第二十一話
九校戦も終わり、正真正銘の夏休みである。もちろん勉強はするし、遊びもする。とはいえやはり魔法科高校に通う身としてはこういう自由に長時間使える期間があるならば、自己鍛錬に励むのも当然と言えるだろう。
…亜音速で飛んでくる金属を避けるのが自己鍛錬と呼んでいいのなら。
「ひいっ!?うわぁっ!?うおおおおおっっ!!!」
「もっと静かに避けろ!体力使うだけだ!」
「無茶言うなあああああ!?!?!?」
硬化魔法を使っているとはいえ、ほんの3mm横をライフル弾が通り過ぎていくのはあまりにも怖い。もう10年ぐらい続けてるけど怖いものは怖い。
「ほーら魔法行くよー」
姉の魔法が飛んでくる。おそらく放出系魔法なので《避雷針》で雷を避けながら弾丸もギリギリで避ける。と思ったら今度は収束系魔法と思われる突風が吹いてくるので加速魔法で素早く飛ぶ。
「って弾丸だうわああっ!?」
思わず硬化魔法を施した素手で弾をぶん殴ってしまう。やっべやらかした。
「はいアウトー。後でケーキ買ってきてねー」
「はあ…お前はその手が出る癖をなんとかした方がいいな。ハイパワーライフルの対策なのに触れようとしてどうする」
「入射角によっては多分行けるんだよこれでも!親父は分からないと思うけどね!」
親父…九十九
そんな親父だからこそ、横浜で相対するであろう銃火器持ちの敵への対策方法を乞おうとしていのだが…なぜか姉貴が来て同時に魔法も叩き込んできた。確かに実戦だと乱戦になる可能性もあるけどね?罰ゲーム作ってケーキパシらせるのは違うだろうがよ。
「シャワー浴びてから行くわ…」
「モンブランを頼む」
親父のオーダーを聞き流しつつ、道場というか訓練場を出て真っ先に風呂場へ向かう。ついでに途中にいたお袋と姉貴の要望も聞いとくか。
「抹茶!」
「そうねぇ…チーズケーキかしら」
バラバラだと運ぶのめんどいんだけどという言葉をグッと飲み込む。だって俺チョコケーキがいいし。そもそも外気温がそこまで高くないから保冷剤もあんま要らんしな。箱が前世よりも小さめで済むから楽だわ。
「あれ、若旦那。お出かけですか?」
「若旦那ってなんだよ。ケーキ買いに行くの」
「俺ミルフィーユがいいです!」
「自分で買いに行け!」
家で雇ってる配下の奴らが茶々を入れてくるが…まあいつも通りということで。そのまま風呂場に入って汗を流し、着替えて街に下りた。服はお袋から指導が入った。なんでだよ。
◇ ◇ ◇
現在午後1時。ケーキついでに街の複合商業施設で昼食を取ったので個人的には満足である。たまには外食もいいよね。
それにペンやノートなどの文房具も抜かりなく補充してきた。となれば後はもう用事はない。
このままケーキ屋に寄り、個型電車*1に乗って最寄駅まで戻り、そこから山を駆け上がると…3時手前ぐらいか?ちょうどいいな。我ながら良い時間感覚をしてると言いたい。
なんて考えてケーキ屋に向けて歩いている時、さっきまでいた複合商業施設からドォンと爆炎が上がった。
「えー…」
飲食店のプロパンに引火でもしたか?…って、そういや普通に都市ガスだわこの世界。てなると放火魔がいるか、サイキック或いは
どっちにしろ救護義務があるし、個人的にも目の前で起こった事を無視するのは好きではないので突っ込ませていただく。と、思ってたら魔法師らしき警察官がすぐ横にいた。
「すいません。なんの事態ですか?」
「君何やってるんだ!?すぐに指示に従って逃げなさい!」
「ああいや…」
腕輪の形をした汎用型CADを見せる。これだけで警察側も理解してくれるのだから魔法師同士の連携は大抵楽なものだ。どうやら京都奈良はんな事ないっぽいけどね。
「そ、そうか。実は逃走犯がここ周辺に移動したという情報が今朝あったんだ。こちらも警戒態勢で見張っていたのだが…」
「逃走犯?まあそこはいいや。相手は魔法師やサイキックの類ですか?」
「そのようだ。今のところ火の手しか確認されていないのでサイキックの可能性が高い」
…いた。確かに男が1人明らかに周りを燃やしている。魔法式が視えたので間違いないだろう。ただこの感じはサイキックではなさそうだな。
「多分魔法師っすね。よっぽど適性が狭いか古式の術者か。取り敢えず自分が抑えてきます」
「あっ!君、待ちなさい!」
警察官の制止は無視して跳躍と加速で一気に犯人の元へ向かう。仮に古式魔法師だった場合、これぐらいの事態を引き起こせるタイプなら癖が強いはずだ。警察官は見たところ現代魔法師だったので現代魔法にはない搦め手にやられてしまう可能性は低くは無い。
「どうも〜」
挨拶代わりに《
「なんだこのガキっ!?」
サイキックではないことに安心しながら接近戦を挑む。自己加速で懐に飛び込み、右足でローキックからの崩れたところを左斜め下フックで地面に叩きつける。思ったより弱いな。古式魔法師は格闘戦行けるやつが多いんだが。ってうおわっ!?
「へへ、甘いなガキンチョ。捕まえる時はちゃんと絞めなきゃ逃げられるんだよ」
頭から地面にぶつかってた男が簡単に起き上がって蹴り返してきた。幸い後ろに飛ぶぐらいの余裕はあったので喰らいはしなかったが。つかどうやって起きたんだ?気絶は兎も角、そんな素早く復帰出来るような優しさで叩きつけてはないんだけどな。
「不思議そうな顔してるな。だが教えてやらん。お前が万が一生き延びた時に俺の技術をバラされたら困るからな」
「そもそもなんでお前が逃げられると思ってんだよ」
そう軽口を叩きながら大袈裟に足を振り上げて
たったそれだけで犯人の動きが止まった。突然の金縛りに不思議そうな顔をしているが、まあそりゃそうだろう。指一本動かないんだから。
「片方だけに火があってよかったぜ。こんなに都合よく影が伸びてるんだからよ」
今度は自己加速なしで勢いよく助走をつけて殴りかかる。ついでに練習中のやつ試すとするか。
途中で腰を捻りながら跳び、そのまま犯人の脳天に右拳を叩きつける。すると明らかにただ殴っただけでは出ないような鈍い音が響いた。これは流石に起き上がって来ないよな?
どうも今度は術式とやらが発動しなかったらしく、ちゃんと気絶したまんまだ。結局なんだったんだ術式って。
流石に警官が来るまで放置するのもアレなので、吸収系の魔法で燃焼元を先に酸化させたりして延焼を防ぎに回る。大体半分ぐらい消してきたあたりでさっきの警官含めた複数人の警察官と消防士が来た。
「犯人はそこでノビてる人です。古式魔法師のようで、火以外にも人体に作用する魔法が使えるみたいです」
と、説明したはいいものの犯人の頭から血が出ているので一応事情聴取となった。帰るの遅れるから困るなぁ。
「───はい、以上で終わりとなります。すみませんね、態々同行していただいて」
「ああ、いえ。モールの防犯カメラが生きてて幸いでした。こんなとこで前科は付けたくなかったですし」
「我々もそこは助かりました。にしてもまさか今年の九校戦の一高の立役者だったとは!実は、本官含めて一高のOBがそれなりの数いまして。宜しかったらサインを…」
「ああ全然それぐらいなら」
有名人かな?
冗談はともかく、どうもモールのカメラが断線しておらず、更に俺は現代魔法を使っていたために俺の正当性がちゃんと記録に残っていた。たちが悪かったのは犯人がSB魔法を使っていたために出火元として特定しにくかったところだが、押収品の中に使役用の札があったので敢えなく逮捕となった。
「そういえば、モールの入り口にケーキの箱があったのですが…君のですか?」
「あっ」
明日買い直しに行かないと…
蛇足のようなもの
・魔法師
朔は魔法師をメイジアンと呼んでいますが、人と話す時は魔法師としか言いません。まだ存在しない概念なのでね。ただ、うっかりしてると言いかけます。気をつけて欲しい。
・術式について
影を踏んで止めたのは《影踏み》です。鬼ごっこですね。一応精神干渉系にあたり、それなりの難易度だったりします。行使する方も受ける方も影を認識してないと効果がありません。なので朔が目立つぐらい足を上げたのは犯人にも自身の影を見てもらうためでした。
犯人が頭を打って昏倒したように見えても起き上がったのは想子による肉体操作です。痛みによる集中力の乱れはあるでしょうが、気絶しなければ操作を止めることはないのでね。ここら辺を見抜けないのが朔の弱いところですね。次回でみっちり鍛えてもらいます。