シャルルside
「清隆君……」
私はいつものように風見鶏を巡回していた。
私は、風見鶏を卒業して家を継がずに風見鶏の教師になることを決めた。
最初はおじいちゃんに反対されたが、私の強い意志を言ったら渋々賛成してくれた。
そのことを聞いて清隆君はすごく喜んでくれた。
誰かが傷付くことを恐れ、皆のためにいつも自分たちの目の前に居てくれた人。
私はそんなあなたに憧れ、助けられ、好きになった。
いつからだろう。こんな感情を持ったのは。
気がついたら、好きになっていた。
私に希望をくれたから?
違う。
かっこいいから?
違う。
優しいから?
違う。
なら、なぜ私は彼を好きになったのだろうか?
その問いに答えてくれる人はいない。
その問いに答えは存在しないのだろう。
私はあなたといればどんなこともできると思っていた。
でも、あなたが傷つくことでこんなにも弱くなってしまう。
「……先生、シャルル先生!!」
「え?」
私は突然呼びかけられたことに驚き、振り返る。
どうやら、予科2年生の学生のようだ。
「シャルル先生、授業で分からないことがあったんで聞きたいことがあったんです」
「どこがわからないの?」
「えっと、ここの術式のところなんですけど。この術式をこっちに変えてこの術式を短縮させればうまくいくと思うんですけど」
「この術式?そうね、ここを簡略化すれば確かに少ない術式で済むわ。でも、ここを簡略化することで、そっちの術式が脆くなるの。だから、そこの具合をうまく調整すればもっといい術式ができるかもね」
「な、なるほど。たしかにそうですね。お忙しいのに失礼しました!」
そう言って、学生は走っていく。
その方向には一人の予科2年生の男子学生がいた。
「もしかして、カップルなのかな……」
すると二人が話を始めた。
すると、先程質問してきた女子学生がこっちに向かって手を振ってきた。
私は笑顔のつもりで女子学生に振り返した。
今の私が笑えているか不安で仕方ない。
そのまま二人は歩いていった。
「……え?」
その男子学生が、清隆君やエトに見えてしまった。
「ほんとに清隆君はいつも私たちに心配ばかりかけて……あっ、そうか。そういうことなんだ…」
理屈じゃなかったんだ。
私が清隆君のことを好きなのは。
忘れてた。お母さんが恋は理屈じゃないって言ってたっけ。
理屈じゃないんだ。清隆君のことが好きなのは、私の想いなんだ。
シャルルはそのまま散歩を続けた。
sideout
「はぁ!!」
「まだです!!」
魔法空間で巴と美琴は訓練をしていた。
もちろん、美琴が魔法祭で良い結果を残せるようにするための訓練だ。
「はぁ!電光一閃!!」
「甘いよ!轟旋風!」
美琴の放つ電光の一閃を巴は蹴りの風圧で相殺した。
「はぁはぁ、なんで届かないの……」
「確かに美琴は本科2年生にしては強いほうだろう。しかし、これほどの差があるんだ。騎士の称号を甘く見ないでもらおうか。中には研究成果で騎士になったものもいるが、私はれっきとした戦闘能力で騎士の称号をもらったのだよ?」
美琴の必死な攻撃も巴には全て防がれていた。
「その余裕の面に一発ぶち込む!」
「やれるものならやってみな」
再び、美琴の攻撃が始まる。
しかし、この勝負の行方は語るまでもないだろう。
「ハァハァ、もう無理……」
「さすがは学年主席の電撃使いだな。危うく、私も危なかったよ」
「一発もクリーンヒットしなかったのに…」
美琴の言葉に巴は苦笑いを浮かべた。
「だが、美琴の実力ならほかの騎士達にも遅れを取らないだろう」
「そ、そうですかね?」
「あぁ、戦闘技術は私とさほど変わらない。違うのは圧倒的な経験の多ささ」
「経験……」
巴の言葉に美琴は深く考える。
「まぁ、無理に考えなくても大丈夫さ。それでも、私と同じぐらいに力を持っているんだ。さぁ、今日はこれぐらいにして帰ってきちんと休養をとるんだよ」
「で、でも!」
美琴は立って抗議をしようとするが巴は手で美琴を止める。
「やめておけ。無茶をすれば体を痛めるだけだ。今日の戦いを体で覚えている間にイメージトレーニングをしとくんだ。そしたら、明日には今よりもより良い動きができるようになるさ」
「分かりました」
「うむ」
そう言って二人はそこで別れた。
巴side
美琴の訓練が終わり、私は風見鶏の敷地内をゆっくりと歩いていた。
「本当に私は最低だな…」
そう、さっきの訓練は少しというかかなりやりすぎだったと思う。
普段なら、少し手加減をして何発かはもらって美琴に自信を付けさせるのだが今日の訓練はそんなことを一切しなかった。
「これでは、ただの八つ当たりではないか」
そう、今日の私はおかしかった。
清隆を助けるために自分では何もできずにこんなことしかできない。
自分が情けなくて、自分に力がないのが悔しくて…。
「美琴にはまた今度何かを奢らなければな」
私は清隆にいつも助けられている。なのに、大事なときはいつも見ていることしかできない。
そんな自分を変えたくて、騎士の称号からいろいろな実戦の仕事を選びいろいろなことをし、トレーニングをし続けた。
そう思ったとき、何かが私の頭をかすめた。
物理的にではなく、直感がだ。
「なんだ?今重要なことを私の頭に引っかかったぞ。何が……」
しかし、再び考えても思い浮かぶこともなく私は歩き続けた。
すると、目の前から見知った人物が歩いてくるのが見えた
「巴……」
親友のシャルルだった
sideout
シャルルと巴は二人で歩き、近くにあったベンチに腰掛けた。
「どうしたの、巴?何か浮かない顔をしているけど…。道着を着てるってことは修行でもしてたの?」
「あぁ、美琴と訓練をしていたんだが。少しやらかしてしまってな」
「愚痴なら聞くよ?」
「すまない」
シャルルの言葉に巴は話した。
先程の戦闘訓練の事を。
自分が八つ当たりのようなことをしてしまったこと。
そして、何かにすがらなければ自分が壊れてしまいそうであることを…。
「巴……」
シャルルはゆっくりと巴を抱きしめた。
「シャルル…?」
「無理しなくてもいいんだよ。全部背負い込まなくてもいい。みんながいる。今は欠けてしまっているけれど、絶対に取り戻すから。みんなで必ず3人を取り戻す。それでいいじゃない。私たちは二人じゃない。みっともなくてもいい。みんなに頼ろうよ。そうしなくちゃ勝てるものも勝てない」
「すまない。少しだけ胸を貸してくれないか?」
「私の胸で良ければいつだって貸すよ?」
「ありがとう……うぅ、あ…」
それから、シャルルの胸で巴はひたすら泣いたのだった。
自分の溜め込んでいたものをすべて吐き出すかのように……。
そして、数分後二人は歩きだした。
「なぁ、シャルル…」
「何?」
「絶対に勝つぞ」
「うん。私達の未来のために…」
二人は風見鶏の校舎を後にした。
自らを箱庭から連れ出してくれた兄を慕う妹……
妹は必死に兄に呼びかける……
しかし、返されるのは吐息のみ……
自らに現実を教えてくれた一人の少年……
そんな彼のおかげで自分は強くもなり、弱くもなった……
二人の少女がひとりの少年を思うとき、訪れないであろう一人の少年とひとりの少女が現れた……
懐かしい顔だが、二人は喜べなかった……
次回「桜の軌跡」
一人の少年の変わりように二人の少女は困惑を隠せなかった……