救護騎士団団長蒼森ミネは悩んでいた。

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本当はもうちょっとふざけようかと思いましたが、心の中の魚雷ガールがおふざけを許さなかったので、真面目に書きました。


救護の拳

救護とは、救い護ると書いて二文字で救護と読む。

つまりそこには、慈悲と烈火の意思が並び立つ。

ならば、救護とはただ傷を癒すだけで済むのか。

答えは否である。

救護とは救い護る意思の現れ、人々の守護たる意思のそれであり、一つの正義である。

であるならば、その二文字を冠に戴く騎士団の長は救護の意思そのものであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「超救護逆突きぃっ!!」

 

裂帛の気合いと共に放たれた拳は迷い無く、要救護者の鳩尾に突き刺さった。

 

「超救護正中線連撃っ!!」

 

救護騎士団団長にのみ、代々受け継がれる超救護空手。

それは連打必救を初心とし、一撃救済を悲願とする慈愛の拳であり、救護騎士団団長とは一撃で百人の救護しうる域に達した者の称号なのだ。

故に救護騎士団団長蒼森ミネの拳は問答無用で救護する。

 

「救護完了! 治療を!」

 

残心を解かず、部下の騎士団に治療指令を出す。淀み無い手順で処置を終え、負傷者を次々に担架に乗せ運び出す。

ミネが壊し、騎士団が治す。

この言葉は的を射ているが、その実は違う。

このキヴォトスにおける救護とは、要救護者の無力化も含まれる。

キヴォトス人は頑丈で暴力に対する抵抗が無い。負傷を負ってもなお、戦いを辞めないバーサーカーが多い。

その事から、救護騎士団の中にも負傷者は絶えない。だから負傷者を完全に無力化してしまえば、救護は速やかにかつ円滑に行われる。

それ故に、救護騎士団団長には代々この拳が受け継がれ、その慈悲と慈愛を一打に籠めるのである。

 

「……美事な救護です。団長」

「いえ、まだ足りません。先代なら一撃で今の救護は済みました。私もまだ鍛練を積まねば」

 

ミネは嘆息する。先代先々代団長なら、この三十人程度の救護者、ただ一撃で救護せしめた。

だが、今のミネでは逆突きに加え正中線連撃まで必要とする。

これでは超救護空手の悲願には程遠い。

連打必救、一撃救護。この悲願を達成したのは先代と先々代の団長のみ。

屠龍と戮虎、そう謳われた二人に教えを乞い、ミネは次の団長となった。

しかし、今尚影すら踏めぬ遠き背中。

先々代の慈悲の拳はシェルターに立て籠った要救護者をシェルターのある区画ごと救護し、先代は触れるだけで要救護者が揃って膝を折る慈愛の掌。

ミネにはその両方無い。有るのは二人より賞賛された護りの型の極意である超救護三戦法による護りのみ。

だがこれは、己を護る業に過ぎない。

 

「……セリナ、申し訳ありませんが、後は」

「はい、承ります」

「感謝します。私は修練場に居ますので、何かあればそこに」

「はい。……団長、あまり気を詰められませぬよう」

「有難う御座います」

 

救護の体現たる救護騎士団団長が極めたのが、ただ己を護るばかりの業でしかない。

これはミネの心に深くのし掛かる。しかし、その事から目を背ける事も出来ない。

時間は有限、次期団長であるセリナにも、嘗ての己の様にこの超救護空手を伝授しなくてはならないのだ。

だが、時間は有限と理解していながら、ミネはいまだその域に至れずに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミネ」

「ツルギ、ですか。どうしました? まさか、傷を得ましたか」

「まさか、顔馴染みが悩んでいると聞いてな」

 

セリナに後を任せ、修練場にて鍛練を積んでいたミネ。

その姿はツルギの知る二人とは違う。他を圧倒する先々代、他を許し受け入れる先代とも違った舞いを想起させる型。

ミネの超救護空手には芯となる理念は有れど、核となる強さが抜け落ちていた。

 

「ミネ、一度拳から離れる事も修練の一つだと先代は言っていたぞ」

「それでは足りぬのです。私が極めたのは三戦法のみ、……いえ、極めたというのも烏滸がましい」

「だから、一度見直せ。全てを、お前の始まりに立ち返れ」

「……それは正義実現委員会委員長としての言葉ですか?」

 

図星を突かれ、剣呑な気配を発する。

だが、そのミネにツルギは溜め息混じりに答えた。

 

「……友としての言葉だ。そして、嘗ての己に対する、な」

「貴方も悩んでいたのですか」

「ああ、そうは言っても正義実現委員会という矛の立場で悩みを表には出せなかった。それだけだ」

「お聞きしても?」

「いいぞ。だが、言える事は一つだけだ。ただ己が始まりを思い出せ。それだけだ」

 

ツルギの表情は慈愛に満ちていた。

それは今のミネには欠けてしまっているものだ。

超救護空手の極意は慈愛と慈悲、そしてそれらを用いて叶える悲願こそ連打必救、一撃救護。

ツルギも先代と先々代の団長を知る身、正義実現委員会の正義を為す為、その教えを乞うた事もある。

だからこそ、今のミネは見ていられない。

 

「思い出せ。その拳は何の為に握り、お前の背は誰に向けるものかを」

「私の拳と背は……」

 

どうか、思い出してほしい。

慈悲と慈愛、屠龍と戮虎が何故ミネに次代を託したのか。

いつの間にか、ただ握り締めるばかりとなった拳と開く事無く閉じたままの翼は、誰の為のものなのか。

ツルギが言い残した後も、ミネは修練場に立ち尽くす事しか出来なかった。

 

「救護とは……」

 

――いいか、ミネ。救護ってのはな……

――難しく考えなさんな。救護ってえのは単純明快よ

 

先代と先々代の言葉を思い出そうとするも、そこから先が霞の中に消えていく。

当たり前の事、常にそこにあった筈の答えは何処に行ってしまったのか。

 

「救護、とは……!」

 

続かぬ言葉に拳を握り締め、閉じた翼は広がらない。

一体何時から忘れてしまったのだろうか。

持っていた筈の答え、常に口にしていた筈の真意。

それは一体何だったのだろうか。

 

「団長!」

「……っ! どうしました?!」

「急患です! 搬送中の要救護者を狙って救護者の襲撃です!」

「急行します! 案内を!」

 

その答えを出す前に、次の救護が来た。

団員の報告から、先程の要救護者達に恨みを持つ救護者の襲撃だ。セリナも超救護空手の初段ではあるが、非戦闘員と要救護者を庇いながらではまともには戦えないだろう。

今は迷っている暇は無い。

救護の為にミネは駆けた。

そして、要救護者を積んだ車両の前で簡易的なバリケードを組んだセリナ達の前に立ち、超救護廻し受けによる防御を行う。

 

「状況!」

「負傷者無し、しかし車両はタイヤの交換の必要有り」

「了解! 私が殿を受け持ちます。皆は要救護者を搬送」

 

言うや否や、ミネに降り注ぐ弾丸の雨。

しかし、その弾丸の雨はミネには届かない。

超救護空手の極意に、体内を流れる救護力の操作がある。超救護空手の稽古は、この救護力の流れを自覚する事から始まり、ミネはその達人だった。

救護力を満たした全身の筋繊維をコイルの代わりとし、特殊な震動を発し救護場を形成する。

これがミネが極めた超救護空手における絶対防御の型である超救護三戦法だ。

この防御力は戦車砲の至近弾すら通さず、迫撃砲の雨の中でも無傷となれる。

だが、その防御が崩れた。

 

「団長?!」

「おいおいマジか? やれるぞ! あのミネを潰せるぞ!」

 

――揺らいでいる。当然ですか

 

超救護三戦法は揺るがぬ意思が要となる。

救護を見失った今のミネでは、良くて初段のセリナと同等程度、否、それ以下の防御力しか発揮出来ない。

 

――されど……!!

 

ミネは久し振りに三戦法の構えを取った。

脇を絞め、両の掌を上に向け、内股に立つ。この構えで自身の救護力を認識する基本の型。

しかしそれでも、銃弾は救護場を貫通しミネに当たる。

だが、ミネは退かない。

救護とは要救護者を護る事だ。

ならば、この身が砕けようとも退く事は出来ない。

 

「あの救護騎士団団長がこんなに弱いとはな!」

「やっぱ噂だったか」

「RPGぶちこめ! 後ろの裏切り者ごと吹っ飛ばせ!」

 

対戦車ロケットが発射された。

これは今のミネでは受けきれないだろう。現に、超救護三戦法の超救護場は崩れている。

だが、退かぬ。

救護とは不退転、この身はその為に有るのだ。

全身に銃弾を浴び、覚悟を決めたミネだったがロケット弾が迫る瞬間、見覚えのある姿が割って入ってきた。

セリナだ。

 

「セリナ……?!」

 

ロケット弾の直撃、爆炎の中でセリナは息も絶え絶えに立っていた。否、セリナだけではない。非戦闘員の団員達も手を繋ぎ、自分の前に立っている。

何故、そう疑問する前にセリナが叫んだ。

 

「我々は救護騎士団! この誇り、我々の救護を折れる者のみが前に立ちなさい!」

「その団長様が折れかけてんじゃねえかよ!」

「……違います。団長は少し休んでいるだけです。私達が不甲斐なく、団長に頼りきりだから」

 

違う。私はそうではない。

救護騎士団団長の身でありながら、救護を見失ってしまった愚か者だ。

なのに何故、何故まだ立っている。

弱き者の盾となり、再起の背を押す為の救護。

それなのに、何故自分は誰かの背を見ている。

 

「団長の救護は折れません。私達はそれをずっと見てきました」

「私の救護……」

 

――いいか、ミネ。救護ってのはな、ロマンだ。誰かに背を向けて、その背が安心となる。それがロマンだ。

――深く考えなさんな。救護ってえのは単純明快。誰かの為に、自分を奮い立たせる。そんなんでいいのさ。

 

そうである。そうだった。

救護とは誰かの安心の為、誰かの為に自身を奮い立たせ、弱き者の盾となる。

それだったのだ。ただそれだけの事、何故忘れていたのか。

 

「だったら折れろよ!」

 

二発目、対戦車ロケット弾が撃ち込まれ、セリナは目を閉じた。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 

「ツルギ、どうしたのです!? 早く行かねば、救護騎士団が!」

「いや、その必要は無い。見ろ」

「何を言って……、あれは……」

「帰ってきたぞ。我らが救護騎士団団長が」

 

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

衝撃と熱、激痛を覚悟したセリナ達にそれは降り注がなかった。

何故、それは目の前に立っていた。

 

「団長……!!」

 

ミネが全てを受けていたのだ。

だが、セリナ達の声に悲痛は無い。

何故なら、

 

「おい、なんだよあれ……」

「翼に雷?」

 

ずっと、ずっと閉じていた翼が広がり、その蒼い翼には紫電が走っていた。

セリナは覚えている。その姿に、この背に憧れて、安堵を得て、今の自分は救護騎士団に入ったのだ。

 

「こんな簡単な事を忘れていたとは……、救護騎士団団長として恥ずべきばかりですね」

「……お帰りなさい、団長」

「ただいま戻りました。セリナ、救護を開始します」

「はい!」

 

拳は握り締めず、翼も最早閉じていない。

嘗てと同じ様に、三戦法の構えを取らずとも同様に、否、それ以上に救護場を展開出来る。

 

「なんだよあれ?!」

「弾が通らない? いや、届いてねえ!」

「バリアとか反則だろ!」

「なんて傲慢な!」

 

脱力し浅く腕を広げ、足も肩幅に開く。ただそれだけで、超救護三戦法を展開する。

以前、そう先代より団長の位を賜った時と同じだ。

あの時と同じなら出来る筈だ。何時しか出来なくなっていた拳、忘れていた拳を握る。

 

「は?」

 

ただその場で正拳を突き出す。それだけの動作で、離れた場所に居たロケット砲持ちの不良が、頭を撃ち抜かれたかの様にして倒れた。

否、実際に撃ち抜かれたのだ。不良達の証であるヘルメットに小さく細い穴が開いていた。

 

「超救護正拳遠当て、まだまだ精進が足りませんね」

 

超救護空手の奥義、超救護遠当て。

これは全身に駆け巡る救護力を拳に集め、正拳の勢いに合わせ放つ超救護正拳突きと原理は同じだが、結果は違う。

超救護正拳突きは面による制圧、超救護遠当ては更に引き絞り、拳の形そのものを打ち込む。

だが、ミネのやった事はそれとも違う。

超救護遠当ては拳、しかしミネのそれは更に細い。

針の如く引き絞られ研ぎ澄まされた救護力を、ヘルメットの防御を無視して貫き通したのだ。

これは後の救護騎士団に於いて、超救護貫徹針と名付けられる奥義となる。

 

「さあ、皆様。これより救護を開始します。救護が必要な患者より前へ」

 

屠龍、戮虎と続いた救護騎士団団長の歴史に、今日新たに刻まれる名がある。

それは徹神、蒼森ミネ。

 

「救護騎士団団長、蒼森ミネ。推して参ります」

 

今日この日が、これより動乱の続くキヴォトスにその名を轟かす事となる新たな救護騎士団団長の誕生の瞬間であった。




超救護サンダー&超救護ディスラプター

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