見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
赤子の頃の俺がクローズ達のアジトへ連れ去られてから早30日――――アスタロトは実験の記録帳と赤子を見ながら頭を抱えていた。そんなアスタロトを心配したシルフィは紅茶を差し出しつつ、悩みを探る。
「お疲れ様ディ……アスタロト。最近ずっと悩んでいるみたいだね。何がそんなに上手くいっていないの?」
「それを話すにはまず、僕が発案したガラルド強化計画の土台から伝えないといけないな。計画の第1段階はガラルドが大きくなる幼少期の内に魔人を初めとした様々な種族の細胞を少量ずつ『合成の霧』で取り込ませる予定だったんだ。早い段階から人間以外の細胞に慣らしておけば拒絶反応は出にくくなるはずだからな。幼少期から介入する手法はクローズにも考え付かなかったらしく、僕が先に見つけた事を本気で悔しがっていたよ」
「クローズさんを驚かせるなんて凄いね。もしかして悩みの種は『細胞の取り込み』が上手くいってないってこと? ガラルドちゃんには苦手な細胞が多いとか?」
「いや、苦手なものが多いのならまだマシだ。それ以前の段階で詰まってしまっている。ガラルドはグラドの息子とは思えない程に肉体が弱く、細胞を受け入れる為の容量が小さい。いや、グラドどころか普通の人間よりも弱いぐらいだ。これじゃあ魔人の力を取り入れるなんて夢のまた夢だ」
「グラドじゃなくてエトルさんや祖父母の血を濃く受け継いだのかもしれないね。だったらもう合成の霧なんて使わずに普通に鍛えてあげるしかないんじゃない?」
「そんなやり方でグラドを越えられるはずがないだろう! あいつは純粋な人間というカテゴリーでは最強の存在なんだぞ? クソッ! 何としてでも細胞を取り込ませてやる、まずは魔人よりもずっと弱い細胞から徐々に慣らしていくしかないな……」
苛立つアスタロトは、その後も度々赤子へ細胞を取り込ませようと励んでいた。時々上手くいく事もあったみたいだが大半は上手くいかなかったようでアスタロトは日に日にイライラを募らせる。結果、言葉もろくに分からない赤ん坊を怒鳴りつける事が多くなっていた。
アスタロトが怒鳴る度にシルフィが止めに入り、泣きじゃくる赤ん坊をあやす場面が続く。いつも飄々としているクローズですら暗い顔になっていた。
※
ピリピリとした空気が何日も続いている事に危機感を持ったのか、クローズはアスタロトに提案を持ち掛ける。
「アスタロト、もうガラルドは諦めないか? この赤ん坊は器ではなかったのさ。代わりに私が別の復讐方法を提案させてもらうよ」
「別案だと? 馬鹿を言うな、グラドの息子がグラドを殺すからこそ意味があるんだろうが!」
「そう言うと思ったよ。その点も抑えられる提案を用意したつもりだ。私の考えた案は細胞を用いて1からグラドの息子トルバートを作る計画だ。この技術はアスタロトが発案した『幼少期から少しずつ細胞を取り込ませる』手法から着想を得たものだ。君と私、2人の頭脳があればきっと完成させられるはずだよ」
「人間の男女が交合して母体に赤ん坊を宿すのではなく、植物の種を植えるように作り上げるという事か? それならグラドとエトルの間に再び子を産ませる必要はなくなるが、本当に可能なのか?」
「私は『変化の霧』と『合成の霧』を見つけ出した男だよ? 天才の私に君が加われば時間さえかければ完成させられると思う……いや、必ず成し遂げてみせる」
「ふっ……言い切るとは強気だな。だが、いいのか? お前にはサウザンド・パラディアの子供に転生する計画がある。そして転生先の候補を新たに作り出すサラスヴァ計画もあるだろ? 僕に時間を割いていてもいいのか?」
「アスタロトを手伝う事もサラスヴァ計画にとって何かしらの役に立つはずさ。それに、サウザンドの子供に転生する前にアスタロトの手伝いを終わらせればいい訳だしね。仮に私が転生する前に終わらせられなかったとしても親友の君が研究を引き継いでくれるはずだろ?」
「親友になったつもりはない……が、これも腐れ縁だ。クローズの案に乗る事にしよう。これからもよろしく頼む」
2人は互いの友情を確かめ合うように目を見て笑い合った。人の道から大きく外れた事を成し遂げようとする2人に恐ろしさを感じる。とはいえ互いに孤独を背負っていたクローズとアスタロトが歪んだ形とはいえ友になれたという事実だけは良かったのかもしれない。
今後の事を話し終えたアスタロトは満足気な笑みを浮かべ、今度は視線を赤ん坊に向けて呟く。
「それじゃあ、ガラルドは必要なくなった訳だね。さて、こいつの処分をどうするべきか」
アスタロトが冷たく言い捨てる。すると泣き疲れて眠っている赤ん坊の前に両手を広げて立ち塞がったシルフィが首を横に振る。
「処分なんてさせないよ! ガラルドちゃんはアスタロトの道具じゃないんだから!」
「どいてくれシルフィ。別に僕はこいつを殺すつもりはない。今までだって子供だけは殺さないようにしてきた。子供という存在は手遅れな大人と違って白紙に近い状態だからな。善にも悪にも分岐しうる可能性があると考えている」
「でも、アスタロトはガラルドちゃんをグラドに返すつもりはないんでしょ? 絶対にどこか別の国の孤児院にでも捨てるつもりでしょ? そんなことをしたら成長したガラルドちゃんがどこに行ったか分からなくなっちゃうよ。グラドにだって2度と会えなくなっちゃうじゃない!」
「僕の狙いをよく分かっているじゃないか。だったら早くそこをどけ。シルフィが抵抗したところで僕との力の差は歴然だ。奪うのを止められるはずがないだろ?」
呆れ気味に説得するアスタロト。しかし次の瞬間、目を点にして声を失う事となった。それはシルフィがナイフを自身の喉元へ突きつけたからだ。
「私がアスタロトを止める方法がたった1つだけあるよ。それは私の命を懸けること。アスタロトがガラルドちゃんを奪った瞬間、私は自分の命を絶つ。言っておくけど、私は本気だよ?」