見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
レナの口から『皇帝の第7夫人候補として中央街に潜入した』というとんでもない作戦が飛び出した。
確かにレナは美人だし、ヒノミさんに至ってはリリスが嫉妬するぐらい美人だから色仕掛けには向いているかもしれない。だが、身分とか教養とか色々他にも必要な要素が多いのではないだろうか?
それに加えて俺が驚いたのは第7夫人候補というワードだ。シンと同年代であるモードレッドの父親である現皇帝アーサーはきっとそれなりに歳を重ねているはずだ。
そんな人が今から7番目の夫人を求めるなんて……なんというか色々元気だし、女性も寄ってくるのだろうし、少しだけ尊敬してしまいそうだ。
俺は心の中で思ったことをオブラートに包んでレナへ問いかける。
「第7とは言え夫人候補となれば色々と求められるものが多いんじゃないか? レナで大丈夫なのか?」
「結論から言うと皇帝と密室で直接話すぐらいには近づけたよ。もっとも実際に第7夫人候補として頑張ったのはヒノミさんだけどね」
「なるほど、ヒノミさんぐらい素敵な人なら可能かもしれないな」
「ヒノミさんの名前を出した途端に納得度しないでくれるかな? 私とリリスさんに殴られるよ?」
周りを見渡すとレナとリリスが目の笑っていない笑顔でこちらを見ていた。別にレナを下に見ているとは言っていないのだが……。ヒュドラを見た時以上の恐怖を感じながらも俺は平静を装い、レナは話しを続ける。
「ガラルド君の言う通り、近づくには最低限の身分を証明し、スケベで目が肥えている皇帝に好かれる程の容姿が必要になるよね。だけど、ヒノミさんは元々素材が良いから少し着飾って化粧すれば誰にだって勝てるぐらい綺麗になったんだ。身分に関しては貴族である私の身分をヒノミさんに貸してあげる作戦を考えてね。ヒノミさんには『レナ・コルベール』を名乗って第7夫人候補として潜入してもらったのさ。証明として家宝であるネックレスを身に着けてもらってね」
「ん? コルベール……レナはコルベール家の人間だったのか!」
俺は声を裏返して驚いてしまった。コルベール家と言えば過去に帝国の南にある街で貿易商をやっていた豪族であり、他国の人間でも知っているほどの名家だ。
確か相当な資産家だったはずだが、不幸にも火事で娘1人を除く全員が亡くなったと聞いたことがある。まさかレナがその娘だったとは。
ナイーブな話だから何と質問すればいいか迷っていた俺を察したのか、レナは自身の過去について話し始める。
「知っている人も多いと思うけど貿易商をしていたコルベール家は10年前に娘以外の家族全員が火事で亡くなってね。その娘が私なんだけど残った私はまだ子供だったから貿易会社の権利を他の人に譲り、大金を持ち出して1人で生きていくことにしたんだ。とはいっても持ち出した大金は自身には1ゴールドも使ってないけどね」
「そうだったのか、それでヒノミさんに身分を証明するネックレスを渡して潜入してもらったのか。調査の話から脱線するが、どうしてレナは持ち出した大金を全く使っていないんだ?」
「私は良くも悪くも裕福で甘えた生活をしていたからね。優しい両親と祖父母に何不自由なく育ててもらっていたから1人になった途端に何も出来ない自分に驚いてね。貿易会社の跡取りとして1から修行して生きていく事も出来たのかもしれないけど、それも結局両親を慕っている他の社員に優しくされて成長できないような気がしたんだ。」
「だから家を出て遠くの地で働くことにしたのか」
「うん、遠く離れた地シンバードなら私の事を貴族扱いしない人ばかりだし実力至上主義だからね、ハンターとして1から頑張るにはもってこいだったわけさ。持ち出した大金もあくまで保険であって生活が困った時や誰かが大変な目にあって助けたいときにしか使わないと決めておいたのさ」
「そうか、立派だなレナは。だが、家族が亡くなったとはいえレナの身分でスパイ的な行動をして牢屋にまで入れられてしまったら信用を落としてしまってマズくないか?」
「貴族としての身分は天涯孤独となった瞬間に捨てたから平気さ。今さら信用が無くなったって構わないよ。魔獣狩りのハンターとしては実績に響くわけではないし問題ないさ。まぁ最悪私の悪評が広がっても大金を持っているし食べていくのには困らないさ、ガラルド君の貯金の数百倍か数千倍はあるだろうしね」
レナが優しい奴だというのはジークフリート解放戦の時に助けに来てくれたのをはじめとして色々と世話になっているから分かってはいた。けれど、ここまで芯のしっかりした人間だとは思わなかった。
ふざけた事もいうけれど、それすらも場の雰囲気を考えての発現だったり、恩を着させたくない気遣いの表れなのだろう。ここはレナの冗談に乗っておくことにしよう。
「何で俺の貯金を知ってるんだよ……そんなに金があるならギルドを設立する話が出た時に恵んでもらえばよかったぜ……なんてな。じゃあ次は潜入の方法をもっと詳細に教えてもらってもいいか?」
「まずはヒノミさんを貴族に仕立て上げる為に服装や化粧以外に所作を叩き込んだね。そして、皇帝アーサーに対してヒノミさんを第7夫人にするメリットを提示しなければいけないと思ったからシンバード領とシンバード周辺国の嘘情報を伝えたよ。具体的には政治、流通、軍事力などの情報をね」
そう言うとレナは鞄から大量の紙を取り出した。そこにはしっかりと事務的に記述された嘘情報がびっしりと書かれていた。
「どうだい、良く出来ているだろう? 腐っても私は貿易商の娘であり四聖リーメイの1番弟子ハンターでもあるからね。シンバードの内情を知った上で説得力のある偽造書類を作るぐらいは訳ないのさ。他にも帝国内にあるいくつかの商社や兵士に金を掴ませてヒノミさんを持ち上げるように話を合わせてもらう段取りもしたね」
レナが優秀過ぎて少し恐くなってきた……逆に言えばそれぐらい大掛かりにやらないと秘匿性の高い中央街に侵入し、皇帝に近づく事なんか出来ないのだろう。
そして、ここから話し手がヒノミさんに代わり、第7夫人候補兼スパイとして、どんな風に動いたのかを教えてくれた。