見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
トルバートがアジトへ連れ去られてから早10日 ディザールは今まで通り大陸にとって害となる人間を消しつつ、トルバートの体も調べていた。
あくまで復讐の道具として攫ってきた訳だからディザールに赤子への愛情はない訳だが、トルバートは不思議とディザールに懐いていた。
まだ言葉もろくに喋れない赤子が四つん這いの状態から懸命に手足を動かしてディザールに近づこうとしている。その姿は本当の親子のように見えた。
2人のことを見つめていたシルフィは笑っているような呆れているような微妙な表情で呟く。
「トルバートは何も知らずに呑気だね、赤ちゃんだから仕方ないのだけど。攫ってきたディザールにこんなことを言うのはおかしいけど、まるで本当の親子みたいだよ。これを機に普通の子供として育ててみたら?」
「馬鹿を言うな、僕にそんな無駄な事をしている時間なんてない。1日でも早くトルバートがグラドを殺せるように鍛え上げなきゃいけないんだからな。トルバートは剣豪グラドの血を引く息子だ、きっと父親に匹敵するポテンシャルを持っているはずだからな。そのポテンシャルに『変化の霧』や『合成の霧』の力を加えれば魔人にだって改造できるし、グラドなんて軽々と超えるはずだ。そうだろクローズ?」
「まぁグラドの遺伝情報を強く引き継いでいれば強くなるだろうね。『変化の霧』や『合成の霧』で力を取り込むにしても土台となる肉体が強くなければ意味がない。だから優秀なディザールは人間でありながら魔人化する事が出来たわけだからね。よかったらシルフィさんも合成の霧で魔人の力を取り入れてみるかい?」
「いいえ、結構です。私は人間として死にたいですし、人間として貴方達を止めたいので」
「残念、私はフラれてしまったようだよ」
手厳しい言葉を貰ったクローズは肩をすくめているが、顔はニタニタと笑っている。
そんなやりとりをしているとトルバートを見つめていたディザールが思案顔でぼそりと呟く。
「トルバートという名前はエトルから部分的に取った名前なのだろうな。もし、将来的にトルバートに弟が生まれたとしたら今度はグラドの名前から文字を取るかもしれないな。よし決めた! 僕もトルバートも今日から違う名前で生きていく事にしよう。僕は過去と共にディザールという名前を捨ててアスタロトと名乗る事にする。とある伝記に載っていた悪魔の名前だ、僕に相応しいだろう?」
名前を変えて生まれ変わった気持ちになったのか、ディザールはとても晴れやかな表情を浮かべている。シルフィは珍しく上機嫌なアスタロトの顔を見られて嬉しかったのか好意的な言葉を返す。
「人間は化粧をしたり髪型を変えたり服を変えるだけでも心をリセットする事が出来るから、名前を変えるのは悪くないと思うよ。結局名前を呼び合うのも私達3人だけだから不便も無いと思うし。それで、トルバートちゃんの新しい名前は決めてあるの?」
「トルバートの新しい名前は大昔の剣聖と同じ名前にしよう。その名は『ガラルド』だ。名前の響きも強そうだしな。魔獣寄せを持つ罪人グラドを討伐する勇者ガラルド――――いい名前だと思わないか?」
俺は今日ほど自分の耳を疑った事は無い――――グラドの息子トルバートが俺と同じ名前という事実が信じられないからだ。かつてザキールはザキール自身が俺と兄弟だと言っていたし、アスタロトも自らの口で俺が息子だと言っていた……。
情報1つ1つは信じる気になれないデタラメだと思っていたが過去を覗き見て、点と点が繋がってきた今となっては彼らの言っていた事が理解できる。俺はフィアに記憶の水晶を一時的に止めてもらい、シリウスに問いかける。
「トルバートの正体は小さい頃の俺なんだよなシリウスさん?」
「ああ、今アスタロトが名付けた赤子こそがガラルド君――――きみの事なんだよ」
「もう色んな事がありすぎて現実逃避をする気にもならないし、疑うつもりもない。だが、色々と疑問はある。俺は赤子の頃にディアトイルに捨てられていたところを拾われてから、これまで約20年間生きてきた。だが、この時点で俺が赤子なら俺は40歳を超えているはずだ。そもそもグラハムと双子なんだからな」
「君の言う事はもっともだ。そして、君の疑問は記憶の水晶をもう少しだけ見続ける事で解消される。気になるところだとは思うが、結論を先に言うよりも時系列を追って見てもらった方が分かりやすいはずだ。悪いがもう少しだけ辛抱してくれ」
「分かった、映像を停めてしまって悪かったな。再開してくれ」
シリウスが記憶の水晶に触れて映像を再開させる。
過去のシルフィとクローズはアスタロトの命名に賛成していた。
血の繋がりのない『魔人と半魔人と人間』に育てられている過去の俺。大陸一奇妙な状況で暮らしている赤子かもしれない。だが、昔の俺は何も知らずに楽しそうに笑っている。
俺は将来的にディアトイルへ捨てられる事を考えると切ない気持ちになってくる。それでも一応、過去の偉人から名前を引っ張ってくる程度には大事にされていたんだなぁ、と思うと少しだけ救われた気分だ。
「さあ、これから大陸の掃除だけではなくガラルドの育成にも尽力しなければな。忙しくなりそうだが、やる気が湧いてくるな!」
赤子の俺を育てる理由も大陸の掃除という言葉もゾッとするものではある。それでもアスタロトが久々に楽しそうな顔をしていて敵ながら少しだけ嬉しくなってきた。
それから暫くの間、記憶の水晶は研究に励むアスタロト達の姿を映し続けた。