見捨てられた俺と追放者を集める女神さま スキルの真価を見つけだし リベンジ果たして成りあがる 作:腰尾マモル
外が少し暗くなってきたことだし、そろそろ図書塔を出ませんか? とサーシャさんに声を掛けると、サーシャさんは「最後に見てもらい1冊があるの」と言い、僕を最上階まで案内してくれた。
最上階に着いたサーシャさんは10年ぶりに来た図書塔だというのに迷いなく本棚から1冊の本を抜き出した。その本の表紙は相変わらず『勇者フォグスン』が描かれているが、タイトルだけは今まで見てきたものと少し違っていて『勇者フォグスン ~終わりへの航海~』と書かれている。
早速僕は本を読み進めると勇者フォグスンはシリアスな表情で『過去1番に危険な冒険となった』呟いており、最後には我が眼を疑うようなシーンが描かれていた。
なんと勇者フォグスンの相棒を務めていた巫女の女性が厳かな祭壇で祈りを捧げ、自らの持つスキルを消し去っていたのだ。どうやら巫女は強大な力を持つ存在らしく、多くの人に自分のスキルを利用されて生きてきたらしい。
そして巫女はフォグスンと出会い、色々な冒険を経て成長し、最後には忌々しく思っていた自分のスキルを消し去れる場所があると知って祭壇の場所まで危険な冒険を続けてきたようだ。
この本がフォグスンの冒険における最終章なのか、物語の途中なのかは分からない。ただ、今までに描かれてきた冒険が現実のものである可能性が高い以上、スキルを消す事が出来る祭壇がある可能性も高いと言える。
僕は勢いよく首を回しサーシャさんの方を確認した。するとサーシャさんは天使の様な優しい笑顔で語り始める。
「これが海底集落アケノスでグラッジ君が素敵な景色をプレゼントしてくれたお返しだよ。今はまだ具体的な位置が分かっていないけど、世界のどこかに魔獣寄せを消すことが出来る場所があるはず。だから希望を持って生きて欲しいと思ってウィッチズガーデンに来てもらったの。ずっと何とかする方法がないかって色々調べまわっていたんだけど、答えのヒントが生まれ故郷にあるなんて人生って不思議だよね」
サーシャさんの優しさに涙が出そうだ。常々僕のスキルを何とかしてあげたいと思っていたから彼女は幼少期の記憶と両親の日誌を結びつけることが出来たのだと思う。
そして、ずっと色々調べていてくれた事実は祭壇の情報を得られた事よりも嬉しい。大好きなサーシャさんに大事に想われていることほど嬉しい事はないのだから。
僕は満足した気持ちで本を閉じようとした。するとサーシャさんが僕の手を素早く抑えて、本を閉じるのを防いで言った。
「待って! 絵本の最後のページをよく見て欲しいの。最後のページには大団円っぽくフォグスン一同の笑顔が書かれていて、そこばかりに注目しちゃうけど背景の壁に立て掛けてある地図を見てみて。モンストル大陸みたいな地形が描かれていて遥か西方の海に赤色の点が記してあるでしょ?」
サーシャさんの言う通り、絵本の中に描かれている地図はモンストル大陸に見える。今まで読んできたフォグスンの物語は大陸内とも大陸外とも取れる内容のものが多かった。だからスキルを消す祭壇も大陸の遥か外にあるかもしれないと思っていた。
だけど、絵本に描かれている地図を見る限り祭壇は大陸にあるようだ。いや、正確に言えば大陸にあるという言い方は違うのかもしれない。
東側へ三日月状に膨らんでいるモンストル大陸の陸地……そこから遥か西方の海に赤色の点が記されているから大陸に連なる陸地ではないし、大陸からも距離はかなり離れている……つまり現代の基準で言えば大陸外になるわけだ。
絵本の荒い描き方のせいでよく見えないけど、その辺りに島でもあるのだろうか?
帝国が作っている1番詳細な大陸地図ですら大まかな陸地しか描かれていないし、大陸の南端はぼんやりとしか描かれていないのが現状だ。だから、ある意味絵本の背景に描かれている地図は帝国の地図よりも広範囲を描いた地図とも言える。
位置的にはウィッチズガーデンから遥か南西に線を引き、死の山から遥か真西に線を引き続けて交差するポイントが祭壇のある場所のみたいだ。
祭壇のある場所へ行くにしてもリヴァイアサンの進める海域なのかどうかは分からないし、仮に到着しても島や海中での危険な冒険が待っているかもしれない。
それでも多くの人に迷惑をかけてきた魔獣寄せを消す事が出来るのなら絶対に訪れたい……僕の心に熱い炎が灯されていく。
僕が『いつかフォグスン達が訪れた祭壇に行ってみせる』と強く決意しているとサーシャさんは突然違う話題を振ってきた。
「グラッジ君、少し聞きたいことがあるの。グラッジ君は最終決戦に勝つことが出来たら、その後はどんな風に暮らしていくのかな? 何かやりたい事とかあるのかな?」
正直、今すぐにでもフォグスン達が訪れた祭壇に行きたいぐらいだ。だけど、多くの冒険をしてきたフォグスンが1番危険な場所だったと言っているぐらいだから最終決戦のすぐ後に行くのはよくないと思う。それに最終決戦が終わった後もガーランド団の人間としてやらなければならない事が色々あると思う。
僕はグラド爺ちゃん、グラハム父さんの家族として、そしてガーランド団の一員としての立場を踏まえた上で答えを返す。
「最終決戦が終わっても魔獣が全ていなくなる訳ではありませんから魔獣の掃討を手伝って大陸に貢献したいですね。それにお爺ちゃんの墓もちゃんと作れていませんから、しっかりと作りたいです。他にも記憶の水晶で知った本当の歴史を多くの人に知ってもらいたいと考えていますから、真実を広めていく活動を出来たらと考えています」
「グラッジ君は立派だね。そんなグラッジ君をサーシャは凄く尊敬しているよ。だけど、サーシャが望む未来は……」
サーシャさんは僕を褒めてくれていたけれど途中で言葉を詰まらせてしまった。一体何を伝えたかったのだろうか? 続きの言葉が出てくるのを待っていると、人一倍緊張した様子のサーシャさんがカッと目を開いて、内に秘めていた想いを熱く語る。
「皆に愛されているグラッジ君は皆のものかもしれない。それでも……それでもサーシャにワガママを言わせて欲しい! あのね、最終決戦が終わったら……一緒にフォグスンの訪れた祭壇に行きたいの! あの日、海底集落アケノスで言った約束を覚えてる? 『グラッジ君は大切な人だから、どうにかする方法がないか一生かけてでも探し続ける』って約束を……。だから、魔獣寄せを消す旅にサーシャを連れていって!」
サーシャさんはまるで愛の告白でもするかのように必死になって想いを伝えてくれた。いや、命懸けで僕を助ける旅に出たいと言っているのだから、愛の告白以上に必死だと言えるだろう。
サーシャさんは『僕が皆に愛されている』と過大評価してくれている。だけどドライアドの長であり、シンバード陣営にとって欠かせない為政者であるサーシャさんの方がずっと必要とされている存在だと思う。だから念のために今一度尋ねておくことにしよう。
「本当にいいんですか? 危険な冒険になる事は間違いないですよ? モンストル大陸の陸地から離れた海域はどこも死の海のように危険な海域が広がっていますから一生シンバード領に戻れなくなる可能性だってあります。それに最終決戦を無事勝利で終える事が出来ればサーシャさんは実の両親と育ての両親とシルバーさんに囲まれて幸せな家族生活をおくれるはずです。それでも僕の為に旅してくれるのですか?」
「うん、一生戻れなくなることも覚悟のうえだよ。それでもサーシャはグラッジ君の魔獣寄せを消してあげたい。だって、サーシャはグラッジ君のことを……」
僕に情報を伝えた事、そして祭壇への旅についていくとお願いしてきたこと、両方とも強い勇気がいることだ。それに肩を震わせて顔を赤くしながら語り、最後の一言が言えずに詰まっているサーシャさんが僕に対して友情とは別の感情を抱いてくれていることも今なら分かる。
僕はいつもサーシャさんの世話になりっぱなしだ。今回の旅に至っては何も男らしいところを見せられてはいない。小さな体でありったけの勇気を振り絞ってくれたサーシャさんに今こそ応えるべきだ。僕は自分の内にある心からの望みを伝える。
「ここから先は僕に言わせてください。サーシャさん、僕が魔獣寄せを消せるように祭壇への旅についてきてください。そして、魔獣寄せを消し去って、誰にも迷惑をかけない普通の人間になれた時は……ぼ、僕の……僕の恋人になってください!」
自分でも情けなくなるくらい震えた声で告白してしまった。だけど、ありったけの想いを言葉に詰め込むことが出来た。きっと想いは通じ合っているはず……だけどサーシャさんからの返事が恐い。
そんな情けない僕だけど視線だけはサーシャさんの瞳から逸らさなかった。すると、サーシャさんの瞳から大粒の涙が溢れ出す。雫を拭って濡れた両手で僕の手を握ったサーシャさんは上擦った鼻声で答えを返す。
「はい……喜んで! たとえグラッジ君の魔獣寄せが消えなかったとしても、一生傍にいるよ」
僕には勿体ない最高の言葉を贈ってもらえた喜びで気が付けば僕の両腕がサーシャの体を抱きしめていた。図書塔に誰もいないから抱きしめたわけじゃない。ただただサーシャさんが愛おしくて動いてしまっていた。
そんな僕に応える様にサーシャさんも抱きしめ返してくれている。僕はこの日を一生忘れはしないだろう。例えアスタロト達に負けて命を散らす事になったとしても、想いを伝え合えたのだから悔いは残らないだろう。
窓から差し込む夕陽がまるで僕達の関係を祝ってくれているかのように図書塔の中を黄昏の輝きで満たしてくれている。