見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる   作:腰尾マモル

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【第339話】為政者と象徴

 

 

 シンとグラッジ、そして俺とフィルが戦った模擬試合から早50日が経過していた。

 

 俺達ガーランド団の面々はそれぞれ自分の出来る仕事を名一杯こなす日々を送っている。

 

 シルバーとサーシャは戦争の物資を運ぶ為の段取り、運搬効率を上げる為の技術的な話し合いを進めていた。特にサーシャはドライアド代表としての務めも有り、忙しい日々を送っていた。ディアトイルで倒れた件もあるから心配していたが、度々グラッジとシルバーが気にかけて無理やり休ませてくれていた。

 

 何だかんだで兄シルバーの言う事はよく聞くし、友達以上に仲の良いグラッジから送られる気遣いの声はサーシャの足を止める力があるらしい。

 

 一方、俺とリリスとゼロはダリアの面々と一緒に戦争の準備を進めていた。アスタロト弱体化の鍵となるアーティファクト『レストーレ』を扱う練習をしたり、七恵(しちけい)の楽園で手に入れた植物を効果的に利用する方法を話し合って詰めたりと様々だ。

 

 とは言っても俺は技術的な事がよく分からなくて置いてきぼりなる時間もあった。レストーレを扱う練習もレイピアで相手を倒す技術を得るわけではなく、とにかく1回刺すことが重要になるものだ。だからシンプルな突きを繰り返すだけの単調なものとなった。

 

 そして、色々な仕事をしている合間を縫ってシンやシリウスの指導の元、戦闘訓練を行ったり、リヴァイアサンの力を借りて七恵(しちけい)の楽園で修行する機会も沢山設ける事が出来た。

 

 余談だが、七恵(しちけい)の楽園をシリウスに紹介したら彼はとても喜んでいた。帝国嫌いのフローラもシリウスが帝国人だという事を忘れて仲良くなってくれたようだ。

 

 さらに七恵(しちけい)の楽園では1つ大きな発見をすることが出来た。フローラのスキル『七恵(しちけい)の番人』で縮小された人間は魔力や膂力が弱まるだけではなく、スキルも弱まるという点だ。

 

 この特性により、グラッジを小さくすることで魔獣寄せを弱くすることに成功し、魔獣寄せの効果が薄まる時期ではなくても陸地で修行する手段を得られたということだ。

 

 フローラの力を借りるうえに七恵(しちけい)の楽園の中でしか生活できない制限はあるけれど、それでもグラッジにとっては大きなメリットだ。俺もグラッジと一緒に過ごせる時間が増えるのは嬉しい。グラッジと特に仲の良いサーシャなんてもっと喜んでいるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 忙しくもやりがいのある日々は瞬く間に過ぎていき、更に20日が経過した。

 

 最初は俺とリリスの2人で始まったパーティーも気が付けば多くの仲間を得て、多くの国と組織で支え合う形を作ることが出来た。

 

 もし未来がアスタロト達に負ける運命なら、俺達の命は後数十日という事になってしまう。普通なら暗い未来を想像してしまう期間になるのだろうが俺は今、この瞬間が人生で1番楽しい時間だと感じている。

 

 まだディアトイルを完全に救った訳ではないし、ハンターとして最高の称号を得たわけでもないから夢を叶えたとは言えない。だけど、色々な境遇を持つ皆が志を1つに団結して理想を叶えようとしている過程こそが1番の宝なのかもしれない。

 

 まるで海賊が旅の最後で1番大切な宝は旅そのものだったと気付くような……そんな口に出すのが恥ずかしくなる気持ちが今の俺の心に溢れている。

 

 いや、こんな年寄りみたいな気持ちを抱くにはまだ早い。今は目の前の事に集中しよう。

 

 

 今日は夕方からシンバードの王の間で決戦前の情報伝達を兼ねた話し合いがある。皆で王の間に行くとしよう。

 

 俺はリリス、グラッジ、サーシャと合流し、王宮殿へと向かった。すると、王の間に繋がる扉の前にフィルの姿があった。フィルは俺達を見つけると何か話があるようで自分の方へ手招きしてきた。

 

 俺が「中に入らないのか、フィル?」と尋ねると奴は窓から見える夕陽を眺めながら意味深な言葉を呟く。

 

「これはただの勘なのだけど今日は何となく悪い知らせが届きそうな気がしてね。だから意外とナイーブなガラルド君を事前に元気づけておこうと思ってね。王の間での話し合いの前に僕と話をしようよ」

 

「ただの勘で俺達を不安にさせないでくれよ、フィルが言うと本当になりそうで怖いんだからよ。まぁいい、それで優しいフィル様はどんな話で元気づけてくれるんだ?」

 

「あはは、ごめんごめん。勘のことは忘れておくれ。それで、お待ちかねの元気が出る話だけど、この話をする前にガラルド君に聞いておきたいことがある。アスタロトが魔人の力を得てから約50年の月日が流れた訳だけど何故彼らが今、この時代から本格的に動き出した理由は分かるかい?」

 

「ん? 言われてみれば断言は出来ないな。悪人のみを殺していたアスタロトが人間そのものに嫌気が差して人類丸ごと標的にし始めた正確なタイミングは分からないからな。クローズがワンに転生して魔力砲などの知識を完全に会得するまで待ちたかったからなのか? いや、それならもっと早く人類に攻撃するか……もしかしてシンバードの出現を恐れているのか?」

 

「シンバードが出来たのは10年以上前だし、魔力砲の基盤となる『吸収の霧』の知識を完全に会得したのはもっと前だから不正解だね。アスタロト達が本格的に動き出す原因を作り出したのは君だよ、ガラルド君」

 

 フィルが突然とんでもない事を言い始めた。俺は長い旅を通して大陸にある程度名を知られる事にはなったけれど、それでもシンの一部下であり、一戦士でしかない。

 

 そんな俺がアスタロトに危機感を持たせられる存在になるとはとてもじゃないが思えない。フィルは俺を凄い奴だと褒めようとしてくれているみたいだが流石に無理がある。

 

 だから、俺は首を激しく横に振って否定する。それでもフィルは直ぐに自信満々の表情で持論を被せる。

 

「僕やスパイが集めた情報によると、元々20年以上前の時点でアスタロト陣営は人類を倒せるほどの力を持っていたんだ。だが、アスタロトは100の力で80の敵を倒すより、200,300とより大きな力を得て圧倒的に勝利することを望んだ。理由は自陣営への被害を減らす狙いがあったからだね。奴にとって人類より自然や魔獣の方がずっと大切だからね。まぁ、魔獣の事も嫌いではないというだけで駒ぐらいにしか思ってないだろうけど。そうやって余裕ぶっていたアスタロトを焦らせたのがガラルド君だ」

 

「アスタロトにある程度優先順位があることは分かった。ウンディーネさんが遭遇した時も汚染された海に浄化魔術をかけていたらしいしな。そして、かなり前から巨大な勢力を持っていることも理解できた。だが、俺がアスタロトを焦らせる存在だと思われる理由がさっぱり分からないぞ」

 

「ガラルド君がコロシアムで優勝し、素性が大陸中にバレて、その結果ヘカトンケイルを救った事実も広がったよね? その後も竜背の町ジークフリートを救ったり、魔日で活躍した事実が新聞や噂を経由してアスタロトの耳に入ったんだ。ただでさえシンバードが台頭し始めていて、魔日で魔獣側が負ける事も増えて戦力差を詰められていた状況だった。そこへ更にグラドの息子と同じ名を持つ男が大陸の勢いを加速させたんだ。焦るのも無理はないだろう?」

 

「褒めてもらって光栄だが、それはあくまで色々な町の人間が1人1人頑張ったからだ。各町の騒動に俺が関わっていただけに過ぎない。決して俺個人が優れている訳じゃない」

 

 俺はむず痒い気持ちを抱きながらフィルに言葉を返す。俺の言葉を受け、フィルは何か持論を発しようとしていたけれど、それよりも先にリリスが「あっ!」と大きな声を出して何かに気付き、自分の考えを語り始める。

 

「分かりました! ディザールは最初の段階ではガラルドという存在が同じ名前の戦士に過ぎないと思っていたわけですね。後になって正体が分かり、驚異的なカリスマ性を持っている超・超・超カッコいいガラルドさんを危険視したからこそ死の山で接触してきた訳ですね。それに、ガラルドさんは謙遜していますけど、困っている人達に手を差し伸べて反旗の炎を灯してきたのはいつだってガラルドさんでした。特にジークフリートやイグノーラの件なんて後世に語り継がれるレベルですよ。ね? フィルさん?」

 

「あ、ああ、そうだね。ガラルド君が超・超・超カッコイイかは分からないけど、ガラルド君があらゆる弱者に反撃のきっかけ与えて騒動の中心にいた事は間違いない。アスタロトは色々調べているうちに五英雄以上の影響力と行動力を持つガラルド君を心底恐れたんだ。だから本当ならガラルド君を泳がせて湖の洞窟にいるシリウスを見つけ出した後、すぐにガラルド君を殺したかったはずだ。もっともリリスさんがガラルド君を命懸けで庇ってくれたおかげでアスタロトは撤退してくれた訳だけどね」

 

 凄く気恥ずかしいがフィルやリリスの言いたいことはよく分かった。それでも俺は大陸一の英雄はシンであると思っている。それだけは念を押しておくとしよう。

 

「フィルの言いたいことは分かったよ。でも、大陸で1番重要な人物はシンだからな? それだけは忘れないでくれよ、フィル」

 

「お、照れているのかな? いつの時代も革命において重要な存在は『最強の為政者』と『最高の象徴』だ。そういう意味では前者がシン、後者がガラルド君だろうね。だから長々と話したけれど君は凄い奴だから何があっても心を折ってはいけない……ってことを言っておきたかったんだ。みんな君に期待しているんだ。勿論、僕もね」

 

 そう言うとフィルは俺の左胸にゆっくりと拳を当ててきた。こういう臭い台詞と行動をさらっとこなすフィルはちょっと鼻につくけれど、今日だけは素直に受け取る事にしよう。

 

 俺は一言「任せとけ」とだけ呟き、フィルの肩をポンッと叩き、そのまま王の間に続く扉を開けた。奥には玉座に座るシンの姿と一部の国の要人が集まっている。

 

 いよいよ最終決戦前の最後の話し合いだ。俺は襟を正し、背筋を伸ばしてシンの前へと歩いていく。

 

 

 

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