とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
「し、死んだ! 死んじゃった! だ、大統領が! アメリカ大統領が死んじゃった! ゆ、UFO着陸の下敷きになって、未来のアメリカ大統領が死んじゃったぁーあっはははははっ!」
ザ・オークラトウキョウでも警備が厳重な暗い一室で、私は腹を抱えて大爆笑してしまった。
プロジェクターが映し出す映像の中では、若く今よりがっしりした体格の将来のアメリカ大統領になる男子生徒がUFOの着陸で押しつぶされるシーンが繰り返されていた。
「な、なんでマルチカメラで三回も潰されるシーンを撮って、撮って……撮ってんのよ! あははっ! む、無駄な踏み潰されシーンを繰り返し…………ぐふっ! 開始1分で死んでんじゃないわよ!」
バンバンとソファを叩きながら笑っていると、隣のソファでプリッツェルを食べていたアメリカ大統領ハイラム・グラント、通称ヒラムが、余裕の笑みで答える。
「私はこの後、エイリアン役とカメラマンで忙しいんだ。それに映えある第一目撃者で第一接触者で第一犠牲者だぞ。これはこれでこれ以上の見せ場はない」
断言するヒラム。確かに一理ある。
即退場であってもほとんどの第一要素を獲得しているのだから、おいしいといえばおいしい。
けど、違うのよね。
「あんた、自分は主演って言ってたじゃない!
主演詐欺じゃないか、って私の意見に、ヒラムはわかってないなぁ〜という態度で肩をすくめて首を振っている。
「なにを言っているんだい。主役といったらエイリアンじゃないか」
「うわ! 超面倒くさい思想っすね」
一緒に映画を見ていた篠原
大統領の若い頃の映像を指さして大爆笑したうえに、いろいろツッコミしてる私が言えたことではないけど、最愛ちゃんってかなり肝が座ってる。
──さて。
なぜ最愛ちゃんがいるのか?
まだ篠原遊馬の隠し子になるかどうか、私は決めてはいないのだが、今日の予定を
そうしたら何故か、彼女から猛アタック。
なんでもB級映画ファンの最愛ちゃんからしたら、現大統領が学生時代に撮った素人映画が見たくて仕方ないとのことだ。
確認のためヒラムに伺ってみて、信用ある家の息女で、「なんか面白そうだな」と篠原遊馬がツテを使ってアプローチしたこともあり、こうして同席することが認められた。
断られるんだろう……と、思ってたけど、「ライジンガールの妹になる子ならば」ということで許可が降りたらしい。
いや、妹になるか決まってないんだけど、篠原遊馬が匂わせたか漏らしたかしたのだろう。
そしてこの篠原最愛ちゃん。
大統領相手に臆することなく、堂々と挨拶して悠々と映画を鑑賞している。
「なるほど。このエイリアンは超太古に地球から旅立ったという設定ですね」
さすが篠原家の娘さん。英語がペラペラの才女だ。
私でも少し聞き取りにくいところがある映画なのに、内容から演出と映像に秘められた情報を汲み出している。
ピクリとヒラムの眉が動き、その顔が普段の大統領と変わらない真剣な物となった。
あくまでプライベートなので、厳しさは見えないけどかなりの眼光だ。
「なぜそう思うのかね、ミス・モア」
「超やりすぎの伏線ですね。UFOの全面にあるギラギラ光るスクラッチアニメーションの模様はアッカドの楔形の文字で、地球の潜在的所有権を超主張してます。でもなんでアッカド文字?」
アッカド文字、読めるんだ。
この文字はギルガメッシュ叙事詩などが記された粘土版などで有名な文字で、アッシリア文明やバビロニアの前の文明で作られて継承されて残った。
粘土版に刻まれた楔形文字は独特なので、私でもそれとわかるが内容まで読める最愛ちゃんはちょっとおかs……珍しい。
でも、確かになんでアッカド文字? という感想は私も持った。
「私が子供の頃に、ちょうどあの有名な苦情文が翻訳されてね。アッカドの文字が印象に残ってたんだ。古代の文字だし、これは使えるぞと思ったんだ」
「なるほど。映像技術に超マッチした文字だから、チョイスしたと。確かに楔形文字は、スクラッチアニメーションと相性が超抜群ですね」
ヒラムの経緯説明を聞き、深く感じいったように何度も頷いて満足げな最愛ちゃん。
それはそれとして、知らない単語が出てきた。
「スクラッチアニメーション? って、なに?」
「映画のフィルムに一コマづつ、超ガリガリと釘やナイフで傷をつけるんです。レトロノスタルジー技術のひとつで、超昔の特撮ではバリバリとこれで電撃を表現したり、剣の部分を削ってもしゃもしゃ光が超動く光の剣に見せたりしてるんですよ」
「へえ。そういえば、UFOの側面の文字。ギラギラとか不思議な色で瞬くようになってたわね。あれがスクラッチアニメーションなのね」
「そう。一コマ一コマ楔形文字を書き込むことで、UFOの超科学さが超表現されているだろう?」
嬉しげに反応するヒラムだが、発言に最愛ちゃんの超がうっつてるわね……。
超科学が英語ではハイパーサイエンスになってるので、あってるのかうつってるのかわからないけど。……SF的にはあってるわね。
映画を見終わり、ヒラムと最愛ちゃんが意気投合して考察と意見を交わしはじめた。
「しかし、あれですね。光線銃の銃撃にもスクラッチを使ったため、印象が超薄く……」
「あれは同じエネルギー技術で、文字の投影も、攻撃にも使っているという設定で……」
「そうすると見えない力で飛行機が超飛ばなくなる技術との整合性が……」
「ああ、あれは星間文明から譲り受けた別系統の技術で……」
「ふむ。飛行機が飛ばなくなるシーンで、妙な音を鳴らし続けたのは……」
「そうだ。音響で揚力を制御する技術で……」
「しかし、説明が超まったくなかった……」
「ふふふ。気が付かなかったようだね。私がUFOに踏み潰されるシーンで流れていた音は同じで……」
「超美琴お姉様の笑い声がうるさくて聞こえなかったんすよ……」
「なにコイツら、本気のSF映画論評してんの?」
私を挟んで談義するマニアたち。
居心地悪いわね。
一応、護衛のSPとか側近の人も部屋に控えてるんだけど、この人たちは空気を読んで空気になってるから関わってこない。
談義に左右から浴びせられる私だけ、疎外感を感じているのに納得できない。
「そういえば、この映画、いっしょに撮ってたもう一人の人は今、どうしてんの?」
隙をつきを、話題をねじ込む。
ヒラムは本当にわずかな表情の硬さを見せたあと告げる。
「彼は湾岸戦争で亡くなったよ」
「あ……そうなんだ。なんか悪かったわね」
無理に話題をねじ込んで、藪を突いてしまった。
湾岸戦争。もう三十五年以上も前の戦争だ。
日本が大きく関わった第二次世界大戦ほどではないけど、それでも人の人生の半分近い年月が湾岸戦争から経っている。
急に、この馬鹿らしい映画が、誰かの宝物に見えてきた。
それを指さして笑ってたのは、申し訳なく思えてきたけど……その表情に気がついたのだろう。
ヒラムが私の肩をがっしりと掴み、微笑んでくれた。
「笑ってくれ。大いに笑ってやってくれ。彼はこの映画で笑ってくれる人を見て、いつも喜んでいた」
一国の大統領が持つ歴史の一つに触れられ、私は映画を見た満足感とは違うなにかで心が満たされ──。
「ここ、冒頭の設定と超矛盾してるっすね」
ヒラムがパンフレットと主張する設定メモを読みつつ、ずごごご……っと、氷ばかりになったジュースを吸いながら、最愛ちゃんが映画の設定に突っ込みを入れた。
大統領と亡き友人の思い出ある素人映画に超忌憚のない意見ってやつっすよと、本気鑑賞モードのドヤ顔最愛ちゃん、怖い。
「あ、あの話を聞いて、それを言えるあんたすごいわね」
「ははは。そこは撮り直したいと、彼もさんざん言っていたよ」
最愛という名前に反して、クールというより傍若無人な意見に大統領も苦笑いだ。
映画が終わったら、用はないという最愛ちゃんは大物ね。
「さて、次回作もあるのだが」
「まだあんの!」
「超ばちこいですよ」
懐からDVDを取り出すヒラムに、どんだけ! と驚く私に対し、目を輝かせる最愛ちゃん。
「しかも今回は45分映画だ!」
「正気か!?」
「超ばちこいですよ」
「ばちこいなのっ!?」
もはやショートムービーの領域ではない時間に、素人映画でそれはキツいと慄く私と違い、見るぞとソファに座り直す最愛ちゃんの貫禄すごい!
見る気なのと尋ねた私だったが、最愛ちゃんは珍しく笑顔で答えてくる。
「もちろん、C級、Z級などでしたら私でも超ツラいですが、さっきの映画を見るに、素人だからいろいろ足りないだけで、設定や構想、やろうという演出やオマージュは十分に及第点です。視聴に値します」
「ア、アメリカ大統領の撮った映画に、及第点っていえるあんたすごいわ」
私は最愛ちゃんの映画に対する真摯な態度に舌をまく。
リップサービスなんてするつもりもないって気持ちが、映画を見る姿勢から感じ取れた。
「もっとも今の大統領が、権力とお金に物を言わせたて作ったと言ったら超見る気が失せますけど」
「余計なこと言わないで、最愛ちゃん」
少しは言葉を選んで欲しいなぁ、最愛ちゃん。