見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
グラッジを死なせてしまっては仲間に……サーシャに合わせる顔がない……。俺が絶対に間に合わないであろう距離を全力で駆けている間にグラッジが力強く叫ぶ。
「
その瞬間、ザキールは反射的に右腕に魔力を凝縮して完全防御態勢を取った。
グラッジが展開した6本の短剣が一点に集中して技が発動する――――はずだった。しかし、何故か光属性を宿した短剣だけが単独でザキールの目の前に飛んでいく。
すると短剣は目が潰れそうな程に眩しい光をザキールに向かって照射してみせた。堪らずザキールが目を瞑ったのを確認したグラッジは6本の短剣のうち1本を自身の目の前に落とす。落ちた短剣からは爆風が起き、風によってグラッジは俺の方へと飛んできた。
ザキールの目をくらまして自身は俺の前に移動する……という行動の理由が分からない。困惑することしかできない俺とは対照的にグラッジは浮遊していた闇属性と地属性の短剣を迅速に消失させて、残りの火属性と水属性の短剣を槍の形に変化させる……これは
グラッジは俺の目の前で大きな氷の盾を構えると申し訳なさそうに呟いた。
「
ようやくグラッジの狙いが分かった。ザキールに出来るだけ近い位置で
そして、氷の盾を俺の前で構えたのは数秒後に発動する
一方、グラッジが発動させた光の短剣はリリスの閃光魔術『ゴス・フラッシュ』よりも遥かに強い光を放ち、未だにザキールの視界を回復させていなかった。
そして、隙を逃さないようグラッジは残りの火と氷の槍をザキールの前で炸裂させる。
「喰らえ!
恐らく本当に最後の一撃になるであろうグラッジの
「ぐあっ!」
氷の盾を構えていたグラッジは呻き声をあげたものの執念で盾の構えを解かなかった。後ろにいる俺へダメージを与えない為である。
氷の盾越しからでも見える爆風は凄まじくグラッジは最後まで地に足をつけておくことができず、氷の盾も破砕してしまう。それでも俺へのダメージは無く、グラッジだけが爆風のダメージを負っていた。
レックとグラッジの自爆にも似た自己犠牲を無駄にする訳にはいかない。俺はグラッジから視線を移し、ザキールの方を見つめる。
ザキールは
レックとグラッジのおかげで悪魔の右手を破壊できた。後は俺が最後を決めるだけだ! 俺は両手が折れているのもお構いなしに再び体に火のエネルギーを宿して、ザキールに突進する。
「レッド・ステップ!」
足裏で赤い砂が弾け飛び、俺の拳は真っすぐにザキールの体を突いた……はずだった。ザキールは全身に血を滴らせ、血管を浮かべながら左手で俺の拳を掴まえる。
「貴様1人なら悪魔の右手が無くても勝てるんだよ、ボケがァァ!」
ザキールは掴んだ俺の手を手前に引き寄せ、俺の腹に膝蹴りを放つ。硬くて重い一撃が俺の体の中心にめり込んだ。
「うぼぁっ!」
俺は口から唾液と血を吐き、両膝を着いた。このままでは更に膝蹴りを連打されてしまう。
泥臭くてもいい、何が何でも勝たなければ……俺は倒れた姿勢のままザキールの足に抱きつき、思いっきり太ももへ噛みついた。
「痛でぇぇっ! 何しやがる貴様ァ!」
肉を抉られる痛みにザキールは堪らず掴んでいた手を離す。その隙を俺は見逃さなかった。俺は折れた両手を涙目になりながら強く握りしめてザキールの腹に連撃を叩きこむ。
「ぐあっ! ぐあっ!」
10発、20発、叩き込むうちに俺の拳が見た事のない赤黒い色となり、壊れていっているのが実感できる。普通なら耐えられないような痛みだが、この状況だからか不思議と堪えることができる。
だが、根性ではもはやどうにもならないレベルまで手が壊れてきた。こぶしを握ることすら出来なくなってきた俺は辛うじてまだ動く右手の小指と薬指で
この一撃で勝負を決めてやる――――よろけるザキールの肩を目掛けて超回転を纏った剣を振り下ろす。
「これで終わりだぁ!」
「甘いんだよッッ!」
なんとザキールは後ろによろけながら俺の右腕に蹴りを放った。衝撃に加えて握力がなくなっていた俺は堪らず
勝機を得たと言わんばかりにザキールは邪悪な笑みを浮かべて俺の腹に真っすぐ蹴りを放つ。
「ぐぉっ!」
速く重たい蹴りに堪らず俺は呻き声をあげる。ザキールはそこから更に俺の両手目掛けて連続蹴りを繰り出してきた。
絶対に剣を握らせない方がいいと本能的に分かっているのだろう。奴の目論見通り俺の指は完全に握力を失う。
頼みの綱である
いや、勝てるかじゃない、勝たなければいけないんだ、じゃないとレックとグラッジの頑張りが無駄になってしまう。俺の脳は極限の集中状態になり、これまでの人生で培ってきた全ての戦闘経験を洗い出し、勝つための手を探しだしていた。
そこから導き出した答えはまたしても泥臭いものだった。俺は自分が出した答えを信じてザキールの上半身に抱き着く。
殴るでも蹴るでもなく、脇を締め付けるように抱きついてきた俺に不気味さを感じたのか、ザキールは「何をしやがる! 離せ!」と声を荒げながら俺の背中に何度も肘打ちを繰り返す。
痛すぎてすぐにでも離れてしまいたいが、あと少しの我慢だ。俺はザキールの視界に映らないように、こっそりと
手が動かず剣を握れないなら手の代わりに
タックルで拘束し、遠隔操作で背後から
全ての犠牲と痛みはこの時の為――――俺はザキールの背後で浮遊する
「いけぇぇっっ!」
俺の叫びに呼応するように
「ぐあああぁぁぁっっ!」
拘束していた俺の両腕にザキールの体を介して凄まじい振動が伝わってきた。そしてザキールは「くそったれ……」と小さく呟き、体をぐったりとさせて気絶する。その瞬間俺は勝利を確信した。
「やった……俺達の……勝ちだ……」
いつものように大声をあげて勝利を喜ぶことが出来ない程に疲れた俺はザキールと一緒に地面へ倒れ込んだ。少しずつ滲んでいく視界とは対照的に兵士や民衆の歓声・足踏みはクリアに感じ取れる。
もはや、ほとんど頭が働かないが、それでも俺はこの音を一生忘れはしないだろう。