清隆はじっと静流を見つめる。
そして、リッカの方に振り向いた。
「すみません、思ったよりも時間が掛かっちゃって」
「いいのよ。それよりも上手くいったの?」
「このとおり完璧にまで」
清隆は金色桜を操っている様子をリッカに見せる。
その姿を見てリッカは微笑んだ。
「なぜ、魔法がそんなに違和感なく使える?」
静流の言葉で清隆はしずるの方を見る。
静流は不思議そうに清隆を見ていた。
「葛木清隆。聞いたことがある。最近新しくカテゴリー5の称号をもらった魔法使いだと」
そして、静流は清隆を調査するように見る。
「風見鶏の卒業生だということは間違っていない。そして、リッカの口ぶりからおそらく風見鶏の加護も受けている。なのになぜそんな簡単に魔法を使える?リッカでさえかなりの力を押さえ込んだというのに」
清隆はすぐに静流の言いたいことを理解した。
そして、すぐに腕をまくり術式を見せる。
「これのおかげですよ、中津さん」
「術式?……ッ!?まさか!」
静流もどうやって自分の薬品を防いだのか見当がつく。しかし、その方法に驚くしかなかった。
「そのとおりです。この術式は今回中津さんが使ったであろう薬品に対しての術式が組み込まれてあります」
その言葉は予想していたがやはり静流には驚きを隠せなかった。
「う、嘘だ。この薬品の成分は私しか知らない。それに対抗できる術式を作るにもこんな早くに作れる訳がない。私がこの薬品をばらまいてまだ1時間程度しか経っていない」
「たしかに、詳しく解析するには時間が必要です。でも、基盤は風見鶏の加護の妨害でしょ?」
その言葉に静流は気づいた。作った本人ですら気づけなかった盲点に。
「中津さんも気づいたようだな。攻略するのはその部分だけでいい。作った手順としてはこうだ。風見鶏の加護の逆ベクトルの成分を考える。そして、その成分の場所にたどり着く。途中の妨害などは全て術式で対策すればいい。たったそれだけの作業なんだ」
「で、でも!それを解読するのは簡単だ。だが、そんな術式を簡単に作れる訳がない。覚えているだけでも二桁はあるはず」
「それでも、それを全て術式で作れる子が俺の仲間にはいるんですよ。まぁ、その子は今は疲れて寝ていますけどね」
清隆は笑いながら答えた。
そして、清隆は一変して真剣な眼差しで静流を見る。
「何で、こんなことをしたんですか?」
「堕天使が許せないからだ」
先ほどリッカに言った話を掻い摘んで清隆にも話した。
「だから、私は堕天使の集まるここを狙った。邪魔をするな!」
静流は二本のナイフを両手にもち、清隆の方へ駆け出す。
「話し合いではもう戻れないのか。なら、俺もカテゴリー5の魔法使いです。本気でいきます。『金色桜』!!」
清隆は金色桜を両手に集め、二本の日本刀を形成する。
そして、そのまま静流の方向に清隆も駆け出した。
二人が中央で交差する。
「中津さん!こんなことをしてなんの意味があるんだよ!」
「葛木には関係ない!」
二人の想いは交わることがなかった。
お互い自分の力を信じ、武器をぶつけ合う。
「「ハァァァァ!!!」」
リッカは二人の戦いを見ることしかできなかった。
(清隆、お願い!静流を助けてあげて!)
リッカはそう思うしかなかった。
そして、攻防は徐々に静流が押され始める。
先程のリッカとの戦闘のダメージがあるのだろう。清隆はまだ余裕という感じだった。
そして、二人の影がまた交差する。
『……たんだ』
『……じゃないか』
(え?)
静流と武器を交差させた時、清隆の頭の中にあるビジョンが入り込んできた。
そして、清隆はさらに静流と交差する。
『サンマは最高だ』
『本当に静流はサンマが好きなんだな』
(もしかして、これは……)
今回ははっきりと声が聞こえた。
「うぉぉぉぉ!!」
清隆が見たビジョンについて考えていると、静流の攻撃が清隆を襲った。
その攻撃を清隆は受け止める。
『静流、今回の任務は長いのか?』
『あぁ、だが終わったらすぐに帰ってくる』
『何から何まで本当にすまない』
『ダイジョーブだ。それに、これは私の趣味みたいなものだ』
次は音だけではなく画像になってはっきりと清隆の頭の中に入り込んできた。
(これは、此花さんと中津さんの記憶……)
そして清隆は見た。静流自身の気づいていない最後の記憶を。
『うわぁぁァァァァァ!』
静流が堕天使を殺していく。
その風景の中でルチアは口を動かしていた。清隆はそれを自分のもつ読心術で解読する。
(や・め・ろ・し・ず・る)
ルチアは静流が堕天使を殺すのを動かない体で一生懸命止めていた。しかし、ルチアの声はしずるには届かなかった。
そして、堕天使をすべて殺した静流がルチアの下に歩いていく。
『る、ルチアァァァァァ!』
『静流、泣くな。泣くなら笑え。私の為にしてきた実験を今度はこの世界のみんなの為に使ってくれ。みんなの笑顔のために』
清隆には聞こえた。しかし、静流にそれが聞こえてはいるが聞こえている自覚はないようだった。
そんな思いをしていると、左腕に鋭い痛みが走る。
その痛みに驚くと自分を無意識に庇う様に左腕を自分の目の前に出していた。
そこには静流のナイフが刺さっているのがわかる。
瞬時に清隆は理解した。自分は、静流の深層心理の世界に入り込んでいたということを。
(これが、此花さんの想い。もしかして、中津さんはこの想いを自覚できていないのか?)
清隆はすぐに静流から離れる。
「戦いに油断は禁物……」
「聞いてくれ!中津さん。思い出してくれ、此花さんの記憶を!想いを!」
「……うるさい!」
清隆の言葉を無視して、静流は攻撃の手を止めなかった。
しかし、清隆は諦めずに話しかける。
「思い出すんだ!此花さんとの最後を!」
「その話をするなぁ!」
静流の攻撃を激しさを増す。
清隆はうまく攻撃をかわしたり、流したりするが、静流の薬品でうまく動けなかった。
「クソォォォ!!」
清隆は叫び、静流は一瞬ひるむ。
その隙に、清隆は静流の両手を掴む。
「思い出すんだ!中津静流!此花ルチアのことを思うなら、思い出すべきだ!」
「うるさい、うるさいうるさいうるさい!」
静流は両手をつかまれているが、清隆の腹部を蹴り続ける。
「ガハッ!」
清隆にダメージが溜まっていく。
(このままだと、死んじまうかもな。それでも!こんなにも強い想いがあるんだ!諦めるわけにはいかない!)
清隆は震える足を踏ん張り、静流に問いかける。
「お、思い出してくれ。此花さんは中津さんのそんな姿を望んだわけではないはずだ」
「お前には関係ない!」
「グッ、ガハッ!!」
少しだけ魔力を溜めて渾身の一撃を清隆に叩き込んだ。
清隆はあまりの一撃に意識が飛びそうになる。
さらにその反動で、静流の手を離してしまう。
気を失うような瞬間、リッカの顔が清隆の視界に入る。
今にも泣きそうな顔をしていた。
(すみません、リッカさん。俺でもダメみたいです……)
清隆はそのまま意識を手放した。
清隆の想いは静流には届かなかった……
清隆は戦場で意識を手放す……
しかし、清隆の中にある桜は咲き乱れ続けた……
そして、戦場に再び奇跡の桜が咲き乱れる……
次回「奇跡の桜」
見ていてください、リッカさん。奇跡を起こしますから……