「「「清隆(さん)!」」」
清隆がゆっくりと歩いていくと3人が駆け寄ってくる。先程までの激戦区から少しワープした先の安全な場所に3人は準備していた。
すぐに3人が治療を行う。
葵は魔力的な回復で黒歌は仙術による治癒能力の向上。サラが二人の補佐という形だ。
「ごめんな、黒歌。疲れているところ連続で」
「私は構わないにゃ。もともとこういうのが専門みたいなもんだから」
「清隆さんは無茶のしすぎです。いつも言ってますよね?ケガをすれば誰が一番大変なのかを」
「葵ちゃんの言うとおりです。清隆はいつも一人で無茶ばかりして。どうして、みんなが来るのを待てないんですか?まぁ、この状況じゃ仕方ないでしょうけど」
「本当にすまん」
3人の言葉に清隆は謝ることしかできなかった。
「それにしても、なかなか傷が治らないにゃ」
「そうですね。いつもなら、ほとんど回復しているはずなのですが」
二人の言葉にサラが少し考える。
「多分、赤龍帝の力が関与しているからではないでしょうか。私も最近は龍などに関わっている研究をしているのですが、龍などの幻獣種の攻撃はどの文献でも治癒能力を遅らせる傾向があるようなんです」
「なるほどな」
それを最後に皆は喋らなくなった。
ドクンッ。
一瞬、清隆の心を波打つかのように心臓の音が聞こえる。
清隆はこの感覚を知っていた。
『……今の感覚。今なら、行けるか』
清隆はゆっくりと目をつむる。
そう、今の感覚は決して自分自身では行くことができない深層心理の世界へ行くただひとつのきっかけだった。
清隆が再び目を開けるとそこは暗闇が支配する世界、つまり深層心理の世界にたどり着いた。
「これた、のか?さくら!母さん!」
清隆は二人を呼ぶが二人は現れない。
「あなたが、所有者なのですね?」
月明かりに照らされるかのようにひとりの男性が姿を現す。
「あんたは、誰だ?」
清隆も身構える。その男から圧倒的な力を感じたからだ。
「そう身構えないでください。私は、あなたの中に宿る力の人格ですよ」
「俺の中?だが、『芳乃』の初代はさくらだったはずだぜ?」
「『芳乃』?あぁ、なるほど。これで、力の理由や私が今まで目覚めなかった辻褄が合いました。私は、『芳乃』ではない力の持ち主ですよ」
その言葉に清隆は驚く。
「『芳乃』じゃない?だが、俺には『芳乃』以外の力はないぜ?」
「それはあなたが思っているだけです。現に私はあなたの目の前にいて深層心理の世界に存在している。カテゴリー5の魔法使い。いえ、こう言えばいいのでしょうか。『桜の守護者』さん?」
「ッ!?まさか、ここから見ていたのか!俺のことを!」
男の言葉に清隆は怒鳴る。
「いえ?ただ、私も『芳乃』と同じ時間を過ごしたことがあるだけです。と言っても、違う世界ですが」
「違う世界?もしかして!?」
「あなたの思っているとおりです。私は、平行世界の住人にしてこの力『書き換えし者の証』リライティング・プルーフの意思です。そうですね、名は咲夜と申します。以後よろしくお願いします」
「書き換えし者の証、リライティング・プルーフ……」
清隆は自分の手を見つめる。
「あなたには覚悟がありますか?」
咲夜は清隆に問いかけるように言う。
「……人間をやめる覚悟が」
「人間を、やめる?」
「この力を持つ者はどの世界においても人間をやめる運命をたどっています。人間を超え、最強の魔物と謳われた者、大切な女性を守るために最強の異能者となった者。私はたくさん知っています。あなたに、その覚悟がありますか?」
清隆は咲夜の目を見る。
「俺は、皆を……守りたい」
「ですが、この力はあなたの大切な人たちの運命をも書き換えてしまう力です。それでも、いいのですか?あなたは責任を取れますか?大切な人たちの運命に」
「責任なんてとれない。俺は、俺の思ったようにするって決めたんだ。しなくて後悔なんてしたくないから。それに―――――」
―――――私は、あなたがいてくれればそれ以上は望まない。
とリッカが。
―――――清隆君は私に希望をくれたから。あとは任せて。
とシャルルが。
―――――兄さん。心配しないでください。私は、もう迷いませんから。
と姫乃が。
―――――私、清隆を補佐する最高の魔法使いになります。たとえ、没落貴族のレッテルを一生背負うことになろうとも
とサラが。
―――――もう、未来を見て絶望なんてしません。だって、お兄ちゃんが守ってくれますから。
と葵が。
―――――清隆。お前は私の最後の希望だ。だから、死なないでくれ。
と巴が。
他にもたくさんの仲間たちの想いが清隆のなかで交差する。
「みんなが涙を流す姿なんて見たくない。人間を辞めるときになったらその時に考える。みんなが受け入れられないって言うならまぁ、この身を引くさ」
「とんだ馬鹿ですね、あなたは。本当に、この力を持つ者はなぜいつもここまで馬鹿なのでしょうか。自分を犠牲にしてまで守ることに意味なんてないのに」
咲夜は悲しそうにつぶやく。
「それは咲夜にも言えることなんじゃないのか?俺の感だが、あんたもこの力の所有者だったんじゃないのか?」
「少しの時間でそこまで理解できたんですか?」
咲夜は清隆の言葉を聞いて驚く。
「まぁ。あんたと似ている人間を知っているからな」
「もし……」
「ん?」
「あなたは世界に不服があります。その時、あなたは世界を変えたいですか?それとも、自分を変えたいですか?」
咲夜の言葉に清隆は少し考える。
「俺は大事な人たちを失わない選択肢を選ぶ。世界がみんなを傷つけるなら世界を。自分がみんなを傷つけてしまうなら、守れる力がないなら自分を。変えてみせる」
「変えてみせる、ですか。いい答えですね、清隆君」
「俺からもひとつだけいいか?」
「何です?」
「あんたはこの力をもって後悔しなかったか?」
「しましたよ。沢山、ね」
咲夜は懐かしむように見上げる。
「大事な人たちを守れませんでした。先駆者として無理だったかもしれない。それでも、守りたかった。私の義理の兄弟を死なせてしまった。後悔ばかりです」
「そっか。でもさ、その兄弟は後悔しなかったと思う」
「そうですね。彼はいつもどおり自分を貫きましたから。では、そろそろ始めるとしましょうか。あなたにはわかるはずです。書き換える意味を。その力を」
清隆が手を前に出すとそこには一本の剣が生成される。
「桜弁の剣。別名書き換えし者の剣とも言います。それで切りつけた相手の様々なものを書き換えることができます。自分を含めて。もう一度言います。それを握ることはもう、今の日常には絶対に戻ることはできません。たとえ、芳乃の力があろうとも。この運命だけは干渉できない。もう、進むことしかできません。立ち止まることもできません。それでも、行くのですね?」
清隆は無言で桜弁の剣を握り、自分の腕に突き刺す。
「クッ」
一瞬顔をしかめるが徐々に自分の体に異変が起きていること清隆は知る。
「そうですか。そこまでの覚悟があるのですね。なら、もう止めません。共に歩みましょう。この、理不尽な世界を」
その言葉と共に清隆の意識は暗く沈んでいった。
「にゃはは、すごいでしょぉ」
「やはり見ていたのですね、さくら」
清隆が消えたあと、その場にさくらが現れる。
「『芳乃』と言う単語からきっとあなたが関与していると思ってました。ですが、いいんですか?彼にこんな重い運命ばかり背負わせても」
「大丈夫だよ。だって、清隆はボクに大事なものを教えてくれた人だもん。どんな障害だって壊してくれる。もしもの時は、ボクがどんなことをしてでも守ってみせる。たとえ、この身が犠牲になろうとも」
「そうですか。おや、あなたも目を覚ましたのですか?」
咲夜の後ろから少年が現れる。
「あぁ、懐かしい顔があったからな。少しだけ挨拶してきた。そこの女の子は?」
「瑚太朗は初見でしたね。彼女はさくらといいます」
「はじめまして。ボクはさくらだよ」
「俺は天王寺瑚太郎って言うんだ。よろしくな」
咲夜がそう言うとさくらと瑚太郎が挨拶をする。
「瑚太郎君は私の次のリライターなんです。ちなみにさくらは一度だけリライターと同等の特別な力を話しましたがその力の持ち主です」
二人が咲夜の説明にほぇ~と感想を漏らす。
「っていうことは、今回の所有者はすごく強いんだな」
「だって、清隆だもん。清隆は最高の魔法使いなんだ。きっと、芳乃もリライターも理不尽な因果を全部断ち切ってくれるよ」
「そうか。さくらは清隆のことを信用しているんだな」
瑚太郎はそっとさくらの頭に手を乗せる。
「心配するな。この力は使い方を間違えなければ最強の力だ。この力で書き換えられないものなんてない。強いて言うなら、死ぬという未来ぐらいだ」
その言葉を最後に3人は清隆の出ていった方向を見つめた。
「うぅ……」
「「清隆!」」「清隆さん!」
清隆が目覚めるとそこには驚いている3人の姿が映った。
「清隆、何が起こっているにゃ!」
「そうです!何の術式を使ったんですか!」
「わ、私たちに教えてください!」
「へ?な、何ってどういう意味だ?」
3人の言動に清隆はついて行けなかった。
「どうもこうもないにゃ!私達が必死になっても治せなかった赤龍帝の傷が何で自然と消えるにゃ!」
黒歌の一言を聞いて清隆はイッセーに与えられた傷がすべて完治していることに気づく。
(さっきのは夢じゃなかったのか。つまり、人間を少し離れた。なら)
清隆はそっと手を前に突き出す。
すると、そこから一本の桜で形成された剣が姿を現す。
「すごい力を感じるにゃ」
「でも、何か」
「悲しい想いも感じます。清隆さん、もしかして傷が治ったのってその力が関係しているんですか?」
清隆は葵の言葉に静かに頷く。
「みんなが待ってる」
「待つにゃ!!」
「待ってください!」
清隆がそっと立ち上がり、皆のところに向かおうとするがそれを止めたのは黒歌とサラだった。
「その力がなんなのかは知らないにゃ。でも、さっきまで瀕死に近かった清隆を戦わせに行くわけにはいかないにゃ!」
「そうです!また一人で無茶をさせるわけにはいきません!葵ちゃんも言ってあげてください!」
「……」
しかし、葵は無言で清隆を見つめる。
「……必ず生きて帰ってきてください」
葵から発せられた言葉に黒歌とサラは驚く。
「な!?葵は自分が何を言っているかわかっているにゃ!」
「黒歌さんの言うとおりです!なんで止めないんですか!」
「止めるなんて―――――無理に決まってるじゃないですか。だって」
葵は清隆と黒歌、サラの3人を見つめる。
「清隆さんはいつだってどんな人も助ける私たちのヒーローなんですから。みんなの笑顔のために覚悟を決めている清隆さんを止めるなんて私にはできませんよ。だから、清隆さん。みんなをお願いします」
葵の言葉を最後まで聞いて、清隆は走り去っていった。
清隆が空間をワープしていくのを見ると葵はその場に座り込んでしまう。
「うぅ……ぅぁ」
「葵ちゃん!」
すぐにその異変に気づき、サラが駆け寄る。突然、葵が涙を流し出したのだ。
「うぁ、うぅぅ」
「もしかして、見えてしまったんですか?」
サラの言葉に涙を流しながら葵は頷いた。
「サラ?どういう意味にゃ?」
サラは言うべきか言わないべきかすこし悩む。
しかし、葵はゆっくりと話した。
「詳しくは言えませんが、私は無意識に予知夢が見えてしまうときがあるんです。それで今も見えてしまったんです。ボロボロの清隆さんが……」
「それって、さっきのことじゃないにゃ?」
「私が見るのは、予知夢なんです。未来にしかありえません。それが、この後すぐなのかそれとも10日後なのか1年後なのか今回のではわかりません」
「それこそなんで止めないにゃ!なんで、清隆を死なすような真似をするにゃ!」
黒歌は激怒し、葵の首元をつかみあげる。
「無理ですよ。それは、黒歌さんだって分かっているはずです。清隆さんは仲間のためならどんなことだってするんです。それを止めるなんて私にはできません。まったく、私たちの気持ちも考えて欲しいです……。仲間が傷つくことが悲しいように、私達が清隆さんの傷つく姿を見ると悲しくなることを……」
葵の言葉を聞き、葵の目を見ると黒歌は何も言えなくなってしまった。
(お願いします、お兄ちゃん。必ず帰ってきてください)
清隆がワープした先で見たものは地獄に近かった。
風見鶏の仲間たちが全員倒されていたのだ。
「あぁ……」
清隆は唖然となってしまう。
「グァァァァァ!!」
イッセーの叫び声に振り向くとそこには今にも殺されてしまいそうな少女の姿があった。
一瞬誰だかわからなかったが、服装から静流だとすぐにわかった。
「静流!!」
直ぐに清隆が走り出すが絶対に間に合わない。
(間に合わない!行けるか?)
清隆は体に力を加える。
それは先ほど自分に剣を突き刺した感覚を再現する。
(俺自身の肉体を書き換えろ。俺はもう失うわけにはいかないんだ!)
清隆の想いに答えるように下半身が軽くなる。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
清隆の速さは今までの数倍まで膨れ上がる。そして、右手には桜弁の剣を握りしめる。
そして、イッセーの腕を切り裂き、静流を開放させる。
「大丈夫か!」
清隆がすぐに静流を見るが、一瞬だけ目が合い気絶してしまう。
その力は全てを書き換える奇跡の力……
それは人の運命までも書き換える……
そして、清隆は自分の人間という力を書き換え、再び赤き龍帝の前に姿を現した……
桜の守護者は破滅の運命を背負いし、赤き龍帝の運命を書き換える……
次回「LAST BATTLE リライターVS赤き龍帝」
それでも、人は力を求めてしまう……。決して、大事な人の涙を見たくないから……
感想欲しいなぁ……