見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第192話】アイコンタクト

 

 

 

 ザキールの『悪魔の右手』はとうとうレックの盾を割ってしまった。割れた衝撃で尻もちをついてしまったレックをニヒルな笑顔で見下ろしたザキールは一層右手に魔力を溜めて、振りかぶる。

 

「うっとおしい貴様の盾はもう使わせねぇぞ、死ねやァァ!」

 

 盾も無ければ態勢も悪いレックが渾身の一撃をもらえば死んでしまうかもしれない。俺は足裏に全力の魔力を込めて、地面を蹴った。

 

「レッド・ステップ!」

 

 俺は自己最速の出足で殴りかかる。だが、ザキールには全てお見通しだった。ザキールは振り下ろすはずだった拳の軌道を縦から横へと瞬時に切り替えて、高速で迫る俺の腹にカウンターの一撃を繰り出す。

 

「うぼぉぇっ!」

 

 俺は口から唾液と血を吐き出し、後ろへ大きく吹き飛ばされてしまう。まるで脳と腹部が分離されたかのような衝撃は視界をチカチカとさせて事態の深刻さを知らせてくれた。

 

 ゴロゴロと転がる俺の体を何とか止めるべく棍を地面に突き立ててなんとか起き上がると、トドメを刺すべくザキールが俺に向かって走ってきていた。

 

「ギャハハッ! ガラルドの方がよっぽど死に掛けだなァァ」

 

 ぼやけた視界でも戦慄を覚える程の狂気的な笑みを浮かべたザキールが俺に追撃しようとした瞬間、凄まじい速度で追いついてきたグラッジが叫びながら氷の剣でザキールに斬りかかる。

 

「お前の相手は僕だッッ!」

 

 どこからそんな力が湧いてくるのかと思うほどに強烈なグラッジの一撃は強化されたザキールの右腕を以てしても仰け反らせてしまう程の衝撃だった。そんなグラッジから迸る魔力を見たザキールは冷静に弱点を指摘する。

 

「ケケケ、そんなでたらめな魔力解放じゃ1分も戦えないぜ? 相変わらずキレ易いな、貴様は」

 

「怒りに任せた攻撃かどうか、受けてみてから判断するんだな! 唸れ、風の色堅(シキケン)!」

 

 なんとグラッジは俺にすら1度も見せた事がない風属性の色堅(シキケン)を繰り出した。色堅(シキケン)は火属性なら膂力、水属性なら回避・予測、風属性なら俊敏さの向上を図ることができる。

 

 元々グラッジは全属性が使える人間だから全ての色堅(シキケン)を扱う素養はあったものの、得意なのは水属性だ。だから特訓でも水属性ばかり使っていたはずだ。

 

 そんなグラッジが土壇場で風の色堅(シキケン)を使うことが出来たのは危機感が生み出した集中力なのか、それとも陰で努力をしていたのか、どちらにしても今のグラッジは熱くなって自分を見失う男ではなくなっている。

 

 体には風を、両手には氷の剣を持ったグラッジは目にも止まらぬ速さでザキールの肩と太ももを斬りつけた。短い時間に魔力をつぎ込んだ燃費の悪い戦い方とはいえ、今のグラッジはたった1人でザキールを圧倒している。

 

 悪魔の右手さえ当てれば何とかなると言わんばかりにやみくもに右腕を振り回すザキールだったが俊敏なグラッジに当たるはずもなく、剣の衝撃は10発、20発と着実に積み重なっていく。

 

 めまぐるしく動いていたグラッジだったが、それでも俺の方に視線を送り、早く態勢を整えろとアイコンタクトを送ってきた。僅かな時間でこれほどまでに成長するなんて、子供なのに末恐ろしい奴だ。

 

 ここはグラッジの頑張りに応えたいところだが、そんな気持ちとは裏腹に俺の足は震えが止まらない。情けない話だが、ザキールから貰ったカウンターの一撃が相当効いているらしい。

 

 そんな俺の様子にグラッジもザキールも気が付いたようで、ザキールは右腕を振り回すのを止めて防御に専念し始めた。恐らく、グラッジの魔量切れまで耐えきった後、まだ動けない俺を尻目にグラッジへトドメを刺すつもりなのだろう。

 

 ザキールの狙いは敵ながら見事なものでグラッジはみるみる魔量を減らしてしまい、息を切らし始めた。その様子を見たザキールは後ろへ大きく飛び、勝ち誇った顔で宣言する。

 

「残念ながら俺様の勝ちだ。ふらついたままのガラルドとバテたグラッジでは奇跡の逆転劇もありえない。まずはグラッジからトドメを刺してやるよ!」

 

 ザキールは右腕を少しだけ細くし、そのぶん長さを3メード程に伸ばして先端に魔力を多めに纏わせた。そうすることで距離を取って槍のようにグラッジを痛ぶるつもりなのだろう。

 

 伸びてくる右腕を風の色堅(シキケン)で刻み続けるグラッジだったが体よりもずっと頑丈な悪魔の右手に決定的なダメージを与える事はできず、じわじわとスタミナを削られている。

 

 打撃と剣の音が鳴り響く中、ずっと険しい顔を続けていたグラッジは突如目をカッと見開くと、氷の剣を消失させる。そして、代わりに火の槍と氷の槍を生成した……双蒸撃(そうじょうげき)の構えだ!

 

 こんな数メードの距離で放てばグラッジも無事では済まない……これには流石にザキールもたじろぎ、慌てて「馬鹿か! てめぇごとくたばるぞォッ!」と怒鳴りつける。

 

 しかし、グラッジが2つの槍を止める事は無かった。覚悟を決めたグラッジは大きく凛々しい声で、その技の名を叫ぶ。

 

双蒸撃(そうじょうげき)!」

 

 赤と青の槍が交差する数秒前、俺の斜め後ろから何かが高速で横切る。双蒸撃(そうじょうげき)の爆発よりもわずかに速くグラッジの前に現れたのはレックだった。

 

 レックは双蒸撃(そうじょうげき)が生み出した爆発のエネルギーを少しでも軽減するべく、レイピアに消失のエネルギー纏わせ、展開する。

 

「バニッシュ・シールド!」

 

 大盾の形状で展開されたバニッシュは双蒸撃(そうじょうげき)が生み出す恐ろしい爆発の衝撃からグラッジを守る。

 

 2人よりも離れた位置にいた俺ですら後ろへ転がる程に強い爆風は爆破位置を直視することができず数秒間目を開くことができなかった。

 

 その数秒の間に俺はグラッジがどうして双蒸撃(そうじょうげき)を放とうとしたのか理解できた。それはレックが復帰して走ってきているのがグラッジ側からは見えていたからだ。

 

 きっとその時に2人は目で合図を送り合ったのだろう。即席のコンビなのに凄まじいコンビネーションと度胸だ。

 

 俺は2人の様子を確認するべく、フラつきが収まりはじめた足をひきずり、双蒸撃(そうじょうげき)によってできたクレーターに向かっていった。

 

 その時、俺は思わず声を失ってしまう……大きな穴の中には無傷のグラッジと爆風を抑えきれずボロボロになっているレックの姿があった。

 

 体の前半分の至る所から血を流し、ぐったりとしているレックを抱きかかえたグラッジは俺を見つけると涙声になりながら告げる。

 

「レックさんのスキルって正確には魔力の消失ではなく減衰……なんですよね。レックさんはそれを分かっているにも関わらず僕に双蒸撃(そうじょうげき)を撃つよう指示を出し、庇ってくれました……。悪魔の右手を何とかしないと絶対に勝てないと分かっていたから……」

 

 レックは辛うじて生きているものの、とてもじゃないがもう戦えないだろう。それどころか血を流しすぎて危険な状態だ、1秒でも早く治療してやらなければ。

 

 

 

 

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