プロローグ後~6月5日(アーキタイプ覚醒直後)まで
6月2日~6月5日
───6月2日 水の曜日───
王都に向かう旅路の中で、寄った町で日記帳が売っていたので買ってみた。あの幻想小説は異世界での旅の日記を綴ったものだ。だから僕も、それに倣って日記のようなものを付けることにした。
この日記が誰かに読まれるかどうかはわからない。でも、あの呪いから王子を起こした後に「こんなことがあったんだ」と伝えるには丁度いいのかもしれない。
今は馬車に乗っている所だ。道案内役で付いてきてくれた妖精、ガリカはカバンの中に隠れている。特命のことは、親友を助け出すことに繋がるから僕はやり遂げたいと思っているけれど、ガリカもガリカで凄くやる気みたいだ。色々魔法でサポートもしてくれる。頼もしい。
そろそろ王都が見えるだろうか。
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今は兵舎に潜入して、ベッドの上でこれを書いてる。あの後は散々な目に合った。
ルイ派の義勇団に襲われて、本は取られなかったけど崖の上から落ちたんだ。何とか助かって街道まで行けたけれど、道中でも見上げるほど大きいミミズのような魔物に一斉に襲われた。ガリカの案内が無かったら危なかった。
王都に入った後は驚きの連続だった。道は全部石畳だし、建物にも魔動器の明かりが使われてたんだ! それに魔道器が売られている店もあって、店の外に並べられてるだけでも十数個はあった! お金持ちが集まる場所としても王都は凄く便利な場所なんだろうな、と実感したよ。
でも、その分種族も色々集まっていて下層の方だとパリパス族の処刑も行われていた。エルダ族もそういう目線に漏れず、色々陰口か聞こえてた。
多少慣れてはいるけれど、でも気分は良くない。……親友の憧れた世界であるなら、こういう声も少なくなるのかもしれないと考えると、早く目覚めさせてあげたい。
もう眠いから今日はこれで。明日からは、北の砦まで馬車で移動が続くらしい。それまでの退屈は、また幻想小説を読み込んで過ごそうと思う。
───6月4日 木の曜日───
旅の時は軽装だったけど、重い鎧を付けて兵士が何人も押し込められた中で何時間も馬車に乗っていると、だいぶ気がめいってきた。
昨日はそれですぐに寝てしまったけど、今日はまだ元気がある。明日には北の砦だ。そこで特命を伝えて……もしかしたら、その特命の任務を少し手伝えば僕の任務は終わりかもしれない。帰り際にもこの日記はつけていこう。
前に日記を付けた後、久々に昔の夢を見た。親友と語り合った時の事だ。『王様になるものは、英雄でなきゃいけない』『辛い時こそ、先頭に立って困難を打ち倒す人の事』
……その言葉に僕はいつも、彼がふさわしいと思える。僕はそれを手伝う従者とか、それぐらいだろうか。できる事なんてたかが知れているけれど、彼を助けたいって思いは誰にも負けないつもりだ。
明日は北の砦につく予定だ。早めに特命を伝える機会があるといいのだけれど。
───6月5日 鉄の曜日───
色んな事が、あった。
僕は、図らずとも英雄として誰かに見初められたらしい。
正直頭の中でも考えがまとまってないから、書いていくうちに考えを整理しようと思う。
まず北の砦近くに到着した後、ストロールという元貴族の兵士と友達になった。彼は、前に兵舎でクレマール族に絡まれた時も僕を助けてくれていたから覚えていたんだ。
今回は彼を逆に助ける形になったけれど、そこに対して自分が悪いと思う柔軟さもある。良い奴だ。
その後に北の砦が何かに襲われていたらしく、ストロールと一緒に向かったら巨大なニンゲンが暴れていたんだ。
フクロウのような翼が生えた頭、果実のような胴体、そこから生える4本の手足。足の裏側には、刃物みたいなものが足裏から突き抜けていた。今思い出すだけでも身震いがする。
ストロールは、貴族として逃げるわけにはいかない、とそのニンゲンに立ち向かうようだった。そこに居合わせた僕も、彼を見捨てて逃げるなんてことは出来そうにはなかったから二人でニンゲンに挑んだんだ。
だけれど、魔道器を使っても剣を突き刺そうとしても、まるで効いてない様子だった。ストロールが僕を逃がすために囮になって。でも僕はそれでも逃げ切れずにいた。
その時……謎の声を聴いたんだ。「定めを課せられし子よ。いずれ王となる定めの子よ」「恐れと向き合う心には英雄が目覚める」「己自身に命じなさい。内なる英雄の姿に変われと」って。
胸の内が爆発したくなるような衝動のまま、僕は僕自身の胸から心臓を引き抜いたんだ。金属のようになっている僕自身の「心」に、叫んだ。
ニンゲンを倒せる姿に、親友を助けられる自分に、そして理想の世界を追い求める英雄に『変われ』と。
そしたら……僕は、白いマントを着て細剣を持った旅人のような巨人に姿を変えていたんだ。ニンゲンは、その姿になると使える魔法で気づいたら倒していた。ストロールもそこで救えて、グレイアスっていう特命を伝える相手にもそこで合流できたんだ。
一旦眠いから、これ以上の続きは明日の朝にでも書くことにする。僕が英雄に成れるとはまだ信じられないけれど……でも、僕自身がそんな英雄に成れることを夢見ていたのは、恥ずかしいけれど認めようと思う。
だって、あの幻想小説の旅人にこそ、僕はずっと憧れていたんだから。