。
地味に、ジャック・オ・ランタンの天敵かも、華散。
注釈芸たのしい。
究極超人あ~るから、鰯水をお借りしました。
今は60くらいでしょうか?
若作りしてるでしょうね、彼なら