見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第307話】家族の条件

 

 

 

 ザキールが作られてから数日後、アスタロトが寝ている間にシルフィがクローズの部屋を訪れていた。ドアをノックしたシルフィが部屋に入ると両手には赤ん坊の俺を抱えており、クローズが来訪の理由を尋ねる。

 

「あれ? シルフィさんがガラルドと2人だけで私の所へ来るなんて珍しいね。何か用かな?」

 

「……私にとってクローズさんは人生を狂わせた存在だから本当はこんな事を言いたくないですけど、今回は頼みごとがあって来ました。合成の霧を使ってガラルドちゃんに私の細胞を入れてくれませんか?」

 

 シルフィがなにやら不思議なお願いをしている。頭のキレるクローズにもシルフィの意図が読めないようだ。訳を尋ねると彼女は意外な言葉を口にする。

 

「近いうちに生成されるザキールちゃんの肉体の事を聞いて思ったんです。血縁ほど近くなくてもいいからガラルドちゃんと親子になりたいって。私は予想していた以上にガラルドちゃんへ愛情を持ってしまいました。だから、1%だけでもいいから親子と呼べるような共通項が欲しいと思ったんです」

 

「シルフィさんの言う通り、ガラルドのベースはあくまでグラドとエトルの血だ。それが覆る事は決してない。シルフィさんの細胞を入れたところで1%すら介入できないだろうね。これは持論なのだけど『親子を形作るのは遺伝子なんかじゃなくて、どれだけ愛情を持って接してきたかが重要』だと思っている。だから細胞を入れたところで無駄だと思うけど、それでも貴女の考えは変わらないかな?」

 

 狂気の研究をしているクローズにしてはかなり真っ当な事を言っていて調子が狂う。多分クローズは人間の常識・モラルを理解していて、人の心をくみ取る能力も持っているはずだ。それでも自身の野望を優先しているのだろう。改めてクローズという男が恐ろしくなってきた。

 

 クローズが丁寧に説明したものの、シルフィの考えは変わらないようで首を縦に振っている。彼女を優しい笑顔で見つめたクローズは椅子から立ち上がると早速、合成の霧が入った容器と皮膚に刺す細い針を取り出した。

 

「それじゃあ今から少しだけシルフィさんの血液を貰うよ。ガラルドは元々細胞を取り入れるのに不向きな体質だから本当にちょっとだけにしておこう。拒絶反応で苦しむことになるからね」

 

 いつになく慎重なクローズがシルフィの腕に針を刺して血液を採り、合成の霧が入ったガラス容器に血液を入れた。10分ほど経って血液が完全に合成の霧へ溶け切ったところで今度は針の先端に合成の霧を付着させて赤ん坊の俺に注射する。

 

 現代で大人となった俺が過去の映像を見ているのだから無事に済むことは分かっている。それでも奇妙な物質を注入されている映像を眺めるのは気持ちが落ち着かない。

 

 赤ん坊の俺は針を刺されてから1分ほど経ったところで突然体を震わせ始めた。慌てたクローズは赤ん坊の心音を確かめ、眼を凝視し、何が起きたのかを確かめている。

 

「ば、馬鹿な! こんな少量で反応が起きるはずがないのに……。いや、でも体が震えているだけで他に異常は――――」

 

 クローズが言葉を言い切る直前、赤ん坊の俺は全身に魔力を纏い始めた。それに加えて若干茶色味のある黒髪だった赤ん坊の俺が真っ黒な髪色に変化している。今の俺の髪色に近くなったようだ。

 

 赤ん坊が震えを止めるとクローズは自身の指先を赤ん坊の腕に当て、ブツブツと呟く。

 

「これは……シルフィさんの血がガラルドにとって相性が良いということか? それに魔力を2種類纏っているね。大昔、私が大陸北で出会った緋眼(ひがん)の戦士団も同様に2種類の魔力を纏っていたが……もしかしてシルフィさんは……」

 

「確かに私は戦闘の際に2種類の魔力を行使していますが、それってそんなにも珍しいことなんですか? グラド達からは特に何も言われたことがないですけど……」

 

「シルフィさんの家族がどういう経緯でペッコ村に来たのか、そして祖先が緋眼(ひがん)の戦士団だったのかどうか……分からない事だらけだけど優秀な血であることに間違いはないね」

 

「じゃあ、ガラルドちゃんも将来は強い戦士になれるってことですか?」

 

「いや、無理だね。シルフィさんが五英雄と呼ばれる程に強い魔術師になれたのには理由がある。それは2種の魔力があることに加えて土台となる肉体と魔術適性が強く、長年修練を積んできたからだ。強さとは『肉体と魔力と魔量』の掛け算にスキルを加味した総合力で決まるからね。計算式の最後に2倍の掛け算が出来たとしてもガラルドは肉体と魔力と魔量の基礎が弱すぎる。使い物にはならないよ」

 

「……そうですか。でも、私はガラルドちゃんが元気に育ってくれればそれで……」

 

 シルフィは落ち込みながらも自分へ言い聞かせるように呟いた。俺にはずっと親なんかいないと思っていたし、俺にとっての家族は親代わりのドミニク村長と兄弟分のルドルフだけだと思って生きてきた。

 

 だが、少なくともグラド、エトル、シルフィだけは俺を本気で愛してくれていたようだ。

 

 ……俺という人間は多くの家族がいて恵まれている方なのかもしれない。自分の生まれをひたすら呪ってきた人生だったけど、これからは少し見方が変わってきそうだ。

 

 こうして俺はグラドとエトルとアスタロトとシルフィの細胞を持った大陸一奇妙な人間に変化していた。

 

 

 

 

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