とある妹達《レギオン》の監視役《ウォッチドッグス》 作:大体三恵
電脳コイルの舞台2026年じゃん
年齢が合わな……み、みなかったことにしよう!
大当たりだ。
【しょうさ】こと沢口大智は、自分の幸運と地元の神社の御守りに感謝した。
友人で、同じ財神黒客の仲間で、元同級生の
捜索していたわけでもないのに、本当に偶然、強運で出会った。
わかっていたことは外見のみ。制服らしき物を着ているが、似ている制服はあれど一致する制服無し。出身校はわからなかった。
サマーニットの左胸にあった校章らしきマークも謎。サマーニットはロータリークラブや乗馬クラブなど、何かの社会クラブのものか。もしくは日本国内の学校じゃないのかもしれない。
身体能力が優れていて、スタンガンなどを持ち歩いている。
あと、しましまパンツを履いている。重要。
助けられた遊驥はこう言っていた。
『ありゃぁ、なんか持ってんな、秘密ガジェット。しかし、あの距離でナイフを弾いて、室外機に貼り付けるとなると、直径1メートルくらいの電磁石いるんだよなあ。しかも電源ぬきで』
大智は弾かれたナイフというのは、遊驥の勘違いと考えている。ナイフ使いの手が滑ったのだろう。
声をかけて見ると、警戒する素ぶりこそあったが、拒絶するような狭量さは感じられない。むしろ、こちらに興味を持っていてくれる気配すらあった。
彼女がデットセックのメンバーでなかったのは残念だが、考えようによっては勧誘できるチャンスでもある。
レールガンと名乗られたのは、反応にちょっと困った。
まさかあの【ユーティリティ】を使ったアタックが、レールガンということはないだろう。
……だが、意味があるはずだ。
大智は推測、いや夢想する。
たとえば一直線にあるすべてのデジタル機器を、クラッシュさせる電磁投射砲……とか?
彼女の事を考えると、ワクワクすると大智は笑みが絶えない。
元祖大黒……じゃなかった。財神黒客の戦力に、彼女は成れる。
盗撮しようとしていた人だけを狙い撃ちして、スマートフォンをクラッシュ、再起動させるハッキング能力には舌を巻いた。
噂に聞く
高い運動能力も持っているようだし、胆力は計り知れないものがある。
なにより美少女だ。
いてくれるだけで、価値がある。
「俺たち、
「へいかー? ああ、黒客ね。なに? あんたたち、ハッカーなの?」
意を決して勧誘すると、レールガンの反応は悪いものではなかった。
急な話しを、理解しようとしてくれるだけでもありがたい。
「ああ、そうハッカーだ。でもプライム8みたいなやつらとは違うぜ。そりゃ正義とか社会のため、とかは言わないが……。それと別に中国は関係ない。名前だけさ」
ある程度、正直に答える。
品行方正とは程遠いし、イタズラの域を越えた行動もしょっちゅうだ。
見知らぬ女の子に、仲間にならないかという誘いは怪しまれるのはわかってる。
だが、これも交渉である。
少なくても、この少女……レールガンは高い技術を持ったハッカーである。
こちらもハッカーだといえば、一定の興味を示してくれる。
そして交渉術として、仲間は無理ならせめてこちらの連絡先だけでも受け取ってくれ。という手段が使える。最初に強気な提案をして、次に「そのくらいいいか」という思わせる弱めの提案をするテクニックである。
「ふ〜ん……。おもしろいわね。話しくらいなら、聞いてあげていいわよ」
思った以上に好感触。
たぶん、助けた相手である遊驥の人なりを見知っているから、警戒度が低いのだろう。これは仲間にするのも不可能じゃないかもしれない。
連絡先を交換しあうのも、簡単に思えてきた。
「じゃあ、ここで話すのもなんだ。俺たちのアジト……って、わけにもいかないか」
「いいわよ」
「え? いいの?」
レールガンはベンチから立ち上がると、スカートのお尻を払った。短いスカートなので、その程度でもパンツが見えそうだ。
どこか話しができる喫茶店でもないか、と考えていたら、まさかの快諾である。
このサバサバ感、警戒がないというより、ちょっと怖い。あの【暗号屋】を思い出す。と、大智は昔のトラウマを刺激され、ちょっと苦手意識が生まれ始めた。
「いいならいいけど、ちょっと離れてるんだよね」
「別にいいわよ。どこ?」
「浅草」
「へえ、情緒のあるところを、根城にしてんのね」
やたらと好感触。
とんとん拍子で、大智の方が調子が狂う。
「移動は地下鉄とかになるけど?」
「浅草ね。じゃあここからなら、大門か御成門駅で電車に乗って……げ」
急にレールガンが、美少女らしからぬ声を上げた。
いままで余裕のあった態度はどこへやら。戸惑った様子で視線をさまよわせて言う。
「あ、あんたさあ。えっと、勧誘の提案がそっちなんだから、足代とか出してくれる?」
「……へ? ……まあいいけど。あっ! まさかオマエ、電車賃とかねぇの!?」
「そ、そそそそそ、そんなことあるわけないでしょ! あんたの仲間を助けたお礼とか、そういうのよ! そう! 報酬の要求!」
「はあ、マジかよ。腕利きのハッカーかと思ったら……」
「違うって言ってるでしょ!」
さっきまでのクールでサバサバした美少女はどこへやら。
ただ、どことなく世間知らずなので、わがままお嬢様が家出でもしてきたか。
そんな印象を大智は抱いた。
「あー、わかったよ。礼ってことで、電車賃な」
「ありがとう。うん、別にお金ないわけじゃないけど、ありがとう」
腕をこまねき、こちらに背を向けながら強がるレールガン。
なんというか、愛嬌があるというか、隙があるというか、狙ってやってるのかと疑うほどだ。
(コイツに乗っ取られるってことはないかなぁ)
小学生のハッカーグループのリーダーだったころ思い出す。あの頃とは俺だって違う。と大智は自負してる。
それに、このレールガンと名乗る子は、あの悪辣な【暗号屋】とはちょっと違うような気がする。
駅に向かう道中、そんなことを考えていたら、スマートフォンが着信音を立てた。
「おっと、ちょっとアスキーから連絡だ」
「アスキ……ああ、ASC][って書いて、アスキーって読むね」
頭の回転も速いな、と思いつつ電話に出る。
『しょうさ! 彼女はどうした!』
「勧誘の話し、聞いてくれるってさ。アジトに向かってるとこ」
『でかした、よくやった! 今、向かってる!』
「え? 学校は?」
『もうサボっちょる! さっき電車に乗った』
「あー、もう。仮にも高専生が、それとか怒られんぞ」
大智は通話をきる。
「ふーん。あいつもくるんだ」
「まあ、学校もあいつん家も八王子からだから、1時間はかかるぞ」
大智の買った切符で、電車に乗るレールガンは、席に座ろうとしない。
女子中学生の仁王立ちだ。
先に座った大智の方が居心地が悪い。
「……あのさ、俺がプライム8の仲間で、罠に引っ掛けようとしてると思わないのか?」
「でも、助けたあの人と、今、話ししてたでしょ?」
見下す位置から、レールガンの視線が降りてくる。
この自信は、ハッキング能力から来てるのか、育ちから来てるのか、大智はいまいちわからない。
「それって、映像と音声くらいどうとでもできるだろ? 俺とだけ会話しただけだから、応答はシナリオ通りでさ。それにアスキーがプライム8に捕まって、脅されてああ話してるって可能性もある」
「ほー……なるほど、なるほど」
「で、アジトでプライム8の奴らが待ってましたー。なんてことがあるかもしれない」
「ふむ。まあ、それをあんたが警告してくれるっていうんだから、かえって信用できるし、対策をもできるけど……。いえ、あえて手の内を晒して、こうするかもしれないぞ、って選択肢を狭めて、その対策をさせて、他の手を打ってくるというのもあるわね」
罠を想定し、受けて立ってやるわ、と鼻息が荒いレールガン。
大智は肩を落として、溜め息をつくばかりだ。
「はあ、肝が据わってんなぁ。アンタ」
+ + + + + + + + +
「さあ、ここが財神黒客のアジトだ!」
しょうさはドヤ顔で、手を開いて宣言した。
私は周囲を確認する。
ここは、日本最古の地下街と言われる浅草地下商店街。
空きテナントが目立つ中、その一角に看板の無い店舗がある。
外から見えないようブラインドがかかってて……なんか、もう、なんか……なんか見るからに怪しい。通行人がなんだぁ、ここ……と思いそうなところじゃない?
「さあさあ、どうぞ」
しょうさは電子ロックで鍵を開け、先に中に入って私を招く。
ボディチェックをしないだけでも、敵対するつもりがないとわかるわね。
ブチのめしたやつらは、私がスタンガンを持っていると誤認していた。つまり持っているなら、取り上げたいはずよね。
私に危害を加えるつもりなのに、ボディチェックをしないということは、スタンガン対策をしてるか、数など揃えてよほど自信があるか、忘れるくらい頭が悪いかのどちらかってこと。
学園都市には完全絶縁の対電撃スーツとあるけど、ただの中学生相手と思ってる奴らがそんな準備はしてないはず。そもそも用意できないし、多分存在してない。
能力者も知らないだろうし、知ってても私がどういった能力者かわからないのだから、対策は結局不可能ってわけよ。
……なんか、いま誰か乗り移ったような気分がしたけど、気のせいよね?
「お、おじゃましまーす」
小さく挨拶して、頭を下げて入店……入アジト? どっちでもいいわよね。とにかく中へ入った。
室内は元なにかの販売店という内装だけど、元は何のお店だったかはわからない。少なくても食べ物関係じゃないわね。
ガランとしている中、応接セットが中央にあり、そこには白いスーツを着た誰かがいた。
こちらに背を向けているけど、しょうさには気が付いている様子ね。
「しょうさ、戻ったのかい。依頼された猫は見つかった?」
「うんにゃ、まだだよ。って、いたのか、ヒロヒロさん」
「ああ、いたよ。ん?」
白いスーツの人が振り向いた。
垂れ目がちで、胡乱な雰囲気がある青年ね。大学生かしら?
まあ美形といえば、10人中10人が美形っていうだろうけど、私は別にそんなのどうでもいい。
「これはこれは、可愛らしいお嬢さんだ」
芝居がかった仕草で、応接ソファから立ち上がる。
顔がいいから似合ってるけど、こういうタイプって苦手なのよねぇ。
「ボクは
中性的なスタイルに仕草。手足が長くて、同じ人間とは思えない
……って、おい。え、ちょっと!
「は、はわわ、ちょ」
何、この人!
ぬるって感じで私のパーソナルスペースに、入りこんできた。
自然に追い詰められた!
だからって、イヤという気にならない……。ん? もしかして、この感じ。
パーソナルデータを確認する──。
広瀬真優は本名、年齢も誕生日が昨日というのも事実で、大学生も本当。
そして性別が女と書かれていた。
「あ! あんた、もしかして女!?」
大声を上げると、壁ドンしようとした真優の手が止まった。
表情も硬くなり、優しかった目がスッ……と、冷えて行く。
「生物学的には。……ああ、ctOSにもそう登録されてるね、忌まわしいことに」
広瀬真優は、この事実は不本意ながらね、という態度で首を竦め、私を壁際から解放してくれた。
「た、助かった」
まだ動悸のある胸を抑え、ちょっと距離を取る。
私、この人……苦手だ。たぶん。
「はあ……私がタイを直したりしてあげると、後輩の子たちの様子が変わるのわかった気がするわ……。こういう気持ちだったのね」
覚えが……ある。
後輩の女の子たちが、顔を真っ赤にさせたり、縮こまったり、拒絶するようで待ち構えるように大人しかったりと、さまざまな反応みせた。
うん、今、私もそうなりかけてた。
「はは、キミもなかなかに隅に置けないようだね」
優しく微笑んでくれるが、もう警戒しかない。
これならプライム8とかいう連中が、徒党で待ち構えてた方が気楽だったわ。
「で、しょうさ。もしかしてこの女の子が?」
「そう。アスキーを助けてくれた子だよ」
「へえ、すごいな! 一日で見つけて、連れてきたのかい!」
話をアスキーから聞いていたのか、私が何者かを理解して、冷めていた目がまた温かく、そしてキラキラとした。
今にも抱き着いてやる、と手を拡げたので、思わず身体が強ばった。
その隙に、真優は叫ぶ。
「じゃあ、この子が、しまパンの子なんだね!」
「はっ?」
真優という謎人物のぶっちゃけに、私もしょうさも固まるしかなかった。
「おねぇさま! そんなスケコマシがいいんですの! 黒子というものがありながら!」
ちょっと長くなったので分割