見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
試合を終えた俺は『2人だけで話したいことがある』というフィルの誘いに従って、他の人達から少し離れた観客席でグラッジ達の試合を眺める事にした。
疲れた体を背もたれに預けてグラッジ達のいる武舞台を見つめると、ちょうど審判を務めるストレングが手を挙げてコールをしているところだった。
――――シン1点追加! これで7―0だ! ――――
俺はあまりの点差に聞き間違いをしたのかと思った。横にいるフィルへ確認してみたが、やっぱり7―0で間違いなかったようだ。
初めて俺がシンと会った時に披露会で手合わせをした時は確かに俺よりシンの方が遥かに強かった。しかし、俺達だって旅を通して相当強くなっているはずだ。むしろシンを超えているぐらいだと思っていたのだが。まさかここまでグラッジが手も足も出ないとは……。
俺は訓練を通してグラッジと何度も戦ってきて互いに均衡した力を持っていることは分かっている。つまり、7―0というスコアはそのまま俺とシンの力量差を表していると言ってもいいのかもしれない。
だが、戦いには相性がある。シンのスキルは後天スキルの『白鯨モーデック』しか知らないし、それが戦闘に有効利用できるかどうかも分からない。
もしかしたら、先天スキルの方でグラッジを手玉に取っているのかもしれない。望みを込めて両者を凝視すると、シンは息切れするグラッジを前にとんでもない事実を呟く。
「グラッジ君の力はそんなものかい? 隣で戦っていたガラルド君とフィル君はもっとキレのいい動きをしていたし、爆発力もあったよ。遠慮せず殺すつもりで俺に攻撃してくるといい。まずは1度でいいから俺にスキルか魔術を使わせてほしいものだね」
なんとシンは全力のグラッジ相手にスキルも魔術も使っていなかった。それに、グラッジを相手にしながら俺とフィルの戦いを観察する余裕すらあったようだ。
まさか、シンがここまで強いとは……奴が敵じゃなくて本当によかった。これだけ強ければ弱体化させたアスタロトを倒せてしまうのでは? とすら思える。シンが倒されてしまったらその時点で同盟陣営は終わりだから戦わせる訳にはいかないわけだが。
シンに煽られたグラッジは「分かりました……遠慮なく色々な手を使わせてもらいます!」と宣言し、言葉通りに多彩な属性武器を駆使してシンを攻めた。しかし、その全てが決定打にはつながらない。
見た目も相まって大人と子供が戦っているようだ。不安になりながら眺めているとフィルは肩をすくめ、大きな溜息を吐きつつ戦いを語る。
「あのシンって人は中々の切れ者だね。グラッジ君がギアを上げられるように誘導しているよ」
「ギアを上げる? グラッジが強さの殻を破れるように戦っているという事か?」
「まぁそんな感じだね。グラッジ君には
「なるほどなぁ、シンがそこまで凄い奴だったとは。政治的手腕にばかり目がいっていたが戦闘も天才的なんだな。天は二物を与えちまうものなんだな」
「いや、天才な事は間違いないけど、それでも才能はグラッジ君の方がずっと上だよ。
「サ、サイノウチ? 何だその言葉は? それに何でアスタロトの名前が出てくるんだ?」
俺が尋ねるとフィルは少し困った表情で悩みだした。それから暫くして懐にあるメモ帳を取り出し、何かを思い出しながら文字と絵を書き始めて完成したものを俺に見せてくれた。
その紙の見出しには
フィルは早速、
「
「何だか身も蓋もない話だな。だけど、大陸を救おうという今、グラッジの数字が高い事は嬉しい限りだな。若干興味が湧いてきたぜ、他の人の数字の目安はあるのか?」
「僕がアスタロトから直接聞いた話に加えて、ネリーネ夫妻を初めとしたスパイから聞いた数値だと五英雄は全員2000を超えているよ。グラドに至っては3000ぐらいあるだろうと言っていたね。そして、憶測だがシンさんもまた五英雄とほぼ変わらぬ
「改めて思うが、やっぱりグラドって凄かったんだな。それじゃあグラッジはどれくらいあるんだろうな?」
「これは僕の意見だけどグラッジ君は確実にグラドを超えているよ。だからグラッジ君の成長は大陸の未来の為に欠かせない要素だ。ついでに僕は赤子の頃にアスタロトが測定したみたいで1500だったらしい」
「フィルも相当なものだが、先にグラッジの天才っぷりを聞いてしまうと霞んじゃうな……。じゃ、じゃあ、期待せずに尋ねさせてもらうが……アスタロトが俺の数値を測った話とかは聞いてたり……しないか?」
「プッ、アッハッハッハ! 何をそんなにビクビクしながら尋ねているんだい? そんなに自分の才能を聞くのが恐いの? 確かに君は過去視の中で散々『無能、ガラクタ』と酷い扱いをされてきた身だ。それでもここまで成り上ってきたじゃないか」
フィルが今までに見せた事のない勢いで俺の事を笑っている。自分で自分の顔は見えないから分からないけれど、どうやら俺は相当ビビりながら聞いていたらしい。だけど、これから大きな戦いを繰り広げ、凄い奴しかいない戦場へ身を投じる事を思うと正直、恐くて仕方がない。
運に守られて成り上がってきた俺という存在が強者のみが集う最後の大舞台に立てる資格があるのかどうか……ちょっとだけ弱気になって聞いてしまうのも仕方がないのだ。
フィルは馬鹿笑いを止めると、真っすぐに俺の瞳を見つめ、俺の
「残念ながらガラルド君の
「に、にじゅうごぉぉ? ハハハ……何だか自信が無くなってきたぜ……まさか魔術を最低限使える一般人より下とはな……」
「しかも、この数値はシルフィ母さんや他の細胞を入れた後の話だからね。厳密に言えば本来の資質は更に低いかもしれない。たまに
「散々な言い様だな……まぁ確かにリリスやサーシャのスキルが優秀過ぎる事を考えるとフィルの言う通りかもしれないな……はぁ……」
想像以上に
「本来ガラルド君はとてもじゃないがヒーローになんかなれやしない存在だ。そんな君がここまで強くなって大陸の中心人物になっているのだから、きっと想いの強さ次第で人間は――――」
途中まで聞き取れたけれどフィルの声が小さくなったのか、それとも喋るのを止めたのか、最後までは聞き取れなかった。一応、何て言ったのか聞き返したもののフィルは「ううん、何でもないよ」と言い、言葉の続きを教えてはくれなかった。
そんなやりとりをしている内にグラッジとシンの戦いはますます激しさを増していた。しかし、シンが優勢なのは変わらない。グラッジの袈裟斬りに対し、シンが余裕の回し蹴りで氷剣の柄へ衝撃を与える。続けて氷剣を落として無防備になったグラッジの胸へシンが正拳を繰り出した。
「ほら、胸元がガラ空きだよ、おりゃっ!」
「ぐふっ!」
肺から大量の空気を吐き出したグラッジは堪らず後ろへと転がる。審判のストレングが8―0のスコアをコールし、グラッジはますます追い詰められてしまった。