とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
──10月14日日本時間(JST)午前1時、ワシントンD.C.は13日午前12時(米東部夏時間EDT, UTC-4)
アンドルーズ統合基地へ向かうヘリ、マリンワンへ乗り込む前に、取材陣に手を振りながら応じ。
「
「ちょっと友人に会いにいくだけだよ。紹介するから楽しみにしておいてくれ」
──友人とは誰か?
近年、やや冷えている関係である日本首相のことか?
まさかライジンガールなのか?
新聞もニュースサイトも、紹介するという大統領の発言に沸き立っている。
──羽田空港。
近年、横田基地に変わり利用されることが多くなってきた羽田空港にエアフォースワンで乗りつけたグラント大統領は、日本からの歓迎もそこそこに宿泊先のホテルオークラへ移動。
報道陣を呼び出し、機動的かつ短時間の忙しい発表が行われた。
「私を追放した学会に復讐してやるんだ~~~っ!」
グラント大統領と共に現れた白衣の日本人男性が、カメラのフラッシュの中で邪悪なポーズをとって叫んだ。
突然のことに、乱入者が奇行に走ったと記者団は思ったが、シークレットサービスに反応はない。
もちろん大統領も自然体……いや、多少は発言に驚いて苦笑するという反応はあった。
叫んだ白衣の男性に大統領が語りかけ、正式なゲストであると判明する。
「きみ、学会から追放されておらんだろ?」
「いや、されたような気がするのだが」
「学会の年会費、払い忘れて退会になったと聞いたが?」
大統領に突っ込まれ、白衣の男性はなにかを思い出したようにピシャリと額を叩いた。
「……おー、そうだったそうだった。あれは息子が事故で入院して、ゴタゴタしているときだったな。うん。入院費用の口座と生活口座と研究費の口座がごっちゃになって、R制作で生活口座を切り崩してし、つい研究用の──」
報道陣など知ったことか、という動きで白衣の男性はカメラに背を向けて壁に向かってしゃべっている。
そんな奇行が止まらない男性を差し置き、グラント大統領は大統領章の張られた
「ははは、お待たせしました。日本と世界の報道陣のみなさん。今日は私のご友人を紹介しましょう!」
それはライジンガールなのか、そこで壁に向かってぶつぶつ言っている白衣の男性なのか?
記者たちが不安になっていると、会場にスーパーマンが現れた。
温和そうだが張りつけたような硬い笑みで入場したスーパーマンは、緊張なのか機械の身体が不調なのかわからないギクシャクした動きだった。
「おおお……」
歓声というより、ついに……という声が記者団から漏れるが、それらはすぐにカメラのシャッター音とフラッシュ音によってかき消された。
お台場の武装誘拐グループを一網打尽にしたスーツ姿の鋼のスーパーマン。
ロドニー・ヒューズが颯爽と壇上へ歩を進めて──
「それでも私は学会に復讐するのだーっ!!」
壁に向かって突然叫んだ白衣の男性にびっくりして身構え、大きな肉体がガシャリと音を立てた。
一瞬、警戒したロドニー・ヒューズだったが、また白衣の男性がぶつぶつと言い出したため、そっと通過。
引き攣った笑みのまま大統領の隣に立った。
「ご存知であるように、彼は子供たちを救ったスーパーマンだが、以前より彼のお嬢さんとペンフレンドだった。彼は当初、作戦行動中の行方不明となり、娘さんが私に手紙で必死に嘆願してきたんだ。そこから交流がつながり、彼も発見され、回復し、親交を結ぶこととなった」
そうだよな、という視線がロドニー・ヒューズへ向けられる。
ボディはともかく一介の下士官であるロドニーは、引き攣ったままの表情でその通りですとうなづく。こういった場には、不慣れなようである。
「そしてこの傷病兵士復帰プログラムの要である彼を……成原博士をご紹介しよう!」
「まずは我が母校を占拠し……ん? わしのことを呼んだか?」
記者団に背中を向けたままだった白衣の男性……成原博士が振り返って自分を指さす。
「そう。成原博士。あなただ」
「む……おー、おー、おー。ついにこの天才成原を世間に晒すときが来たのだな! よかろう、諸君! この成原が質問に答えてやろう」
やや困惑気味の記者団に対し、成原と名乗った博士は胸を張って自分を親指で指さす。
「ええ、っと。博士。あなたがお台場のスーパーマンをお作りになったのですか?」
「お台場? スーパーマン?」
「あー、そこのロドニー・ヒューズさんが、その改造された体を使って、武装集団から子供たちを守ったのです」
記者団の説明を聞き、まったく事情を知らなかった成原は隣にたつロドニー・ヒューズに尋ねる。
「なんと! そんなことをしたのか、君は?」
どうやら成原博士は、お台場の一件を一切知らなかったようである。
開発者であり、おそらく責任者であろう彼が知らないとはどういうことだと記者団がざわめく。
「え、ええ。まあ。なりゆき、といいましょうか」
「そう、その通り。ですいず成原
「いや名前のことではない。説明しただろう、成原博士。ははは。どうやら齟齬があったようだ。彼は自分の研究以外に興味がないものでね」
大統領も呆れ気味で、記者団に対して最低限のフォローを入れる。
しかし記者団もそろそろ成原博士の人なりに気がつき始めたようで、そういうことですか……という空気に包まれていた。
「そうか。その身体で大立ち回りしたのだな? やたら最近、交換部品を作らされたとおもったら、そういうことか。そんな身体で武器を持った相手に無謀な……」
成原博士としては、武装集団と戦ったことに不満を持っている様子だ。
それに気がついた記者団が質問を投げる。
「博士。我々は彼らをスーパーマンだと思っているのですが、博士としてはそのおつもりでないと?」
「無論だ。壊れるからな」
「壊れる?」
「わざと壊れるようにつくっているからな。このボディは」
成原博士はロドニー・ヒューズの分厚い鋼鉄の胸板をスーツ越しにコンコンと叩き、そのボディが壊れるように作ったと説明する。
これには記者団は驚いた。
頑丈に作ったつもりだが、銃器相手では壊れてしまうという意味合いで成原博士は言っていない。
わざと壊れるというのは、なんのつもりなのか。
「どういうことです?」
「うむ。いい質問だ、記者くん。頑丈、ゾウが踏んでも壊れない! 宣伝、謳い文句としては、これは結構結構結構仮面。だが、壊れる限界までどの部品も、部位も、耐え続ければ必ず他の場所に影響が出る」
成原博士の目に科学者としての光が灯る。
目ざとい記者は、その彼がやはりただ者でないと察した。
「だから壊れても影響が少ない場所、交換が容易な場所は先に壊れ、重要な部品は壊れんように作ることが重要だ」
「そういうものなのですか、成原博士?」
この記者団の疑問に反応したのは、博士にバンバンと肩を叩かれていたロドニー・ヒューズだった。
「あー、私もわからなくもないです。手の先の方に負担がかかると、肘や肩が先に壊れることが多いのですが」
「それでいいのですか?」
「意外とこれがいいのですよ。肘や肩の動きが多少悪くなっても、手首から先は動くので、持っていたものは保持できますし、指先で作業を行えます」
実際、お台場で武装集団とジャック・オ・ランタンと戦闘を行ったさいに、彼の右肩と左肘は壊れてまともに動かなくなっていた。
しかし、手首から先は動くので、少し不格好でも御坂美琴を抱えてその場を去ることができた。
もしも、肩や肘が頑丈であったならば、より細い指先などが先に破損していたことだろう。
成原博士はロドニーの実体験を聞いて、大げさに胸を張って笑ってみせる。
「なーっはっはっはっ! 同じ腕だから、平均的に負荷がかかるということはまずないからな。重い車を持ちあげた時、剛性がどこもかしこも高ければ、肩まで届いた衝撃や反動、反発が指先に帰ってくる。なら指先より大型で安価で5本の保持部品でできてる肩の1本をほどよく壊す。ま、生身では出来ん、逆アプローチだ」
「ほほう。さすが成原博士だ」
横で来ていた大統領が、ふむふむとうなずく。
これに気をよくしたのか、成原博士はさらに自慢を続けた。
「じっさい、私がつくったアンドロイドなど、首がすぐ取れる」
「首は重要なのでは?」
「重要なのは電脳の入った頭だ。大きな打撃を受けたとき、首が先に取れることで頭部内部を守るようにつくっておる」
「……首が取れて、地面へ落下したときの衝撃は?」
記者の何気ない質問に、硬直する成原博士。
「……」
「博士?」
「……」
「成原博士?」
「は、配線があるから、おそらく地面には落下せんはずだ」
「そこ、おそらくですか?」
「成原博士。すぐに壊れるように作ったということは、軍事用としてどうなのでしょうか?」
記者の一人がセンシティブな話題に触れる。
ピリっとした緊張が会場に走るが、成原博士の反応はまたも予想を裏切った。
「軍事用? 軍事用に使うのか?」
軍事用に使うと思っていなかったようで、成原博士は周囲に尋ねる。
しかしすぐに興奮した面持ちで、なにやら考え込みながらまたも記者団に背をむけた。
「そう。そうだな。軍事用に使うというならば、もっと素晴らしいものを作るぞ、わたしは! そうだな、肩ミサイル! ロケットパンチ! 怪光線! 怪光線……?」
両手で虚空を揉むようなしぐさで思考に跳んでいた成原博士は、急にはたと気が付いた。
「ひらめいだぞぉっ! お前たち、ちょっと待てい!」
「ど、どうされたのですか? 博士?」
成原博士は会見など知ったことかという様相で、会場から飛び出していってしまった。
シークレットサービスも彼の奇行に慣れているようで、わざわざ会場のドアを開けてすんなりと通している。きっといつものことなのだろう。
「ははは……すまない、みなさい。彼はちょっとエキセントリックな方でね」
なし崩しに、歴史的会見は終わった。
大統領も最後の挨拶をしてロドニー・ヒューズと共に立ち去り、記者団は雑談をしながら撤収の準備を始めた。
公式にアメリカがサイボーグを発表したことで、これからの記事作りが忙しくなる。社会復帰用のようだが、軍用にも使えるスペックではないかと話していると……。
「1980円っ!!」
なにならお手頃価格な値段を叫びながら、1メートルほどの筒を抱えた成原博士が会見場に飛び込んできた。
突然のことに、記者団たちの動きが一斉に止まる。
「……は? なにが?」
辛うじてフリーズから復帰した記者団の数人が、成原博士に問いかける。
「だから、1980円」
「なにがですか?」
「この破壊光線銃の制作費だ! ああ、怖い! これほどの兵器を近所のコンビニと文房具店の材料を使い、道端で作り上げてします自分の才能が怖い」
我々としては貴方の言動が怖いですというか、道端で工作する人も怖いです。
と言えない記者団であった。
「この場で試射してやろう! ん?」
構えた瞬間、ポロリと何かが落ちる。
ネジだ。
それを成原博士は拾い、ぴしゃりと額を叩く。
「……はて。このネジはなんであっただろうか?」
そろそろこの場にいる者たち全員が気付く。
この人、電波にのせて公共放送に流していい電波……いや放送に耐えられる人なのだろうか?
「わからんネジなと捨ててしまおう! では破壊光線のお披露目だ!」
正常バイアスがかかっていてどこか呑気に構えていた記者団も、ネジが外れた破壊光線発射砲を向けられて慌てた。
「うわあっ! 逃げろ!」
「ふぉいえるん!」
なぜかドイツ語を叫んで引き金を引く成原博士。
記者団は慌てながらも、大切なカメラなど機材を抱えて逃げ出そうとしたが、一向に怪光線など放たれない。
ただ小さな音が成原博士の構えるバズーカ砲もどきから漏れているだけだ。
「…………ん?」
異変に気がついたのか、成原博士はどこからともなく出した布団を怪光線発射砲に砲身に掛け、足を入れてコタツのように座る。
「おお! 赤外線が出ておる!」
腰が抜けたのか、膝から力が抜けたのか、がたがたと
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「なあ、この時間。コントなんてやる番組あったか? ニュースの時間だろ?」
アジトでテレビのチャンネルをザッピングしていた
「お前、この時間の民放なんてニュースじゃねぇよ、バラエティだよ。バラエチー」
作業に没頭した遊驥は、けんもほろろに質問へ対して毒舌を返した。
「報道バラエティもニュースだと思うんだけどな」
暖かい。と、バズーカ砲型こたつの中で寝始めた成原博士が映し出されたテレビを、