見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
「シンバードの皆さま。私を治療して頂き、ありがとうございました。私はどうしてもやらなければならない事があり、帝国の追手を振り払ってここまで来ました。まずは、こちらの手紙をお受け取りください」
容態を回復させた帝国兵が呟くと、懐から一通の手紙を取り出した。帝国兵から手紙を受け取ったシンは差出人を確認して中身を軽く見ると、すぐに手紙を俺に渡す。
「どうやらこの手紙はシンバード宛てであると同時にガラルド君宛てでもあるようだ。この手紙は帝国第四皇子……いや、今は殿下と呼ぶべきか……君の友人であるレック・リングウォルドから送られたものだ。君が代表して読むといい」
「何? レックからだと? 分かった、俺が預かろう」
俺は全員が内容を知れるように手紙の読み上げ始めた。
――――この手紙を最初に読んでくれているのはガラルドだろうか? それともガラルド以外のシンバード関係者だろうか? どちらにしてもこの手紙で得た情報はシンバードと大陸全土の為に有効活用してほしい。それにガラルドに宛てたメッセージが多いからガラルド以外の人間が預かったならガラルドに渡してやって欲しい。こんな慌ただしい文頭になってしまって申し訳ない。こうなってしまったのも俺が今、危機的状況であり、手紙をまともに届けられるかすら分からないからだ――――
何やら相当切羽詰まった状況のようだ。帝国で上質な教育を受けてきたであろうレックなら文章も文字も綺麗に書けるはずだが、まるで殴り書きのように時間に追われた文体と文字だ。覚悟して読み進めることにしよう。
――――俺が手紙を書いている理由を単刀直入に伝えさせてもらう……父アーサーが亡くなり、第一皇子だった兄モードレッドが皇帝になって以降、リングウォルドは一層武闘派になっているんだ――――
――――兵器・魔力砲をはじめとした強力な軍事力を持つ父アーサーを消し、兄モードレッドを止められる者が帝国内に誰もいなくなったからだ。モードレッドは大陸会議で約束した通り、兵器類を廃棄し、地下奴隷を解放してくれた。しかし、それらを手放しても問題ないくらいに強力な手札を持っていたんだ。その手札は『変化の霧』と呼ばれるもので、かつての皇帝ヨハネスが軍事利用していた力だ。ここからは変化の霧についての説明を記述するが、馬鹿げた話だと思わず全て真実だと信じて欲しい――――
そこからは俺達も知っている『変化の霧』と『吸収の霧』についての説明が書かれていた。レックとは大陸会議が終わった後、すぐに別れたこともあって湖の洞窟で得た情報を伝える事が出来なかった。それでもレックが個人的に帝国内を探って霧の力に関する情報を得てくれたようだ。
しかし、霧に関する説明を読み進めるうちに書かれている文字が更に雑になっていた。レックは1分1秒を争う状況で文字を書いていたのだろうか? それとも文字が書きにくくなるような何か別の事情があったのだろうか? 俺は言葉を詰まらせぬように一層文字に集中して読みあげる。
――――俺は信頼の置ける部下をモードレッドに差し向け、情報を探り続けた。その結果、得られた情報は信じたくないものだった。具体的には『帝国内に外部からは測れない戦力があること』そして『そう遠くないうちにシンバードを滅ぼし、大陸を帝国一色に染める計画がある』というものだった――――
――――父アーサーが生きていた頃は国境などで小さな小競り合いや威圧的な外交はあったものの、大きな戦争だけは起きなかった。だが、モードレッドは違う。奴は帝国こそ全てと考え、帝国の為なら非人道的な戦争を仕掛ける覚悟がある。前々から考えの読めない不気味な兄だったが、父を殺し、スパイから情報を得た今なら奴の恐ろしさが分かる――――
――――兄モードレッドが戦争を望んでいるという情報は最悪のものだった。だが、それと同時に貴重な情報も得られた。それは死の山での戦争にモードレッドが多くの戦力を遠征させるつもりだという情報だ――――
――――モードレッドと言えど、やはり死の山の存在は恐ろしいらしく、各国に定められた人数割合より多くの兵を派遣させるらしい。まずは直近の死の山で行う戦争に気合を入れているようだ。だから、少なくともそれまではシンバードを攻められる心配はなさそうだ――――
――――だが、逆に言えば死の山での戦争が終わった直後にシンバードが攻められる可能性があるわけだ。だから、シンバードには絶対に西側の守りを固めて欲しい。海洋国家であるシンバードに対して帝国が海や川のある南側や東側から攻める愚行にはでないはずだからだ。北や北東側から攻めようにも他の同盟国に邪魔されるのは目に見えているから必ず西側から攻めるはずだ――――
レックの言う事には一理ある。俺達が大陸会議の為にシンバードからリングウォルドへ移動した時も1度西側へ大きく移動してから南下するのが1番楽な移動だった。帝国や属国との位置関係から考えて帝国は西側からシンバードを攻めるのがベターだろう。
万が一に備えて兵を派遣し警戒するという行動は『時間と距離に比例して国もコストを支払う』ことと同義だ。レックが時間と方向を絞ってくれたことは非常にありがたい。俺達はレックから貰った情報で安心していたが、それとは対照的に手紙の中のレックの元気は落ちる一方だった。
――――人の道を外れているモードレッドにはとてもじゃないがついていけない……だから俺は亡命する形になっても構わないからシンバードに行きたいと思った。皇族としての身分を捨てるのは辛いが、ガラルド達と同じ組織の人間になるのも悪くないと思っている。ドライアドやイグノーラでの戦いを経て、俺はシンバード領やガーランド団の事を好きになっていたんだ――――
――――だが、その望みは叶えられそうにない。俺がモードレッドを嗅ぎまわっていることを本人に勘づかれてしまったようなんだ。だから俺が特に信頼している部下達は俺と一緒に軟禁されてしまった。もしかしたら部下は拷問されたり、殺されている可能性すらある――――
――――そして俺はきっとモードレッドによって戦争の駒とされてしまうだろう。俺は
――――でも、俺だって自分の身はかわいいし、死にたくなんかない。どうにかして俺が死なずにモードレッドが負ける未来を創り出したいものだ。俺が死んでしまった時は墓にジンジャーエールでも供えてくれ、俺の好物だからな――――
――――長くなったがシンバードの無事を祈っている。絶対に死ぬなよ、ガラルド――――