見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
「さぁ、41層以降はシンプルに辛いエリアが続くよ、気合を入れてね」
不穏な事を呟くゼロのあとをついていくと、足に何か違和感を覚えた。何だか妙に靴が重いような気がする。俺だけが感じているのかと思ったが、どうやら全員同じ感覚のようだ。
ゼロは不敵に微笑んだあと、このエリアの特性について説明を始める。
「ここからは下の層に行くほど重力が強くなるよ。普通は星の中心に向かうほど重力は軽くなるはずなんだけどね。それだけアビスロードがめちゃくちゃな場所というわけさ。そして、ここの魔獣は強い重力下で暮らしている逞しい奴しかいない、気を付けてね」
気を付けろと言ってもどう気を付ければいいんだ、と心の中で文句を言っていると俺達の前に早速3匹の魔獣が現れた。その魔獣はどうやら二足歩行の狼人間ノールだ。
人より大きいノールは多少腕力があって鼻が利くだけの大した特徴がない凡庸な魔獣だ。個体によっては小さめのウルフを護衛のように数匹連れている時もあるが、運よく今回はいないようだ。
この場所自体少し暗いがグラッジが光属性の短剣で照らしてくれれば視覚面でも問題は無いだろう。早速グラッジが光属性の短剣を壁の高い位置に投げ刺すと辺りが明瞭に照らされた。
すると、俺達はここにいるノールが普通ではない事に気付いた。なんと下半身が通常のノールの2倍近く太いのだ。
毛でおおわれていても分かるぐらいに筋骨隆々とした健脚は間違いなく高速の移動を繰り出してくるだろう。俺達は全力で警戒し、武器を構える。
俺達とノールは10秒ほど停止して睨み合った。どちらが先に仕掛けるかを探り合っているのだ。そして、先に動き出したのは後方にいたノールだった。ノールは口に黒い煙のようなものを溜め込むと、それを壁に刺さっている光の短剣に向かって吐き出した。
すると、黒い煙はおよそ煙とは思えないスピードで直線に飛んでいき短剣をまるごと覆うように壁にくっ付いた。それと同時に黒い煙が短剣の発光を遮り周囲が一気に暗くなってしまう。
このままでは夜目の利くノールが闇に乗じて攻撃を仕掛けにきてしまう……慌てた俺とグラッジはすぐさまファイアーボールと光の短剣を天井に放って再度空間を照らす。
しかし、俺とグラッジの行動は少し遅かった。既に1匹のノールがシルバーの背後に回り込み、今まさに爪を振り下ろそうとしていたのだ。
「シルバー! 後ろだ!」
俺は慌てて声を掛けたがシルバーの防御は間に合いそうにない……このままシルバーが大ダメージを負ってしまう! と目を瞑りかけたその時、何故かノールの首に太く長い銀色の針が3本刺さっていた。
そして、ノールは腕を振り上げたまま白目を剥いて、どさりと地面に倒れ込んだ。
あんな針みたいな武器は仲間内で見た事がない……俺はゼロの方を向くと、ゼロはシルバーに背を向けた状態のまま獲物を見ずに針を命中させていた。まるで背中に目でもついているのかと思わされる芸当に言葉を失っているとゼロが張りのある声で俺達に喝を入れる。
「ボーっとしている暇はないよ! また暗くされないうちに早く魔獣をやっつけるんだ!」
ゼロの言う通り戦いはまだ終わっていない。気合を入れ直した俺達は複数の光源を作り出して、確実にノールを壁際に追い込み、一斉に攻撃を叩きこんで撃破に成功する。
ようやく一息ついたところで俺はゼロへ針の投擲について尋ねた。
「ゼロはあんな戦い方が出来るんだな。目で見ていない方向のことが分かるスキルを持っているのか?」
「あれはスキルじゃなくて技だよ……う~ん、本当はウィッチズケトルに帰ってから教えようと思っていたんだけど、目の前で実演しちゃったし教える事にするよ。今のはね、戦闘技術の1つ『
「
「1属性でも魔術が使える人なら修得できると思うよ。
「属性ごとの長所? イマイチよく分からないな」
「例えば体内・体外に水属性魔力の流れを作り出せば周囲に自身が生み出した水が流れているような感覚になり、見えない位置でも近距離なら探知できるようになるんだ。さっき僕が敵を見ずに針を投げたのも水属性の
「それは凄いな、もし探知の精度が上がれば、肉弾戦でも初動をいち早く感知できて有利になりそうだな」
「お、勘が良いねガラルドさん。水属性ならそういうアドバンテージが取れるだろうね。こういった能力は野生動物でも使えるものはいるんだよ。蛇なら温度探知に優れているし、コウモリだって超音波で飛ぶ場所を先読みしたりするしね」
もし、
他の属性にどんな
「ゼロ、他の属性の強化ポイントも教えてくれないか」
「そうだね、火なら肉体に流れる血流に負荷をかけることで身体能力を強化する事ができるね、乱用は禁物だけど。風属性なら移動や攻撃速度を高められるし、地属性なら普通の人より肉体を硬く頑丈にすることも出来るよ。光と闇については、まだ分かっていないかな、そもそも光と闇の属性を使える人自体が割合的に少ないからね」
まだ
ゼロから教えてもらったことでシルバーとグラッジも興味が湧いたらしく下層への移動中もあーだこーだ、と言いながら少し練習していた。
「あークソ、理屈は分かっているんだが、全然上手くいかないなぁ……」
「そうですよね、魔力循環だけで頭がいっぱいですし、まるで両手にペンを持って文章を書いているような難しさです」
ちゃんと前を見て歩いているのか心配になる2人を見てゼロが釘をさす。
「ほらほら、練習は帰ってからいくらでも出来るんだから、今は探索に集中してね。降りるだけじゃなくて登って帰らなきゃいけないんだから。練習で体力を使い切らないでよ」
ゼロからの注意を受けて2人は大人しくなった。グラッジはともかくシルバーは恐らくゼロより10歳ぐらい年上なのに叱られている姿はなんとも面白い。サーシャに怒られる姿も含め、とても絵になっている。
その後も俺達は重力がきつくなってくるエリアを順調に降りていき、怪我もなく魔獣を撃退しながら60層へ到達した。
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