元ゲヘナのシスターフッド   作:シャモ星

4 / 6
 皆様評価、感想、お気に入りありがとうございます。
 原作パワーありきとは言えいつの間にやら評価も色が付き、一時はなんかひっそり日間ランキングにまで顔を出していました。
 オラにもっと自尊心を分けてくれーっ!

 今回、一人称だと描写しきれなさそうな所を三人称にしたら殆ど三人称になってしまいました、次回もそんな気がします。
 なおちょっと筆が乗りすぎて後半大変なことになってしまいました、ちょっとだけお気をつけ下さい。


覚醒

「な、なにこれ……」

「うわー、何使ったらこんな地面ボコボコになるんだろ」

 

 陸八魔アルと浅黄ムツキの二人は、近くで発生した巨大な戦闘音の下へ、野次馬をしにやってきたところだった。

 元々はゲヘナにはよくある、廃墟が集まったゴーストタウンとでも言えた場所だったはずだが、今は以前より幾分見通しが良くなっていた。

 所々にクレーターが出来ており、廃墟の一部は崩落してただの瓦礫の山へと変貌している。

 更に型落ちとはいえ大破したMBT(主力戦車)までもが転がっていた。

 少なくとも小競り合いではこんな事にならない、それなり以上の規模の風紀委員が出動してくるはずの戦闘痕だ。

 そしてその規模を物語るように怪我をした生徒が所々に倒れている、ゲヘナの通常制服を着た生徒と、風紀委員の制服を着た生徒がそれぞれ半数ずつだろうか。

 しかし、それぞれは怪我の度合いが大きく違う。

 まず風紀委員の生徒達だが、重傷な者でも骨折はしていないのか、続々と立ち上がり上司への報告を始めていた。

 対して通常制服を着用している生徒達は、概ね全員が重体と言っていい程の怪我をしている。

 手足があらぬ方向へ曲がってしまっている生徒や倒れたままピクリとも動かない生徒、よく見れば瓦礫の下から手足だけが見えている者もいた。

 かろうじて死んで(ヘイローが壊れて)はいないが、生徒が─特にゲヘナは─異常に頑丈だからなんとか生きている、と言える状態だった。

 いくら日常的にいつ銃撃戦が発生してもおかしくないゲヘナとは言え、これははっきり言って異常事態である。

 

「ねぇアルちゃん、こいつら」

 

 ムツキには、そこで倒れてる生徒達に見覚えがあった。

 ひっそりと用意していた『いつかぶっ飛ばすリスト』に記された生徒達、すなわち。

 

「アヤちゃんを虐めてた人達……?」

「うん、絶対そうだよ」

 

 日頃からアヤの事を目の敵に定期的に襲撃を行っていた生徒達だった。

 それらが集まっているという事は、今日もきっとアヤの事を襲撃したのだろう。

 そして、今日初めて反撃され、このような惨事を引き起こしてしまった。

 

「アヤちゃん……大丈夫かな……」

 

 この惨事を引き起こす発端は少し前に遡る事になる。

 


 

 せっかくアルちゃん達と出かける約束をしてたのに、今日もまたいじめっ子達に襲撃をかけられました。

 あまり一般人を巻き込んで風紀委員に来られたくないので、誘導に乗って人気のない方へと誘い込まれてやります。

 約束の時間までまだまだ余裕はあるとはいえ、さっさと振りきってしまいましょう。

 そう思っていつも通り対処しようとした筈なのに、何故かどれもこれもうまくいかない。

 向かおうとした先に指向性地雷がセットされてて行き先を変えざるを得ない。

 建物上から行こうとすればスナイパーに叩き落とされる。

 スモークを使えばサーマル装備を使っている生徒が居り撒ききれない。

 ここまで対策していれば当然フラッシュバンも対策されている。

 あぁもう、なんなんですか今日は!

 今までそんな装備使ってなかったでしょう、それなのになんで今日に限って!

 結局おそらく彼女達が誘導したかっただろうそれなりに広い広場へと誘導されてしまいました。

 そして、そこで待ち構えていたのは……

 

「な、なんでMBTなんてものが……」

「田雪アヤァ!今日こそアタシらの相手してもらうぞォ!」

 

 MBTの車長席のキューポラから顔を見せているのは、普段私に襲撃してくるグループのリーダー的な生徒でした。

 青春と学園でもヤンキー漫画の登場人物みたいなとんでもない形相で私のことを睨みつけています。

 とてもじゃないですけど、今日は逃がしてくれなさそうな雰囲気です。

 やるしか、ないんでしょうか……

 


 

 随伴歩兵と戦車のコンビネーションにより確実にアヤは追い詰められていた。

 初めて思い通りに進まない戦闘(逃亡)

 攻撃を受けるごとに感覚としてすり減っていく神秘と神経。

 アヤは前世も含めて初めて感じる程極度のストレスを受けていた。

 それでもまだ、ホルスターに仕舞われたままの93Rにはなかなか手が伸ばせずにいた。

 元来は戦うことに全く向いていない性格の彼女が、今まで生きてきてまだ一度も人に使ったことがない武器、それを人に向けなければならないかもしれないというストレスもまた彼女を蝕んでいた。

 いよいよ抜くべきかどうか迷い、逡巡する。

 そんなアヤの耳にパシュッという小さな音が聞こえる。

 振り向くとそこには缶ジュースほどの大きさの缶が2つ空中に浮いていた。

 

「ち、跳躍地雷!?」

 

 本来地雷は地中に埋める関係上、その威力の少なくない部分が周囲の土を吹き飛ばす事に浪費される。

 しかし跳躍地雷は爆弾部分を空中へと射出し、全方位へ破片や子弾を飛ばし本来持つ殺傷力を広範囲へと行き渡らせるための地雷だ。

 その地雷がアヤの頭部ほどの高さまで打ち上がり起爆される、もはや回避は不可能な殺傷範囲だった。

 いくら頑丈なアヤであっても直撃を喰らえばただでは済まない距離と威力、とっさにバリヤーを展開し受け止めることには成功した。

 しかしバリヤーの弱点として威力は受け止めることはできても、衝撃までは打ち消すことができない。

 頭上からの叩きつけるような衝撃に思わずバランスを崩し、たたらを踏む。

 

「かかったなぁ!」

 

 顔を上げた先には、MBTが待ち構えていた。

 照準は、既に合っている。

 

(戦車砲は……流石に不味いですよね……)

 

 幸運にも─後から考えてみれば不運な事に─直撃はせず、砲弾は足元に着弾し食らったのは爆風のみだった。

 その爆風もバリヤーによって減衰することはできたが、そもそも携行火器とは比べ物にならない火力に、消耗しきった神秘では完全に受け止めきることはできずついにダメージらしいダメージを負ってしまい吹き飛ばされる。

 

「きゃぁああ!ぐっ……うぅ……」

「ちっ、慣れないモンだから外しちまったか」

 

 数メートル程転がりようやく止まるが、立ち上がるための力が上手く手足に入らず、額からは生暖かい液体が流れてくるのを感じる。

 なにもかもアヤにとってはじめての経験だった。

 無様に土の上を転がったのも、土埃と血に塗れたことも、これ程の痛みを感じたことも。

 あえて恐怖を煽るようにゆっくりとMBTが接近してくる。

 何故、どうしてこんな目に合わなければいけないのか。

 何が悪かったのか。

 

「いつもいつもスカした面してアタシらのことをシカトしてくれてたアンタが、いい姿になったじゃねぇかアヤさんよぉ」

 

 これを言われて、ようやく朧気に理由を理解した。

 つまり彼女達は相手にされなかった事に、格下だと思われた事に怒っていたのだと。

 なるほど、それで日を追うごとに鬼気迫る様相になったのかと。

 中学に上がってから二年間、怒りが収まらなかったわけだ。

 実際は怒りなどと単純なものではなく、プライドや矜持といったものが原因なのだが、それはアヤの知るところではなかった。

 

(私が悪かったのか……)

 

 そんなはずはない、何をどう正当化しようとも、イジメはイジメてる側が悪く、アヤに落ち度など無かった。

 しかし生まれて初めて、肉体的にも精神的にもこんな限界ギリギリまで追い詰められ、ネガティブになった心では正しい事を判断できなかった。

 生まれ変わって、自分は大人なのだからと驕っていた。

 どうせダメージがないのなら報復も通報も要らないと放置していた。

 だから、自分が悪かった、身から出た錆なのだ。

 心がドロドロと腐り落ちていくのを感じる。

 

「あぁ?なんだこれ」

 

 その声に顔を上げると、アヤの目には地面に転がる自分のかばんが見えた。

 そしてその開いた口からアルとムツキに貰ったプレゼントがこぼれ落ちていた。

 初めて貰ったプレゼント、それが嬉しくて─伊達メガネはたまにムツキにせがまれる為─持ち歩いていた。

 それを拾い直そうとアヤは手を伸ばした。

 

「そ、れは……」

「なんだよ、お前の大事なものか?ははーん、さてはよく一緒にいるダチから貰ったもんか」

 

 そう言うと上機嫌そうにニヤニヤと笑い、再びMBTを前進させアヤのカバンごと踏み潰した。

 

「……は?」

 

 その時点でアヤの頭の中は今までのことを忘れ真っ白になり、次いで怒りで埋め尽くされた。

 初めて出来た大切な友達から貰った大切なプレゼントを、こんな奴らに破壊されて、今まで強固な自制心と倫理観で押さえつけていた怒りとストレスが、心の中でグラグラと沸え立ち、最早何もしなくても爆発は目前に迫っていた。

 

「そうだ、次はあの二人にしてやるか!」

(あの二人……アルちゃんとムツキちゃんを、狙う?)

 

 最後の起爆剤が投入される。

 さっきまで地面に転がっていたアヤが、ゆっくりと立ち上がる。

 神秘などとっくに尽きかけていたはずなのに、その体からは本来であれば目に見えない神秘がオーラのように見えるほど濃く放出されていた。

 

「な、なんだよあれ……」

「貴ッ様らぁぁああああ!!!!」

 

 俯かせていた顔をぐりんと上げ戦車を睨みつけると同時に、獣のような唸り声を上げながらアヤは戦車へと跳びかかる。

 ゲヘナに居る以上、さらに言えばイジメなんてしているチンピラである事から、敵意や害意というものは浴び慣れていた。

 しかし、これはそんな生易しいものではなかった。

 どんなものよりもおどろおどろしい漆黒の感情、明確な殺意、それを向けられた彼女達は、金縛りにあったように身動き一つできなくなっていた。

 

「こ、こいつ!戦車に!」

「お、落ち着け!こいつの武器はハンドガンだけ!戦車をどうこうなんて出来るわけ無いだろ!?」

 

 確かに普段のアヤであればいくら鉄板を貫けようとも、戦車用の装甲をどうこうすることなど出来なかっただろう。

 しかし、今のアヤは普通ではない。

 圧倒的な負の感情による変質。

 神秘の反転の兆し。

 それは通常では考えられないほどの膂力と頑丈さをアヤに与えていた。

 

「う、嘘だろ……」

 

 アヤの貫手は装甲に突き刺さり、そこからメキメキと音を鳴らしながら、装甲を引き剥がしていく。

 そしてその時が来る。

 人一人が通れる程度まで開かれた装甲からアヤの手が差し込まれ、リーダーの頭を掴み外へと引きずり出される。

 頭を万力で締められるような痛みに。思わず悲鳴がもれる。

 

「わ、悪かった!やり過ぎたよ!も、もうアンタにもアンタのダチにも手は出さない!だ、だから……」

 

 そこまで言うと、頭から手を離される。

 許された、と思った直後に腹に今まで感じたことが無い、内蔵がぐちゃぐちゃになったんじゃないかというほどの衝撃と痛みが訪れる。

 リーダーはアヤに思い切り蹴り飛ばされたのだった。

 蹴りの勢いのままリーダーは地面と平行に飛んでいき、近くにあった廃墟にそのまま叩きつけられる。

 その光景を見たいじめっ子達は一斉に恐慌状態になり、蜘蛛の子を散らすように逃げようとするが、ついにアヤは得物をホルスターから抜いていた。

 莫大な神秘が込められた弾丸は緑色に輝き、着弾地点で拳銃弾とは思えない程の爆発を引き起こし、巻き込まれた者はそのあまりの威力に一撃で行動不能になり、余波をくらった者もすぐには動けなかった。

 そうして足を止めた者に向かって跳びかかり、一人また一人と叩きのめされていく。

 そこからは戦いでも狩りでもなく、一方的な蹂躙だった。

 


 

 そんなアヤの暴走を廃墟の屋上から眺める人影が一つ。

 

「ふむ、少々計算と違いましたが……これはこれで良いデータが得られそうですね」

 

 この惨事を生み出した張本人、黒服だった。

 計算結果とは違っていたが、そもそもの黒服が考えていた通り一定以上の神秘を持つ存在が、強烈な負の感情で心が満たされることによって反転する、というのは間違っていなかったことが証明された。

 本来の黒服の計画では、怒りではなくもっと深い絶望や悲しみ、トラウマといったもので反転したアヤを確保し、恐怖(テラー)の研究を行うつもりでいた、その為の反転した生徒を確保するための用意もしていた。

 しかし結果としてアヤは怒りによる覚醒を果たしていた。

 怒りとは本来は一過性のもの、負の感情の中でも怒りは特別体力を使う感情であるため、再燃することはあったとしても怒ったその瞬間をピークとして長続きしない事が殆どである。

 その証拠に計器の観測ではその身は完全に反転しておらず、怒りが治まった時点で元に戻るだろう事が予測される。

 だからこそ深い絶望や悲しみを与える予定であり、その為にわざわざ少なくない労力をかけて陸八魔アルと浅黄ムツキを近くに誘導し、特殊な弾頭まで与えていたのだが……

 

「いやはや、心というのは計算が難しいものですね」

 

 黒服の計算違いはいくつかあった。

 まず一つは、アヤが想定していた以上のストレスをその心の内に抱えていたこと。

 強固な自制心で表に出さないようにしていたか、あるいは本人すらも知覚していなかったか、好戦的なゲヘナの生徒として生まれながら、日々一方的に暴力を振るわれるのみという状況は、確実に彼女の中にストレスを溜め込んでいた。

 ふたつ目は、アヤがこの日友だちと約束をしており、普段以上にイライラしていたことで神秘の操作が雑で想定より早く消耗してしまっていたこと。

 それにより、陸八魔アルと浅黄ムツキの到着が間に合わなかった。

 三つ目は、彼女の本質の事であった。

 

「これが、貴女本来の本質……反発力や反骨精神とでも言うべきですかね」

 

 強く押さえつければ押さえつけるほど、強く叩きつければ叩きつけるほどより強く反発し増幅する。

 それこそがアヤの持つ異常な頑丈さと回復力の正体だった。

 今も身体能力の増強、バリヤーの展開、射撃と多くの神秘を消費しては、決して尽きぬように神秘の器が、回復力が増強されていく。

 今回のこの覚醒も、今までさんざん溜め込んで押さえつけていた無自覚なストレスが爆発することで、もはや本人でさえ制御不可能なほどの怒りとなり暴走してしまっているのだろう、と黒服は結論づけた。

 最低限の理性は残っているのか、取り押さえに来た風紀委員には手加減こそできているが、いじめていた生徒達の命の方は風前の灯と言ったところだった。

 彼女達が幸運だったとすれば、アヤの持つ普段の穏やかさのおかげか、十分傷めつけたところで徐々に怒りも収まり、トドメまで刺す前に正気に戻った事だろう。

 呆然と自分の引き起こした惨劇を見回し、何をしてしまったのか理解した彼女は、風紀委員の増援が来る前に、フラフラと幽鬼のように更に廃墟街の奥へと姿を消していった。

 当然黒服は、彼女に見つからぬようにその後を追った。

 彼女の行き先を見届けるために。




 田雪アヤ*テラー(兆)はパラガスのコントロールから逃れかけてるブロリーくらいの感じで思ってください。
 だいたいホシノ*テラーの緑バージョン(アビドス3章ネタバレのためモザイク)を本体の姿はもっとはっきり見えてるくらいに思っていただければ。
 神秘が高まるぅ……溢れるぅ……!
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