いつもと変わらない日常は唐突に崩れる。
清隆は黒歌を連れて、いつも通りの購買に行って昼食用のパンなどを買う。
黒歌も最初はそのシステムに少しだけ違和感があったようだがすぐに慣れたようだった。
そして、午後の授業中に清隆のシェルに一通のメールが届く。
『授業が終わり次第すぐに連絡をよこしなさい
リッカ』
そう書かれていた。
しかし、清隆には特に呼び出されるようなことに心当たりはなかった。
今日の授業は1週間の中で一番早く終わる日だったため、授業が終わりすぐに屋上に走った。
そして、周りに誰もいないことを確認して、素早くシェルを取り出し、リッカに連絡を入れる。
リッカはすぐに出た。
「もしもし、リッカさん。一体何か用ですか?」
『遅いわ!一体何時間待たせるのよ!』
「いやいや、連絡をもらってまだ1時間も経っていないですよね。ていうか、俺は学校ですよ!」
『まぁ、いいわ。急いで風見鶏に行く準備をしなさい。ワープホールは今そっちに向かっている葵とシャルル、こっちにいる私と杉並で作るから。あと、小猫と黒歌も連れてくること。分かった?』
「何も分からないんですけど!?どうして俺だけじゃなくて黒歌達もなんですか?」
『説明がかったるいわ。とにかくこっちに来る。こっちも手を離せないの!!』
リッカは一方的に喋り、そして通話を勝手に切ってしまう。
「まぁ、リッカさんらしいって言えばらしいんだけど。まぁ、いいや。っと、噂をすればなんとやらってか」
清隆がドアの方を振り向くとそこにはこっちを影から見ている黒歌と小猫の姿があった。
「おーい、こっちからだと見えてるぞ」
清隆が手招きをすると、二人は清隆の方に歩いてくる。
「誰と話してたにゃ?」
「あぁ。リッカさんだよ。二人にも少し関係しているから話すな」
清隆は二人に先程の話を話す。
そして、二人に風見鶏に一度来て欲しいことを言う。
「私は別に構わないにゃ。清隆とは一心同体だからにゃ」
「すみません、私は一度部長に許可をもらわなくちゃいけないので。多分大丈夫だと思いますけど」
「分かったよ。じゃぁ、夕方の5時に俺の家に集合な。もし来れなかったら、シェルにでも連絡を入れてくれ。それでいいか?」
「はい。色々とすみません」
そう言ってその場は解散となった。
夕方の5時前に清隆の家の前に小猫が到着する。
小猫も許可をもらうのに少し時間が掛かったらしい。その前に清隆がシャルルと葵に聞いたところ、本人たちも知らないとのことだった。
そして、5人は言われるがままにワープホールをつくり、風見鶏に向かった。
5人が到着すると目の前には同じワープホールを作っていたであろうリッカと杉並がスタンバイしていた。
「やっと来たわね。遅すぎよ!」
「いやいや、結構頑張ったつもりなんですけど!?っで、一体俺たちを風見鶏に呼んでどうしたんですか?」
「そうね、時間がもったいないから歩きながらでいいわね」
リッカが歩き出す。それに皆もついていく。
「まず、私たち以外にもレーティングゲームをしているのは知っているわよね、若手悪魔の」
「えっと、あの会合に居た人たちですよね?」
リッカは頷く。
「そのとおり。そして、今日もそのレーティングゲームが行われたわ。対戦は、シーグヴァイラ・アガレスとディオドラ・アスタロトよ」
「確か、最初に喧嘩をしていた少しクールな女性と一番静かで戦いに全然縁のない様な悪魔ですよね。それがどうしたんですか?」
「その勝負、どっちが勝ったと思う?」
「ん~。少し、アガレスさんに分があるんじゃないですか?」
「勝ったのはアスタロトよ。そして、その圧倒的な力の前にアガレスは眷属をすべて失いかけている」
その言葉に皆が驚いた。
『失う』という単語に。その言葉の意味はその戦いで戦闘恐怖症になったか、もしくは最悪の事態になりかけているか。どちらかだからだ。
その会話と同時に風見鶏にある保健室と呼ばれている立派な病院のような建物の前に来る。
この時、清隆たちは最悪の事態になりかけているとすぐに察することができた。
そして、病院に入ると緊急治療室の方に歩いていく。
緊急治療室の前にはシークヴァイラが椅子に座ってうつむいていた。
足音で、清隆たちに気づく。
「グ、グリーンウッドさん?」
「大丈夫よ。清隆たちにも来てもらったわ。3人とも来て頂戴」
リッカに付いていこうとする清隆にシークヴァイラがしがみつく。
「お願いします!何でもしますから!どんな対価も支払いますから!だから、皆を助けてください!大事な家族なんです!」
清隆は一瞬驚くが直ぐに手で止める。
シークヴァイラを部屋の前に放置し、清隆達を部屋の中に連れていく。
その中には、シークヴァイラの眷属の全員がほぼ瀕死の状態で横たわっていたのだ。
その光景に3人は驚いた。
「ハァハァ、き、清隆達か?すまない、私では無理みたいなんだ」
壁によりかかるように座り込んでいた巴を見てすぐに3人は駆け寄った。
「巴の超活性を利用しても誰の傷も癒えることはなかったわ」
その言葉を聞いて巴がなぜここまでぐったりしているのか理由が分かった。
今までずっと、全員に自分の魔法をかけていたのだ。
「そ、そんな。巴さんの力でも全然癒えないなんて……」
さすがの清隆も驚きを隠すことができなかった。
小猫と黒歌も驚く。
「それで、ありとあらゆる回復系の手段を考えたわ。もちろん、グレモリーのアルジェントに頼もうと思ったのだけれど、巴の超活性がダメなところから彼女の回復も大差ないのよね。で、残されたのは姉妹猫による仙術と最終手段が清隆の桜ってことなの。でも、清隆の桜には不確定要素な部分がまだまだあるからあまり頼りたくはないのよね。まぁ、二人ともまずはお願いしてもいいかしら?」
リッカの言葉に二人は頷くと一番近い悪魔の横に立ち、二人とも両手を重ねる。
すると、二人から魔力以外の力が感じられる様になった。
その作業を3分ほどするが、傷が治るような前触れは全然起こることはなかった。
「ハァハァ、すみません」
「ダ、ダメにゃ。いくら氣を送り込んでも全部傷に吸い込まれていくような感覚にゃ。そのくせに全然傷が治る様子もない。これじゃ、いくら仙術を使用したところで無駄にゃ。おそらく、残りのメンバーも同じと思うにゃ」
「そう、ごめんなさいね。二人に無理をさせてしまって。はぁ、結局清隆に頼る羽目になっちゃったわね。大丈夫?」
リッカが清隆に聞くと清隆は笑顔で答えた。
「大丈夫ですよ。では、早速いきます」
清隆は桜を展開し、それを傷に近づけて塞ぐように送るが一瞬で桜の花びらが砕け散ったのだ。
その光景に見ていた者が全員驚いた。
「き、清隆!一体何が起こったの!?」
さすがのリッカも今のようなことを見たのは初めてだったらしく、驚きを隠せず清隆に聞いた。
「い、いや。今の感覚……。でも、そんなことはめったにあり得ないはず。でも、もしそれが事実なら……。リッカさん、少し離れていてください」
「え?えぇ。分かったわ」
清隆は直ぐにリッカに言った。リッカもすぐに清隆の指示に従い、離れる。
「ふぅ、俺の考えが正しければこれでいけるはずなんだけどな。成功してくれよ」
清隆は祈りながら桜をもう一度送り込む。
すると先程は直ぐに砕け散った桜が今回は砕けることがなく、先ほどと違い黒ずんでそのまま崩れ落ちていったのだ。
その光景に皆は唖然となった。しかし、清隆は冷静に考えることができた。
「なるほど……。クソ!みんなこの部屋から出ていってくれ!このままじゃみんな死んでしまう!それにこの部屋にいたらみんなまで危険にさらされる!」
「ダメよ、あなた一人だけにできないわ」
「リッカさん!お願いします!今回は俺しかできないんですよ!早くお願いします!!」
清隆は半ば強引にリッカを外に追い出し、皆も外に出ていく。
外では、リッカの声が聞こえてくるが清隆はすぐにロックを掛け、自分の魔法に集中する。
(母さん、さくら。少し無茶をさせるけど今回だけは勘弁してくれな)
清隆は一気に桜を展開させ魔法を発動させた。
病室から出てきた清隆の姿を見てリッカ達に再び絶望が走る……
重傷を負った清隆の前にサーゼクスが現れ、無情にもレーティングゲームの話が持ち上がる……
万全の状態じゃない清隆の姿を見てサーゼクスは延期を申し入れる……
しかし、相手の一言が一人の女性の想いに火をつける……
次回「黒き想い」
あいつ……芳乃の力を破滅ですって。絶対に許さないわよ……。見せてあげるわ、本当の化け物の力を……。