見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
シンから正拳突きを受けてダウンし、8―0に追い込まれたグラッジは震える足を手で叩き無理やり起き上がった。一方、シンは追撃せず、師匠の様な温かい表情でグラッジを見つめている。
グラッジが起き上がった瞬間は嬉しそうな顔をしていたシンだったが、何かを思いついたようで再び意地悪そうな笑みを浮かべる。続けてグラッジを煽り始めた。
「段々と動きのキレはよくなってきたかな。それでもガラルド君やフィル君には及ばないかもね。戦争においてはガラルド君とグラッジ君をナンバー1,2……つまり中心のコンビとして添えるつもりだった。だけど、この戦いを見る限りガラルド君とフィル君で良さそうだね。グラッジ君には別動隊で働いてもらおうかな」
普段のシンからは考えられないような煽りをしている……いや、そもそもシンは普段から人を煽るタイプではないのだけれど。この行動の狙いは、たとえ憎まれ役になってでもグラッジの底力を引き出したいのだろう。
シンの言葉を受けたグラッジは両方の拳を強く握りしめて震わせると何故か身に纏っていた魔力を弱くし、小さくも力強い声で宣言する。
「申し訳ないですけど、今の言葉は撤回してもらいますよ。魔獣寄せを持ち、政治的手腕も無い僕は戦闘でしか恩返しが出来ないですから。僕は必ず貴方を納得させてみせる……そして、フィルさんだけではなく、ガラルドさんも超えてみせる! 次に見せる技が僕の出せる全力、そして最後の攻撃です! 唸れッ!
グラッジは初めて聞く技名を叫ぶと身に纏っている魔力とは別の魔力を目の前に浮遊させた。その魔力は人の頭ほどの小さいサイズではあるものの、多くの色が混ざり過ぎていて何属性なのかさっぱり分からない。
そんな魔力の塊は少しずつ亀裂が入り、バラバラに砕け、欠片1つ1つが針のような形状に変化した。続けて魔力針はグラッジの体全体に刺さってしまう。
まるで七色に光るハリネズミとも言うべきか。奇妙な針の鎧を纏ったグラッジはゆっくりとシンに向かって歩いていき、目の前に立ち止まって拳を構える。
「お待たせしました、シンさん。この力で貴方を満足させたいと思います」
「随分と変わった形状だね。それにいつも属性を纏った武器を振るう君にしては珍しく素手の戦闘スタイルだ。まるで手数を重視している時のガラルド君みたいだが、本当にそのままでいいのかい?」
「はい、現状ではこの形態で武器を振るう事は出来なさそうなので。それでもさっきよりはずっと戦えるはずです。それじゃあ、いきますよ!」
力強く叫んだグラッジが先に右拳を繰り出す。シンは拳撃を手の平で受け止めるが、グラッジは構わず残った左拳を放つ。拳を放っては防ぐ攻防が10回ほど続いたところで、シンが眉間に皺を寄せて呟く。
「動きが更に速くなったね。これが
「それも効力の1つですが、それだけではないですよ。ところでシンさんこそ大丈夫ですか? 段々と防御が慌ただしくなっていますけど」
「何? そ、そんな馬鹿な! どういうこ――――」
突然慌てだしたシンを尻目にグラッジが素早い打撃で畳みかける。徐々に防御が追い付かなくなり、何も喋れなくなったシンは危機感を覚えたのか、後ろへ飛んで魔術を唱える。
「一旦、距離を置いて考えさせてもらうよ、アイス・ウォール!」
シンとグラッジの間に縦、横、厚みの全てが2メード以上はありそうな頑丈な氷壁が姿を現わす。この状況ではシンが氷を中心に逃げ続ける限りグラッジが打撃を与えるのは難しいだろう。
正体の分からない技を前にした時は安全を確保して、分析を進める事が戦闘のセオリーだ。素早い判断で後退したシンは流石と言うべきか。
氷壁を介し、2人の間に数秒の沈黙が流れる。出方を伺いたいシンは左右だけではなく、氷壁の上から攻撃されてもいいように上方も警戒している。
シンが迂闊に動けない以上、グラッジが先に動き出す可能性が高そうだ。俺はグラッジに意識を集中させることにした。すると、グラッジは右の肘を後ろに引き、身体中に刺さっている針を一層強く光らせた。
氷越しに光るグラッジを見つめるシンはより一層警戒の構えをみせる。両者の間に緊迫した空気が流れる中、グラッジが謎の言葉を大きな声で叫び、真っすぐな正拳を放つ。
「
グラッジが放った正拳は目にも止まらぬ速さでシンプルに氷壁へ衝突する。次の瞬間、氷壁は風化した木のように容易く粉砕されてしまった。状況を顧みるにシンは間違いなく強度の高い氷壁を生み出したはずだ、それだけグラッジの攻撃力が高いということだ。
砕けた氷壁の破片が向こう側にいるシンの視界を塞ぐ中、グラッジは追撃の構えを見せる。氷壁が無くなり最短距離で近づくグラッジ。1度距離を取るべく後ろへ飛んだシンだったが、身体能力が跳ね上がってるグラッジ相手では逃げ切れるはずがなかった。
瞬く間に距離を詰めたグラッジは今までに見せた事がないやんちゃな笑顔を浮かべ、渾身の正拳を放つ。
「まずは1点頂きます! 喰らえッッ!」
グラッジの正拳が腹部へ直撃する。打撃とは思えないほどに高く乾いた音が響く。口から空気と唾液を吐いたシンが矢の様に武舞台の端へ飛んでいく。
「うぐあぁっっ!」
――――グラッジ1点追加! 1―8!――――
ストレングがグラッジのポイントをコールする。もし、シンがこのまま飛んでいけば武舞台から出ていき場外負けとなる。
俺はグラッジの逆転勝ちを祈った。しかし、武舞台から落ちるギリギリのところでシンがアクションを起こす。シンは自分が飛ばされている方向へ全長5メード程に縮小した『白鯨モーデック』を召喚し、落下防止の壁にしてしまったのだ。
流石はシンと言うべきか。そういえば俺とシンが戦った披露会でも白鯨モーデックに攻撃を防がれて勝ちを得られなかった。勝つ為にはまずモーデックを何とかしないといけなさそうだ。
「あ、危ないところだった……。ほんの一瞬、反応が遅れたら俺は場外負けだった。グラッジ君の身体能力が有り得ないほどに上がって――――」
腹を抑えながら分析をしている途中でシンは言葉を止めた。それはグラッジが追撃をするべく向かっていたからだ。
「ここで決めさせてもらいます!
グラッジがまた新しい技を叫びながら自身の身体を光らせている。さっきからグラッジがどんな技を使っていて、どんな原理で強くなっているのかさっぱり分からない。だが、1つだけ確かなのは今のグラッジがとてつもないエネルギーを全身に纏っているということだ。
グラッジとシンの距離が15メード、10メード、と瞬く間に詰まっていく。シンは高揚した笑顔を浮かべながら両手を前に突き出した。
「守れ! モーデックッ!」
さっきまでシンの後ろ――――武舞台端にいた白鯨モーデックは瞬時にシンの前側に移動すると自身の身体を膨張させて体積を2倍に膨らませる。
モーデックは高速で突進してくるグラッジの拳を真正面から口先で受け止めようとした。だが、グラッジの突進があまりに強く、衝撃に耐えられなかったモーデックは口先から尻尾まで全てが光の粒になって分解してしまう。
モーデックから解き放たれた光の粒は光度もさることながら数も多く、眩し過ぎて武舞台の上が何も見えなくなってしまった。同時に岩か何かが破壊されているような爆音が一帯に鳴り響く。
モーデックを1撃で破壊する程の攻撃を受けたのならシンはただでは済まないはずだ。少しずつ光の粒が飛散して、武舞台の様子が見えるようになったところで俺は言葉を失った。
なんと、シンは何事もなく武舞台の端に立っていたのだ。一方、グラッジは武舞台の外の壁に拳を突き立てている。いや、より正確に言えば武舞台の外にある観客席の壁を真っすぐ10メード以上削ったところでようやく突進を止められている。
眩しくて状況が確認できていない間に馬鹿げた突進力をグラッジは披露したようだ。だが、シンが武舞台内に立っていてグラッジが武舞台外の地面と壁に触れている以上、勝負はシンの勝ちだ。
何も言えなくなったストレングはシンに目線を送られて我に返ると、試合終了を宣言する。
「グラッジが場外に触れた事により、シンの場外勝ちとする!」
俺やリリス達は何が起きたかさっぱり分からないまま2人の健闘を称えて拍手を贈った。しかし、勝者であるシンは勝ったとは思えない程にあぶら汗をかき、手を震わせながらぼそりと呟く。
「なんて攻撃だ……殺されるかと思ったよ……」