見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
ザキールは自身へのダメージと引き換えに
魔獣が後先を考えずに全力で向かってくる姿は兵士と民衆に恐怖をばら撒く。トータルで見れば暴走状態なんて効率の悪い戦い方ではあるものの、ザキールの損傷と短期決戦狙いを知らない兵士と民衆からすれば急に強くなったように思えて焦っている事だろう。
俺は北・南・西にいる全ての人間に1秒でも早くザキールの狙いを伝えるよう伝令兵に指示を出した。どうか迅速に情報が伝わっていって欲しいものだ。
ウッド・ローパーを倒されて戦意を失いかけていた東側の魔獣も
視界を埋め尽くすほどの魔獣が俺達を取り囲んで押しつぶそうとしてくるのを必死になって蹴散らし、魔獣の群れから距離をとったものの俺とグラッジの疲労は相当溜まっていた。
「ハァハァ……大丈夫かグラッジ? 倒れそうなら俺が運んでやるから言えよ?」
「へ、平気です。ガラルドさんこそ僕より魔量が少ないのに枯渇してしまわないか心配ですよ。苦しかったら言ってくださいね」
「生意気な口が叩けるなら大丈夫だな。ここからは一層協力し合って暴走した魔獣を食い止めるぞ!」
俺とグラッジは互いに背中を合わせて180度ずつ守りを任せることにした。自分の目に移る魔獣は絶対に討伐するし反対側の魔獣は絶対にグラッジが倒してくれる。互いが互いをタフな奴だと信頼できるからこそできる戦い方だ。
グラッジと出会うまでは後衛型の仲間が多かったこともあり対等に前線で戦える仲間がいなかったから本当に頼もしい限りだ。
100匹、200匹、300匹、と雪崩のように押し寄せてくる魔獣をひたすら倒し続ける時間は肉体的には辛かった。だけどグラッジと1つになれた気がして心地よかった。
頼もしい弟が出来たような感覚で戦闘を続けていると俺達のところへほぼ同じタイミングでリリスとサーシャが現れた。サーシャは俺とグラッジの様子を見ると血相を変えて驚いていた。
「2人ともボロボロになってる! それに、この魔獣の死体の数……。全ての魔獣が激しくなったとは聞いてたけど東側は特に厳しかったみたいだね。もう2人は休んだ方がいいよ!」
正直休みたいのは山々だが城壁を突破されるのだけは避けなければならない。1ヶ所でも穴を開けられたら列になって魔獣の侵入を許してしまい街の中で震えている女性や子供が犠牲になってしまうからだ。
せめて、もっと数を減らさないと休めそうにない。グラッジも俺と同じ考えだったようで苦笑いを浮かべながらサーシャへ言葉を返す。
「あともう少し耐えればイグノーラ側が有利になるんです。僕達は大丈夫ですからサーシャさんは他の苦しんでる人達を助けてあげてください」
「で、でも……」
サーシャは黒猫サクを召喚したまま立ち尽くしている。本当は今すぐにでもアクセラでグラッジを回復してあげたいのだろう。しかし、グラッジは命を平等に扱う男だ、疲れている自分よりも怪我で苦しんでいる兵士達を優先してあげて欲しいと考えているのだ。
サーシャもグラッジの考えが分かっているようで眉を八の字にしたまま気持ちを抑えて兵士のいる方へ走り出そうとした。しかし、リリスがサーシャの肩に手を置いて制止する。
そして、リリスは首を横に振りながらサーシャに指示を出す。
「待ってください、サーシャちゃんはグラッジさんとガラルドさんの回復に専念してください。時間経過を早めるアクセラしか素早く魔量を回復する手段はないんですから」
「え、でも……」
「痛みに苦しんでいる他の兵士さん達を早く救ってあげたい優しさも理解できます。そして、目の前にいる大量の魔獣を素早く片付けなければいけないから回復してもらう時間が無いと考えるグラッジさんの気持ちも分かります。それでも2人の回復を優先してください。ガラルドさんとグラッジさんの2人にしか戦況をひっくり返すことは出来ません。2人が絶対必要なんです」
強く言い切るリリスに対し、グラッジは何も言い返せなくなっていた。リリスは俺達3人の顔を見て優しく微笑んだ後、覚悟を決めた顔で魔獣の群れを指差し宣言する。
「私がガラルドさんとグラッジさんの代わりに1人で魔獣の群れを撃破します」
リリスがそう宣言するとサーシャが即座に否定する。
「いくら何でもそれは無茶だよ! 悔しいけどサーシャとリリスちゃんは強い火力技も範囲技も持ってないんだから……」
「大丈夫ですよ、サーシャちゃん。こんな時の為にエナジーストーンで新技を開発したんですから。そうですよね、ガラルドさん」
新技という言葉で俺はハッとさせられる。死の海渡航前にエナジーストーンで修行していた俺とリリスだけは『新技』の存在を知っているからだ。
確かにあの技ならリリス1人で一気に魔獣を減らす事が出来るかもしれない。まぁ厳密に言うとちょっとだけ俺のサポートが入る技なのだが。
俺はサーシャとグラッジを安心させるためにリリスの言葉をフォローする。
「サーシャもグラッジも安心してくれ。リリスの新技は消耗こそ激しいが本当に強いんだ。性質上俺のサポートが必要になるし放った後はしばらくリリスが戦えなくなると思うから守ってやってくれ。それと新技を発動したらグラッジは氷の盾か岩の盾を作って、サーシャを守ってやってほしい。周りを大きく巻き込みかねない技だからな」
「ど、どんな技なんですか? 言葉だけ聞くと恐いんですけど……」
「まぁ、見てからのお楽しみだ。それじゃあ準備はいいかリリス?」
「はい、大丈夫です!」
リリスは元気に返事を返すと俺の肩を掴みアイ・テレポートで近くの城壁の最上部へと飛んだ。この新技は高さが必要になるから城壁があったのは正直好都合だった。
リリスが城壁の上で呼吸を整えている間に俺は
俺が足場を完成させている間にリリスも息を整えたようだ。地上から上空の足場への距離はかなりのものだ。城壁の高さに加えて俺の
リリスはアイ・テレポートで足場へ飛んで再び息を整えると杖にありったけの魔力を込めて魔術を発動する。
「降り注げ氷塊! アイスメテオ・シャワー!」
リリス渾身の叫びから、上空に大量の氷塊が現れた。その氷は遠目からでも分かる程に強い冷気を放っており、その全てが人間よりも大きくて何百個あるか分からない。
魔獣群のはるか上空に作られた氷塊は出現と共に一斉に真下へと落下する。
とんでもない高さから降りてきた高重量の氷塊は強い冷気故に落下の空気摩擦で体積を減らすようなことはなかった。そのままの形で隕石群の如く、轟音をたてながら降り注ぐ。
逃げ場のない青の流星群は瞬く間に地面へ大穴を空け、魔獣群を殲滅する。全ての氷塊が落ち切った頃には1000匹以上の魔獣が息絶えていた。
一度に全ての魔量を使い果たしたリリスは足場の上で横たわる。疲弊しきった虚ろな目で城壁の上にいる俺の方を見つめると苦しくも嬉しそうな笑顔で親指を立てる。
「ハァハァ……上手く……いって……よかったです」