「巴、やっと終わらしたぞ」
「その声は、静流?なのか?」
「……ん」
静流は頷く。
巴がわからなくても無理はないのだ。
いつも金髪でツインテールの彼女は今では、真っ黒な髪でツインテールではなくストレートになっていたのだ。
そして、大きな違いとは背中には悪魔達とはまた違う黒い羽を生やし、右腕は真っ黒になっており化け物の様に膨れ上がっている。そして、指先からはとても鋭い爪も生えていた。
「これが、私の正真正銘の本気の解放。体内に薬品名『福音』を大量摂取した。私はこの状態を『黒羽』と呼んでいる」
「『福音』!?確かそれは超強力な増強麻薬だったはずだ!それを大量摂取だと!?」
「これは私自身で作り出した『福音』だ。まぁ、私以外には使うことはできないが」
二人の会話は誰にもついて来れなかった。
「ダイジョーブだ。別に命を無駄にしようとしているわけではない。それに、限度はきちんとしている。誰一人かけることは許されない。それに」
静流はイッセーを睨みつける。
「清隆を。皆を傷つけた兵藤は許さない。では、あとは任せてくれ」
そう言って、静流はイッセーの下に飛んでいった。
「五条院!麻薬ってどういうことよ!」
すぐに、リアスが言葉を放つ。
「その言葉のままだよ。まぁ、どちらかと言えば、ドーピングに近いがな」
巴は静かに語る。
すぐにリアスが巴の胸ぐらを掴む。
「なんで、仲間がそんなものに手を染めているのに無視をしているの!」
仲間を大事に思っているからこそのリアスの怒りなのだろう。
「静流が大丈夫と言ったんだ。なら、それを信用するしかないだろう」
巴は冷静にリアスに言葉を返す。
そして、話せと言わんばかりに手でリアスをはねのける。
「あなたたちのことが全然わからないわ!」
「なら!お前に私の気持ちがわかるか!お前にはこの状況をどうにかできるのか!あの暴走状態の兵藤をどうにかできるのか!私達にはあいつを倒す手段すら思い浮かばないんだ!そして、ただひとつだけの希望がカテゴリー5の力なんだ!もう、頼るしかないじゃないか!」
巴は力が入りにくい拳をゆっくりと握り締め、涙を流す。
「変われるなら、変わってやりたい。苦しいなら、分かち合いたい。でも!それができないんじゃ、意味がないじゃないか!目の前で大切な人たちが苦しんで!傷ついて!それでも自分には出来ることが見守ることしかない私の気持ちが!想いが!お前になんてわかってたまるか!お前たちのために我々が動いているんだ!口をはさむな!」
巴はゆっくりと座り込む。
「我々は、弱すぎる……」
巴は小さく呟いた。その言葉でグレモリー眷属は何も言えなくなった。
ガキンッ!!
静流の爪とイッセーの篭手がぶつかり合う。
「グガァァァァァァァ!!」
「……遅い」
イッセーの瞬間移動も静流はすぐに対処する。
二人の戦いはどんどん激化していった。
二人の周りは鎌鼬が起こったように砂埃が起こる。
二人の攻防は既に見ている者には理解できない領域にいた。
(解放しているのに。黒羽を利用しているのに。これでも、兵藤の方が少し上手なのか)
静流は戦いの真下、自分とイッセーの実力を理解していた。
少しだが、自分の方が弱いのだ。
さらに、決定打にも欠けていた。
(このままだと少しまずい。かと言って、ここで、強気でいっても耐えられれば意味がない。何か、きっかけが欲しい)
静流は自分の経験という引き出しから必死にそのきっかけを探していた。
しかし、イッセーは静流の考えをあざ笑うかのように攻撃を繰り返す。
まるで、お前の考えでは俺を倒すことはできないとでも言うかのように。
カテゴリー5の称号は魔法使いで最強クラスを指す言葉。
しかし、そのフルパワーをもってしてもイッセーの力は強かったのだ。
少しずつだが、静流の顔に疲労が浮かんでくる。
(本当にやばい。巴にはああ言ったが、私の体に大量の麻薬を投与し続けているのには変わらない。早く決めなければ副作用が出始めてしまう)
静流が一瞬思考したとき、イッセーは見逃さなかった。
「ガァァァァァ!!!」
「しまったッ!?」
イッセーの拳を静流はうまくガードするがそのまま吹き飛ばされてしまう。
「つぅっ!?」
「静流さん!!」
たまたま近くに飛ばされ意識を取り戻した姫乃が静流に駆け寄った。
「姫乃、か?」
「大丈夫ですかッ!?」
姫乃は静流の右腕を見て驚く。
先程まで戦い続けていた腕は異質な形に変化していたが、さらに先程のイッセーの一撃により腕としての機能がほとんど無いに等しい状態であった。
「ダイジョーブ、だ」
静流は苦い顔をしながら左手をゆっくり右手に近づける。
すると、異質だが手の形を取り戻した。
「もしかして、それが静流さんの力なんですか?」
「ウム。心配するな。必ず、勝ってみせる。もう、誰にも傷ついて欲しくないから。もう、友達を失うのは嫌なんだ。私が頑張らなければ。私が守らなければいけないんだ」
静流はゆっくりと立ち上がる。
「待ってください!無茶です!」
静流の腕を姫乃が掴む。
「うるさい!」
しかし、静流は強引にその手をふりほどく。
「もう、みんなが傷つく姿を見続けるわけにはいかないんだ!力がある私がどうにかしなければいけないんだ!もう、嫌なんだ。失うのだけは……」
「静流さん……」
静流が涙を流す。
姫乃が見た静流の初めての涙だった。
姫乃はゆっくりと抱きしめる。
かつて、兄である清隆がしたように。ゆっくりと。
清隆を全てを受け止める『父』と例えるならば、姫乃は全てを癒す『母』だった。
「もう、大丈夫です。私たちは仲間です。静流さんだけが背負う必要なんてないです」
「うぅ…ひ、姫乃」
二人の想いが重なる。
そして、姫乃はゆっくりとイッセーを睨みつける。
「決着を付けましょう。私に何か出来ることはありますか?」
「なら、一瞬でいい。兵藤の意識を私から外して欲しい」
「分かりました」
その言葉と共に二人はイッセーの下に駆ける。
「グガァァァ!!」
二人を迎撃するようにイッセーも構える。
ガキンッ!
鬼姫と篭手が交差する。
「たしかに力は私よりも上みたいですね。でも!」
姫乃は無理やりイッセーを弾く。
「前回と違い、その拳にはなんの想いも籠もってません!」
(兄さん。少しだけ……。少しだけでいいので勇気を分けてください)
鬼姫も刃から桜が舞い散る。
「ハァァァ!桜炎斬!!」
姫乃は高速の刃でイッセーの片腕を切り飛ばす。
「グガァァァァァァァァァァァ!!!!!」
『boostboostboostboostboostboostboostboost』
切り落とされた腕が瞬時に回復し、姫乃を吹き飛ばす。
「グッ!?」
先程の攻撃の反動で姫乃は防御ができず、そのまま吹き飛ばされる。
「あとは、任せました……」
姫乃の呟きは誰にも届かなかった。しかし、想いだけは一人の少女に伝染するように伝わる。
「姫乃……。ありがとう。皆の想いを……」
静流は上空で右手に魔力を溜める。
それは黒く、禍々しい魔力だった。
しかし、どこか美しくもあった。
「ひとつに!」
そして、静流から魔力が放たれる。
「グガァァァァァァ!」
イッセーも同じように砲撃を放つ。
しかし、力は圧倒的に静流が上だった。
静流の攻撃がイッセーを包み込む。
「お、終わったのか……」
静流が座り込む。
もう、動けるものはいなかった。
『boost』
しかし、どこからか機械じみた音声が聞こえた。
「……な、なぜ…」
静流も驚きを隠せなかった。
しかし、イッセーの居た場所には真っ赤な宝玉が落ちていた。
『boost』
そして、その宝玉から魔力が溢れ出す。
『boostboostboostboostboostboostboostboostboostboostboostboost』
そして、徐々にイッセーの形に戻っていく。
『full recovery』
先程と全然変わらない姿で。
そして、目を開けたイッセーはゆっくりと静流に向かって歩いてくる。
「ハァァァ!煉獄・一閃!!」
「レイジング・レイ!!」
後方から目を覚ました愛紗と星が攻撃を繰り出す。
「……」
しかし、イッセーは無言で片手を二人に向ける。
そして、二人の攻撃を一瞬にして相殺したのだ。
「グガァァァァァァ!!!」
「やめろぉぉぉぉぉ!!!」
イッセーは二人に魔力弾を放つ。その力を一瞬で静流は理解し、叫ぶ。
しかし、先程の戦闘の疲労で静流は動けないでいた。
静流の叫び声はむなしく響きわたる。
二人はよけようとするが、イッセーの力の前に足がすくみ、動けなかった。
二人の鎧は完全に破壊されており、二人は無残な姿で倒れていた。
「う、嘘だ……嘘だァァァァァ!!」
静流は残り少ない力で駆け抜ける。
しかし、イッセーはそれをあざ笑うかのように静流に拳を振り上げ、殴り飛ばす。
そして、ゆっくりと静流の首を持ち上げる。
「グルルルルル」
静流はイッセーを見下ろす形となっている。
イッセーは掴んでいない方の手に魔力を溜める。
静流は覚悟した。
自分の死を。
静流は最後まで目を離さなかった。
しかし、覚悟した瞬間に驚くことが起きた。
突然、イッセーの腕が再び切り落とされたのだ。
「……」
静流は地面に落とされる。そして、ゆっくりと顔を上げる。
そこにはいつもとは雰囲気の違う清隆が立っていた。
静流side
全ての力を使っても私には勝てなかった。
兵藤は私の首をつかみゆっくりと持ち上げる。
兵藤の目にはなんの感情もなかった。
喜びも悲しみも、怒りも憎しみも。
私は思った。
感情が全てこぼれ落ちてしまっていると。
焦点の合わない目で私を見つめてくる。
『……ぜ』
すると、どこからか声が聞こえた。
誰だかわからない。
『もう……だから』
だが、なぜか嬉しさがこみ上げてくる。
『安心しろ。もう大丈夫だ』
はっきりと聞こえた。
だが、私には聞き覚えがなかった。
「だ、れだ?」
私は誰にも聞こえないくらいの声で言う。
『静流。迎えに来たぜ』
死神の声だろうか。
そうか、もう私は死ぬのか。
『俺はその場に居ないけど……』
しかし、死神とは思えないほどの声だった。どこか、私を安心させてくれる。そんな声だった。
『約束……守りに来たぜ』
なぜか、その声を聞くと涙があふれてきた。
『俺達の力を受け継いだ奴がもうすぐやってくる』
なぜだろう。私はこの声の主を知っている。
『やっと会えたな』
そう、私は……。
『静流はよく頑張った。もう、安心して眠っていろ。あとは、俺達に任せてくれ』
その瞬間、兵藤の腕が切り落とされた。
私は受身が取れず、そのまま倒れ込んでしまった。
ゆっくりと顔を上げるとそこには清隆の顔があった。
「……か!」
清隆の声が一瞬だけ聞こえた様に感じたが、私は安心感に包まれ意識を手放した。
side out
傷を負った清隆は黒歌達に治療を受ける……
そこで、清隆の体に異変が起こる……
再び、清隆は自らの深層心理の世界へ飛び立つ……
その先で見つけるのはもう一つの可能性……
希望を叶える奇跡の力……
再び払う力の代償……
清隆は一人の人間として覚悟を問われる……
それは覚悟の証……
次回「戦う意味 受け継がれる魂」
―――――私は、あなたがいてくれればそれ以上は望まない。
―――――清隆君は私に希望をくれたから。あとは任せて。
―――――兄さん。心配しないでください。私は、もう迷いませんから。
―――――私、清隆を補佐する最高の魔法使いになります。たとえ、没落貴族のレッテルを一生背負うことになろうとも
―――――もう、未来を見て絶望なんてしません。だって、お兄ちゃんが守ってくれますから。
―――――清隆。お前は私の最後の希望だ。だから、死なないでくれ。
桜の中に眠るたくさんの想いが奇跡の力を呼び起こす……