見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第167話】イグノーラとザキール

 

 

 

「ザキールが魔獣を率いてイグノーラを滅ぼす……だと?」

 

 アスタロトからの返答に困惑した俺はオウム返しをしてしまった。するとアスタロトは死の山に立ち昇る紫色の煙を指差しながら説明をはじめる。

 

「貴様らはもう死の山に潜む魔獣の集落を見たのだろう? 魔人には魔獣を使役するスキルがあるからな。戦争をするにはもってこいだろう?」

 

 さっきザキールが指から糸のような魔力を放出して魔獣をパープルズ達にけしかけていたが、それがアスタロトのいうスキルなのかもしれない。

 

 もし、そうだとすれば1度に魔獣を何百匹と仕向けてこなかった点が気になる。恐れる程のスキルではないような気がするのだが、どうなのだろうか? 俺はザキールを煽る形で探りをいれた。

 

「さっきザキールが使った魔獣のコントロールを見る限り、大した技のようには思えないがな。頑張って100匹、200匹程度の魔獣をけしかけても優秀なイグノーラ兵団の前では全く歯が立たないと思うぞ?」

 

「ケッケッケ、確かにそれぐらいの数しか送れないのなら歯が立たないだろうな。だが、今のイグノーラは容易に大量の魔獣を送りやすい状況だからな、確実に滅ぼす事が出来るんだよ」

 

「状況? どういうことだ、話が見えないぞ?」

 

 俺はザキールに問いかけたが、ザキールもアスタロトも詳細を話そうとはしなかった。イグノーラ側に何かトラブルがあったのか、それともザキールに何か秘策があるのだろうか。

 

 俺が必死に頭を捻っていると先程赤色の信号弾を上げたあと、アスタロトに攻撃されて気を失っていたガーランド団の男性のうち1人が目を覚ました。彼は擦り切れた声を出し、決死の思いで自身の持つ情報を伝えてくれた。

 

「ハァハァ……聞いてくださいガラルドさん。グ、グラハム王が魔獣寄せを発現してしまったのです……。実はグラッジさんがカリギュラにいた時期にも魔獣が頻繁にイグノーラを襲ってきていたことが分かりました。疑問を持ったシルバーさんが演説中のグラハム王に全知のモノクルを照射してみた結果、魔獣寄せを発現したことが分かったのです……」

 

 団員がそう告げると次の瞬間、アスタロトは冷たく「黙れ」と言い、団員の顔を蹴り飛ばした。

 

「やめろ! アスタロト!」

 

 俺が大声で叫び、重い足を引きずりながら駆け寄ると幸いにも団員は気を失っているだけだった。人を玩具以下に扱うアスタロトが許せないところではあるが、今は団員が必死に伝えてくれた言葉を紐解くのが優先だ。

 

 グラハム王の息子であるグラッジも普通なら動揺してもおかしくない場面だが団員の思いを汲んで冷静さを保っている、だから俺も頑張って冷静にならなければいけない。俺はザキールに狙いを尋ねる。

 

「答えろザキール。大群は操れないお前のスキルでもイグノーラを滅ぼせる自信があるのはグラハム王の覚醒と何か関係しているのか?」

 

「チッ、このまま何も知らない貴様らがゆっくりとイグノーラへ帰っているうちに滅ぼしておきたかったのだがな。そこの死にぞこないが要らねぇことを言いやがったから、お前らは全力でイグノーラへ戻っちまうんだろうな。いいだろう、もはや喋っても結果は同じだ、教えてやる。グラハム王の魔獣寄せと俺様のスキル『死の扇動(クーレオン)』は、掛け算になるんだよ」

 

「掛け算? どういうことだ?」

 

死の扇動(クーレオン)は魔獣に簡易的な指令を送るタイプのスキルだ。それ故に複雑な命令を送ろうとすれば、それだけ俺様への負荷が増える。つまり一度に操れる魔獣の数も激減してしまうわけだ。その証拠にさっきの戦闘で30匹ほど魔獣をけしかけた時には『取り囲む命令』『ガラルドやグラッジ以外の人間を狙う命令』『魔獣同士で連携を取れという命令』を送ったから指令が複数かつ複雑になった。だから30匹程度しか操れなかったんだよ」

 

「なるほど、つまり超広範囲型ヘイトスキルと言ってもいい魔獣寄せを持つ者がいれば『南へ行って、本能のまま戦え』という指令だけで済むわけか。より多くの魔獣を差し向けるにはもってこいだな」

 

「その通りだ、よく分かってるじゃないか。それに加えてさっきの俺様は自分自身の戦闘にも集中していたから死の扇動(クーレオン)の精度は大きく落ちていた。だが、これからは魔獣への指令だけに専念できる。操れる数は桁違いに増えるぜ」

 

「ザキールの狙いはよく分かった。だが、そんなにぺらぺらと喋っちまっていいのか? 今から俺達がザキールの邪魔をすれば、それだけで死の扇動(クーレオン)は使い辛くなるぜ?」

 

「クックック、さっき俺様が言ったことをもう忘れちまったのか? 死の扇動(クーレオン)の事を喋っても喋らなくても結果は同じだと言っただろう? その意味を今から教えてやる……ハァッ!」

 

 自信満々に言い切ったザキールは掛け声をあげると両方の羽を広げて一瞬で真上に70メードほど飛び上がった。そして、指先に糸状の魔力を練ると、それを死の山にある魔獣集落の1つに飛ばした。

 

 その瞬間ザキールの言葉の意味が理解できた。『天地の(はかり)』で使えなくなっていた左半身を完全回復させた今のザキールなら空を自由に飛び回り、いくらでも俺達から逃げ切れるということを。だからこそ能力を明かす余裕があったのだ。

 

 状況はハッキリ言って最悪だ。集落側からは早くも飛行系の魔獣が飛び出し、死の山の入り口でありイグノーラへの通り道でもある俺達のところへ飛んできている。

 

 俺達はどう動くべきか……ザキールを倒そうにも素早く空を駆けることが出来る今の状態では戦いに持ち込めそうにない。かと言って俺達だけで向かってきている魔獣全てを止められるとは思えない。

 

 こうなったら卑怯な手となるが『天地の(はかり)』でボロボロになったアスタロトを人質にするしかなさそうだ。俺は双纏(そうてん)を解放し、アスタロトを捕らえてやろうと視線を向ける。しかし、さっきまでアスタロトの居た位置が空白になっていた。

 

 360度周りを見渡してもアスタロトの姿が見当たらない……姿を消す魔術かスキルでも使えるのかと焦っているとゼロが「南側の空を見るんだ!」と叫んだ。

 

 ゼロに従い空を見てみると、そこにはザキールとは違い、魔力を具現化させたようなオーラ状の羽を生やして空に浮かぶアスタロトの姿があった。アスタロトは俺の方を見て笑いながら別れの言葉を呟く。

 

「ザキールを回復させるために体を酷使し過ぎた。悪いが私は君達の前から消えて休ませてもらおう。では、ザキールよ、イグノーラ壊滅の任、必ず成し遂げてみせろ」

 

「承知しましたアスタロト様……」

 

 命令するとアスタロトは高速で空を飛び、この場から去ってしまった。あまりにも突然の事で止まれとも言えなかった。あのアスタロトという男は一体何者なのだろうか。重力魔術、肉体の再生、魔力の羽、何もかもが滅茶苦茶だ。

 

 目まぐるしく動く展開に動揺していた俺達は空に浮かぶザキールが死の扇動(クーレオン)を使い続けるさまを見上げる事しか出来なかった。

 

 

 

 

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