とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
東京タワーねぇ……。
普段は気にもしてなかったけど、ctOSの集合端末があそこにあるかもしれないって思うと、違って見えるわね。
もしもあの天辺に、
レベル5の私だったら、強風さえ気を付ければ登れるだろうけど、今は階段を昇ることになるわよね。それも警備を掻い潜って……。うーん、ちょっと難しい。
でもまあ、まず設置されてないでしょうね。
集合端末のボックスをあそこに置くだけでも大変なのに、メンテナンスは面倒だし、祠の設置は無理だし、なんなら天候次第で障害が起きるわ。
あっても地上施設のどこかでしょう。
東京タワーへ向かう道中、高いビルがひしめきあってるなか、ひっそりと祀らた
小さいながらも、昔からあるであろう神社で、整備を繰り返して現代と近代と近世を、重ねてきた歴史が感じられる。
普段、こうして東京を───いえ23区内を歩いたことないから、いつも違う景色と、いつも気が付かない何かがあるわね。
祠と社が、自然と、点々と、当然のように大都会の中にあるなんて知らなかった。いえ、知ってはいたけどね。
情報として話には聞くし、テレビや雑誌にも書いてあるから。
ただ、私自身の実感がなかったと言うべきかしら?
いくつか社を見つけるたび、私は立ち止まる。
ctOSの端末すらないし、ましてやあの子たちだっていないのに、なぜか気になる。
東京って、こんなにも祠とか社ってあったのね。
普段は気にも止めず、視界に入っても見向きもしなかった。
ビルの壁面に、埋め込まれたようにある祠。まるで大木のうろに、安置された祠のよう。
3階くらいのビルの屋上に、祀られた社。下からは見えないけど、高い位置の防犯カメラを利用して、眺めてみた。このビルの人たちが参拝するのかしら?
と、周囲の防犯カメラをリレーしながら確認すると、裏路地側に外階段があって、そこから参拝できるようになっていた。ふむ、なるほど。面白いわね。
そんなふうに、新しい発見をしながら歩いていると、
そういえば、あの子も学園都市を散策しながら、ありふれた風景や生き物を見つけるたび、立ち止まって観察していたわ。
あの子たちも、こんな気持ちだったのかしら?
目に映る物すべてが珍しい。楽しい。好奇心が満たされる。
無表情だけど、移り気なあの子の姿を思い出し、ポケットのバッジをそっと撫でる。
缶バッジはポケットの中で、安全ピンを裏地に通して固定してある。これで落とすことはない。
私の目──いえ、この身体の目を通して、
そう語りかけながら、東京タワーを目指していたとき。
少し大きめの社があった。
敷地は車数台分。殿舎は一畳ほどの小さなものなのに、周囲の雑居ビルより存在感がある。
あ、木のベンチもあるじゃない。しかも、小さいけどもみじの木陰!
休憩を兼ねて、拝してみましょう!
一歩、鳥居を潜って、敷地に入った瞬間。
普段から周囲に発している電磁波レーダーに、何かを越えた感触があった。
「……? ん! 隔離されてる!」
殿舎を中心として、小さく電波の通っていない空間があった。ぽっかりと、まるで丸い暗闇のようになっている。あくまで殿舎の中だけの、小さな空間なのに、敷地内に影響があるかのような存在感だ。
ないのに存在感、って変な話だけど。
「まさか鉛でできた社ってわけじゃないでしょうし、どういう仕掛けなの?」
私はオカルトを信じていない。
存在は否定はしてるが、価値の肯定はしてる。
だから、参拝する気持ちはあれど、目の前の電磁波がぽっかりない空間が理解できない。
「学園都市には、電波を減退する木材用塗料とかあったけど、研究室や重要人物の自宅とかで使うならわかる。それをここで使うことは考えられないわ」
まさか社を壊して調べるわけにもいかない。扉だって開けるわけにはいかない。
「社の中には、神様しかいないわよね」
自分で言って、内心笑った。
神様しかいないって表現はないなーって。
神様として祀らてる金属製の鏡と、それの雲型台座。いくつかの札があるだけ。
「あの鏡の金属が、合金製で影響してるのかしら?」
かつて、合金制作で試行錯誤していたころは、不純物の混入や炉の温度不安定で、意図してない合金が出来ることもあるというし。
多分、あの鏡に電波を吸収するシリコンが、積層状態で混じったりしてるんでしょうね。
炉の調子が悪くて、均等になってないから、思わぬ遮断性質を持ってるのかも。
私はそんなふうに納得してみた。
あの子たちがいないなら、長居する必要もないけど、この社は小さいながらも木影があり、ちょうどいい休憩にもなった。
気のせいか、元気も出てきた。
いままで実感したことなかったけど、これがリラックス効果ってやつかしら?
疲れも抜け、暑さも凌げた。
あー、でもお腹空いたー。
社で休んだり、適度にビルなど施設内を通って、身体を冷やしてるから熱中症とかは、なんとかなっているけど、お腹の方はそうもいかない。
あれ?
熱中症とか気をつけて、冷房にあたったりしてるけど、この残暑の中、あまり汗をかいてないような?
クローンだからって、代謝機能は変わらないと思うけど、なにか理由があるのかしら?
思ったより、暑くないのかな?
外回りをしているらしい営業の人をチラリと見ると、ハンカチどころかミニタオルで顔や首の汗を拭っている。
汗をそれほどかいてない年配の女の人だって、それは制汗剤や日傘の効果だと思う。
私、日傘どころか帽子もかぶってないんだけど、どういうこと?
あー、もしかしたらあまり水分を取ってないからかしら?
朝、シャワーの後に、お高いジュースと無料のドリンクを頂いただけだったし。
コンビニで、おにぎりと飲み物でも買おうかしら。
そのくらいの電子マネーなら残ってる……とはいえ、おにぎりを買ったら最後。もうなにも買えない!
わかってるけど、止まらない!
ふらふらと、目についたコンビニに引き寄せられ、私は自動ドアを潜った。
「いらっしゃいませー」
店員の超反応挨拶に向かえられ、店内へとお邪魔した。
コンビニ店内は混んでいる。
東京23区内のコンビニエンスストアは、敷地が狭いところが多く通路も狭い。
そこに日本の人口過密度と、東京の過密度と、お昼前という条件が重なれば、混雑も当然よね。
塩分補給に、梅干しのおにぎりを選択。飲み物はそうね……。ジャスミンティー、いえ。ここはほうじ茶にしましょう。
うん、なんとか買える。
順番待ちの列に並んでいると、私を盗撮しようとしている気配があった。
はあ、しょうがないわね。
学園都市でもいたけど、あーいうのはなんなのかしら?
このあたりのctOSはまだ掌握してないから、他人のスマホを細かく操作することはできない。
でも、独自の侵入対策をしていない一般的なスマートフォンなら、クラッシュさせて再起動させるくらいならできる。
触ればデータを消すくらいできるんだけどねー。
ま、そのまま再起動を繰り返してなさい。
私はこの隙に、会計を済ませる。
「あ、袋はいりません。バーコード決済で」
会計を終え、必死にスマホを再起動ループから復帰させようとする男の人たちを後目に、コンビニから外へ出た。
あ、ひとり、手早く機内モードに切り替えたヤツがいたみたい。
さすがにそれをされると、離れていてはやりようがない。相手も写真を撮るくらいしかでないだろうけど、今回はそれだけでいいんだろうから、やられたという他ない。
こういうヤツのパーソナルデータを、読むには抵抗がない。ていうか見る!
沢口 繝?繧、繝√??螟ァ鮟帝サ貞ョ「縲?蜈?Μ繝シ繝?繝シ縲?繧、繧オ繧ウ縺ォ荵励▲蜿悶i繧後◆
あ、こいつ、パーソナルデータ、書き換えてる!
いえ、違う。読めないように膨大なデータをぶち込んでるのね。名前欄とか通常、入力できないくらいの文字数をいれることで、ctOS経由だとエラーが出て、文字化けするって仕掛けね。
ただの文字化けならユニコードを変換すればいいだけの話だけど、エラーを出した段階でデータが壊れてるから、エラー状況を確認してデコードしないと読み取ることはできない。
苗字だけわかるのは、過剰なデータを入力しててあっても、データの先頭は通常通り転送されてて、まだ壊れてないというわけね。
ふーん。やるじゃない。
私は少し、この少年に興味を持った。
身長は私と同じくらい。中学生かな。
ゴーグル型のメガネをかけてて、すこしほっぺがぽっちゃりしてるけど、身体のほうは痩せ型。ノースリーブの黒いシャツにジーパン姿で、乱雑に髪を整髪料で固めてる。
この時間、私服でうろうろしてるなんて、不良もいいところね。不登校かしら?
しかもスマートフォンは3台持ち。機内モードに切り替えたんじゃなくて、もともと機内モードに設定していたスマートフォンを取り出して、私を撮影したみたい。
隠れて撮影する徹底ぶり。普通なら視界に入らないけど、私には防犯カメラという視界がある。
リアルタイムで脳内に転送されてくる映像がある。
それを元に、彼のカメラの射界に入らないよう移動しようとするが、なかなかうまくいかない。
近くのベンチでおにぎりを食べ、ゴミを処理したころ、追いかけてきた先ほどの沢口何某少年が声をかけてきた。
「よう。ちょっといいか?」
「なんのよう?」
「あんた、デッドセックのメンバーか?」
「デッドセック? いえ、違うけど」
聞き覚えのない名称だけど、アイドルグループ?
とにかく知らないグループか組織か、会社なのかなんなのかわからないけど、メンバーじゃないのは確かなので、違うと答えてみる。
「そうなのか? それにしちゃ、さっきの【ユーティリティ】を使ったアタックのやり口、見事だったぜ」
「そう? 大したことないと思うけど」
【ユーティリティ】とはなんだろう。広い意味を持つ言葉で、多くのジャンルで使われてる言葉だし、ぼんやりとはわかるけど、ちゃんとはわからない。
でも、たぶんさっきのスマホのctOSをクラッシュさせて、強制再起動のことだと思うけど。
そんなあたりをつけて、話を合わせる。
「でも、それをいうなら、対策を前もってしてるあんたも、お見事ね」
「へへー。当然だろう」
「やってることが盗撮じゃなければ!」
「んが」
鼻高々から一点、言葉を失う沢口何某。
「まあ、いい。俺のことは『しょうさ』って呼んでくれ。ひらがなだ」
「しょうさ? 少佐? 沢口少佐?」
少佐というと、軍隊のイメージがある。彼はまだ若いし、少佐どころか軍属でもないんじゃないかな。
「うん? 苗字を……なぜ? ああ、パーソナルくらい読めるのか? でも、さっきからスマホを見てた様子もないのに、どうやって?」
「企業秘密」
「そうか。で、しょうさってのは俺のハンドルネームみたいなもんだ。フィクサーをやってる」
「フィクサー? それって仕事?」
「ああそうだ。仕事だな。依頼を受けていろいろやってる」
「私と同じ中学生じゃないの?」
「ああん!? これでも16だよ!」
「あ、ごめんなさい」
もしかしたら童顔とか、身長にコンプレックスがあったのかもしれない。
素直に謝る。
「それでよかったら、あんたの名前。教えてくれないか?」
「私はレールガン」
あっちが本名を言ってないのに、こっちが本名を言う必要はないわよねぇ。
学園都市での異名で答える。
「EMLかよ、あんた。ずいぶん物騒なハンドルネームだな。じゃ、レールガンって呼ぶぞ」
しょうさも
「どうぞ。っていうか、物騒とか言ったらあんたのしょうさってのも、なかなか物騒じゃない?」
この日本に、少佐という階級の人はいない。あ、いたか。
在日米軍の将校とか、各国の大使館にいる駐在武官でその階級の人がいるかもしれない。
でもその程度だ。
「それで本題、というか、わたしになんの用?」
「え? あ、ああ! その、お礼が言いたくてな」
「お礼?」
思わぬ角度から話を斬りこまれ、身構えていた私はちょっと肩透かしを受けた。
「ほら、昨日。メガネの間抜けを助けてくれたろ? 俺はその友達なんだよ」
メガネの? このしょうさもメガネをかけてるけど……ああ、裏路地で殴られてて、私にQRコードの切れ端をくれた人か。
たしか篠原遊驥とかいう。
「あー、うん。彼の友達ね。そういうこと。でもさ、それで私を盗撮するとか、ちょっとひどくない?」
「悪かったよ。でも、本人確認というか、友達に画像送って、この人か? って確認しないといけなかったからなんだ」
「ああ、うん、わかった」
言い訳かもしれないが、確かに筋は通ってる。
「じゃあ、画像はもう消しておいてちょうだい」
「ああ、もちろん。ほら。あっちにも連絡しておく」
しょうさはそう言って、スマホの画面を見せて消してくれた。
チャット上に貼り付けていた画像も消し、相手の【ASC][】というハンドルネームの子も、画像を消すと約束してくれた。
このASC][というやつが、ローカルに保存してたらどうにもならないけど、信じるしかない。
「あー、でな」
今まで馴れ馴れしい態度だった沢口しょうさだったが、急に言い淀んだ様子で、視線を彷徨わせはじめた。
「なにどうしたの?」
「ああ、それでお礼も兼ねて、本題の本題なんだけど」
「本題の本題?」
意を決意したように、沢口しょうさは両手を開き、迎え入れるようなポーズで声をあげた。
「俺たち、
もう一つ、クロスさせたい作品があったので、そのキャラを成長させた状態で出してみました。
たぶん部分的にしかクロスさせないと思いますが、使える部分は使おうと。
黒客は「へいこく」ではなく、「ヘイカー」にさせてもらいました。