見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第308話】役割交換

 

 

 

 赤ん坊の俺が合成の霧でシルフィの細胞を取り込んでから更に10日ほど経った頃、クローズが頭を抱えながらアスタロトのいる研究室へと駆け込んできた。

 

「ハァハァ……聞いてくれアスタロト。悪い知らせと良い知らせがあるんだ」

 

「なんだよ勿体ぶって。じゃあ先に悪い知らせから言ってくれ」

 

「悪い知らせはザキールの肉体についてだ。ザキールはあと200日もすれば赤ん坊とそう変わらない肉体を形成する。形成後は特性液を入れた容器がなくても生命維持が可能になる予定だ。だけど、このままでは肉体がほとんど魔人の姿になってしまう」

 

「人間と魔人の姿を切り替えられないということか?」

 

「その通りだよ。これではザキールにグラドの子供を名乗らせられなくなり、グラドに絶望を与える事ができない」

 

「……人間の体じゃなければトルバートだと思わせるのは不可能だろうな……。凄く残念ではある、だがザキールはガラルドと違って強くなれる素質はある。仮に失敗しても何か有効利用できるはずだ、後々考えることにしよう。それで、もう1つの良い知らせというのは何なんだ?」

 

「良い知らせはザキールに続く2体目のトルバート複製体生成に成功しそうだという知らせだ。こっちの素体はザキールと比べて多少魔力や膂力は劣るものの人間として育つ確率が遥かに高い」

 

「それは素晴らしいな! 粗悪品から近似品の流れを経て、遂に本物のクオリティに達したわけだな。これまで頑張ってきた甲斐があったな!」

 

 クローズとアスタロトは苦戦しながらも共同研究が着実に進んでいる事実を喜び合っている。だが、傍で見ていたシルフィは爪を手に食い込ませながら怒りに震えていた。

 

 シルフィが怒っている理由が俺には何となく分かる……俺の予想を答え合わせするように彼女はアスタロトへ怒鳴る。

 

「いい加減にしてよディザール! 粗悪品とか近似品とか命を何だと思ってるの? この子たちは貴方の玩具じゃない! 他人の命を何とも思わないなんて、カッツやコルピと全く一緒じゃない!」

 

「……うるさい! 黙れ! 僕をあいつらと一緒にするな! そんなに気に食わないなら勝手に出て行けばいいだろう!」

 

 2人が互いに怒鳴り合う姿を見るのは初めてかもしれない。もはや、仲良し幼馴染の面影は消え失せようとしている。シルフィが今もアスタロトの事を好きなのかは分からないが、どちらにしても彼女の心はズタボロだろう。

 

 もう何回シルフィが苦しむ姿を見てきただろうか? 泣き崩れるシルフィの姿を見つめていたクローズは頭を掻きながら、2人を諭す。

 

「2人とも少し落ち着きなよ。特にアスタロトは言葉に気を付けた方がいい。これで本当に彼女がアジトを出て行ったらどうするつもりだい? 君は精神的な支えを失う事になる。それにシルフィさんが私達の情報をグラドに漏らす可能性だってあるんだよ?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 アスタロトもシルフィも互いにクローズの言っている事は理解しているが、熱くなった気持ちは抑えられない様子だ。そんな2人を見兼ねたクローズは提案を持ち掛ける。

 

「喧嘩をした時は1度距離を取って冷静になった方がいい。ちょうど私達の食糧が減ってきたところだからシルフィさんには買い出しついでに外の空気を吸ってリフレッシュしてもらおう。今まではフードを被ったアスタロトが買い物をしている間、シルフィさんがガラルドの面倒をみてくれていたけど、たまには役割を交換してもいいだろう。どうかな2人とも?」

 

 クローズの提案にシルフィは首を縦に振った。しかし、アスタロトは難色を示す。

 

「それは賛成し難いな。クローズ監視の元で買い物をしたとしても、万が一シルフィが逃げだしたらどうするつもりだ? いや、そもそもクローズが監視していちゃリフレッシュできるとも思えない」

 

「喧嘩していてもシルフィさんの事を考えているあたりアスタロトは仲間想いだよね。その点に関しては心配いらないよ。私はシルフィさんを背中に乗せて大陸北側にある町へ運ぶつもりだからね。仮に逃げられたとしてもグラドに情報を渡される事は無い」

 

「なるほどな、羽の無い人間なら死の山と死の海が壁の役割を果たしてくれるわけだな」

 

「その通り。光魔術で姿を変えられるシルフィさんでも流石に死の山を南北に横断する体力はないはずだ。イグノーラからアジトに来るだけで彼女は死に掛けていたんだからね」

 

 リフレッシュさせてやろうという話のはずなのに物騒な感じが拭えない。実にクローズとアスタロトらしいと言うべきか。いつも嫌な方向にばかり頭の回る奴だなと感心していると、シルフィが出発の準備を整え始める。

 

「きっかけはともかく、私は大陸北に行ったことがないから少しだけワクワクしてきたよ。クローズさんよろしくお願いします。それとアスタロトはちゃんとガラルドちゃんにご飯を与えておいてね。しっかり育児してくれないと本気で怒るから」

 

「……分かってるさ、早く行ってこいよ」

 

 何だか既にちょっとだけ仲直りし始めているように見えるのは気のせいだろうか? クローズとシルフィはアジトを出て大陸北の空へと飛び立っていった。

 

 初めて大陸北を訪れるシルフィはどんな感想を抱くのか気になるところだ。なんだか過去視をしている俺までワクワクしてきた。

 

 

 

 

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