見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第109話】伝えなければいけないこと

 

 

 

 

 サーシャとシルバーのレース勝負の場に何故アイアンが現れたのかが全く分からない……。俺はここに居る理由をアイアンへ尋ねた。

 

「アイアンさんどうしてここに? ドライアドを出てシンバードで仕事をした後、1度ジークフリートへ帰るはずだったよな?」

 

「ガラルド君の言う通りシンバードで仕事をした後そのままジークフリートへ帰るつもりだったよ。だが、帰る前に1度ドライアドへ行ってサーシャの顔を見ておこうと思ってな。シンバードからドライアドは近いし、ジークフリートへ帰ってしまったら、また何日会えなくなるか分からないからのぅ」

 

 どうやらアイアンの親馬鹿が発動して、ドライアドへ顔を出してしまったようだ。とはいえ、たった数日という短い期間会えないだけで寂しくなるとは……。

 

 ここ最近親子で一緒にいる事が多かった反動なのかもしれない。アイアンは言葉を続ける。

 

「それで、いざドライアドへ戻ってきたら妙に住民が少なくなっている事に気付いてな。近くにいた住民に理由を尋ねたらサーシャとシルバーがレースをしていて、一部住人は応援に出かけていると言うではないか」

 

 確かに各チェックポイントに数十人のギャラリーがいる事を考えれば町の人間が少なく感じる事だろう。アイアンは更に話を続けた。

 

「ワシは住人から賭けの内容とレースのルートを聞き出してゴール地点から逆走する形でサーシャ達を探していたのじゃ。そうすれば馬鹿息子を確実に捕まえられると思ってな」

 

 そう言ってアイアンはシルバーの方を見つめている。シルバーは気まずそうに目を逸らしながらぼそりと呟き謝る。

 

「ごめんな親父、勝手に出ていってしまって」

 

 シュンとするシルバーの元へ近づいたアイアンは少し涙目になりながらシルバーの肩に手を置く。

 

「生きていて本当によかった。10年も会わなかったせいか別人のように逞しくなっているな。だが、好奇心旺盛で生意気な面はあの頃から全く変わっていないがのぅ……」

 

「親父……許してくれるのか?」

 

「許すわけないだろう、この馬鹿息子が! どれだけ心配したと思っとるんじゃ!」

 

「ええぇぇ? 今、そういう雰囲気だった筈じゃ……」

 

「何を訳の分からないことを言ってるんだ! 大体いつもお前はそうやって――――」

 

 そこから長い長いアイアンのお説教が始まった。シルバーはいつの間にか地面に正座し、サーシャは何故かとても嬉しそうに笑っている。シルバーにとっては地獄の様な時間かもしれないが、家族がいない俺にとっては親に怒鳴られることすら正直羨ましく思える。

 

 アイアンの説教がようやく落ち着いた頃、珍しくリリスが両者をなだめて一旦ドライアドの復興本部へ戻ることになった。帰り道ではコメットサークル領であった出来事をアイアンに伝えながらの移動となり、アイアンは常に驚き顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 復興本部の扉を開け、椅子に座ってようやく一息つくことが出来た俺達は改めて、サーシャが勝った時の約束を確認する事にした。サーシャはアイアンとシルバーの顔を交互に見ながら説明する。

 

「えーと、サーシャが出した2つの条件は『お爺ちゃん、お婆ちゃんに直接会って話す事』と『ドライアドの人間として400日間働いてもらうこと』だったね。まぁ、お爺ちゃんが直接来ちゃったから仮に負けていても実現していたのだけど」

 

 サーシャはシルバーの方を向いてクスッと笑っていた。その様子を見たシルバーが気まずそうに頭を掻きながらこれからの事を話し始める。

 

「400日間ドライアド人として働くことに関しては一生懸命やらせてもらうよ。そして、直接会う件に関しては、まだ母さんには会えていないから近々会いに行ってちゃんと謝る。それと今、ここに親父がいるから俺の正直な気持ちを伝えておくことにするぜ」

 

「正直な気持ち? 何じゃ改まって」

 

「家出して散々心配かけた挙句、義理の妹に背中を押されてようやく直接話せるようになったタイミングで言う事じゃないかもしれないけどさ、俺は親父の跡を継ぐつもりはねぇ! 俺にはやりたいことが色々あるんだ、それは――――」

 

 そしてシルバーは世界を旅するうちに『全世界を股にかけた技術者になりたい夢』を抱いた事をアイアンに伝えた。

 

 ジークフリートやアイアンの工場のことは愛しているが、それでも1つの場所に留まるのは性に合わないという事を伝え、愛しているからこそ義妹であるサーシャに跡を継いでほしくて勝負を仕掛けたことをアイアンに伝えた。

 

 この時アイアンは切なげな表情を浮かべながらシルバーの言葉を噛みしめていた。ずっと探していた息子に会えた嬉しさと、継いでくれると思っていた家業を10年越しに断られた寂しさが混濁しているのかもしれない。

 

 横で聞いているサーシャも何とも言えない寂しそうな表情をしている。誰が悪い訳でもないのに気まずい沈黙が流れ続けていたが、アイアンが苦笑いを浮かべながらその沈黙を破った。

 

「正直なところワシはシルバーに家業を継いで欲しかったし、ずっとジークフリートに居てほしかったよ、勿論サーシャもな。だがそれはあくまでワシの願望や寂しさからくるものであって押し付けるものではない。子供というのは巣立っていくものだからな」

 

 アイアンは自分なりに見つけた答えを伝えた。そしてサーシャとシルバーを交互に見つめながら更に話を続ける。

 

「それにワシは願望を叶えてもらうよりもずっと大きなプレゼントを2人から貰っておる。だから家業を継いでもらえなくても構わないんじゃ」

 

「「プレゼント?」」

 

 シルバーとサーシャが全く同じタイミングでアイアンへ聞き返す。

 

「1つはサーシャが工場を取り戻す為に頑張ってくれていたこと、そしてジークフリートを帝国の支配から取り戻すために戦ってくれたこと、これがワシにとっての大きすぎるプレゼントじゃ」

 

「お爺ちゃん……」

 

 子供の成長と親孝行を喜ぶ父親、そして父親の温かい心情を知れて言葉が出ない娘、血は繋がっていなくとも家族愛に満ち満ちた理想の親子の姿がそこにはあった。

 

 その一方でジークフリートから長らく離れていたシルバーはビエードが支配していた頃の事をよく知らないようだったので、俺が教えることにした。

 

 サーシャが工場を取り戻すためにずっとハンター業を頑張っていた事、コロシアム優勝賞金を工場の買い戻し資金にしようとしていたこと、ジークフリートを支配していた帝国に抗う為に多くのハンターを雇って賞金を消費したこと、そしてビエード達との激闘、その全てを伝えた。

 

 その話をしている間、シルバーは声を失う程に驚いていた。同時に勝負を仕掛けてしまったことを大いに反省していた。俺が過去の事を一通り伝えたあと、アイアンは続けてシルバーの話に移る。

 

「シルバーはサーシャ程立派な人間じゃないかもしれないが持ち前の好奇心を発揮し、今ではアーティファクトを見つけ出して渡航計画の主軸になろうとしている。そして国の代表を務める自慢の娘、ワシの大事な友であり大陸の英雄であるガラルド君とリリス君、そして馬鹿息子が手を取り合って大きなことを成し遂げようとしている現状……これら全てがワシにとって大きすぎるプレゼントじゃ」

 

「親父……昔は職人肌でとにかく厳しくて、継がせることばかりに注力している人だったのに……何か変わっちまったな」

 

「まぁ60年も生きていれば色々変わる事もあるんじゃよ。かわいい娘と手のかかる息子がいれば尚更な」

 

 アイアンとシルバーは互いに軽口を叩き合いながら笑っていた。サーシャの時とはまた違う親子関係が見られた気がする。そんな2人を見つめているサーシャもとても幸せそうだ。

 

 そしてアイアンは最後にこれからのことを話し始めた。

 

「だから工場を取り戻すために内緒で資金を貯めてくれていたサーシャには悪いが、ワシにはもう工場は必要ない。これからはジークフリート・シンバード・ドライアドを行き来する一技術者になるとしよう。そして死の海渡航計画をワシの人生最後の大仕事にさせてくれ」

 

 そう言い切るアイアンの表情はとても晴れやかだった。世の親は口を揃えて子は宝だと言うが、アイアンの言動はまさしくそれだ。

 

 アイアンの説教から始まり、ラナンキュラ家のこれからについてもある程度話が進んだところで俺は話し合いを締める事にした。

 

「シルバーとの再会も無事果たす事が出来て、めでたしめでたしってところだな。それじゃあ皆、明日からはドライアドの復興を進めつつ、渡航準備の方もよろしく頼む、それでは解散!」

 

 そして俺達は各々の場所へ戻っていった。シルバーという強力な仲間を手に入れた俺達はきっと無事に死の海を渡ることが出来るだろう。明日の活動計画書を見つめてワクワクする気持ちを高めながら俺は眠りについた。

 

 

 

 

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