『破滅の桜』
その単語が清隆の頭から離れないでいた。
ディオドラとの戦いは、清隆達の圧勝だった。正確にはリッカの無双だったが。
あの戦いでほとんどの悪魔が風見鶏の見方を変えたらしい。
あまり公開しないでくれと言っておいたはずなのだが、ソーナ達との戦いが皆の興味をそそったのか若手悪魔以外のほとんどの残っている上級悪魔たちや最上級悪魔たちがあの戦いを見ていたらしい。
しかし、そのほとんどの悪魔がリッカに恐怖を抱いたらしい。あの圧倒的な魔法を見れば皆がそう思うのも無理はないだろう。
一部ではリッカを若手のレーティングゲームに参加させるのは反対だという意見も出てきている。
そんないざこざはリッカ達がどうにかするということで今に至るというわけだった。
清隆は自分の力について考えていた。
ディオドラが最後に言った『破滅の桜』という言葉を。
清隆自身は忘れていたわけではない。
『芳乃』の力が破滅を呼んできたことも全て自覚していた。
それでも、みんなと共に生きると覚悟した。
全てを守ると誓った。
だが、本当にこの覚悟が正しかったのだろうかと清隆はあの戦いから思ってしまうようになってしまった。
もしかしたら、この力のせいで皆が傷ついてしまうのではないかと。
全てを俺が守れるのかと。
自分の弱さに清隆は気づいてしまった。
周りの強さに気づいてしまった。
(あれがリッカさんの本気。そして、静流もあれぐらいまで強くなれる……。それなのに俺は……)
「……らぎ。葛木!!」
自分を呼ぶ声に清隆は気がつく。
「は、はい!!」
「次のところを読んでくれ」
その言葉に自分が今授業中だということを思い出す。
「す、すみません。聞いていませんでした」
「はぁ、まぁいい。では、姫島続きを頼む」
周りからはクスクスと笑い声が聞こえる。
(何してんだろうな。守るって誓ったのに。なんで今更こんなことを思うんだろうか)
清隆はそのまま授業のノートを取り始めた。
その日の夕方、黒歌には散歩に行くと伝えて清隆はそのまま出かけていた。
(俺自身が強くなるしかないのか。でも、俺にはこの桜しかない。それでも……)
「清隆さーん!!」
清隆がちょうど川の横を歩いているとき、後ろから自分を呼ぶ声が聞こえ振り向いた。
そこには買い物袋を二つほど持っている葵の姿が目に映った。
「あ、葵ちゃん!走っちゃ危ないって!」
「え?何ですかッ!?」
案の定葵が転びかける。
清隆は走ってなんとか葵を支える。
「大丈夫か?」
「は、はい。なんとか」
「でも、何で葵ちゃんここに?それになんで買い物帰り?」
「久しぶりの休暇なんで清隆さんに会いに来たらお出かけ中だということだったので晩ご飯でも作ってあげようかなと思いまして買い物に行ってたんです。そしたら、清隆さんを見かけたので来たわけなのです」
葵ちゃんはエッヘンとでも言いたいように胸を張りそう言った。
「ハハッ、葵ちゃんは相変わらず元気だね」
「元気が取り柄ですから。でも、清隆さんこそどうして泣いているんですか?」
「え?」
葵の一言に清隆は目に指を当て初めて気がついた。
自分が泣いているということに。
「えっと、これは……」
「清隆さん、もしかして何か不安なことでもあるんですか?」
「ッ!?」
清隆が動揺したことを葵も見逃さなかった。
「やっぱり……。少し、話しませんか?私なら話せるんじゃないですか?力になれるかどうかはわかりませんが。清隆さんが教えてくれたんですよ?誰かに話すと楽になれるということを」
「そういえばそうだったね。そんなこと言われたら俺は言うしかないじゃないか。やっぱり、葵ちゃんには敵わないな」
清隆達は近くにある公園に向かい、そこのベンチに腰を下ろした。
そして、清隆は葵に語った。
自分の想いを。
自分の弱さを。
その一言一言を葵は真剣に全て聞いていた。
その言葉は清隆が見せる心の闇だった。
中途半端に強く、大きな使命を背負ってしまった自分の。
「―――――と、まぁこんな感じなんだ。俺って本当に情けないよな。みんな頑張ってるのにさ」
「そんなことないですよ、お兄ちゃん」
葵は清隆と二人だけの時のみ清隆のことをお兄ちゃんと呼ぶ。そして、今も優しく清隆の事をお兄ちゃんと呼んだ。
「だってどんな時でも、お兄ちゃんは頑張ったじゃないですか。私が自分の未来の死を預言で見てしまい霧に囚われたときも、リッカさんが過去の友達に囚われたときも、シャルルさんが過去の自分の罪に囚われたときも、サラさんが家族のプレッシャーに押しつぶされそうになったときも、姫乃さんが自分のお役目に向き合わなければいけないときも、静流さんが自分を見失ってしまっていたときも、黒歌さんや小猫さんの事だってお兄ちゃんは頑張ってきたじゃないですか。一度、休憩したって罰は当たらないと思いますよ?」
「でも、俺のせいでみんなが傷つくかもしれないんだ」
「お兄ちゃん……」
「怖いんだ」
清隆は拳を握りしめる。
「みんなが傷ついてしまうような未来が怖いんだ。俺がいることでみんなが傷ついてしまう未来が。みんなの未来を俺が壊してしまうんじゃないかって思っちまう。それが怖いんだ」
それは葵が初めてみる清隆の弱さだった。
誰もが一度は思うであろう自分の無力さ。
葵はすっと立ち上がり、清隆を抱きしめる。
「お兄ちゃん言ってたじゃないですか。たとえどんな未来が見えても未来を進むことを否定しちゃいけないって。きちんと未来に向かって歩かなきゃいけないって。私に未来を進むことの大切さを教えてくれたのはお兄ちゃんですよ?」
「葵ちゃん……」
「それに、誰も破滅なんてしませんよ。だって、お兄ちゃんがいるだけでみんなが笑顔になるんです。もし、私達が破滅を味わうとしたらお兄ちゃんが私達の前から居なくなっちゃう時ぐらいです。まぁ、そんなことは私やリッカさんやみんながどんなことをしてでも止めますけどね」
「ごめん、少しだけ泣いてもいいか?」
「はい」
「うぅ……うぁ、あぁ……ううぅ」
清隆は静かに涙を流す。
それを葵は静かに抱きしめて頭を撫で続けた。
その二人を見ていた者が二名ほどいた。
「私も行きたいにゃぁ」
「さすがに自重してください、お姉さま」
見ていたのは黒歌と小猫だった。
「それにしても羨ましいですね」
「どうしてにゃ?」
「見てください。昔の私たちに似ていると思いませんか?私が苦しい時、いつもお姉さまは葵さんみたいに頭を撫でながら抱きしめてくれました」
「そうだったかにゃ?まぁ、私たちもそろそろ帰ってご飯を待つにゃ」
黒歌と小猫は二人の姿を最後に少しだけ見てそのまま帰っていった。
「やべぇ、思い出すとスゲェ恥ずかしいことしたんじゃないか」
「お兄ちゃん、ずっと泣いてましたもんね」
清隆は泣き止むと先程までの自分を思い出し、恥ずかしがっていた。
しかし、清隆の顔には先程までの不安な顔は全然なかった。
「お兄ちゃん」
「あぁ、ってどうした?」
「私、お兄ちゃんのこと大好きです」
「ありがとな、葵ちゃん。俺も葵ちゃんやみんなが大好きだ。みんなも頑張ってるんだ。もう少し頑張らなくちゃな。そうだ、黒歌も待ってるしそろそろ帰るか」
清隆は立ち上がり、歩き始める。
「フフッ、相変わらず鈍感ですね、お兄ちゃんは。でも、そういうところも大好きです。どこまでも前を見続けるそんな姿が。だから、次は私達が幸せにしますから。だから、走り続けてくださいね。」
葵はそう呟き、清隆を追いかけていった。
遂にディオドラVSリアスのレーティングゲームが開始された……
しかし、突然の禍の団の襲撃によって自体は急変させられる……
それぞれの場所に援護に向かう風見鶏勢……
そして、リッカと対面するは禍の団のリーダーであるオーフィス……
清隆はまだ知らない……
この戦いで残酷な未来が待っていることを……
次回「無限との対面」
我、求めるは静寂な世界……。次元の狭間に帰り、静寂な世界を得たい。ただそれだけ……。