『お前達、風見鶏の連中にチャンスをくれてやろう。次の騎士が集まりし満月の日。そこで、もう一度悪夢を見せよう。忌まわしき、永遠に繰り返されるあの日々を……。そして、我々の儀式が完成する』
杉並の広げた紙にはそう書かれていた。
「これは俺の使い魔にダークネスたちを追わせているとダークネスに渡されたものだ。奴らの夢幻城というのが何なのか。そして、奴らが何者か。情報が全然ない中でこれが渡された」
「でも、これって罠の可能性もあるんじゃないのかな?」
シャルルが呟くように言った。
「俺はその可能性は少ないと考えている。まず、文面から、ダークネス自身はこのような卑怯な真似は嫌いのように見える。いまは、情報がこれしかない。これを中心に話を進めていくぞ。まず、この中に書かれている騎士の集まりし満月の日。この言葉の意味は簡単だ」
杉並は新しい紙を取り出す。そこには大きく『騎士魔法祭』と書かれていた。
「これは、今度女王陛下の騎士達が集まる場でな。まぁ、簡単に言うなら小さなパーティーのようなものだ。これは風見鶏で行われるものだ。で、この日、ロンドンの月は満月になると言われている」
杉並の言葉に一気に緊張に包まれる。
「つまり、ロンドンに強者が集まる日にわざわざ攻撃を仕掛けてくるということですか?でも、それってリスクが伴われるんじゃ?」
ティアナが言うと杉並は頷く。
「そのとおりだ。だが、そのあとの『もう一度悪夢を見せよう。忌まわしき、永遠に繰り返されるあの日々を……』と言う言葉を考えれば辻褄が合う。これは、俺たちも聞いた話で覚えていないのだが、俺たちの知っている範囲で教えよう。なんせ、このことを覚えているのが、葛木兄、グリーンウッド、陽ノ本の3人だけなのだからな。あと、ここから先の話は絶対に他言無用だ。まず―――――」
そこから、杉並は語った。
葵の発動した禁呪の話を。
その一言一言にその禁呪の世界にとらわれた経験のある者たちは表情を曇らせていった。
ループ世界をつくり、隔離された世界を作り出す禁呪『永遠に訪れない五月祭』について。
11月1日から4月31日までを繰り返す忌まわしき禁呪を。
「―――――とまぁ、こんな感じだ。詳しい話は先程も言ったとおり、俺は覚えていない。知っている限りあの3人しか知らないな。だが、この魔法にはたくさんの強き想いが必要だ。なら、魔法祭の日に行うのも陽ノ本が連れて行かれたのも分かる。グリーンウッドは謎だがな…。この魔法は本来11月1日からスタートする。しかし、魔法祭は10月1日。この魔法を早く発動させる気なのかどうなのか。とりあえずは、早く始めるという方向に考えなければな…」
その内容は皆には重たすぎた。
「で、杉並。そんな過去はどうでもいい。つまり、ダークネスは葵を使うか、もしくはあの禁呪をを使う可能性があるということか?」
「巴!」
巴の言葉にシャルルが声を上げる。
「巴!そんな過去って!」
「シャルル……。今は、そんな過去を見ている暇はない。いいか。ここにいるみんなも聞いてくれ。確かに葵のしたことはとても罪深く、自分勝手なことだ。笑える内容でもないだろう。だがな、過去だ!過去なんだ!今、私たちがしなくちゃいけないことは葵への同情か?違うだろ!今は二人を助け出すことが大事だろう!シャルル、お前も年長者がそんなことでどうする?私たちが引っ張らなければ皆が方向を見失うではないのか?」
「五条院の言うとおりだ。こんなことでしんみりなどしていたら、それこそ葛木兄に笑われるぞ」
「まったくだぜ。それにあんな可愛い子の罪なんて俺が許す!」
「マスター?ナイスです。場を和ませるにはいいジョークです。でも、それをほかの場所で言ったら……握りつぶしますよ?」
「ヒィィィ!?」
二人の会話に笑顔が生まれる。
まだ、暗い空気が残っていないとは言えないがそれでも十分だった。
「では、最後に今回の作戦の細かい注意事項を言う。まず、今回のことで相手の力がどれだけ高いか分かったはずだ。それでも、他の勢力に頼るわけにはいかない。なぜなら」
「隙を作るわけには行かない、だろ?」
杉並の言葉に巴がかぶせる。
「五条院の言うとおり。皆も知っているとおり、風見鶏にはまだ敵が多い。ここで、二人のカテゴリー5を失ったことがバレれば、ピンチになりかねない。もちろん、悪魔や堕天使にもだ。黒歌」
「なんにゃ?」
「このことは塔城にも内緒だぞ?疑ってはいないが、もしもがあるからな」
「了解にゃ」
杉並の言葉に黒歌が頷く。
「そして、別件なのだが、この魔法祭には小さなイベントがあってな。騎士同士の戦闘を見せなければならない。一応、相手の方は決まっているのだが、こちらは本来は葛木兄、五条院に参加してもらうつもりだった」
杉並の言葉に二人は頷く。
「しかし、葛木兄があんな状況だ。代役を立てなければならない。一応、ここにいるメンバーがそれなりの力をもっていることは知っている。それに、騎士の称号なぞどうとでもなる。出たい者はいないか!」
杉並の言葉に静かになるが、一人だけゆっくりと手を挙げる。
「わ、私行きます!」
手を挙げたのは美琴だった。
その姿を見て古参以外は少し驚いた。
「分かった。では、葛木兄の代役には御坂に行ってもらう。皆には随時作戦が決まり次第もう一度集まってもらう。いいか、今回の敵は何者なのか検討すらつかない。まず、魔法祭を知っているのは妥協しても構わない。だが、葛木兄の力が芳乃だということ、そして、一番謎なのがなぜ『永遠に訪れない五月祭』のことを知っているのか。俺たちが覚えていないものをなぜあいつが知っているのか。皆も何か気づいたことがあれば俺に言って欲しい。では、陛下。今回の会議はこの辺で」
杉並は一歩下がるとエリザベスが前に出る。
「ありがとう、杉並君。では皆さんこれで今回の会議は終了します」
その言葉を最後に皆はゆっくりと部屋を出ていった。
そして、部屋には杉並、エリザベス、五条院、シャルルの4人が残った。
「で、杉並。本当に作戦があるのか?」
巴が詰め寄る。
しかし、杉並は答えなかった。
「無言。肯定って受け取ってもいいよね?」
シャルルが追い打ちをかけるようにそういった。
「あぁ、作戦は今のところ全然思いついていない。今回の敵は先程言ったとおり、全くわからない。だが、何か違和感を感じるのだ」
「違和感?」
杉並の言葉に巴が聞き返す。
「あぁ。ダークネスも、ミスターTもどこかで見たことがある気がする。それに、あの声もどこかで聞いたことがある気がするのだ」
その言葉に3人が驚く。
「どこだ!どこで聞いたことがある!」
「それが分からんのだ。声が似ているような気がするというだけで。あの口調、どこかで聞いたことがある気がする。そう、身近のどこかで……」
その言葉に3人が驚く。
「まさか、内通者がいるというの?」
エリザベスの言葉に杉並は首を横に振った。
「その可能背は否定できません。ですが、可能性としては低いと思われます。俺が感じた違和感というのはそんな感じではないからです。なんというかこう、言葉にできませんがモヤモヤする感じといいますか……」
杉並がその言葉で締めくくった。
「あなた、一体何が目的なの?私や葵を連れ出して」
リッカと共に歩いているのはダークネスだった。もちろん、リッカには魔術で出来た鎖を絡めてあり、魔法を使えなくしておいてある。
ちなみに、葵はミスターTと共に違う部屋に行っているため、その場にはいなかった。
「何が目的か。ここには誰もいないし、話してもよいだろうか。まずは、俺がここにいる理由からか。それを話せば君も俺の望みを分かってくれるし、手伝ってもらえるだろう」
そして、ダークネスはこれから自分のしようとしていることを話す。
これから何が起こるかを……。
「そ、そんなこと許されるわけないじゃない!」
「許す許さないは関係ない。俺が望むのは一瞬だけだ」
「それでも!あなたはそれでいいの?」
リッカは怒っているのではなく、ダークネスに同情してしまっていた。
「葵は関係ないでしょうが……」
「あの魔法を効率良く発動させるには彼女を媒体とするしかないのだよ」
「なら!わたs「君には君の役目がある」ッ!?」
「君ならわかるだろう?俺の気持ちが……」
「葵は本当に助かるの?死ぬことはないの?」
「もちろんだ。約束しよう、必ず彼女は生きて返すと」
ダークネスの言葉にリッカは肯定してしまう。
「あなたは一体何者なの?」
「時期が来ればわかるかもしれないな」
二人は暗闇の中に入っていった。
一人の少女は恋をした……
恋とは何なのか……
一人の少女は自分を変えたかった……
力の意味を考えた……
次回「白き恋路 黒き悩み」
うん。私達の未来のために…