見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
危険を避けて移動することが出来ているものの、一向に有力な情報を掴めずにいた俺達はこのまま死の山を進んでいっていいものか迷っていた。理想的なのは魔獣活性化に繋がる情報とグラドに関する情報の両方を得る事なのだが、どちらも見つかる気配がない。
パラディア・ブルーの数はまだまだ余裕があるものの、しらみつぶしに探していては残量的に厳しい。どこかにヒントはないものかと歩き続けていると俺達の遥か斜め上前方に紫色の煙が上がっているのが見えた。
信号弾ならともかく大地から紫色の煙が出ているとしたら明らかに不自然だ。視界に入る範囲では紫の煙が出ているポイントが1番高い場所であることからも紫色の煙が火山の火口から出ているのでは? と考えたが、それでも紫色なんて珍しい色の煙が出るとは中々思えない。
近づくのは少し怖いがここに来て初めて奇妙なポイントを見かけたのだから行かない選択は無い。俺達は傾斜の急な坂を登っていき、紫色の煙が出ているポイントに辿り着く。
すると俺達の視界にアビスロードを思わせるような超巨大な穴が映り込んできた。こんなところに大穴が空いている事にも驚きだが、大穴の中、つまり数百メード下にある穴底には驚きを通り越して信じられない光景が広がっていた。
それは、ゆうに1万は超えるであろう各種魔獣の大群がエリア毎に別れて集落のようなものを形成しているのだ。
流石に人間社会のように建物が乱立している訳ではないが、オークがいるエリアには寝床代わりの干し草が敷かれていたり、半魚人種サハギンのエリアには両生類らしく水場が等間隔で作られている。
そして、紫色の煙の正体は魔獣にとってオアシスともなりえる毒沼が煮立って上へと登ってきていたもののようだ。魔獣は個体によっては毒沼で傷を癒したり温泉のように使うものもいるらしい。あの場所は魔獣が生活を営む上でベストな場所なのだろう。
暴力的なはずの魔獣がまるで社会生活を営む人間の様に異なる種族と隣同士でいさかいなく暮らしている光景は筆舌に尽くしがたい。それに加えて人間を脅かす存在が視界を埋め尽くすほどに集中している現実に眩暈が起きそうだ。
幸い大穴はほぼ90度の円柱状になっているから真上にいる俺達を魔獣が見つけても追いかけてくることはないだろう。とはいえ1度下に落ちてしまえば命がいくつあっても足りないだろう。
この事実を見たサーシャは何かを思い出したような顔をしたかと思うとネリーネ家の日誌を取り出して開き、ページを指差して言った。
「みんな、このページを見て。これはお父さんとお母さんが作った魔獣の行動統計表と考察なの」
サーシャが見せてくれたページにはこう書かれている。
――――世界各地の魔獣の巣を巡り、観察する中で私と妻の中に気になる点が浮上した。それは『魔獣が攻撃的な行動に出るパターン』についてだ。大半の魔獣は人間を見かければ高確率で襲ってくる点から魔獣同士で潰し合う事はないのだろうか? と私の中で疑問が湧いた。もし、この研究で魔獣同士を戦わせることが出来れば魔獣の総数を減らす革新的な1歩になるかもしれない――――
言われてみれば確かに魔獣と魔獣が潰し合ったという話はあまり聞かない。サーシャの父親の言う通り、魔獣同士で戦わせることさえ出来れば大陸中の魔獣問題は一気に解決に進むと俺も思う。俺は更に先を読み進める。
――――しかし、現実はそう甘くはなかった。時間と人手をかけて魔獣の行動統計を取り続けたが魔獣という存在は一見乱暴に見えて実は暴力を振るう上で明確なルールがあったのだ。それは『自分達の命を脅かす存在』と『餌となる存在』以外には手を出さないというものだった――――
――――魔獣の親は子育てをする際に人間を離れた位置から指差して『人間は危険な存在だ』と子供に教える素振りが何度も確認する事ができた。そして、魔獣にとって嗜好品となる極上の果実を目にしたとしても『必要最低限の食事が取れれば、いたずらに他の食べ物には手を出さない』習性も発見できた――――
――――果実に関しては魔獣を檻に捕らえて『腹が少し減っている状態』と『激しい空腹状態』の両方で果実を差し出す実験をしてみると激しい空腹状態でしか果実を食べないというデータが大半の魔獣から得る事ができた――――
――――どうやら我々人間の方が私利私欲で仲間を陥れたり殺し合ったりしているぶん、魔獣よりもよっぽど悪魔に近い存在のようだ。この結果からも魔獣同士で潰し合う事は到底考えられない。むしろ魔獣の品性を前に討伐する気が削がれてしまいそうだ。人間よりよっぽど弁えている魔獣が知恵をつけて、徒党を組み始めれば、その時『人間の歴史』は終わるのかもしれない。 ロイド・ネリーネ――――
日誌に紛れて記された研究資料はかなり衝撃的なものだった。サーシャの父ロイドが書いていた『魔獣が徒党を組む』という状況はまさに、大穴の中の魔獣達や
未来の事を考えると頭が痛くなるばかりだが、幸い俺達は大穴で暮らす大量の魔獣達の存在を知ることが出来た。つまり戦力を整えて襲撃を掛けることも可能と言う訳だ。
大人数で襲撃を掛ける作戦を実行するなら、それに比例してパラディア・ブルーを大量に集めなければいけないという課題はあるものの行動目標が出来ただけでも大きな前進だ。
あとはグラドの足跡を辿るのと大穴が地図のどの辺りに位置するのか正確に記録へ残し、各国に伝えるのが俺達の役目だ。俺は自分達が今いる場所を把握する為に周囲をぐるりと見渡した。
すると、俺の目に見たくもない現実が飛び込んできた。俺はかなり遠くに見えるソレを指差して皆に伝えた。
「みんな、落ち着いて聞いてくれ……。向こうにも紫色の煙がある……それも、ざっと見ただけでも10本以上な」
リリス達は血相を変え、双眼鏡を手に持ち遠くを眺めた。やはり視力の良い俺だけが肉眼で遠くの煙を見つけられていたようだ。
グラッジは手を震わせながら、正直に戦力比を呟く。
「こんなの絶望的にも程がありますよ……。大穴1つだけでもイグノーラ兵が5000はいないと勝てないぐらいの大群なのに……僕達はどうすれば……」
グラッジの魔獣寄せがどうのこうのと言っていた時期が懐かしくなるくらいに、恐ろしい光景だ。まだ、他の煙が上がっている場所を確認した訳ではないが、十中八九同じぐらいの魔獣集落がある事だろう。眩暈を通り越して吐き気がしてくる。